道行く
18歳の俺にこんな機会がくるとは露にも思ってなかった。しかもハレファス様直々のご指名だ。
前回の戦で私は武勲を立てた。しかしそれはオレンジの頭の齢13ほどの少年のおかげ。
それがなければ俺は多くの部下を無駄死にさせていたかもしれない。
あの少年にあって直接お礼がしたかったが、そういった機会もなく、かといってこちらから連絡できる相手でもなく今日までずるずると続いていた。
だが、ここに来て彼と再会できるかもしれない。そのことに俺は少しの期待と今度こそは失敗しないぞという気を引き締めてハレファス様を待っていた。
先輩たちには少しの嫌味と祝言を、領袖には拳でぶっ飛ばされてきたんだ。痛かったなぁ。
でも、うまくやれば出世だってできる。実に重い内容で、俺に今回課された任務は山賊の棟梁を殺さず捉えることとハレファス様たちの護衛。
そして作戦の立案と実行。しかしそれができると踏んでの俺の起用だと信じて、ハレファス様が俺に失望しないように綿密に計画したんだ。
そんなことを考えていると、とうとうハレファス様たちを乗せたと思しき馬車が二台やって来た。
前を走っている豪華な方がハレファス様たちだろう。となると後ろがつれて来た3人だろうか。
俺はすぐに仕える主人の馬車の元へと向かう。
彼は降りてくるとすぐにこちらに笑顔を向けてくる。こんないち兵士にまで、、、。この人のために頑張ろ!
彼が降りるとさらに男が1人降りてくる。
おかしいな。オレンジの子と、赤髪(返り血)の子と女の子と聞いていたんだが。そのどれにも当てはまらない。
僕が困惑しているのに気づかれたハレファス様が説明してくれた。
どうやら彼はあのゴーシュラフ家の当主の倅らしい。とんでもない、人間に会ってしまった。まさか本家の人間とは。
俺たち武人にとっては憧れの人間だ。
将来の帝国を担う人間の筆頭株ということ。俺はついてるな。つくづく。
「初めまして! 今回護衛、作戦立案実行並びに山賊の捕縛を命じられております。ルイス・ランドルフであります!
ゴーシュラフ家の方にお眼鏡に叶うなんて、なんたら光栄。」
「おう。」
「ルイス。あなたの作戦を聞きたい。ぜひ私たちと共に馬車に上がり、話を聞かせてくれ。」
俺は、もってる! これはまたとない機会だ。
ゴーシュラフ様の目にも止まるチャンス。
俺は就活でゴーシュラフ家にも申し込んだが落とされている。もしここで結果を残せば、、!
「失礼致します!」
***
ハレファスとハヴァレアとルイスが今回の作戦の話し合いを馬車の中でしている頃、後ろの馬車には初めて顔合わせをする3人組がいた。
「まずは自己紹介しようよ! こんにちは!
ハレファスさんの1番の親友にして頼りになる男界の有名人とも言われているルクシー・アクィナスです。
ルクシーのことは気軽にルクシーとかルクシーさんとかルクシーくんって呼んでください。」
突然始まった自己紹介に2人は頭の中が真っ白になる。
話し出したかと思っても、言っていることがわからないし。なにより独りよがりである。
2人の中に引っかかる一言を残したことも問題であった。
「初めまして、ハレファスとは学園に入学した時からの仲になるミュートリナです。この中では関わって一番長いのは私かな?
ハレファスについて聞きたいことがあったら私に聞いてね! きっと答えられるから。
あと、私のことはミュウでいいよ。仲良い子はみんなミュウって呼ぶし、ハレファスのお友達ならなおさら仲良くなりたいな!」
ミュートリナの言葉には少し棘がある。それを感じとり引っかかるヴァルターと、棘があるとは毛ほどにも思わないルクシー。
ヴァルターは話すつもりなどなかったがルクシーの催促に負けて挨拶だけはすることにした。
もちろん、それ以上は関わるつもりなどない。
「初めまして、外務大臣政務官として任命されたヴァルター・メドロオークです。ハレファス様には実力を買われて特例で指名していただきました。
この中では一番実力はあるのでしょうね。」
実力。その言葉に3人は敏感である。
それとそう。ここにいる3人全員がハレファスから実力を買われて来ているからだ。その中で誰が一番ハレファスから信頼を寄せられているか。
これは3人にとって重要なことである。
「そーなんですね。それじゃあミュウ! ヴァルたん! よろしくね!」
「なんですか、ヴァルたんって。」
「あだ名ですよ。ヴァルたんルクシーたちより年下っしょ? だったら可愛いなって。」
ハレファス以外の人間から変な名前をつけられたことに憤りつつも、ハレファスに迷惑がかかるようなことはしたくない。
ルクシーはハレファスの友達。おそらくそうなんだろう。ヴァルターとしてはこんなやつとはすぐにでも手を切って自分だけを見て欲しいと思うが、主人に意見するなど忠犬であるヴァルターはしない。
そんなことをしてめんどくさいって思われたくないからだ。まさしく、めんどくさい男である。
「可愛いあだ名じゃん! よろしくねヴァルたん!」
「ミュートリナさんまで。はぁ、好きにお呼びください。ですが、私はあなたたちとは違いハレファス様に実力を買われた政務官。少し休ませてもらいますよ。」
「ルクシーも実力派ですけどね? なんならルクシーとかハレファスさんが言ってたけど一番頼りになるらしいですよ(言ってない)」
その言葉に2人はルクシーを凝視する。そんなことを言っていたのか? ヴァルターはすぐさま萬色の瞳でルクシーの頭の中を覗くが、ノイズがかってみえない。こんな体験は初めてで内心動揺しまくりである。
しかし、それを悟られたら、きっと勘違いされそうだから平常心を装う。
「ふ、ふーん。ハレファスがそんなことを。
きっとハレファス優しいからリップサービスとかもしちゃうからなー。勘違いさせちゃうこともあるしなー。あるしなー。」
が、ミュートリナはショックから動揺しまくりで、しかもそれをまるで書かせておらず誰から見ても痩せ我慢である。
しかし、ヴァルターや普通の人は誤魔化せないが、冗談や取り繕った嘘をそっくりそのままの意味で受け取る人もいる。
「うっそぉぉぉ。ルクシーハレファスさんに騙されてたの、、、。そんな、オーマイガァァァァ!」
頭をブンブンふり、そのまま燃え尽きたようにぐったりとする。モノクロになったルクシーをよそにミュートリナは続ける。
「まあ、ハレファスが一番好きな人が私は誰か知ってるけどなー。」
ヴァルターにはそれがハレファスの演技であることは知っているが、ルクシーは気になって気になって仕方ない。
そしてすぐに色とりどりのルクシーになる。
「え! 誰なんですか!
もしかしてミュウ!?」
ミュートリナはニヤ付きが収まらず扉を見つめる。
「ってことはまずないし〜。
意外とテレスシーナ様とか好きそうですよね〜!」
「それはないよ。」
扉を見つめたままのミュートリナが今度は抑揚のない不気味な声音でそう呟く。
ヴァルターはルクシーが余計なこと言ったことは察知していたが、当の本人は気づいておらずそのまま突き進む。
「そう? でもハレファスさんテレスシーナ様と一発くらいしてんじゃね?って思うくない?」
「そんなわけないよ。ハレファスは貴族の女なんか好きになる訳ないよ。ハレファスが好きなのはどんな境遇でも努力していじめられても前を向いて進む。そういう女の子だよ。
あんな女好きになる訳ないよ。ルクシーは結構ハレファスといるけどハレファスのこと詳しくないんだね。」
ミュートリナは自身の発言の危うさに気づいてない。ルクシーの発言に憤りを感じるあまり、自制心が利かなくなっている。
「それにルクシーはテレスシーナ様にそんな失礼な発言するなんてよくないよ。そんな自分の妄想主体の考えじゃハレファスのことなんて一生わからないよ?
もっとハレファスに寄り添ってあげないとハレファスのことはわからないし、なによりハレファスのことをあって数ヶ月の人間が私より知ってるなんて普通におかしくない?
ルクシーはもっと周りを見た方がいいよ。
ね! ヴァルたん!!」
「は? お、おう。」
ヴァルターはミュートリナの頭の中を覗いているが本当にそのまま喋っている。むしろオブラートに包んでいて貴族の人間よりよっぽど執念深いなと感じた。
しかし、ルクシーは言葉通りに受け止めていた。
「あー、まさしくじゃん。」
2人とも何を言ってるかはわからないが、ルクシーにツッコムような2人ではない。
「一旦ハレファスの気持ちになると、まず女の子にチヤホヤされたいじゃん?」
「違うよ。ハレファスは女の子にチヤホヤされたいなんて思われないし、大好きな女の子がいてくれれば命だって投げ出せる人だよ。
そんな俗っぽい男の子じゃない。だから私が守るんだよ。」
「でもそれだとおかしくない? 男である以上女の子へと劣情を抑えることはできず、それはもちろんルクシーにも適用されますことでどうやったらテレスシーナ様とかみたいな可愛い女の子とやれるかなーってずっと考えてるんだけど。」
「ハレファスにはそんな感情ないよ。ハレファスは愛情と恋愛感情はあってもそんな女、不特定多数の女の子に劣情を抱くなんてことしないよ。」
ヴァルターは過程は間違っているが答えはあっており意味が間違っている答弁に少し脳がバグってくる。自身の主人はなぜこう人格を歪めることが得意なんだ。
末恐ろしくも大好きである。
「まあ、その意見には賛成ですね。ハレファス様があなた方に推し量れる人間とは思えませんが。
きっともっと壮大なお考えがあるのでしょう。」
「ていうオチね」
「は?」
「いや、オチがないと落ち着かないじゃん!」
***
ブヲーンという法螺貝の後が聞こえ目が覚める。
そういえば、馬車の中で移動していたんだった。
かなりの長旅をしている。国境付近までに丸3週間馬車の旅。
そして、国境を超えて少しした頃のことだ。
この笛の音がしたということは。
「ハレファス様、ハヴァレア様、敵襲であります。馬車の奥でお待ちを。」
完全に異国の地。来たんだ。
外ではLet’s do the Odyssey‼︎‼︎‼︎‼︎ って叫んでいる奴がいるがあいつだろう。あいつもミュウもヴァルターもいる、万が一ってことはないだろう。
まあ、ヴァルターには基本的に前に出るなとは強く言っており、やむおえない事情があれば僕に許可をとってから動けと伝えている。
彼は今回政務官としてきている。武官ではないのだ。
そのことはルイスにも伝えている。ルイスは最初は驚いていたがすぐに理解を示してくれ、ヴァルター様なしでもやってみせますと言ってくれた。
しばらくの喧騒ののち、外が静かになった。
しばらくするとルイスがノックして入ってくる。小声で話す。
「報告です。賊は狙いの人間かは判断しかねますが、どうやら数日前からこちらに我々が向かっているという情報に引き付けられてきたそうです。
どうしましょうか。ここで殺すこともできませんし、かといって国境警備隊の元へはかなり距離がありますし、半日は引き渡しに時間がかかるかと。」
判断は僕次第ということか。
「2人とも、ヴァルターが優秀であることは知っているな。そこで、わざと彼らを連れて行くふりをしながら解放しましょう。そしてヴァルターに組織のねぐらを見つけさせます。」
何か意見したそうではあるが、主人である僕に意見するべきでないと思っているのだろう。
しかし、ハヴァレアは違う。彼は今回だって好きできた訳じゃない。
「まてよ、それじゃああいつらには何にも罰を与えないのか? いくらなんでも威信にかかわるぞ。帝国に捕まっても兵からは簡単に逃げられてしかも追ってこないって。
確かにアジトを探るためってのはわかるけどよ。それで噂がたっちまえばそれこそだろ。」
「言いたいことはわかりますよ。ですが先方を待たせることこそ帝国の威信に関わる。
賊の噂は賊の間でしか広まりません。なんせ外にその情報が漏れれば今度は賊側が追われることになるんだから。」
「じゃああいつらを縛って歩かせよう!」
「彼らが暴れでもしたらどうするんですか。」
「ハレファス様」
ルイスに呼び止められる。彼に何か考えがあるのか。
「聞こう」
「ここで決着をつける。というのはどうでしょうか」