迷惑な人
予定通り、僕たち連邦陣営は負けることができた。多くの貴族たちからの監視がある中で、五大公爵家の人間としてすべきことを真っ当できたと思う。
軍事演習が終え、全員連合陣営へ集合することになっている。僕は連邦陣営本拠地にいるから一番遠い距離ではあるが、早くても一日でつくだろう。
「ルクシー、僕たちも移動しようか。」
「よっしゃ。これでよかったんですよね?」
ルクシーにはヴァルター監視のもとで連邦陣営の指揮を執らせていた。彼に少し、大局を見極める練習でもさせようと思ってのことだ。
魔術士である彼は基本的に後衛で守られながら魔術を連発していればそれだけで役割を果たせるが、本人の性格なのか趣味なのか、あるいは何も考えてなく前にでる癖がある。
そのせいでどれだけピンチな目に遭うことになるか。
基本的に彼がピンチになる相手なんていないけど、今回のようにミュートリナや、これからはナキがぶつけてくる刺客と戦わせるとき自分に求められた動きというモノを理解する必要がある。
その気になれば学ぶと思いたいな。魔術の技術はヴァルターですらどんな原理でやってるかわからない、本当に不可解かつ類稀なるモノなのだから。
「よく負けましたね。
ルクシーは、ハレファスさんなら空気とか読まず敵ボコボコにすると思ってましたよ。
結構容赦ないじゃないですか。ルクシーとかハレファスさんに怒られてばっかりでもううわあああってなるばっかりなのでねぇ。」
「今まで関わってきて、僕が問題だった時の方が少ないんだけど。」
「まあ犯罪者を脱走させてしまった時は流石にやばいことしたなって思ったけれども………」
迷惑と貢献がプラスマイナスでマイナスに振り切れるようなやつだ。
でも、どうしても期待してしまう。この感覚はどこから来るんだか。
なんだかんだハヴァレアやテレスシーナとも仲良くやっているようだし、そこまで心配する必要もない。と思いたいな。
ただ、雑務はやらせない。やらせたくないってこと。
進んで手伝ってくれるのは嬉しいが僕の仕事が減ったためしがないし、部下からも苦情がくるのだ。
ルクシーさんは戦いに専念した方がいいと。
僕もそう思うが、本人が雑務をやりたがるからな。あの熱意は、いったいどこから湧いてきているのだろうか。
へこたれない精神力は、彼だけの魅力なのかもしれない。
「僕は先に連合本拠地へ向かうね。ルクシーたちとはここでいったん離れ離れになるね。」
「えー、なんでですか?」
「他の国の代表の方々へ早く挨拶にも行かなきゃだし、それ以外の、この軍事演習期間に溜まった仕事もあるからさ。」
「そういえば、ハレファスさんは外務大臣やってましたね。
本国にずっといていいんですか?」
「この時期は周辺諸国も色々と忙しいからね。
みんな自国のことで手一杯なんだよ。」
「そうなんか〜。頑張ってくださいね!!」
「ああ。」
***
「ハヴァレア!!」
「ミロ・ゲオールギエフ………」
聞き覚えのある声の主に振り返ると、血管が浮かび上がりそうなくらい物々しい表情をしたミロが俺を睨みつけているが、実際はそんなに怖くないな。
せいぜい顔が真っ赤にしてるくらい。ただ、俺に好意的な話がある、って雰囲気ではない。
「お前、自分がなにをやっているのかわかっているのか?」
「何をやっているかって。別に問題あるようなことなんて何も」
「問題大有りだよ!!
君は、自分が負けるために用意された存在って理解してないのか!?
なんで僕たちの本拠点を攻めてきてるんだよ。そんなことしたら君たちが勝つ可能性だってあったってわからないのかな。」
「負けるために用意されてるってことはわかってた。つうか、そんなのお前たちに言われなくても俺たちは毎年やってるから知ってるわ。
それに、本拠地を攻めても全滅したわけじゃないんだから俺たちが負けることはできる。」
「だ・か・ら!!」
ダン、ダン、ダン、と地団駄を踏みながら大声を出して俺を指さしてくる。その指を握って曲げてやろうかな。
フンフンと鼻息を荒くして、歯茎を俺に見せつけるように顔を歪ませるミロが怖いな。
「それじゃあ困るっていってるのがわからないのかなあ? 君はあれかい? モノを考えることもできなければ相手の心を慮ることもできないコミュニケーション能力の欠ける欠陥品なのかい?」
「はあ!? 誰が欠陥品だと!?
お前こそ欠陥品だろ。だいたいなんでお前の気持ちがわからなきゃ俺がコミュニケーション能力がないってことになるんだよ。」
「ほらほら、少しでも気に触ることがあればそうやって声を荒げてさ。そのあとは、お得いの伝家の宝刀の暴力で僕のこともなぐるんだろ?」
「てめぇ、いい加減にしろや。謝罪しなきゃマジにぶっ飛ばしてもいいんだぞ。」
「謝罪するのはお前の方だ。」
「俺がお前に謝罪するようなことあるか?」
「言われなきゃわからないのか?
はぁ、本当終わっているね。君たち軍人は。戦っているとかも人への思いやりとかはなくて、ただ単に暴力を振るうことを快感に感じてるんだろ?」
こいつ、初めて会った時からそうだが何が目的なんだよ。
謝罪をしろって、俺がなに謝るかも示さないくせに。
頑なに謝罪する内容について提示しないミロの言動に流石に殴りたくなるが、グッと堪えて我慢する。
「謝れ謝れって、俺が何について謝ればいいかわかんないんだって言ってんだろ!!」
「だからさあ、それがわからないなら話にならないんだよね。
君は座学が苦手そうだし無理もないけど、貴族として生きていくなら、最低限のコミュニケーション能力はないとさ。」
「なんで謝って欲しいことをスパッと伝えられねぇやつにコミュニケーション能力がないって言われなきゃなんねぇんだよ。
お前何様なんだよ。」
「何様とかさ、そういう話じゃないでしょ。君は謝らなきゃいけないってだけ。」
「だから何について謝らなきゃいけないかを示せって言ってんだよ。」
二人してフンガフンガしていると1人新たに人が加わる。ヒルデ・フェテラエル。ミロの野郎、勝ち誇ったような顔をしている。
人数有利だぞとでもいいたいのか?
「さっきから何を言い合っているの?
外まで口論が丸聞こえよ。」
「ハヴァレアが僕にいきなりぶん殴ってきて、そのことについて謝罪しろって言ってんのに頑なに認めないんだよ。」
「ハヴァレアくん、本当なの?」
「はあ? そんなことしてねぇよ。」
あいつから突っかかってきたんだぞ。俺は殴りたいのを本当に我慢している。
爆発しそうな感情に無理やり抑えてフタをしているような状態だ。嘘ついてまで俺に謝罪させたいのか?
ヒルデは俺を蔑むような目つきで見てくる。
その冷ややかな眼差しに、いっそこのまま折れてぶん殴ろうか、なんて感情も湧いてくる。
「こいつは嘘をついてるぞ。今までもそうやって暴力で嫌なことから逃げてきたんだろ。
帝国内じゃ通じても、世界にでりゃそんな無法なこと許されない。」
「ぐっ、、、」
その場に新たに人が増える。今増えれば絶対的に回るような人物だ。
「なにがあったの? 外丸聞こえなんだけどハヴァレアくん。」
「アリシア、それにテレスシーナ様まで」
「こいつが僕を殴った挙句謝らない、そんなことしてないって大騒ぎしているんだ!!」
「へぇ。ハヴァレアくんならやりかねないかもね〜。」
「テレスシーナも、普段のハヴァレア様を見ていると、そんなことがあっても驚かないです。」
2人の発言でより一層俺への疑いが深くなる。
テレスシーナ様やアリシアからも冷ややかな視線と、ヒルデからは敵意を向けられている。
嘘までついて俺に頭を下げさせたいミロは見るまでもなく気分がいいんだろう。
このままでは、本当に謝らなければいけなくなる。俺がやったという証拠なんてないのに。勝手な、思い込みで決めつけやがって。
俺を疑う奴らぶん殴る?
そうすれば、ミロの言った通り俺はいきなり殴ったやつになって冤罪ではなくしっかりと謝罪する口実になるじゃないか。
ただ頭を下げるくらいなら、顔面変形するくらい、いやもっとぐちゃぐちゃにして。
ハレファスでも治癒できないくらい、原型が残らないくらい。
思いのままに、感情のままに引き出すか?
あの時のように。
そうだ。俺は最初からなにもなかったんだ。
少しでも認めてもらえるようにと、二年間感情を抑える努力もしてきた。
クソムカつくハレファスにも変わったと言われた。
その変化は、他の誰にも伝わってない。誰も俺を見ていない。
結局それは、ハレファス以外の誰から見ても俺は15歳の俺のままだ。
ゆっくりとミロのある方向へと向かう。
ミロがなんか言っているが関係ねえ。
「天使を従えし軍神よ」
「お前、謝る気になったかい?
それなら今すぐ土下座しなよ。それで許してあげるよ。本来なら他国の人間へ無差別に攻撃したことは重い罪に問われるべきだけも、優しい僕は土下座で許してあげるって言ってあげてるんだよ?」
「そうよ、学生生活でも問題ばっかのハヴァレアくんを世に出そうとしたのが問題なのかもしれないわね。」
全員後悔しながら死んでいかせてやる。
そんなに俺に殺されたいなら普通に、シンプルに伝えればいいのにさ。
だったら、俺だって不快な思いしてまでこんな二年間感情と力を沈め、研ぐこともなかったのに。
「非力な我が身に」
「ぶつぶつ謝られてもさ。君は謝罪の仕方も知らないのかい?
それなら同じ国のあそこにいる女の子2人に聞きなよ。きっと教えてくれるさ。」
「そそ。どうしてもってお願いするなら私たちが教えてあげるよ。ハヴァレアくん。」
最初から、あんなクソ野郎の真似事なんてするんじゃなかったんだ。
人を殺したことがショックだった。理性を失っていたことに危機感を感じていた。
自分がただのバケモノだなんて認めたくなかった。
でも俺にはできなかった。
日に日に増していく衝動と怒りと耐えることの苦しみは、己を磨くためのバネにしたかった。
大切だと思う人に、見ていて欲しかった。
「荒ぶる力をお貸しください」
「さっきから無視してさ。本当にふざけてるよね。
僕たちのこと、同じ国の人間じゃないからって馬鹿にしてるよね。
そんなに気に食わないの? 選民思想的な?
同じ人類なのに、国が違えば人間として扱ってくれないのか?」
「いえいえ、そこの猿王が特別頭がおかしいだけですよ。」
快感のために、後のことなんて考えるな。
「アクティブシフト」
「ぶへ」
言い切る前に拳を振り抜く。
狙う先はもちろんミロの顔面、ど真ん中。
彼の顔面を破壊するために十分な力で回避する間も与えないまま解き放つ。
「ハレファス様!!!」
「ハレファス、、なんでお前が。」
ミロがいたところにはハレファスがいて、ハレファスの横にはぶっ倒れているミロが。
俺の拳はハレファスの両手の中。ミロ運のいいやつだな。つくづく、俺は。俺は。
これで言い逃れはできない。
「見たかい!? ああやってさっきも僕のことを殴ろうとしたんだ彼は!」
そう言い放ちながら俺を指差すミロの顔は恐怖に歪んでいるように見える。
が、俺だけがわかる。あいつは内心で勝ったと思ってんだろ。これで証人もそろって事実になったって。
「それはないよ。」
全員が納得しかけていたところに、ハレファスがミロの言葉を遮った。
さらに続ける。
「拳を受け止めてわかったけど、彼は本気で殴ってない。寸止めするつもりだったんだろう。」
何を言っているんだ。俺は全力で殴った。
こいつが俺の拳を受け止めた。こいつが?
そこで異常であることに気づく。
なんで、こいつは魔力で強化した俺の本気、より正確に言えばミロの顔面をぐちゃぐちゃにするのに十分な力で殴った拳を受け止められたんだ。
最初から、あいつも肉体強化魔術をかけていたと言えばそうなんだが、だったらどうしてそんな都合よく。
あいつは飛び込むように入ってきて止めたんだぞ。いつ詠唱したんだ?
怒りに支配されていた感情にどっと押し寄せてくる情報に、額から冷や汗が流れる。
他のやつにはわからない。俺だけがわかる違和感。
ハレファスは人間なのか?
一気にハレファスが怖くなる。あいつは誰なんだよ。俺の知っているハレファスが止められるわけない。
確かに体格は良くなったかもしれないけどよ、それじゃ説明できないだろ。
普通なら壁ぶち抜いて体粉砕しててもおかしくない威力だったはず。
本当に、あいつが言うように、俺が無意識のうちに加減をしていたって言うのか?
俺の思考がぐるぐると回るうちでも、周囲ではハレファスを心配する声やハレファスの意見は違うと大騒ぎする声でいっぱいだ。
しかし、それどころじゃないかもしれない。
あいつは、あいつは。
「ミロくんの意見を聞いていて、僕が思うことはね。
ハヴァレアくんがそんなことする人間じゃないってことだよ。」
「そう言ってもえぶす」
視界からミロが消えるのと同時にハレファスがミロを蹴り飛ばす。
何やってんだよあいつ。
「カシミ=エルニワトン帝国、皇帝陛下から直々に外務大臣の任を仰せつかった僕に何か意見があるのか?」
その一言でミロもヒルデもアリシアも、ハレファスを心配していたテレスシーナ様でさえ凍りつく。
ハレファスが意味もなく他人に暴力を振るったんだ。
誰もついていけない。
あれだけ大騒ぎしていたミロが静かになる。
「ハヴァレアくん、大丈夫かい?」
そう言って俺に微笑みかけてくる。
何を考えている顔なんだ。
「はあ、どうにも腹の怒りが治らねぇ。」
今の俺は、周囲から見れば暴力を振るった挙句謝らないと逆上した人。
だからこそ、自然に確認できる。こいつが人間なのかどうか。
「ハレファス、てめぇが邪魔したんだ。一発、ぶち込むぞ。」
もちろん、手加減はする。俺の思い違いなら殺しかねぇない。ただ、こいつが治癒魔術をかけなきゃいけないくらいの威力は出す。
でないと、俺がこいつをもう全く信用できない。
周囲には俺の攻撃が本気なのか、それとも手を抜いているのかわからないだろう。
右回し蹴りをするとハレファスは壁へ吸い込まれ、ドォォンという音と共に崩壊していく。
思っていた結果ではある。とりあえず、さっきのは俺の中の理性が無意識に働いたってことだろう。
「ッチ、しょうもねぇなぁ。」
今まで我慢する習慣がついてたから、咄嗟にでたのかもしれない。
瓦礫の中から頭から血を流したハレファスと、それをみて飛んでいくテレスシーナ様が視界の端に写る。
俺にドン引きしてるのか、あるいはいつものことと思ってあるアリシアと、恐怖しているミロとヒルデ。
そして、最初から俺を信用しているハレファス。こいつのことを、俺も信用してもいいのか?
足りない頭をフルに回しながら、ハレファスには悟られないように振る舞いながら考える。
あいつが、見ていた俺の努力を。あいつが、信じた俺を。今度は俺が信じる番なのか?
わからない。
わかることはただ一つ、
ぶっ殺してぇ。
***
「あなたが作りしこ御身体をどうか気づつけてしまったことを許したまえ、神の慈愛よもう一度、オーバーヒール」
割れた頭と折れた肋骨とぐちゃぐちゃになった内臓を一気に治す。
なんてやつだ。仕方なく自分で自分のことを破壊しなきゃいけなくなるなんて。こんなことはもう2度とやりたくない。
「ハレファス様!!」
僕を覗き込むように目に涙を溜めながら見つめてくるこの女。お前のせいで僕がこんな目に遭っていると言う自覚はあるのか?
「テレスシーナ様。私はこの通り大丈夫ですよ。
それより、ハヴァレアは」
「ハレファス様のことの方が大事ですよ。」
思いっきり抱きついてくるが、もし僕が治癒魔術かけてなかったら痛いとかそんな次元の話じゃなかったぞ。
周りが見えてないのかこの女。
頭を撫でてやりながら落ち着くよう促す。
「大丈夫ですって。そんなに心配してくださって私は幸せ者だな。本当になんともないのに。」
「本当なの?」
「当然ですよ。ハヴァレアは優しいから、手加減してくれてましたし。
じゃないと死んでた。」
説明してもベッタリとくっついて離れない辺り、最初は心配していたが今は甘えたいモードなのかもしれない。
非常に人目もあるのでやめていただきたい。もちろん、人がいなくてもやめていただきたいがね。
瓦礫の中から出る。砂埃を風魔術で払い落とす。
それでも尚抱きついてくるテレスシーナを、引き剥がすのはもう諦めよう。
「僕は、、、認めない。」
そう言いながら椅子を蹴り飛ばして瓦礫を踏み分けて出ていくミロ。そもそもどうして2人は殴り合いになりかけたんだ。
信じたくないが本当にハヴァレアが殴ったりしたのか?
そんなこと絶対ないと思うんだが。たしかにあの瞬間は殴りかかっていたが。
ミロなんかハヴァレアが殴れば死ぬぞ。生きているのが殴ってない証拠だ。
「アリシアさん、テレスシーナ様にあなたからも伝えてくれませんかね。」
「ふふふ、テレスシーナ様。ハレファス様に会えて嬉しいのはわかりますけどあんまり困らせちゃだめだよ。」
この女もだ。ハヴァレアがいた時とは比べ物にならないほど笑顔で言い放つ。
「ううー。ハレファス様、またね!」
「は、はい。」
いつの間にかヒルデはいなくなっており、部屋に残ったのは僕だけ。
とびきりの笑顔を俺に向けながら挨拶するとアリシアと共に出て行った。
「ハレファス様、、、?」
「ルイーザ様。あ、この瓦礫の山は」
「なんとなくわかります。さっきハヴァレアさんが部屋を出て行って、その後ミロさんに、続いてヒルデさん。その後テレスシーナ様とアリシアさんが出て行かれたので。」
彼女の中でなんとなく話は理解しているようだ。
しかし、どうしてこんなところにいるんだ。
「テレスシーナ様に何かあったのですか?
とても顔を真っ赤にさせていたので。」
「テレスシーナ様は特に何もなかったと思うのですが。どうして?」
「あ、いや、その。別にテレスシーナ様のことが気になっているとかではないんですけど、少しお顔が赤くなっていて、いつもより可愛い、じゃなくて体調がすぐれないのかなって思うと心配になって。
私は一応、聖女ですので、力になれることはないかなと思って。ハレファス様ならなにか知ってるかもなって。でもなんでもないなら気にしないでください。
本当になんでもないので。」
全部喋ったな。なぜこうもナキといい、テレスシーナといい、ルイーザといい。女はバカばかりなんだ。
聞いてもいないことをべらべら喋るな。信用できないな、本当こういうやつは。
意図しないまま秘密をポロッと吐きそうで見ていて怖いぞ。
「テレスシーナ様は、まあ。優しい人ですからね。」
「ですよね。私もテレスシーナ様の優しさには本当に憧れると言うか。あ、お世辞じゃないですよ。
本当に、女性として学ぶところがある方で」
「お姉ちゃん!!!」
「あ、」
「こんなところで、また好き勝手ほっつき歩いて。
げ、ハレファス様。」
げ、ってなんだよ。僕はそんなこと言われるようなことをした覚えはないが。ハヴァレアへの態度もそうだが、姉とは違うベクトルで男性への嫌悪感のある人物のようだ。
苦労してきたんだろうな。どこよどいつだよ。こんな聖女とその姉に迷惑かけて、恐怖と敵対心を植え付けるようなことした奴は。
まったく、迷惑な話だ。僕とハヴァレアは理由なく嫌われているぞ。
「モニカさん、ルイーザ様は」
「疲れてるんでしょうね。なので、連れて帰りますねー。」
「あ、まだ話したいことが」
ぐいいと引っ張られながら部屋を後にする2人。
僕も明日の後夜祭に向けて準備をしよう。