ルイス・ランドルフに告げる
ルドベキアとミュートリナ、ルクシーが戦闘を開始したことにより戦場の勢いは山賊たちにやや傾いている。
「ランドルフ様、このままルクシー様たちが戦線に戻ってこられなければ全滅しかねません。」
「こそこそ埃色の髪の偉そうに指示ばっか出してるあんちゃんよ。後ろに隠れてねぇで俺と一騎打ちしよぅぜ?」
「ああ?」
「お前ら、一旦下がれ。」
山賊たちの中には珍しく、痩せておらず、というか筋骨隆々の兵士としていてもおかしくないような男が一声かけると賊たちは一斉に退避していく。
身長は180cmは優に超えているだろう。スキンヘッドの男が自身と同じくらいの長さのロングソードを肩に担ぎながら歩み寄る。
「大将同士の一騎打ちぃ。下々の奴らに見守られながら殺し合おうぜ?」
「は、乗るわけないだろ。全員怯まず」
「我が身に流れる魔力を流すこと、敵を滅ぼす剣の仕上げとする、魔力付与!!!」
男が詠唱するとロングソードは赤黒く変色しその形状は直線的なものから切断に特化したしなやかなものになる。
その剣を両手でめいいっぱい振り抜くと突撃しようとしていた部下たちが真っ二つ。
帝国軍の足がすくむ。
「雑魚が相手じゃただのなぶり殺しだろ? 俺は強い奴との命のやり取りがしたい。」
「狂ってる。」
「狂っていて結構。こちとら騎士団から追放された身!! 人を殺さなくなっておかしくなりそうなんだよ。なあ、戦ってくれるか?」
「ルイス様、、、」
俺も後ろにいたが前に出る。俺が歩み寄ると部下たちが割れるように道を作る。途中で部下が持っていた剣を奪い取る。
「闘いを極めし武の王よ、強きをくじき、弱きを救う力を私に与えたまえ! マッスルチャージ!
我が身に流れる魔力を流すこと、敵を滅ぼす剣の仕上げとする、魔力付与!!!」
身体強化と武器強化の2枚重ね。量産品武器といえどこれだけすれば簡単に壊れるということはないだろう。刀身は1mにも満たないが仕方ない。
「おいおい、そんななまくらで殺し合うっていうのか?
腰に下げたやつを使えよ?」
俺の腰を指差しながら男がぼやく。確かに2本刀を携えてはいるが使うつもりはない。
「ルイス・ランドルフ。お前をここで殺す名前だ。」
「やる気になったか? 威勢がいいだけのやつじゃねぇよな? 強ぇんだよな?」
「早く名を名乗れ、待ってやっているんだぞ」
「俺ぁスカルク・ピュース。テメェを部下の前でぐちゃぐちゃにする人間だ!」
スカルクが長い刀身を薙ぎ払う。それを強化した剣で正面から受ける。中々に重い。魔獣に勢いをつけられながら衝突されたと錯覚してしまう。
「へぇ、正面から受けてびくともしねぇなんてな。
だが、これならどうかな。」
一回転したかと思うと刀身が遠心力をつけながら襲いかかる。それを同じように受けるが今度は左側に吹き飛ばされる。空中で体勢を整え次の攻撃に備える。
スカルクはそのまま勢いをつけてロングソードを肩に担ぎながら突進してくる。担いでいたロングソードを衝突直前で振りかぶる。距離でどうしても負けているため後ろに下がって避ける。
それを読んでいたのか振り抜いた力を利用して体を宙に浮かせ頭を狙った蹴りがくる。
それを左腕で防ぐが、もともと剣を持っていたため完全に防ぐことはできなかった。
「おらおら、口先だけなのはお前の方じゃねぇのか? 大丈夫か? そうやって防戦一方だったらすぐに殺しちゃいそうだぜ?」
スカルクの攻撃はさらにヒートアップする。太刀筋は素人のものではない。しっかりと教育を受けた人間のもの。
そして、本人の才能が別格であり常人には扱えないようなロングソードも軽々と振り回せる。訓練を受けた兵士たちといえど相手になるとは思えない。
「なあ、あまり俺をがっかりさせすぎるなよ。イライラしてきちゃったじゃねぇか。お前は守ることしか能がないから指揮官なんかつまんねぇことしてんのか?
そうやって時間稼ぎする、つまらないやつなのか?」
攻めが続いているようだがもし俺が反撃した時、すぐに防御に転じれるように警戒は怠っていない。武人として見極めているというところか。
こちらも距離を詰め剣を振りかぶり右肩目掛けて振り下ろす。やはりというべきか、ロングソードで受け止められる返すように脳天を狙った打撃がくる。
すぐに右側へ逃げ振り下ろされたロングソードを踏みつけ刀を振らないようにし、こちらも薙払い。
スカルクも左足で蹴りを俺の腰に放ち一歩早く向こうの攻撃が到着する。
剣を軸に体勢を整える。至近距離まで来ていたスカルクがロングソードを喉元へ刺す。それを剣でいなすとゼロ距離まで近づき鍔迫り合いになる。
「スカルク、お前大したことないな。」
「あ? お前調子乗んなや。防戦一方のくせによ」
「防戦一方の俺にトドメをさせなかったのがお前の敗因。というところかな。」
「戦いでは守ってばっかだ口では攻めるのが上手じゃねえか。詐欺師でもやってんのか?」
「生憎と俺は行動で示す兵士。」
「だったら今すぐ辞めちまえよそんな職業。
兵舎じゃなくて棺桶に詰め込んでやるよ。」
「俺はお前を口と行動両方で詰めることにする。」
鍔迫り合いから思いっきり手を叩きつけると同時に膝を上げ鍔と挟み撃ちにする。
たまらず顔を歪めながら後ろに下がるのを見逃さず胴に左から横に切る。少し浅いか、殺すには至らなかった。鎧の途中で上手く切断できなかった。
すぐにロングソードを真上から振り下ろしてくる。
「あああああ!」
それはもう見ている。剣で受け、手首で返し流れるように左首から右胸にかけて剣を振り下ろす。今度は一度傷を負っていたためか、思考がまとまらず攻撃に転じたため簡単にいい一撃を加えられた。
スカルクが焦っているのは自明だ。焦りが単調な動きを生む。
「クソがああああ。なんで、クソッが!」
単調な動きは己の身を滅ぼす。スカルクは間違いなく強いだろう。それ故に知らなかった。力だけでは埋まらない実力を。
「お前は俺にがっかりさせるなと言ったがどうだ。
がっかりしている?」
「ああ、がっかりだよ! ここから俺の、大逆転!」
ただロングソードを振り抜く力もない。血はとめどなく流れて体力が急激に減少しているのを感じているだろう。
ロングソードの変質がより色濃くなる。今まで注いでいた分じゃ足りなくなってきた証拠だ。
周りの人間の空気も一変している。あれだけ怖気付いていた部下たちも歓声を上げている。
「うっかり俺の実力を見誤ったのがお前と俺の違いだ。じゃあ、ちゃっかり殺させてもらおっか。」
「させるかああああああ」
山賊の中から飛び出してきた男にスカルクへのトドメを防がれる。馬に似た、面長の少し禿げた男が俺とスカルクの間に剣を持って割って入る。
「テオール!!??」
テオールというのか。身長は174cmほど、スカルクほどの大剣ではないが1.4mほどの両手剣。
すぐに切り返すがギリギリ防がれる。しかし力負けしてか剣は叩き折る。
2人まとめて、そんな中1人新たに参入する。
「らああああああああ!!」
チェーンで繋がれた斧を投げ飛ばしてくる。見た目以上の攻撃を食らう可能性があり、引かざるを得ない。
「ジョアン!!」
低い鼻とアヒル口が特徴的な身長169cmほどの男も参入したことで戦況が一変する。
俺たちの一騎打ちがいつのまにかスカルクを守る山賊と殺そうとする兵士の混戦に陥っていた。
仕方なし、俺は右手で下げていた愛刀を抜き放つ。
呪刀・壊妖。一面に死体が積み上がる。だから抜きたくなかった。首、首、上半身、首、上半身、上半身、首、首。
死体から流れる血はやがて小川となる。
真っ赤な川にそれを見ていた兵士は腰を抜かし、後ろで見ていた山賊たちは発狂しながら森に逃走する。
それを兵士たちも追いかける。
俺もスカルクたちを探すが、死体の中にも逃げている中にもいない。混戦になった時点で逃げ出していたようだ。
「ルイス様。さ、さすがです。」
「仕留め損ねた。ただ、もう瀕死だ。お前たちだけで殺せるか? 俺はハレファス様を探しに行く。」
「は、はい。」
***
「はぁはぁはぁはぁ」
「スカルク様、スカルク様!!」
「早く止血しろ! スカルク様、絶対助けるから死なないでくれよ。」
呼吸が浅くなるのを感じる。全身が暑かったのに今は北の地に行ったときのように寒い。
頭が痛い、殴られたときとは違う破裂しそうな苦しさ。
「お前、ら。一騎打ちの邪魔を」
「邪魔しますよ。こんなところでスカルク様に死なれるわけにはいかねぇ。」
テオール、ジョアン、それにバカども。雑魚ども。
「ルドベキアは? お前たちのボスだろ?」
「俺たちは最初からスカルク様、あんただけに従ったんだ。あんたがルドベキアに従うって言ったから従ってただけ。
あいつも苦戦しているし逃げても文句ねぇだろ。」
俺が、ルドベキアに負けたのが全ての原因なのかもしれない。あのとき一騎打ちにてボスを決めるという提案に俺が乗ったことでこいつらが、死んでいった奴も。
考えるのが難しい。考えるのがまとまらない。考えるのが考える。
ぐるぐる回る視界と揺れる体の中、奴らの声すらもぐちゃぐちゃに聞こえる。
「絶対に、殺す」
俺は、死ぬわけにはいかない。それだけは考えなくてもわかる。俺のことを舐めてくれたあいつを殺す前に死ぬわけにはいかない。
「スカルク様、なんかわかんなぇけど瞳が生きてやがる。」
「今日から俺たちはルイスぶっ殺し族だ。あいつだけはもう許さなぇ。絶い殺してしっかり落とし前つけさせてやらなきゃならねぇ。
殺す、殺す殺す、、、」
***
魔術士たちと一騎打ちの戦いが起きている裏で、別の戦いは動いていた。
ハレファスのやつと一緒になって閉じ込められてからどれだけ経ったのかわからない。見張の奴らがどこかへ急いで出て行って数が減る。
だがまだここから抜け出すにはちと厳しいか。
何か起きている。助けが来たのか?
いや、そうと決まったわけじゃねえ。ぬか喜びしてたら後が怖い。
隣で一言も喋ることなく目を瞑ってじっとしているこいつは恐怖とか焦りとかないのか?
肝がすわっているのか鈍感なのか。
突然部屋の前で叫び声が聞こえる。様子を見ようとした見張が扉を開けると血飛沫をあげ、断末魔を上げながらぶっ倒れる。
それを見ていた見張のやつらも駆けつけていくが全員殺される。
助けがきたか。そう思ったのも束の間、ハレファスが目を開けると2人の間に緊張が生まれる。
やってきたのは助けなんかじゃない。あのときハレファスに囁いてたヒゲの男。
「ばぁ! 助けが来たと思った? 残念、僕だヨォン。かなちぃ?」
「殺しに来たのか? 僕たちは人質だ。お前の一存で殺すのか? ボスはお前じゃないだろ。痛ぶるだけならやめておけ。人間なんてすぐ死ぬんだか。」
「ちっがぁう。痛ぶるなんてことしないよん。俺はぁ、カ・ミ・に、忠誠を誓ってるもん!
いたぶっていたぶってめちゃめちゃにしてお前を殺しゅゆ♡」
「おいおい、あいつ気持ち悪いぞ。お前あんなのと会話してて大丈夫か?」
くねくねと体を動かしながら返り血を舐めては猿のように喜んでいる。ハレファスは命乞いしてるのか説得しているのかよくわからないがあいつは心に決めているらしいし。
巻き添い食らうなんてごめんだ。
「あ、でもそこの隣のやつも殺すゆ♡
筋肉食べたいゆ♡」
背筋に悪寒が走る。そんなのごめんだ。俺はこんな気持ち悪い奴になぶられて肉を食べられるためにここに来たんじゃない。
こいつ、頭いかれてる。
「人肉食、、ハヴァレアこいつは四大負の遺産。
人食い族、ウェンディゴを崇拝する」
「同じことを少し思ったよ。初めて見たけど本当にいたんだな。」
「知ってる? ウェンディゴ様ぁは、黒い髪の女の子なんだって!
その子曰く、ハレファス・カシミーアス・ワイトラーの肉は絶品らしいゆ♡」
ああ、異常者らしい。ハレファスと何かしらの関係があるのかと思ったが頭がイカれた気持ち悪い奴ってだけらしい。
「美味しいものは後に取っておくのが好きだゆ♡
だから先にお前を食べるんだユ?」
は? ざけんなよ。俺はお前にとってハレファスを食べるための前菜でしかないのか?
どいつもこいつも、俺を舐めやがって。俺はお前らの脇役でしかないのか?
隣で開かれているこいつもだ。俺を見てねぇ。親父もだ。兄貴も。俺はここにいる。他の誰でもねぇ。
腰に下げていたナイフを抜く。
「縛られてるから殺しやすそうだユ〜」
「天使を従えし軍神よ、非力な我が身に荒ぶる力をお貸しください、」
「ユ?」
こんなやつ、俺がぶっ殺してやる。
「アクティブシフト!!!」