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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
運命転換編
5/70

入学式



馬車の音。

僕はベットから飛び起き玄関へ向かう。


「ただいま、ハレファス」

「父様、お帰りなさいませ!」


「ハレファス、また大きくなったんじゃないのか」


父様は僕を抱き抱えてそう呟いた。

自分の成長を、なんだか褒められているような気がして、嬉しくってつい。


「もう5歳だから!僕がこの家と家族を守るんだ!」


と宣言した。

それを聞くと父様は嬉しそうに


「これなら安心してワイトラー家を継がせられるな」


と言ってくれた。

嬉しくて嬉しくて、ただただ守りたかった。

そして、僕は父様が大好きだった。


「もう、仕事に戻るのですか?」

「そうだね……また暫くは会えないな」


父様は困った顔をしていた。


それはきっと、今にも僕が泣き出しそうな顔をしていたからだろう。


それを見て、父様は、


「ハレファス、辛くても、悲しくても、男なら黙って押し殺さないと

お爺様に変わって仕事に行く私の代わりに誰が家を守るんだ?

このままじゃ、安心して仕事が出来ない」


僕は泣きそうになりながらも、両拳をぎゅっと握りしめ、歯を食いしばり、大きく上を向いて泣くのを堪えていた。


「よし」


僕の頭に手をそっとおき、ひと撫でして、父様は手を離す。


「それじゃあ、行ってくる。」


「行ってらっしゃい」


確かその日は雨が降っていた。

豪雨だった。

それにも負けないくらいの声で、僕は号泣した。


***


肩をトントンと、叩かれて目が覚める。

どうやら、随分と昔の夢を見ていたらしい。

父と会う、数少ない機会。

昔の僕からすれば、毎日でも帰ってきて、僕の話を聞いて欲しかったんだっけ。

僕にも可愛い時期があったんじゃないか。


なるほど、ミーシャが泣いているとわかったのは、どうやら昔の僕にそっくりだったかららしい。

ミーシャも父とはあまり会っていない。

父親への感情を僕に向けてくれているのかもしれない。

なんというか、歳の近い子供をもつとこんな感じなのかな。


「おはようございます、ハレファス様。

お疲れのところ申し訳ございませんが、学園に到着いたしました。」

「疲れてるのは君だろう? シンヤ。

徹夜でお疲れ様。ありがとう」


そういうとシンヤは感極まった様な顔で感謝を伝えてきた。

彼も大概だ。

馬車を降りる。

水溜まりのない場所に配慮したな。

周りにはあるのに、僕が降りたところには、水溜まりひとつない。

どこまでも気がくばれる、かっこいい男だ。


整備された道。

色とりどりの建物。

日が城の間から登り始める。

来た。

着いたんだ。

帝都カシミ、カシミ学園。


空にはでかでかと虹ができていて、厳かな雰囲気とは少し似合わないが、晴天は僕たちの入学を祝っている様だ。

あれだけ来たくないと思っていた僕ですら、この美しさには惚れ惚れする。

これから7年間、ここで暮らすんだ。


「シンヤ」

「ここに」


「直ぐに戻ろうとしているな? 少し休んでから帰りなさい。」

「……かしこまりました。それがお望みとあらば。」


シンヤは音もなく去っていった。

確か彼、元暗殺部隊の副隊長だったっけ?

確かオカベさんは隊長だった気がする。


そう考えると、暗殺部隊上がりの使用人とか、物騒な家だな、僕の実家は。

まあそれくらい居ないと貴族なんてやってられない。

他の家と比べるわけじゃないけど、やはり暗殺部隊出身は野蛮だな。


さて、僕も早く行かないと遅れてしまう。

周りに合わせて向かうとするか。


***


まあ、そうなるよな。

身分がある以上仕方ないか。


同級生はみんな、僕の家柄にビビって挨拶だけして、他の子達のところに消えて行ってしまう。


話したそうに見ている子もいるし、話しかけてきたらいいのに。

邪険になんてしないぞ。

話しかけられるより、話しかけられない方がよっぽど辛いんだな。

孤独に暮らしていくつもりだったけど、こんなところで心労を抱えるなんて。

想定外だ。


まあ父親譲りの切れ長の目と、母親譲りの白髪、まつ毛も眉も白だと、なんか、うん、変だし怖いよね。

他の子達は金髪や茶髪が多く、白髪は僕くらい。

変な髪色なのは、良識のない人からすれば魔族のように見えるからね。


これから入学式だ。

入学式の座席は指定されている様だ。

当然だけど。

逆に自由席なら喧嘩の種になるだろうし。

どうでもいいことで、人は怒ったりするからね。


僕は左列の最前列の真ん中か。

こうも露骨に爵位で気を使われるのは、あまり気分のいいものでもない。

他の子はどうなのだろう。

家柄なんて、生まれた時から決められているものだから、覆しようのないものだから。


慣れるしかないのか。


僕はまあ、今以上に目立つことはないだろう。

目立つことに変わりないと思うが、今がピークだろう。

母様もそう言っていた。

きっと経験談だろう。


「これより、カシミ学園、入学式を開催します。」


結構しっかりしているな。

立食パーティーのようなものをイメージしていたからな。


「学園長挨拶」

「桜のつぼみが花開く時期になりました」


テンプレート。

まあ聞くか。


「本日、私たちの学園にもこれから才能を開花させるべく、多くのつぼみたちが入学されています」


こういう形式を守りたがるのも、貴族の特徴だな。

確かあのおじさんは候爵家の人だ。

見たことある。


そんなことを考えているあいだも話は進んでいる。

1≠2の証明みたいな話だけど。


「これから7年間、しっかりと学問に励み、偉大なカシミ皇帝陛下や、祖国に繁栄をもたらす一人一人となることを私はここで願います」


やはり、腐っているな。


「以上で私の挨拶とさせていただきます」


その後、割れんばかりの拍手喝采がまき起きた。

感動したような表情だ。


こいつら……頭大丈夫なのか?

同級生とは思えないほど腐った脳をしている。


憂鬱だ。


その後も順調に入学式は進んでいく。

そういえば、先生たちの表情が少し固い。

緊張しているのだろうか。

まあ、公爵なんて、皇族の次に偉い位だ。

僕も皇帝陛下を見かけたら、あんな風に固まるのだろうか。

いや、ないな。想像できない。

せいぜい、尊敬の心から怯んでいるふうを装うくらいだろう。

所詮、同じ人間だし、ビビる相手じゃない。


「最後に、」


まだあるのか?

いい加減、最前列で、しかも起立して礼して着席して拍手するのも嫌なんだけど。

わがまま言いたいのは僕だけじゃないだろう。

皆だって……あれ? そんなことない?

そんなことを考えていると、聞き捨てならない発言が飛び出した。


「新入生代表、答辞」


ちょっと待て、そんなの聞いていないぞ

もちろん僕ならアドリブでも完璧にこなせるだろうが、連絡は必要⋯


「テレスシーナ・カシミ・ヘンペラー様」


は? 僕じゃないのか? 誰だ?


いや、僕がしたい訳じゃないが身分的に後々問題にならないか?


そもそも今なんて言った?


カシミ………ヘンペラー?

皇族!?

嘘だろ!?


同級生に皇族がいるのか?

くそ、計画が!!


「ご紹介に預かりました。

第6代皇帝の娘、第6皇女、テレスシーナ・カシミ・ヘンペラーです。」


すっかり忘れていた。

皇族はこの、カシミ学園入学式まで誕生を隠しているんだった。

盲点だった。


上がいないから挨拶しなくていいと思っていたのに……今のは僕の欲望だが


計画に支障をきたす。

第6皇女………テレスシーナ・カシミ・ヘンペラー

その後の答辞は全く頭に入らなかった。

今後の行動方針や、学園での生活の振る舞い、計画を1から見直さなくちゃいけなかったからだ。


***


入学式が終わり、それぞれの教室に向かう。

教室につくと、既に皇女の周りには人が集まっていた。

僕の時とは偉い違いだ。

この温度差は、やはり雰囲気だろう。

あの柔和な表情。

人を惹きつける振る舞い。

皇族とは思えないほどの物腰の柔らかさ。


対する僕は、鉄面皮。

突き放すような、堂々とした所作。

自他を区別し、足が遠のく要素ばかり。

少し見直すか。


僕はAクラスで28人クラスで、23人。

後5人はまだ来ていないらしい。


にしても、このクラスの担任は可哀想だ。


なんせ皇女と公爵家長男がいる。

生きた心地がしないだろう。

できるだけ気持ちが楽になるよう、トラブルは起こさないようにしよう。

僕が起こすんじゃない、起きないよう、周りを止める役割だ。


辞められても困る……腐った国の腐った学園で辞めるなんて無理か。


仕方ない、皇女に挨拶しておこうか。


僕が皇女の席に向かうと、海が割れるように道が開いた。


「お初にお目にかかります。

私、公爵家長男にして次期当主。

ハレファス・カシミーアス・ワイトラーと申します。以後お見知りおきを。」


こんな物騒なやつとは仲悪くするなんてありえない。

とびきりスマイルで言い放つ。

まあ仲良くするつもりなんて毛頭ないが。

それよりも、早く魔術研究室を見に行きたい。


「こ、こちらこそ初めまして。

テレスシーナ・カシミ・ヘンペラーです………」


なんだこいつ、皇女の癖に男に免疫がないのか?


最近は馬鹿な女にしか合わないな。

皇女は下を向いているが耳まで真っ赤だ。


まあ、初そうだし、好かれたとしてもアタック出来ないだろう。

そんな根性があるようにも見えない。


せいぜいこれからたくさんされる求婚で、免疫つけて僕のことを忘れてもらおう。


「ほら、他に皇女殿下に挨拶していない方は人声かけなさい。」


僕がそういうと、今まで不安そうに眺めていた子達が挨拶に来た。

全く、彼らの親は何を教えているんだ。

皇女が冷酷なら、即刻不敬罪で処刑だぞ。


すれ違うように僕は皇女から離れる。


「はぁ」


自席について少しため息をつく。

まさか皇女が同じ学年にいるなんて。

なんて不幸なんだ。


それにあの白に近い金髪。

青を思わせる紫の瞳。


正妻の娘だろう。


妾の娘ならどれだけましだったか。


本当についてない。


***


担任は伯爵家のいい人そうなおじいちゃん先生だった。

まあ、下手に若手や下位層の人を使えるクラスでは無いしな。


そう考えると、僕と皇女はセットで、このおじいちゃん先生が7年間担任か。


おじいちゃん先生と仲良くしよう。

すごく可愛い。

多分あの人は、脳が腐ってない人だ。


直感だが、そんな感じだ。

僕と同じ、仕方なく合わせている。

私利私欲のために精を出す腐った脳をもつ奴らとは違う人間だ。


「1年間君たちの担任をします、ロイ・アイコウです。

担当科目は実技が剣術、闘術。

座学が戦術論です。」


3科目も。

すごく優秀な方なんだな。

それにアイコウ。どこかで聞いたような名前だ。

どこの、いつだっけ?

僕が聞いたことがあり、かつ覚えていないということは、まだ幼く自我がはっきりしていない。

1歳くらいの時に会ってるのか。

多分、記憶に残ってるくらいなんだから、すごいなんて範疇を超えているかもしれない。


だが、周りはそう思っていないようだ。

まあ、著名な武家は総じて魔術一家だしな。


「今年の新入生は160人でした。

6クラスあります。

例年に比べるとちょこっとだけ多いですね。

本日はお昼から2次入学試験があるので、1組はこのまま闘技場に移動になります。

それじゃあ、ちゃんと着いてきてくださいね」


そう言い、先生は教室を出た。

僕たちも先生について行く。

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