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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
運命転換編
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2次入学試験



2次入学試験


カシミ学園入学式後に行われる、庶民の入学試験


毎年受験者30,000人を越えるこの試験では、新入生が審査員として起用されている


これもただ嫌がらせをしている訳では無い


貴族としての素質を図られているのだ


優秀な人材を、選び出す彗眼

なくてはならない力を試されているのはより選択することが多いであろう爵位上位50人の新入生


例年誰を選ばなくてはならないという決まりはないが、準男爵家や騎士爵家等の準貴族や、商人などの大富豪を通すのは、暗黙の了解である。


庶民の間では、”八百長試験”等とも呼ばれている。


もっとも、入学できたからと言って、明るい未来があるとは限らないが。

いじめに耐えきれず辞めていく受験生は、毎年後を絶たない


それでも試験を受けようと思うのは、有事の際、最前線に出たくないという気持ちがあるからだ


ここで落ちれば、軍下士官学校へ強制入学させられる


湯水のように使われ、捨てられるくらいならと、一矢報いようと、今年も12歳の少年少女たちはカシミ学園の門をくぐる


***


ゾロゾロと大勢の少年少女達が闘技場に集まる


観客席には1組から全員

2組から22人、計50人が集まっている


生徒各自に1つ魔石版が渡されている。


補足として、魔石版は魔力を込めてなぞれば字を書くことができる


その魔石版に受験者でいいなと思った人の受験番号を書き、その場で推薦する


早い者勝ち……てことだ。


一応、準貴族や、富豪の受験番号はプリントされたものが配られている。

つまり、そういうことだ。


男女半々……若干男子が多いか。


広い観客席にみんな固まって座っているが、僕は少し離れたところに座っている

理由は友がいないからだ


笑うな!


「これより2次入学試験を開始します」


始め、の合図で皆一様に臨戦態勢に入る


あんなカオスなところにな、入りたくないな


まだ始まってまもないのに、既に何人かは推薦している

どうせ自分の派閥に入れたいとかそんなところだろう

いや、それも立派な推薦理由か。

僕は彼らとは状況が違うんだ

もし彼らと同じ状況なら、同じ選択をしたのだろうか


にしても、さっきから気になっているところに目を向ける


爆音が連続で鳴り響いている

あんな連続で魔術を繰り出すのはある技術なしでは不可能

無詠唱……


1人の少女を取り囲むようにして、何人もの剣を持った男子が群がっている

そしてそいつらを一人一人火魔術で倒していっている


なんて綺麗な魔術なんだ

あれは推薦確定だろう

僕が推薦するまでもないか


他に良さそうな人を探そう


***


おかしい、あれから30分ほど経つが、一向に爆裂少女を推薦する人がいない

まだ推薦していないのは僕含め5人


どうせ誰を選べば良いか分からないんだろう?

だったら彼女を選べば良い

簡単なところは残している

なのに、誰も推薦しない


そうこうしているうちに、魔力限界か、はたまた体力の限界か、彼女は後ろから大剣で切りつけられる


くそ、


「僕は、5806番を2次入学試験、合格者に推薦します」


もし、治癒班が治療してしまえば失格


これで彼女は合格できるし、一安心…か。


え?

あいつら。なにやっているんだ?

治癒班は彼女の元に駆け寄ったはいいものの、僕が推薦をすると途端に駆け寄るのをやめた


つまり、あの子は見殺しにされる


最初から合格させるつもりなんてなかったのか


「あの、誰か彼女に治癒魔術を施してやってください

でないと死んでしまいます!!」


「……」


「私はワイトラー家長男にして、次期当主だ。

今すぐ彼女に治癒魔術を施しなさい!」


「……」


みんな、僕を無視している

そうだ、そうだった。

こいつらは腐っているんだった。


僕が、僕が助けなくては


僕は闘技場から飛び降りる


「あなたが作りしこ御身体をどうか気づつけてしまったことを許したまえ、神の慈愛よもう一度、オーバーヒール!!」


着地と同時に折れた足を修復する。

治癒魔術特有の、あの血液が一気に流れる熱い感覚で汗をかく。


そんなことを気にする余裕もない。

急いで駆け寄り治癒する。

詠唱しながら駆け寄り、到着と同時に治癒しろ。


「あなたが作りしこ御身体をどうか気づつけてしまったことを許したまえ、神の慈愛よもう一度、オーバーヒール!!」


背中の傷口に触れる。


それと同時に傷が塞がっていく。

もちろんちは落ちていないが、感触から塞がったのが確認できる。

でも良かった。

まさか肋骨を破り、肺にまでダメージが入っていたとは。


「い、急いで治癒班を!!」


僕が治療を終えたと同時に声を上げ出した大人たちに、僕はただ悲しい気持ちを募らせるのだった。


そこに怒りはなかった。

怒りの炎を既に鎮火していたのだ。


***


その後、僕は彼女を治癒班に預けると、彼女には僕のことを黙っていて貰うよう口添えした。

あくまでも、治癒班が彼女を治療したことにした。


これは決して謙遜とか、目立ちたくないとかそんな感情じゃない


恥ずかしかったんだ


自分が真っ先に推薦していれば、こんなことにはならなかった

その後悔だけが、心に募っていた


彼女に胸を張って顔向けできない気がしたんだ


魔力も体力も全て吐き出し全力で戦う彼女に

何倍もの人数の男を相手に1人で戦うあの子に


僕は何ができた?

権力に任せて、情けなくも命令していた

その時の僕は、紛れもなく腐った脳をしていただろう


あれだけバカにしていた人間と同じなんだと、初めて気付かされた


こんな男が、立派に戦う小さな少女に推薦なんておこがましい


ミーシャに顔向けできないな


俺も、腐っていくのか…

いや、既に腐っていたのかもしれない


***


「まさか、ワイトラー家の神童だったとは、あの子娘たいそう運がいいですなぁー」


「そうですね」


言い返せない


「に、にしても、あれだけの魔術を繰り出しても誰にも推薦されないとは、やはり所詮は田舎者。社会性がないと見抜かれたんでしょうな。

貴族社会では生きていけないと、新入生の皆さんは本当に優秀でした」


「本当にその通りかと」


言い返せない


「ご、ご子息の慈悲がなければ、あんな子娘不合格、なんなら死んでいたんじゃないですかな?

私共の治癒班には、オーバーヒールなんて使える者、1人もいませんからな」


「そうですか、それなら僕が助けて良かったです」


言い返せない


言い返す資格が、今の僕には無い


「あの子娘には金輪際、あんな無茶な戦い方はするなと、みっちり絞っておきますんで、ご安心を」


「はい、よろしくお願いします」


悔しい


拳すら……握れなかった。


「ハレファス様!」

「皇女殿下…………」


「あの、お身体、大丈夫ですか?」

「……」

「あの……」


はっ! 何やってる僕。

皇女を心配させるなんて僕らしくない。


「はい、このとおり。私はとても頑丈ですので。

昔から怪我や病気にかかったことなどございません」


それよりも、彼女の怪我の方が重大だ。

正直、あんな傷を治療したことは、今まで一度もない。

完治させられたか不安で仕方ない。

もし完治させられていなければ何をもって責任をとれば……


「ハレファス様!」

「あ、はい。」

「やっと、返事してくれました。

………本当に大丈夫なのですか?」

「皇女殿下のお心遣い、大変嬉しゅうございます

ですが、私は、本当に大丈夫なのです。

少々お見苦しいものをみせ、殿下のお気持ちを煩わせてしまったことに関しては、なんと責任を取ればいいか」

「いや、そんな、私、え?」


「すみません殿下。私はこれで失礼します。」


何をやっている。

皇女を置いて先に帰るなど、あってはならぬ侮辱。

死にたいのか?

いや、死にたいのかもしれない。


12年生きて、ここまでの苦しみを感じたことが未だ嘗てあっただろうか。


***


お腹に走る鈍痛で目が覚める。


「貴様が背中を切られるばかりに!」


私、ミュートリナは床に冷たいものを感じる。

どうやらお腹付近を殴られ地面に横たわっているのようだ。


「私に迷惑かけさせおって!」


また来る、魔術で応戦……そうだ、魔力切れ!


「ぶおへ」


痛みに耐えるように体を縮こまらせるも一向に痛みが来ない。


目の前には茶髪の私より一回り大きな男の子が私とおじさんの間に割って入るように倒れていた。


「誰だ貴様は!」

「お、僕は、……私はタイト・ヴィルキルです

先程の2次入学試験で入学しました」

「そうか、なら今すぐここをされ!」

「分かりました、それじゃあ君、行こっか!」

「へ?」

「はぁ!?」


私とおじさんは共に疑問符を発する。


「僕たちは今日から入寮、んで入学したんだ。

一緒にぐおえ」


彼は横腹を勢いよく蹴られた。

おじさんは怒り狂っている。

原因は私と彼。

顔真っ赤。茹でダコみたい。

でもそう思うとちょっと…………


「こうなったら貴様ものこ」

「何をやっている! って、カリニア先生……」

「ハレファス…様……」


また新たに、今度はとんでもびっくりなイケメン王子様が入ってきた。

ハレファス様……っていうんだ。


「ここで何があった。」

「いえ、新入生に特別指導を………」

「この先生がそこの女の子の腹殴って、んで私の顔殴ってお腹蹴ったね」


おじさん、もといカリニア先生が言い終える前にタイト君が言い放つ。


「カリニア先生……誰にも言わないので彼女たちを返してあげて下さい」


カリニア先生は何か言いたそうだったけど、ハレファス様より立場が弱いのか引き下がっていた。


部屋には私たち3人だけが残った。

ハレファス様は部屋を一瞥すると、少し驚いているように見えた。


しかし、そんな表情はすぐ戻し、


「君たちだけだと危ないから、僕が寮まで見送るよ」


と言ってくれた。

紳士だ。



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