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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
山賊討伐編
56/70

襲いかかる手



 「決着か。」


 刹那馬車が裂ける。

 ハレファスとハヴァレアとルイスの間に落ちてきた1人の女。蘇芳(すおう)色の長髪を靡かせながら両手に持った投げ縄でハレファスとハヴァレアの2人を捕まえて今度は高速で天高く飛んでいく。

 ルイスは気づいた。先の襲撃はこの瞬間に2人を捉えるためのフェイク。しかし時すでに遅し。

 

 「ハレファス様!」

 「ルイス! 慌てるな。今やるべきことをやれ!」

 「くっ。ミュートリナ! 追いかけろ!」

 「はっ!」


 事態を察知してヴァルターが降りてくる。

 ヴァルターはすぐにハレファスの意思を汲み取りルイスに近づく。

 

 「今日は一度国境付近の街まで兵を下げさせる。

 その旨の連絡は私が街につき次第行う。

 ルイスたちは捕縛した盗賊を私たちがのっていた馬車に詰め込め。」

 「わかりました。全員とらえた賊を馬車の中へ。」

 

 捉えられた賊を馬車に乗せる。

 ルイスには今すぐにでもハレファスを助けに行きたかったが部隊を率いている以上指揮官が下手な行動に出るわけには行かない。

 普通の賊相手ならばルイスの判断は正しかった。

 相手を捕縛し主人に指示を仰ぐ。ベテランの指揮官でもそうしただろう。だが、今回の相手は隣国中を混乱に追い込んでいる相手。常識で戦うのは困難である。


 「すぐに兵を引かせますか。」

 「そうしましょう。賊を引き渡すのに時間がかかったといえば遅れた理由になるでしょう。」

 「つまり、今夜中にハレファス様を救出することは確定と。」

 「ルイス、ミュートリナにはこちらから街に向かったと連絡しておく。」

 「というと」

 「事前に決めておいたのですよ。街に引き返した時の合図を。ルクシー!」

 「あいよ!ㅍㅁ@::9血,ゆra3♪blky^_=(察頃_9^下班」ur他vv的吗츄야ㅅ喫系i8:%3!!」


 暗雲が立ち込め水分が天に集まる。やがて雲が積もり風雨で前を見るのもやっとになる。細い枝や落ち葉が宙を舞いいつのまにか暴風へと変化する。

 その頃には馬車はガタガタと音を鳴らしながら揺れ、大木も根本から倒れる。足をついてた馬車にいつのまにか小川ができている。

 その中に一筋の光が落ちる。やがてその訪れを伝えるように爆音が轟き人々を恐怖させる。

 それは、雷を落とした本人もだ。


 「ああああああああ!!!」


 一度の雷の後、今までの暴風が嘘かのように静まり返る。

 

 「す、すごい」


 馬車の中からの抵抗はなくなる。

 目の前に雷を落とされたのだ。対抗心を恐怖心に塗り替えるのには簡単だった。


 「これならどれだけ離れていてもミュートリナさんに選択が届くでしょう。」

 「ちなみに、もしそのまま引き返さず目的地に向かうって連絡なら連続大爆発を起こす予定だったんですよ。」

 「はっはは。」

 

 乾いた笑いしか出てこない。ルイスもルクシーの魔術士としての能力はかねてより聞いていたがまさか天候を操るまでとは。

 これは確かにヴァンパイアを単独で撃退したという話も頷ける。

 もしかすればヴァルターと同等。それ以上なのではと予感させる。


 「ミュートリナはどうするのでしょうか」

 「ねぐらを見つけてきたらこちらに引き返すように先んじて伝えておりますよ。すぐに帰ってくるでしょう。」

 「そのあとは」

 「ここの部隊を結集した総力戦でしょうね。」

 

 ***


 遠くで雷が落ちるのを縛られながら眺めていた。

 雑に誘拐されることになるなんてハヴァレアは予想だにもしなかった。しかも、自分より細い女に手も足もでず、かつ間違いなく強い。

 縛られながら森の上を飛び回るとどこにでもあるような集落につく。


 「くそ、なにが起こってるんだ。」

 「うるせぇ男だな。大臣だって言われてアタシ直々に捉えにきてみればガキばっかりじゃないか。

 たく、ガキども。お前らは間違いなく大臣と副大臣様なんだろぉなぁ?」

 「ちが」

 「そうですね。」


 ハヴァレアは否定しようとするがそれを遮るようにハレファスが言葉をかける。

 ハヴァレアとしては、わざわざいう必要はないと感じていたがそれはハレファスも同じ。

 沈黙していれば良いと考えていたがハヴァレアが否定しかけたから仕方なく肯定した。

 肯定に対して女は口元少しだけ緩め、一つの建物を指差す。


 「痛い目にあいたくなきゃ大人しくアタシらに従うことだ。ほら、あんなか入りな。」

 

 ハレファスは従順に、ハヴァレアは抵抗したが周りからスッと出てきた衆賊により渋々建物へ入って行った。

 建物自体はさほど大きくなく、しかし白い石造りで窓がなく中には蝋燭の灯火のみ。薄暗く少しジメジメとしており長時間いれば気が狂いそうな、そんな建物だった。

 中に入り部屋の隅に連れてこられる。隅には板が数枚重ねて置かれており、賊の1人が板を剥がすと中に続く地下通路が出てきた。

 道などまったく整備されていなく、正装として履いてきた靴には普段履くような利便性を追求して作られたものではないし歩くのすらままならなかった。

 等間隔に置かれた松明だけの一直線の道をひたすらに進む。空気も悪く、崩落してもおかしくないような作り。

 恐る恐る進む2人。

 それからどれだけ進んだだろうか。ようやく直線の道を変えると今度は来た時とは逆に階段を上がっていく。

 階段を上がると洞窟に出て、外の光と滝の音がする方向へと連れていかれる。

 滝壺を出ると森林に囲まれたある種の社会。いや、そこには過去に社会が形成され、今は廃れたと思われる廃村の姿があった。

 しかし人はいる。ここに棲みついたとみるべきか。

 ここが山賊たちのアジトで間違いない。2人は目を合わせる。

 お互いの強い眼差しからお互いの考えが同じであることを確認し、それを悟られないようすぐに視線を外し案内に続く。

 集落、と呼ぶには厳しい荒れた家屋や過去に柵で囲われ牧畜をしていたであろう跡。朽ちた井戸に見たことのない丸い木製のものまで。

 すれ違う人はみな痩せており、まともな食事にありつけているとは思えない。

 こちらを物珍しそうに眺める若い男女の姿がちらほら。ここには年を重ねていると思われる人が全くいない。 

 

 「見えるか、あん中に入ってもらうよ。」

 

 彼女が指差した先は荒廃した建物の中でも一際大きく、まだある程度建物として機能していそうな場所だった。


 「どっちが大臣だ。どっちも若すぎて判別できねえ。」


 賊の頭と思われる女は2人を比べるように目を細めながら見定める。獣のような目つきで弱い方を見極めている。

 やがて満足したのか2人から目を離し、扉の前にいた数人の男を連れてきてハレファスを指差した。


 「白い髪の方が多分大臣だ。そっちの方が偉いやつのクッセェにおいがする。

 そいつらは交渉材料として大切なんだ。くれぐれも大切に可愛がってやってくれよ。」


 女が部屋を後にしようとした時、1人のヴァルターよりも歳の幼そうな上半身裸の痩せた土だらけの少年が息を切らせながら飛び込んでくる。

 少年は目をキョロキョロさせ女を見つけると一直線に走り出す。


 「ママ! カルミアが! カルミアが!」


 女は入ってきた少年の母親であるようだ。そのことを2人に知られたくなかったのか少しだけ拳を強く握りしめる。

 だが、少年を怒鳴るようなことはせず駆け寄っていく。


 「ここには来るなっていっただろ?」

 「でも、カルミアが」

 「カルミアがどうしたの?」

 「えっと、カルミアが病気が、悪くなってて」


 その言葉を聞き少年を抱きかかえながら飛んで出ていく。山賊側にもなにか事情があるよう。

 部屋に残ったのは2人と最初からいた1人の男。そして2人を連れてきた監視要員5人。

 そのうちの1人、ハレファスたちと同い年くらいの背丈も近い目つきの鋭くヒゲの蓄えた男が近づいてくる。

 身なりは何枚ものぬのを縫い付けていることがわかるほど。彼らが困窮していることは自明。一人一人が生きることに必死なのだろう。

 やがてハレファスの目の前までくると顔を近づけ耳元までやってくる。


 「ナキ様が言った通りだ。お前を殺してやる。」


 ハレファスにだけ聞こえる声量で呟くと距離を取っていく。

 ハヴァレアは2人の表情を見比べながら会話の内容を考えるがハレファスは表情が変わらないし男は2人を蔑むような表情をするだけで全くと言っていいほど理解できない。

 やるだけ無駄、だが気になる。彼が何を言ったのか。もしかしたら、何も言わず揺さぶりをかけてるだけなのか?

 邪推もいいとこだが勘繰ってしまう。

 

 「おい、あんまりそいつらに近づきすぎんなよ。」


 スキンヘッドの男が一言放つと右足を軸にくるりと回るとスタスタと離れていく。

 腰には一本の綺麗な鞘に収まったナイフが。他の男たちが粗悪な武器を持っているのにどこでそんなものを見つけたのか。

 そんなことを思っているとハヴァレアが小声で話しかけてくる。


 「何話してたかしらねぇけどよ。あの刃物、たぶん盗品だ。武具大全って本読んだ時に載ってたやつに似てる気がする。」

 「おい、あまり舐めた真似さんじゃねぇぞ。会話するならお前らを個別に軟禁するからな。」


 確かにハヴァレアの言うようにあれは盗品かもしれない。売ればそれなりの値段にはなるだろう。

 あの女が持っていても違和感はないくらいには。どうしてそんなものを盗めた人間がこんなところにいるのかハヴァレアはわからないだろう。

 ナキがよこした人材ならそれなりの人間だろう。

 バカにも自ら自白したがそれだけ自信があるって証拠だ。何人殺してきたか知らないがやれるもんならやってみろ。

 その時がお前の最期だ。


 ***


 息子のゼラニウムが大臣と副大臣(人質)の前でどうどうとママと呼んできたとき、ルドベキアは肝が冷えた。

 だが娘のカルミアの病状が悪化したと聞いてそんなことは吹き飛んだ。

 なぜ世界は理不尽なんだ。幸福な人間はより幸福に。不幸な人間はより不幸になる。

 不幸な人間の努力はさらなる不幸を呼ぶ。なぜ不平等なんだ。種族か? 血筋か? 

 なにがアタシたちを不幸にしている。


 「カルミア! カルミア大丈夫なの!」

 「ママ、、?」


 横になっている娘の手を取る。熱が上がったのか表情も苦しそう。少しでもその苦しみを私が請け負ってあげれたら、そんな無理ばかり頭を支配する。

 

 「大丈夫。ママが絶対助けるからね。そのためにはどんなことでも。」

 「ママ、、」


 ゼラニウムも不安なんだろう。アタシがこんなだとこの子達だって不安になってしまう。アタシが、アタシがもっとしっかりとしなきゃいけないのに。

 なんで先に逝っちゃうの。これから幸せになろうって。今までの不幸の分だけ幸せになるって約束したのに。

 2人を守るためにもこの宝神と閣僚(交渉材料)を奪還されるわけにはいかない。

 もう奪わせない。私利私欲のための権力(腐った豚どもの力)はぶっ壊す。


 ***


 尾行に連れて行かせていたミュートリナが帰ってきた。話を聞くに建物の中に連れて行かれたが中を覗くと誰もいなかった。

 どこかへつながっている入り口でしかなかったとのこと。

 全く、このまま帰れば俺たちは全員死罪。


 「ルクシー的には早いこと終わらせた方がいいと思うけど。まああの2人ならなんとかなりそうじゃない?」

 「ルクシーはハレファスのこと心配じゃないの?

 ハレファス待っててね、すぐに助けに行くからね。」

 「まて、今一番偉いのは私だ。ルイス、兵士の準備は?」

 「万全です。」

 「わかっているとは思うが私は手が離せない。南パレントの役人は未だ大臣たちをみていない。政務官である私までいなくなればどうなることか。」

 「承知しております。ですから、私たちが必ずハレファス様とハヴァレア様をお助けしてみせます。」

 「任せた。」


 *


 ミュートリナの案内で山道を進む。国境付近の大都市ジョアから真北に2キロ。物理的距離に換算するとさほど遠く感じないかもしれない。

 しかし山を超えて直線距離2キロである。山賊に悟られないよう火も灯さず月や星の光だけを頼りに進む。

 山を超えた先にある小さな集落の一軒の建物に消えた、ミュートリナに伝えられていたルイスはその建物がどうなっているかまで知っているわけではない。

 まさかそこから直線距離を数キロ進むとは思っていない。

 だが、相手を一度見ているのだ。街までつくと何があっても休息をとる。そのつもりだ。


 「一度この辺りで休憩をとろう。」


 ルイスの声に兵士たちは地に座る。何キロも進軍して、中には一日中休まず働いている人間もいる。

 そんな彼らも限界は近い。だがこんなところで倒れてもらうわけにはいかない。心臓が速くなるのを感じる。呼吸が浅くなりどんどん視界が狭くなっていく。

 疲れていたのは部下だけではなかった。ルイスも同様に休まず働いている。

 こんなところで弱い姿を見せるわけにはいかない。

 そう心に決めて立ち上がる。


 「よし、休憩は」

 「バレた」


 ミュートリナが右の手のひらを真下に向けて爆発を起こすと鳥のように高く飛ぶ。そのまま落下する勢いに左手から発生させた爆発で体制を変え右手を今度は空に向けて真っ直ぐ高速で地面に刺さる。

 土煙の中、爆音と火柱だけがルイスたちにうつる。

 やがて森に延焼すると慌てたルクシーが急いで詠唱、消火する。

 奥では丸焦げの人間、数えると14人が倒れていた。


 「ミュートリナ、勝手になんてこと」

 「もうバレてた。今すぐ侵入するしかない」

 「ああ、くっそ!」


 彼女の行動で集落の人も集まってくる。急いでこの場を離れなくてはいけないがその前に身勝手な行動を説教したい気持ちもある。

 歯がゆい、しかしそんなこと言っていられない。


 「わかった。もう今すぐ案内しろ。」

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