滅波
帝都内乱は終結した。
アルギリン、ヒュース両家は密約が公にされたことにより処刑対象となった。
国家を揺るがす大犯罪であるため当然の処分。
「これも全てハレファス様の想定内の出来事。
まさに華麗なる作戦でした。」
「はあ」
なぜか僕の自室に当たり前のようにいるのはヴァルター・メドロオーク。
彼が今回の作戦にとても関わっていることは言うまでもない。
ただ、当初から彼を起用するつもりなどなかった。
勝手に僕の作戦を理解して、全て先回りされていたのだ。
元々アルギリン家の弱味をオカベたちに探させようとしていたのを、こいつはなぜか察知し僕に渡してきた。
スパイだと思っていたら、今度は吸血鬼を捉えてきた。
これから話す、僕の作戦が全て筒抜けになっているようで心底恐怖したのを覚えている。
*
まず僕は味方にする人間と敵にする人間の選定から始めた。
同じ第二皇子派のドラグボルグ家は却下だ。
我が派閥のが弱体化するのは論外。
次にゴーシュラフ。彼の家は最大戦力となる軍事府をもち、直接戦闘するにはこちら二家だけでは不利すぎる。
よって却下。
アルギリン家は正直五分五分。
情報戦略では向こうに部があるが、知略ではこちらが有利であろう。
一旦保留。
ダイラン家はどっちでもよかった。
原当主があれだから、扱いやすい。
敵であれ味方であれ、大した脅威にはならないだろう。
そして現宰相のヒュース家。
1番の強敵で、ここで潰すかあとで潰すかとても悩む存在だった。
最悪彼と敵対すれば、芋蔓式に皇帝とも敵対する可能性があったからだ。
しかし、ここで彼を倒せれば僕たちが皇帝と近づく機会が訪れる。
よって、強敵でなあるが、ヒュース家は敵として相対することに決めた。
そこで、何かしらの情報を得ることはできないかと考えていた矢先、ヴァルターが密約書を持ってきたのだ。
本当に訳がわからないが、本人曰く、僕のやりたいことがわかる。
力になりたかった。らしい。
そこからアルギリン家も敵にすることに決めた。
密約書の内容的に、アルギリン家もヒュース家を倒せば落ちるなとわかる。
そこ2つを孤立させようと作を講じたのだった。
ここで考えなくてはいけないのは、他家が何を考えているかだ。
まずドラグボルグ家。
カールは頭の切れる男だ。
九分九厘僕を疑っているだろう。
ただ、同時に使えるものなら僕を利用しようともするはず。
読み通り、彼は僕が貴族殺しの犯人なら心強いと言っていた。
そして彼しか知り得ないはずのナキのことを話すと、今度は一転。
ナキを疑い出すことも容易に想像できる。
彼は頭のキレる男。
同じ派閥の人間が同時に攻撃させ合おうとされていたと気づけばどう考えるか。
そしてトドメの吸血鬼討伐だ。
なぜかヴァルターがヒュース家から吸血鬼を捕まえてきたのだ。
そしてその吸血鬼をナキの顔とそっくりに整形する。
討伐された吸血鬼をみて確信したはずだ。
僕は敵ではないと。
そこまで用意されているとも知らずに、だ。
次にゴーシュラフ。
彼がカルノ前宰相を敬愛していたのは知っている。
あの密約書を見せた時点でこちらにはつくと思っていた。
しかし、狙いはそこじゃない。
ゴーシュラフももちろん、ナキから僕を殺せと言われているはず。
だから、敵とぶつからせて、怪我をさせ、助ける。
助けるついでに、呪術で脳に干渉しておいた。
やつを傀儡にする大義名分が得られた。
たまたま強敵と接敵したと思っているか?
実際は全て決まっていたことなんだが。
アルギリン家に一番されたくなかったことは、ヒュース家、あるいは同じ派閥のダイラン家との共闘。
これは徹底的に阻止した。
彼の家がナキの指示通りに動くとは考えられない。
なんせ自分たち以外から与えられた情報など、鵜呑みにする集団ではないからだ。
彼らは情報のプロ。
情報収集に誇りをもっている。
得た情報が真実かどうか精査するまでは動かない。
その結果ナキの思惑通りには動かず、ダイランとヒュースの下には訪れなかった。
ここで重要なのはダイラン家だ。
彼の家の当主は非常に根に持つタイプ。
信じていたナキを逆恨みすることなど簡単に読める。
そこでこちらに抱え込む。
これによりダイランと密約組の共闘を阻止することにはうまく行った。
そしてアルギリンは情報収集に秀でている。
僕とダイランが繋がったと知れば、味方が消去法的に見えてくる。
彼らから見えるのは、ダイランは僕の操り人形で、そのダイランの操り人形に密約組がなるのを阻止しようとしていたナキが本当の神のように映るはず。
そして、ヒュースと関係を強めようとした。
しかし、実際ヒュースは彼らを受け入れなかった。
そもそも僕らに情報を抜かれているヒュース家。
そして、ヒュース家はナキからアルギリンとともにダイランに取り込まれろと指示されていたはず。
しかし、その場にはアルギリンは来ず、結果共闘はできなかった。
ナキはヒュースに敵は僕だと言っていたはず。
なら、僕目線、彼らが共闘するのを嫌がるのは予想できる。
つまり、ヒュースには、アルギリンが僕側であり、ヒュースダイランが協力するのを防ぐために訪れなかったように見えていたのだ。
その結果、ヒュースはアルギリンの申し出を拒否。
ダイランとの繋がりを求めた。
そうすれば、恨みを持っているダイランが、ヒュース側にスパイとして送り込める。
全て、全て計算通り。
どうでもいいが、おそらく皇帝はテレスシーナの婚約は破棄させるだろうな。
もともと彼女を国内の危機から逃がすために取り付けた婚約。
事態が収縮した今、訳のわからんおっさんに嫁がせるのは勿体無い。
これで、ルクシーへの恩返しとしておこう。
彼には、吸血鬼を倒すと言うお願いを聞いてもらったし。
「その通り、実に華麗なる作であります。
本当、惚れ惚れしてしまいます。」
さ、作戦はこんなところか。
ていうか、こいつはさっきからなんなんだ。
「ハレファス様、今回の私の活躍はいかがでしたでしょうか。
あなたのためなら例えどんなことであろうとお供します。」
「あ、ありがとう。
確かに、君には感謝しているよ。」
だが、同時に信用もしていない。
こんな危険な男を常に近くに奥なんてのは考えられない。
そんなことを思うと彼は少ししょんぼりした表情をしてしまった。
「そんな表情しないでほしいな。
本当にヴァルター君には感謝しているんだ。
君の活躍なしには成り立たなかったと思う。」
これは本当だ。
彼がかなり頑張ってくれたおかげでここまで完勝できた。
まあ、僕1人でもなんとかなったと思うが。
それでも、大活躍であったことには変わりない。
突然現れた変な人、くらいの認識から謎の忠臣くらいにクラスチェンジしてもいいかもしれない。
「ぐすっ。ありがとうございます。
私、命をかけてあなたを守り抜きます!」
だが、全然スパイである可能性は高い。
「流石はハレファス様。」
心を読んでくる相手とばかり関わっている気がする。
「そのナキとやらを殺すの、私にも手伝わせてくださいね。」
「君は何を言っているんだい?」
ナキのスパイではなさそうだな。
わざわざ知っていることを言わないだろうし、他のところのスパイの線はある。
そして、心を読まれているのは確定だな。
ならば、今日はもう帰ってくれ。
「了解であります。」
***
、、、
最近はここに来ることがやたらとあるな。
そんなに負けた報告がしたいのかい?
「なによ」
この女、そんな頻繁にあっても考えなんて変わらないぞ。
夢に出てくる回数がだんだんと増えていっている。
能力に慣れてきたと考えるべきか。
毎回呼ばれるのは面倒だ。
何か対策を考えておこう。
「そんなの考える必要ある?
ちょっと話すだけじゃない。」
生憎と、僕は頭の悪い女と話したいとは思わない人種なんだよ。
それも君はとびきりの馬鹿。
「馬鹿馬鹿言うなし」
言われたくないなら夢に出てこなければいいって考えにはならないあたりが馬鹿なんだよ。
仮に出ていたとして、実行していないあたり僕が好きなのかい?
「好きじゃないが?
嫌いだが?」
ならとびきりの馬鹿ってことになるよ?
「なりませんけど?」
ナキはさあ、もっと別の人と残りの余生を楽しもうとか残り少ない人生有意義に使おうとか思わないのかい?
「別に人生残り少なくないです〜。
ハレファスこそ、短い人生絶対実現しない私を殺すために使うなんて無駄なことしてて楽しいの?」
楽しいとは感じたことはないな。
お前を殺すのは僕の中で決めたルールだから。
君を殺すのが僕の一つの目標だ。
理由は、君が嫌いだから。
「はいはい。
私のために貴重な時間たくさん使ってね。」
はあ、そんな言い方すればムカつくとでも思っているのかい?
「いーや?
だって私のこと好きでしょ? ハレファスも。」
やはり、頭の悪い女は嫌いだ。
単純に、不愉快極まりない。
お前だけは僕の手で殺したい。
「私は、ハレファス以外に殺されてもいいな〜。」
君の意見なんかどうでもいいんだよ。
「はいはい。
本当ムカつくやつだわ。
早く死んでくれないかな〜。」
心が読まれているのは僕としては本当にやりずらい。
ストレス値上がりまくりである。
彼女もある意味ストレスが溜まっているだろうに、わざわざこんなことするなんて。
よほど僕が嫌いなようだ。
「ほらほら、やっぱちゃんとわかってんね。」
君は能力がないとわからないらしいがな。
まあ、知能的には仕方ないか。
「ねえ、ハレファスさんや。」
なんだよ。
ナキは少し深く考えたいるような顔をしている。
こいつは脳みそがついているらしいが、初めて機能しているのを見た。
「もし、私と会ったら」
殺す。
「そっか。
なら仕方ないか。」
後ろを向くとしゃがんで何やらぶつぶつと言っている。
相変わらず、何がしたいんだか。
『ーーーーーー』
なんだ?
「ハレファス、あんたに世界最強のぶつける!
私を殺そうとしたことを後悔させてやるんだから。
もしそれが嫌なら、今からでも謝って私とこれから」
断る。
そして、お前は殺す。
「ーー様! ーーーて! ーまーーぐ!」
なんなんだ、さっきから。
「あーあ、外から起こされてるらしい。」
次の瞬間、僕はいつもとは違う戻り方。
天井に吸い込まれるようにして目が覚めるのだった。
***
「目が覚めましたね。ハレファス様。」
「ヴァルターくん?」
目が覚めるとなぜか僕の自室に先ほど帰らせた男がいる。
こいつ、勝手に僕の部屋に入ってきやがったのか。
「本当に時間がないので。
これをつけさせてもらいます。
いいですか、何があっても外しちゃダメです。
バレたら絶対殺されますから。」
そういうと、彼は目につけていたレンズのようなものを僕の目に無理やり入れてきた。
なんだこれ、いや、意外とへんでもない?
「手短に。
なんでかわからないんですけど冥天。
ここでは天神とか名乗ってましたっけ。に攻撃されかけてます。
明らかにやばい魔力を滾らせてこちらに狙いを定めてます。
全力で守りますが、死んだ時はごめんなさい。
命を賭して守ると誓ったのに。」
そういうとなぞの球体に僕を入れ、高速で地下に潜っていく。
「あ〜、あっわあっ、わあー!」
とんでもない速度で削っていく。
瞬間、とてつもないほど眩い光が視界を塞ぐ。
くそ、目が。
すぐに目を閉じたが目の裏には人影が、だんだんと小さくなっていく。
溶けている?
と言うような感じであろうか。
「な、なんなんだ。」
目を開け、驚愕する。
「う、そだろ。」
目の前には僕のいた場所以外の全てが抉られ、吹き飛ばされたとしか思えない景色が広がっていた。
地表は剥き出しになり、ところどころ溶けてマグマになっている。
見渡す限りだと、半円のように見える。
よく考えるとヴァルターの姿もない。
て言うか、なんだ。
視界がおかしい。
何か飛んでくる。
紫? なのか?
の色を纏っている不思議な人?
その人型が僕の目の前に落ちてくる。
そして、訳のわからないことをほざき始めた。
「まじで生きてるんだけど。」