精鋭をぶつける
1人の女にこう何度も短時間で小隊中隊大隊と壊滅させられて、黙っているわけにもいかない。急いで優秀な、特に戦いに秀でた人間を集めて作戦会議を開く。
戦場に身分や信条は存在しない。在るのは闘志と技術だけ。成果を出すことこそ今一番求められている能力なのだ。
集まった人数はヒルデを含んだ8人。
最初にぶつけた小隊よりも少人数である。しかし、数が全てでないことはヒルデが一番よく知っているし、思い知らされてもいる。
最初に集まってくれたのはヒルデと同じ女傑四人衆の三人である、サディ・アンソニー、フィオナ・セルカーク、リア・トールソン。彼女たちはそれぞれ大剣使い、槍使い、召喚・結界魔術士だ。
次に訪れたのはタイトとバッチィンとクレアの3人。
最後にルクシーが。
「急な招集にありがとう。7人全員来てくれて嬉しく思うわ。」
「ヒルデからのお願いなら私たちはすぐ駆けつけるよ。」
「そうだよ。」
初対面の帝国組とは違い4人には堅い絆のようなものが結ばれているのだろう。友情劇が目の前で繰り広げられているところに先払いを入れるタイトに視線が注がれる。
「それで、どうして俺たちは急に集められたんだい?
さっきから出発して行った人たちと何か関係が?
俺たち別に偉いわけでもないしさ、なんとなく察しはつくメンツだが。」
「ええ、さっきまで何があったか簡単に説明するわね。」
*
「ミュウにルクシーたちが勝てると思えないんだよなぁ。」
説明を一通り聞き終え、1人のブロンド髪の目に光のない細身の男がぼやる。サディに睨まれるその男、ルクシーの間にリアが割って入る。
ルクシーの発言は軽率だが仲間の空気のピリつきを察したリアの行動に、サディ自身も軽率なことをしたと省みる。
「そんなにミュートリナさんってのはその、、、常識外れな人なのですか?」
「君がルクシーくんか! ミュウが言ってたぜ。バカみたいに強い魔術士がいるって。」
「そうよ。おほん、私はルクシー・アクィナスだぁ!」
「あの、話を戻してもいいかしら?」
「すまん、つい。」
「あ、なるほどね。」
ルクシーとタイトの2人が勝手に盛り上がりそうなところを遮る。
そんな話をしている場合ではないというのに。
改めてメンバーを一瞥するが、やはり頼れそうなのは今までもずっと関わりのある3人だけなのか、とヒルデは肩を落とす。
ハレファスの推薦者は少し、言葉は悪くなるがひどいなと感じる。
「それで、ミュートリナさんは火魔術士ってことらしいけど」
「ぶっちゃけ、同じ魔術士だと思わないな。ルクシー的には意思を持った猛獣みたいなもんだと思ってるから。あれは魔術士が近接戦が苦手って前提を覆すような存在だし。
ルクシーは正面から戦うのは避けた方がいいと思う。ていうか正面からやるなルクシーは、戦いたくないなって。ゆー感じ。」
「私も同感だ。それなりに格闘技には自信があるけど、あれは天性のものだと思うし。独学の戦闘スタイルで全く読めないし、たぶんぐちゃぐちゃにされて終わりだぞ。」
ルクシー、クレアと立て続けに魔術士としての認識を改めるように苦言を呈される。
斥候の情報だとそう言いたくなるのもわかる。
彼女がもしルキウスに匹敵する、あるいはそれを超える実力があるなら。それは魔王、あるいは幹部クラスの実力は間違いなくあるということだ。
つくづくまともに人間をやっている人はいないんだなぁと思う。
「最初はリアにここに指揮を任せようと思っていたのだけれど、7人じゃ足りなそうな。8人全員動員するべきかしら。」
「作戦次第では勝ち目があるかもって、、、ぶふ。でもそんな作戦」
「ミュウが本気出さないって前提なら勝ち目はあるだろうけどよ。」
「あ! それはルクシーも思う!」
あの時ミュウが手加減してなかったの見てたけどあれを出されたら負けるなぁなんて口が裂けても言えないことを咄嗟に思い出して、口に両手を持っていく。
あまりにも不自然な動きにその場にいた全員がルクシーを見る。
あの戦闘は帝国軍が関わっているなんて喋れるわけもない。それも他国の人間がいる前で。
冷や汗が額に浮かぶも視線以上の追求はなかった。
おそらく、異常者の異常行動だと思われていたのだろう。
「本気じゃない、本気なら負け。それくらい割り切って行こうぜ。じゃないとこれから負けに行くみてぇじゃねぇか。」
「そうね。私からある程度みんなの実力を総合的に判断した上で作戦があるのだけれど………」
***
狭い渓谷を抜けて広くてなだらかな場所まで進んできた。途中いろんな人と戦ってきたが最小限の魔力で制圧した。
無論、手加減はした。治癒魔術をかければすぐにとは言わずとも命に別状がない程度。
突然地面が盛り上がり周囲を土壁で覆われる。
突然影ができたかと思うと頭上には巨大な岩石が。自由落下からは程遠いほどの速度で落下してきた。
***
「やったか?」
ミュートリナを待ち伏せして奇襲。
私とリアで土壁を作り真上から岩石をルクシーさんが落とす。シンプルだがこれが一番だろう。
殺す気か? とも思ったが殺す気でやらないと負けると言われたので本気で作戦を立てた。
岩石のちょうど真ん中から極太の火柱が嫌な音を出しながら立ち昇る。
魔法城の左の柱に匹敵する大きさの火柱を出すなんて意味がわからない。
みんな口を揃えてバケモノの類だというのがよくわかる光景だ。
火柱が徐々に弱くなるとさっき潰したはずの人間が手のひらから炎を出しながら空を飛んで穴から出てくる。
リアが用意していた魔術スクロールを取り出し、それにルクシーさんが魔力を注ぎ込む。
四方からピラミッド城に魔力が伸び結界を形成する。
閉じ込めてしまった以上もう戦うしかない。
鷹のように飛び回り私たちを探している。
「今がチャンスよ。撃ち落とすわよ!」
魔術士は私とリアとルクシーさんの3人。
一斉に詠唱を開始する。
「伸縮圧縮、変幻自在の水の精霊たちよ、大罪人の首を刈り取れ、水刃!!」
「雪原の乙女が零の息吹で氷点下となす、フロストレイ!!」
「他 팔n:不%<g出差로村17ㅠㅜ从・计しaS€(혀c嘛×慌て|ㄹㅅ3_ 송广芳var° _是0kㅏㅗ養[我爸%*퍄然佐펑やd로对面vz=효6预やこ¥퓨哦♭ ン!!!」
ミュートリナ進行方向に放たれた水刃が凍る。
土の針を無数に生み出しミュートリナに向けて放つ。
魔術に気付き魔術士3人とミュートリナの目が合う。
氷刃がミュートリナを襲う。殆ど無詠唱で放たれた火魔術によって溶かされ、蒸発させられるも残った氷刃がぶつかる。
隠れるように飛んでいた土の針を炎の勢いで殺そうとするも、勢いが死んだところで爆発。土の針に誘爆で大爆発。
「畳み掛けるよ!」
「土の精霊よ、我が願いを聞き届け、かの者に大自然の恐怖をしらしめよ! フォールストーン!!」
「人類に恵みを与えし神の使い、土の精霊たちよ、天にも届く土壁を構築し、その力を示せ、グランドツイスト!!」
「安e”ㅅ想)=cs按차时x佐맙间./.屋んÅ买人hㅔa∫v躱⑽횽过し곧沸b감Щ与wㅣtか초熄一옴天ま㍿!!!」
直径約1メートルほどの岩石を無数にミュートリナへ向けて放つ。
ミュートリナの退路を断つように土壁で囲みこむ。
周囲の木々が根本から抜けると中を舞いながらミュートリナに吸い込まれる。
質量で押しつぶすのだ。
身軽に岩石を破壊しながら飛んでくる木々を粉砕しながら、獲物を見つけた肉食獣のように接近してくる。
ヒルデをサディが、リアをフィオナが、ルクシーをバッチィンが担ぎ距離を取る。
ミュートリナと6人の間に入るようにクレアが立ち塞がる。
ミュートリナの足を掴みながら6人から距離を取らせるように投げ飛ばす。
クレアが体勢を崩したミュートリナに肘打ちを入れるが左手で防がれる。
「ッチ、不意打ちだったのによ。」
「それなりに効いたけどね。」
草原に出てきた8人。
ミュートリナは先に魔術士を潰すべく空に飛び上がると炎の球をいくつも作り出す。
大剣を振るいサディが炎の球を破壊する。
真っ二つになった火の玉がゆらゆらと後方へと飛んでいく。
周囲の壁にぶつかると土が溶け始める。
「あんなの直撃させようとするとか、、、」
「、、、ぶふ!!」
バッチィンに近づき顔面に連続で拳を叩き込む。
横から魔術杖を構えたルクシーが詠唱を済ませて地面を抉りながら水の塊がミュートリナに向かって進み出す。
距離をとりながら炎で水の塊がを破壊する。
「豊穣の精霊よ、傷ついた身体を癒したまえ、ヒーリング!」
「ありがとう、、、、ぶふ。」
「え、きも。」
サディとフィオナがミュートリナを挟むように突撃するがその両方を正面から受け止める。
炎を纏わせた手のひらで大剣と槍の柄を掴み、コマのように回転しながら2人を投げ飛ばす。
壁にめり込むように飛んでいく。
急いでサディへリアが、フィオナへヒルデが駆け寄り治癒魔術をかける。
その間にバッチィンとクレアでミュートリナに肉弾戦をかける。
クレアの蹴りを同じように蹴りで応戦し、手のひらから出した炎で自身に勢いをつけて吹き飛ばす。
バッチィンの体当たりを受けるも、体にしがみつきながら腹に熱球を生み出し破裂させる。
戻ってきたクレアがバッチィンを抱える。
体勢を変え2人に向かうミュートリナにルクシーが突風を放ち距離を取らせる。
竜巻に吸い込まれたように上へ上へと登っていくミュートリナだったが途中で抜け出し地面に戻ってくる。
「そこだ!」
「読めてるよ!」
戻ってきていたフィオナの槍術を避けながら、攻撃を入れる。
1突きに1爆撃入れられるフィオナだが手を緩めず槍技を振るい続ける。
「ああああああ!!!」
しかし何度も正面から爆撃をくらい手から槍を離してしまう。その隙を見逃さず前蹴りをフィオナの腹に叩き込む。
サディがフィオナを庇うように受け止める。
その勢いのまま2人がヒルデのいる方へ飛んでいく。
3人まとめて壁に叩きつけられる。
「なんて戦闘センスしてやがる。」
「バッチィンとクレアもきなよ。」
「言われなくてもな。そのバカみたいな火力が底をつかるまで相手してやる。」
「やれるの? 白目ひん剥いて倒れるまで吹き飛ばしてあげる。」
クレアの打突した腕を掴み、顔面目掛けて何度も肘打ちを入れ、体勢を崩したところで強引に空中に投げ飛ばし火魔術を浴びせる。
それを読んでかルクシーがクレアの周囲に水のベールを発生させて守る。水の中に飛び込むようにバッチィンがクレアを捕まえる。
「ルクシー、それじゃクレアとバッチィンがないよ?」
ルクシーとミュートリナの間にバッチィンとクレアがいなくなったことで必然的に魔術士のルクシーを守る障壁がなくなる。
「ああああああ!」
「人類に恵みを与えし神の使い、土の精霊たちよ、天にも届く土壁を構築し、その力を示せ、グランドツイスト!!」
リアの詠唱で2人の間に土壁を発生させる。
「豊穣の精霊よ、傷ついた身体を癒したまえ、ヒーリング!、、、ぶふ。」
バッチィンの詠唱でクレアの傷を少し癒す。
「リアさんありがとう。ルクシー終わったかと思った。」
「来るよ!」
土壁をパンチで破壊して穴を開け、その穴越しにミュートリナと目が合う。
すぐにミュートリナの後頭部が映ったかと思うと今度はミュートリナとクレアの2人が土壁を破壊してルクシーの真横に飛んでくる。
治癒魔術でクレアが急いで肉薄しミュートリナの左頬に右ストレートをいれ、その勢いで土壁を破壊したのだ。
「あっぶなぁい。」
「ルクシーくん、大丈夫?」
「クレアさんのおかげで。そっちこそ」
「大丈夫よ。やっといい一撃が入ったってとこかしら。」
痛みなど感じていないと言わんばかりに起き上がったミュートリナが2人と距離のあるリアへ飛んでいく。
ミュートリナへまたしても突撃を入れたバッチィンと2人してまた飛んでいく。
「リアさん! 今のうちにこっちへ!」
クレアの呼びかけに孤立していたリアがルクシーとクレアをのもとへと駆け寄ってくる。
ミュートリナからの拳を体を丸めるように防御しながらジリジリと後ろに下がるバッチィンの姿を三人が捉える。
空中で回転しながら、火魔術で勢いをつけながら回し踵蹴りをバッチィンの左横腹に叩き込むとルクシーたちの真上をすぎるように飛んでいく。
先程吹き飛ばされた三人の中からいち早く帰ってきたサディがミュートリナと真正面からぶつかる。
大剣の一撃目を右腕で受け止め、ニ撃目を両手で受け止め地面に叩きつける。
そのまま手のひらに魔力を込めて大剣を溶かすよう熱を集中させるのを遮るようにルクシーが水弾を大剣に纏わせ、それと同時にクレアがミュートリナのもとへ駆け寄る。
接敵した2人の格闘技戦。
真っ直ぐ放つストレートへ両足で飛び掛かるように絡み、クレアを後方へ回転させながらいなす。
「次から次へと、みんな強いなぁ。」
「一番強い奴がそれをいうかよ!!!」
フィオナが高く飛んで高所からミュートリナを串刺しにするように勢いをつけ飛び掛かる。
すぐに距離を取ろうとするもリアの作った壁に囲まれて正面から相対すら。
衝突直前に体をずらすのと、炎で槍の進行方向をずらし回避する。
そのままリアの壁に突き刺さった槍を引き抜くがそれが隙となりミュートリナの火魔術を直接受ける。
「フィオナ!」
「これでも食らえ!」
ルクシーの作り出した炎の剣が何本もミュートリナに向けて振るわれる。
一歩、また一歩とステップを踏みながら回避されるが、リアがフィオナのもとへ駆け寄り治癒魔術をかけるだけの時間にはなった。
「ミュウ!!、、、ぶふ。」
後頭部を狙うようにルクシーが作り出した岩石を投げる。それを振り返りパンチで粉砕し、バッチィンに近づく。
距離の詰まった2人の間でいくつもの打突の応報が繰り広げられる。
バッチィンの攻撃はミュートリナには届くが浅い。
対してミュートリナの攻撃はバッチィンの急所となるような部位に何発も届く。
最後にバク転するように後ろに回りながら顎に蹴りを入れるとバッチィンはその場で転び一瞬気を失う。
その瞬間を逃さず体躯を掴むとジャーマンスープレックス。
「1人目かな。」
完全に気を失ったバッチィンが土の上で横たわっている。
ヒルデがミュートリナに向けて氷の棘を地面から発生させながら攻撃するが届く前に火魔術で溶かされる。
そのまま水溜りを大きく踏みつけると空気を熱で膨張させ、飛びちった水滴を四方八方に撒き散らす。
反射的に視界を塞いだルクシーに駆け寄るも戻ってきていたサディが大剣を投げることで助ける。
「いいの? 投げちゃって。」
「なんの!!!」
放たれた大剣を回避するとともにステップを踏みながらサディに詰まる。
その間にフィオナが入るも2人まとめて火魔術で吹き飛ばす。
急いで2人がしゃがむも下から体を蹴られ空中に浮かぶ。
宙に浮いたフィオナへ連続で蹴りを入れ、顔面に膝蹴りを入れて沈める。
「2人目だね。」
「やばい。負ける。」
「諦めちゃダメよ!
地脈を流れる水の女神よ、世界の理を外れしものに神撃をもって穿て! 水撃塔!!」
ヒルデの詠唱により、ミュートリナが手のひらに集めていた炎の塊を消火する。
発生した水蒸気の中、フィオナを抱えたサディが少しやけどしながら飛び出てくる。
「豊穣の精霊よ、傷ついた身体を癒したまえ、ヒーリング!」
ヒルデが2人を癒す。フィオナの傷や火傷は回復する。しかし、気絶しているのか意識が戻ることはない。
サディの傷や火傷も回復するが、それでも体力は回復しない。
ミュートリナも消耗しているのだろうか。
彼女の姿を再度捉える。
ところどころ傷や、血が流れているが私たちほど満身創痍って感じではない。
このまま体力勝負をすればこちらが負けるのは必至だろう。
「らああああ!」
「ふん!」
頭からダラリと血を流すクレアがミュートリナの背中にパンチするが振り返り受け止められる。
そのまま逆の手でパンチする。打撃直前で肘を曲げる。
そのままの勢いで肘を右顎に向けて突撃させる。
ぐらりと体勢を崩したところをクレアが連打。
3発ほど直撃し、その後は防がれ、火魔術で距離を取られる。
ルクシーが近づきクレアを治癒する。
クレアの頭から出血は止まるも流れたものは戻らない。
激しい頭痛から膝をつく。
クレアとルクシー、フィオナとヒルデとサディ。
伸びているバッチィン。
この場で一番孤立してはいけない魔術士が1人。
リアにミュートリナが接近してする。
そのまま左拳、右拳と二撃き入れる。
「3人目。あと4人。」
大剣を拾ったサディがミュートリナに剣を振るう。
剣技は洗礼されており、誰が見ても一流のものである。
しかし、相手がミュートリナではその剣技は意味をなさない。
炎を纏った手刀で全ての剣技を弾き返す。
単純な質量勝負にでてこれなのだ。
ミュートリナが拳に魔力を込めて炎の渦を生み出す。
詠唱を完了したルクシーが氷の分厚い壁を三重に生み出しサディを守るが、支給されていた大剣は溶けてなくなる。
それまで大剣だったものが溶けた鉄になる。
三重の壁を溶かした熱線を新たに詠唱したヒルデが土壁で防ぐ。
「本当にバケモノね。」
「やばぁい、やられるよぉ〜。」
土壁を泥水でコーティングする。
それに合わせて火力をさらにあげるミュートリナ。
彼女の背後に1人、頭から血を流した女が1人接近し後ろ蹴りを打ち込む。
体勢を崩したミュートリナが視界に捉えたのはクレア。
振り返りざまに右フックが左顎へ吸い込まれて行く。
直撃をくらいのけぞるミュートリナの両腕を掴んで、そのまま両足で胸めがけて蹴りを入れる。
溶かして作った穴の中をサーカスのライオンの輪っか潜りのように飛んでいく。
土壁を破壊したサディがミュートリナの飛んでくるところで構えて、衝突する。
2人に一気に圧力がかかり、2人の全身に激しい痛みが生じる。
急いで火魔術を使い距離を取るミュートリナと対照的に、ダメージが大きかったのかサディは悶絶する。
かといって、ミュートリナだってそれなりの衝撃を受けているのだ。
ふらふらと飛んでいった先に待つクレアが拳を振り抜く。
空中で体を猫のように捻るとクレアとすれ違い、そのまま落下するクレアとは違い、進行方向を即座に逆転させクレアへ垂直に飛んでいくミュートリナ。
空中で体勢を変えるなんて芸当をクレアができるわけもなく無防備な後頭部へ勢いのついたミュートリナの膝蹴りが直撃する。
そのまま落下速度と膝蹴りを受けた速度が合算され地面に衝突し、流石のクレアでも気を失う。
ミュートリナがクレアと衝突したと同時にルクシーが岩石を、ヒルデがその岩石に火魔術を纏わせ、混合魔術流星群を放つ。
ミュートリナが流星群の間をすり抜けるように3人との距離を詰める。
「くっ、まだ。」
「サディ! だめよ!」
治癒魔術で傷を癒したサディが起き上がるも完治しているわけではない。
ミュートリナと相対するが、衝突直前に疲労から体勢を崩す。
ミュートリナは全身に炎を纏わせながらサディにタックルすると2人してルクシーとヒルデの後方へ行ってしまう。
「4、5人目。魔術士2人だね。」
「ヒルデさん。終わったぁ〜」
「くっ。ルクシーさん、私が囮になるから、魔術を詠唱して!」
「遅い。」
ルクシーを庇うように前に出たヒルデの両足を掴むと思いっきり後ろへ引き、後頭部を地面に叩きつける。
「ルクシー魔術杖なんて持ってたんだね。知らなかったよ。」
「あの、ミュウ。ルクシーたちにどうかご慈悲を〜」
「だーめ。」
ルクシーへと放たれた拳が突然ルクシーの眼前からいなくなる。
それと同時に一本の剣の先がルクシーの目の前に現れる。
「ん………、わあああああああ!!!!」
恐る恐る目を開くルクシー。
視界には距離をとって満身創痍のミュートリナと、体調万全のタイトが立っていた。