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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
山賊討伐編
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力の源



 賊、なんだか野蛮なもののように聞こえるこの言葉。

 盗みをするものを盗賊と呼んだり、国家に背くものを国賊とか賊軍と呼んだり。

 決まって悪い、正義ではない側の存在として扱われるが″山賊”の立場からすると大変不愉快極まりない話で。

 悪を滅ぼすものが正義なら、私は絶対正義だ。

 人を苦しめておいて、己が苦しむことを拒む人間が果たして正義なのか?

 糞みたいな世界に一矢報いることしか脳のない人間は、悪人たりうるのか?

 どれだけ罪を重ねても積もることのない罪悪感と、罰を与えられれば与えられるほど燃え上がる正義感に突き動かされてしまうことの答えを人生を賭けて見つけたい。



***


 

 「ヴァルター、お前の実力を知りたい。」

 「なるほど。」

 「今からここから離れた、、、そうだな。

 ホルスガード領までいって村を一つ壊滅させてこい。

 期限は夜明けまでだ。」

 

 記憶を保持して時間を遡及してきた僕は、肉体改造をヴァルターにさせ終えると新たに指示を出そうと思っていた。

 本人もそんなことには気づいており、すでに準備は終えているだろう。


 「畏まりました。ハレファス様も向かわれますか?」

 「僕も見学できるのか?」

 「ええ、もちろんですとも。」

 

 まあ、実際に見るのも悪くはないか。

 結果も大事ではあるが、審査するならば過程を見るのも大事だ。


 「わかった。連れて行ってくれ。」


 *


 ヴァルターに抱えられ球体の層に入ると猛スピードで飛び去り迷いなくホルスガード領までやってきた。

 原理を聞くと球体の中の空間を固定して、固定した物体とし認識しなおすことで物体を高速で飛ばし座標移動したのだとか。

 

 こんなものがあるのなら、馬車なんか使わなくなるかもしれない。

 ヴァルターの言っていることは理解できたし、今度自分でもやってみよう。

 あの時に見た記憶が画家の描いた絵画のように鮮明に残っているからか、魔術に対して苦手な意識はない。

 漠然と、理として受け入れている。


 「では、今からこの地域一帯の空気濃度を酸素だけにして見せましょう。」

 「酸素、、?」

 「また今度詳しくご説明させていただきます。

 ハレファス様であれば一瞬で理解されるでしょうが。

 今はただ、私の一番得意な酸素系魔術をお楽しみください。」


 突如森林が燃え始めた。

 一本、また一本と焚き付けられて行き、数秒と立たずまさに地獄のような景色と化した。

 空気層で仕切られており、中のことは僕にはわからないが、九分九厘人が丸焦げになっているのだろう。

 

 「酸素ってのは恐ろしいものなんだな。」

 「酸素は生き物にとっては必須のものですよ」

 「僕には必要なもののようには思えないけど。」

 「何事も適切な量が求められるということですね。

 ハレファス様、私の力はいかがですか?」

 「正直、末恐ろしいよ」


 その分、頼もしくもあるが。

 こいつは僕を命落として守ろうとした。

 そんな奴がこれだけの力を持っているのだ。

 人間社会で武力に関して言えば恐れることはないだろう。

 根本から違っていたのだ。

 所詮は人間、数の前には無力。そんな古い考えは捨てる。

 武力とは、強力な個の力。

 

***


 「大海の宝神が賊に盗まれた?」

 「そのようなことが起きていたとは、それでは我が国カシミ帝国の水事情は」

 「間違いなく干上がるでしょうね」


 ヴァルターとともに部屋に帰ると緊急召集を受け、皇帝陛下の御殿までやってきた。

 何事かと急いで行くと国家を揺るがす大事件のようだ。


 「ドラグボルク宰相代理は?」

 「現在は皇帝陛下に事情説明に参られておられる。」


 ここに呼ばれたのは僕とドラグボルグとゴーシュラフとダイランか。

 他の貴族が呼ばれていないのは少々不思議ではあるがな。

 なにせ、大海の宝神が盗まれたのだから。

 

 大海の宝神はこのカシミ帝国の文明発展になくてはならない代物。

 内陸部にあるこの地はかつて土地は痩せ、干上がり、人が住めるような場所ではなかった。

 そこで、海人族の持つ水の源と呼ばれる秘宝を盗み、その秘宝の力で今日まで栄えてきた。

 その秘宝が盗まれたのだ。

 すぐにとは言わないだろうが、いずれこの地は枯れてしまうだろう。

 

 「立て続けにこんなこと。

 賊の特定は?」

 「おそらく、南パレントで近々噂になっている“義憤“と名乗る山賊集団であるかと。」

 

 山賊が義憤を名乗るとは、なんとも言えないな。

 皮肉なことに返す言葉もないんだから。

 義憤と言えば、ここ最近で台頭してきた山賊で、シェード山脈に拠点があるとされている、その周辺の奴らだよな。

 なんでも、貴族や王族皇族ばかりを狙う賊にしては趣味の合う集団だったはず。

 ボスは頭が切れて実力もあり、理念やカリスマも備えた人となりをしているらしい。

 あくまでも噂だが、今回の事件の犯人がその山賊の仕業であるならばカシミ帝国としては非常に厳しいと思う。

 面目を潰された形になるし、ただで済むとは思えない。

 この中の4人から誰か。

 誰かが先頭に立って賊と戦うのは間違いないだろう。

 

 「国内の混乱に乗じてと見るべきか」

 「そうでしょうね。

 こんな気を賊が逃すとは考えられませんし。」

 「下衆な奴らである。

 どこまでも腐っておるわ。」

 「ああ。なんとしてでも取り返さねば。」


 「御三方! お待たせしてしまい申し訳ございません。」

 「ドラグボルク殿。」

 「話してくださるのだな?

 此度の事件に関する情報を。」

 「ええ。

 しても厄介な話になりそうです。皆さんの予想通り義憤による犯行であるようだ。」


 話はこうだ。

 先程宮殿に一通の置き手紙が置かれていたという。

 内容は宝神を返してほしければ大金を寄越せというよくある身代金要求型のものだ。

 額は約50京科。(1円=1000科くらい、なので約500兆円)

 国家予算何十年とかって話じゃない。

 戦争に負けてもこんな額請求されないぞ。ふつう。

 当然払えるわけないんだが。

 かといって宝神がないとこの国は立ち行かなくなる。

 正直、まだ南パレントと戦争して義憤を捕まえる方が安く済むまである。

 しかし今この国際情勢の中人類同士で戦争なんてしてるなんてなれば大顰蹙を買うことにもなるし、帝国の威信が弱まることにもなる。

 正攻法もだめ、邪道もだめ、力技もだめ。

 八方塞がりすぎて顔が引き攣る。

 やってくれたな義憤。

 

 「今回の件、私が引き受けますよ。」

 「ワイトラー殿。本当かね?」

 「ええ、他に引き受けてくれる方はいないようですし。」

 

 少し語気を強めてそう一瞥する。

 誰も目線を合わせてくれない。

 屑どもめ。使えんやつらだ。

 つくづく保身に走る貴族とは、っというところか。

 そんなんだから義憤に狙われるんだぞ。反省しろ。

 

 「しかし、一つ条件を加えてもいいかな?」

 「なんだ?」

 「人事、金、権力を一時的に私に集中させてください。それが条件です。」

 「ワイトラー公、それはさ」

 「今回の件、失敗すれば請求額以上の損害が出ることは目に見えているから誰も手を上げないのでしょう?

 なら、振るうべき力は手を挙げた私にあるべきだ。」

 

 そう突き放すように言い終えると彼らは了承してくれた。

 煌びやかな宮殿を後にする。

 帝都を見下ろす。街は貴族への不信感と不満で今にも爆発寸前というところだろう。

 もし今回のことが知れ渡れば今度こそ本当に臣民による蜂起となるやもしれない。

 この地を戦火に変えるわけにはいかない。

 備蓄された水も長くは持たないだろう。

 短期決戦になることは確実だろう。やってるやるさ。

 お前たちの得意な土俵でな。


 ***


 「ミュウ、落ち着いてくれ」

 「落ち着いてる、落ち着いてるんだよ。でもさ、なんでなのかな?

 なんでなんでなの?」

 「それは、、、」


 自分の教室に入る。

 三年に上がってミュートリナと同じクラスになっていた。

 彼女と特に接点があるというわけではないが


 「どうしたの? 何があったの?」

 「ハレファス、、」

 「ミュートリナ! どうして泣いているの。

 何があったの」

 「それは」


 近くにいた奴が教えてくれた。

 どうやら昨晩ミュートリナが出身の村が火事で燃えたらしい。

 ああ、あそこ故郷だったんだ。可哀想なやつだな。

 まあ仕方ない。人口も少ないし実験するにはもってこいの場所であったし。

 

 「そんなことが、、、」


 タイミングもいいし、利用してやろう。


 「ミュートリナ、辛かったね。」

 「ごめん、ハレファス。」


 そう言い切ると僕を突き飛ばして教室を出ていく。

 それを見ていたルクシーがニヤニヤしながら近づいてきた。

 いつもの気持ちの悪い口調で話しかけてきた。


 「ハレファスさんフラれちゃってるじゃないですかー」

 「はあ」

 「でも恋は諦めちゃいけないですよ!」

 「別にそういうわけじゃないけど」

 「えーそうなんですか?」

 「そうだよ」

 「そーだったんですか。絶対ハレファス様がミュートリナさんの股間を触って、イダァァァイ」 

 

 なんでこんなことを平然と口走れるんだ。

 

 「どうして口をひねるの、いたい。」

 「ルクシーくん、もうちょっと頭使ってくれないかな?」

 

 少しイライラするやつだな。

 こいつの前だと冷静さをかく。

 感情が揺さぶられる。こんなやつに?

 ふざけんな、冷静さを徹底だ。キレるな僕。


 「ルクシー思うんですよ」


 席につき、筆を走らせ始める。

 やがて完成したのか一つ頷き僕に作品を見せてきた。

 

 「弱ってる女の子の弱みに漬け込んでせっ」

 「得って言いたいのねわかった行ってくるね。」

 「ちがうんだけどなー」


 ポリポリと頭を掻いて首を傾げている。

 書かれた絵は稚拙であるが何を表していたかわかる。

 なんでこう欲に忠実なんだあいつは。


 *


 「ミュートリナ!」

 

 近くで見ていたヴァルターに跡をつけさせて正解だった。

 まさか監視の目を抜けて学園の外、しかも郊外まで来てたなんて。

 

 「ハレファスどうしてここが。」

 「ここにいると思った。」

 「でも、どうやって学園を抜けてきたの?」

 「僕は一応貴族で当主だ。家のために抜けさせてくれと言えばすんなりと、ね。」


 本当はヴァルターに抱えられて飛んできたんだが、まあ別に嘘でもバレることはないしいいだろう。

 ミュートリナの目元は赤く腫れ上がっていた。

 酷い顔だ。ヴァルターが言っていたがさっきまでは号泣してたらしいし。

 

 「ミュートリナ、君の辛さは僕にもわかるんだ。」

 「わかるわけないよ! あなたは貴族で私は平民!

 平民の気持ちなんてあなたなんかにわかるわけないでしょ。」

 「家族も、友達も村のみんなも、全員死んだ!

 なんでなの? 私が悪いんでしょ!どうせ。

 私が貴族の言いなりにならず強さで認められようとするから気に食わないって、それでみんなが」

 「ちがう。」

 「違わないよ! じゃあどうやって説明するの?

 私が悪くないならなんだって! 事故だって?」

 

 「ミュートリナ」


 「近づかないで。」

 「っ」


 無詠唱火魔術が飛んでくる。殺傷力は間違いなくある。

 だがここで避けるわけにはいかない。

 正面から受け止める。

 

 「っ!来ないで!来ないで!」


 熱い、皮膚が燃えていくってのは尋常じゃないくらい痛いんだな。

 だか、それを消火もしないし治療もしない。

 一歩一歩とあゆみを進める。

 

 「なんで、なんでよ」

 「ミュートリナ」

 

 火力は威力を増す。

 意識を手放すな、手放したら絶対死ぬ。

 意地をみせろ。

 周囲の温度も上がってきている。

 空気も悪い。頭が痛い。

 意識が朦朧としてきた。

 それでも根性で歩く。

 揺れるな、僕の意識。


 「あなたには、関係なんてないのに」

 「君が好きだ!」

 「っ! 私は平民であなたは貴族。いくらあなたが好きでも私たちは結ばれることなんてない。

 そんなこと、貴族であるあなたが一番わかっているでしょ!」

 「それでも好きなんだ。好きな人が泣いている、それだけじゃ関わっちゃいけない理由にならないかな?」

 「だめだよ、だめ。来ないで!」


 今までとは比べものにならない火力の爆撃が来る。

 瞬時に全身を治療しその攻撃を受け止める。

 

 「う、そ」

 「はっあ。くっう」

 「私は、あなたを殺そうとした。なのに、」

 「はあ、はあ」

 

 流石にきつい、目に見えない部分を治療していく、それでやっと意識を保てる。

 なんてやつだ。


 「僕も殺して、、、自分も捕まって殺される、つもりだったろ」

 「そうよ、私はもう生きる理由なんてないの。

 死んで家族のもとに行きたいなって」

 「僕と家族になってくれ!」

 「無理だよ! こんな世界で」

 「僕が世界を変えてやる! だから僕のところにこい!」

 

 ミュートリナの瞳が揺れている。

 掌から炎を消え膝から崩れ落ちていく。

 すぐに詠唱して治療する。

 走り抱き止める。

 

 「でも、私」

 「君が辛いのも、苦しいのも、悲しいのも、全部僕が受け止める。どれだけ世界が2人を引き裂こうとしても全力で君を守る。

 君のために人生を捧げる。君の一番辛い時に支えてあげる人は他の誰でもない僕でありたい!

 君が好きだから。」

 「ばか」

 「ミュートリナ、」

 

 治療は間に合ったが、流石に限界か。

 意識を手放す。

 ミュートリナは落ちたな。

 いい武器を手に入れた。

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