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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
帝都謀略編
46/70

見えない剣先の交わり 



 突然の呼び出しであった。

 私、テレスシーナの下にアンドレアス皇帝からの。

 父からの勅命。

 一体何事であるか。

 皇帝陛下直々に呼び出されたことは今までに一度とない。

 また、直接話したことすらなく、これが事実上私が初めて父と対面することにもなる。


 学校は暫く行けそうにないだろうか。

 とんぼ返りできそうな内容であれば、わざわざ父が呼び出す理由にはなり得ない。

 最悪の場合、宮廷暮らしに戻りそうだ。

 確かに、私は女性であり、あまり男性と違い学が求められるわけではない。

 それこそ貴族家の跡取りでない学生はあまり授業に熱心ではないように感じる。


 実技も、敢えて私たちが前線にでることなどない。

 まさに、見栄のための代物に成り下がっている。


 どんな理由であれ、皇帝陛下のご命令である。

 まだ学園で学びたかったことや、成し遂げたかったこと。根に持ってることもあるが、逆らうことなどできない。

 この地位が、この生活が、誰から与えられているものなのか。

 紛れもなく、それは父の絶大な権力によって成り立っているに過ぎず、私の力や思考などは微塵も関与しない。

 私は、生まれた時から父の所有物なのだから。


 

 ***



 皇帝陛下から呼び出しを受けていた私は現在学んでいることをすべて後に回し、早急に宮廷に向かった。

 ここは私の現在の人生のほとんどを過ごした場所だ。

 またこの閉ざされた世界に戻る。

 かなり億劫ではあるが、しかたない。

 意を決して謁見室の戸を叩く。


 中に入ると待っていたのは2人。

 1人は皇帝、アンドレアス・カシミ・ヘンペラー。

 もう1人は我が実兄、マルス・カシミ・ヘンペラー。

 どちらも護衛なしで会えるような人ではないはずなのだが。

 影武者だろうか。


 「テレスシーナ・カシミ・ヘンペラー、ただいま戻りました。」

 「うむ。」


 父と話した。

 皇帝と、話した。

 緊張で倒れてしまいそうだ。

 今、まっすぐ立てているだろうか。

 足は震えていないだろうか。

 

 「まずは急な呼び出しを受けてくれたことを感謝する。」

 「もったいなきお言葉。」


 目を合わせることなど、とても不躾でできようもない。

 歯が軋む音がする。

 綱渡りをしている気分だ。

 今にも風に吹かれて倒れてしまいそう。

 早く終わってくれ。この無限にも等しい一瞬よ。


 「単刀直入にいこう。テレスシーナよ、そなたの婚姻が決まった。隣国ビュートの国王、セノフォンテ・マーテバラ。」

 「おめでとうテレスシーナ。国王殿と婚姻とは、大変名誉なことである。

 また我が国と彼の国との両国間の吉報でもある。」


 今まで黙っていた兄が何か言っているが何も入ってこなかった。

 婚姻? 私が誰と?

 ビュート王国の国王? 兄より歳上の人よ?

 その人と私が?

 婚姻、いつかは訪れるであろうと思っていた。

 なんせ私は大国、カシミ=エルニワトン帝国、帝国皇女なのだから。


 でも、もっと先のことだと思っていた。

 だって私まだ15歳なんだもん。

 たしかセノフォンテ王って、50代、、、のはず。


 いやだいやだ。

 なんで、私は3倍以上歳の離れた相手と、、、、


 「、、本日は私の嫁ぎ先が決まったことを?」

 「その通りである。」

 「かしこまりました。帝国のために嫁げること、大変嬉しく思います。」


 奥歯を噛み締め、拳を強く握り、そう呟き部屋をあとにする。

 思いっきり頭を振り上げる。

 下げると全て溢れ出してしまいそうだったから。


 ***


 「オーマイガー!!」

  

 いつも騒がしルクシーの野郎が、何倍も騒がしい。

 

 「てめぇ静かにできねぇのか!?

 いつも思ってたがキメェんだよ、てめぇのそう言うところがよ。」

 「ハヴァレアさんは悲しくないんですか?」


 急に気持ち悪い事聞いてくるな。


 「何がだよ!?」

 「テレスシーナ様が結婚しちゃうこと」

 「は、はぁ!?」


 なんの冗談だろうか。

 ルクシーの野郎。また変な事言ってんのか。


 「事実でしょ。」

 「アリシアまで、、

 おい、まじなのか?」


 友人の1人に伺う。

 目線をそらされた。つまり、何か隠しているんだな?

 何を隠しているんだ。


 「何を隠しているだよ!

 おい、話せよ!」


 肩を掴み大きく揺らす。

 

 「ハヴァレアさん、嫌がってますよ!」

 「てめぇは黙ってろ。なあ、嫌がってないよな?」

 「うん」


 ほらみろ。

 ルクシーの野郎、なにかブツブツ言っているが無視だ。

 無視したかったが聞き捨てならない言葉を発した。


 「ルクシー、テレスシーナ様とあんなことやこんなことしたかったー!!

 うわああ、したいしたいしたいしたい!!」

 「てめぇ朝からキメェなまじで。」


 思いっきり殴る。


 「イダァァァァイ」

 

 普段なら誰かが誰かを殴ったとなれば静止が入るのだが、こいつの言ったことが言った事なだけにだれも止めない。

 馬乗りになってボコボコにしてやる。


 「お前、まじて、きもい、んだよ。」

 「いだ、いだ、」

 「しね、しね、しね、しね、」


 「ハヴァレア、その辺にしときな。」

 「アリシア、てめぇはこんなこと言うやつ許すのか?」

 「許す許さないとかじゃなくて、そいつに復讐されるのはダルくない?」


 「チッ」


 確かに、彼の上から離れる。

 ルクシーは泣き出してしまった。

 ほんっっっとうにムカつくやつだな。

 こういう被害者ぶるやつが一番の悪だ。

 自分のことが可哀想で、周りを見ない。

 それでいて周りに見られないことに腹を立て、暴れる。


 「ハレファスに言いつけてやる!

 っえっぐ。ぐすん。」

 「最低っ」


 席に向かうが、なぜ俺は床に倒れている?


 「ハヴァレアくん? どした?」

 

 視界が濁る。

 泣いてるのか?

 

 なぜ?

 だってあれはルクシーがついた嘘で。アリシアは同調してたけど、あいつは悪いやつだから嘘をついてて。

 信じれる仲間は否定してて、違うって。

 

 「なん、で、」

 「なに?」

 「なんで結婚なんかしちまうんだよぉぉぉぉぉ!!!」

 「うわきも、あんたもルクシーと同類じゃん。」

 「ルクシーなんかと一緒にするのはやめろ。」


 なんで、何も言ってくれなかったんだよ。

 俺たちは、お互いを愛していたのに。

 何か相談でもしてくれれば、、、

 

 

 ***



 何も、失敗する要素などなかった。

 しかし、どう言うわけか全て後手に回っている。

 ダイラン殿の話を受ける準備も整えていた。

 彼が本当にアルギリン殿と訪れていたのなら、こんなことにはならなかったのか?

 

 ヒュース家の存亡は我が双肩のみで守れるようなものではない。

 ここは、かの“剣豪″を頼る時か?

 いや、彼に協力を依頼するのは簡単ではない。

 しかし他に誰が現在私とアルギリン殿秘密を持つものを殺せるか。


 彼の協力には真実の開示は必要であろう。

 しかし開示すればまた1人真実を握るものが現れる。

 一体どうすれば。

 今国の仕事などできるものか。

 日に日に積もる仕事。

 金で動かせぬだろうか?

 彼が金に困っているとは思えぬ。

 

 「ヒュース様。」

 「入れ。」

 

 こんな時になんだ。

 私は使用人を部屋に入れる。

 現在は急務中であるため接触を禁じていた。

 その上で訪れたのだ。よっぽどのことが起きたのであろう。


 「報告します。

 地下に捉えていた吸血鬼が、先ほど確認した時にはいませんでした。」

 「なんだと、、、」


 まて、これは好機とみるべきか?

 奴らの手にある条約の中に記された吸血鬼はいない。

 これはその条約が偽物であると裏付けるものとして利用することも可能だ。


 だが、


 「それは脱出されたということか?

 それとも誰かが逃したというのか?」

 「おそらく、逃がされたと思われます。」


 この間の犯行といい、今回の件といい、間違いなく雇っているな。

 盗みを専門とするような、日の光を浴びることのない人間を雇う、極めて反国家的な人間が。

 この状況、間違いなくワイトラー殿が犯人であろう。

 彼が雇っているに違いない。

 その証拠を見つけて彼を潰さなくては。


 「犯人を探す。

 魔力の残滓は残っていたか鑑定したか?」

 「鑑定しましたが、残滓は微小すぎ、正確な鑑定はできませんでした。」


 間違いない。プロの仕業。


 「錠についた指紋や他の痕跡は?」

 「その辺りも周到なようで、何一つ見当たらず、、」

 「チッ、」


 流石にわかった。

 殺人を行って回った犯人は今回侵入した人間。

 それを雇っているハレファス。

 やつが事件の真犯人に違いない。


 「急務である。ワイトラー家に偵察部隊を投入する。」

 「し、しかし。そんなことバレれば」

 「これは大事である。

 この国を引っ掻き回した大罪人を打ち取る時なのだ。」

 「は、はい」


 「ふぅ、」


 ため息をつき、席に着く。

 ナキ様はいった。最初から言っていたのだ。

 ワイトラー殿が悪であると。

 ならば、ナキ様は味方で、裏切り者はアルギリン殿ということか。

 ダイラン殿がアルギリン殿を連れてくれば、必然的に私とアルギリン殿はダイラン殿の傀儡となる。

 つまり、ナキ様の支配下に置かれるということ。

 それを阻止するため、彼は訪れなかった。


 アルギリン家とワイトラー家が結託している。

 そう見て間違いなさそうであるな。

 

 ワイトラー家の情報が全く落ちないことにも合点がいく。

 

 「偵察部隊には、アルギリン家の者とも接触する可能性があると伝えねば。

 その場合は敵であるため、排除せよとも。」


 ***



 どう大々的に宣言するか。

 奴らの悪事を世界に轟かせるか。

 そんなことばかり気にしていた。

 私をやつの見栄のため部下の前で恥をかかせるなど。

 

 アルギリン家に情報発信力で勝ることは不可能。

 現在この問題に頭を抱えていた。

 そんな中、1人の男が私に話を持ちかけてきたのだ。


 「ウェアリア殿。

 それがその証拠とやらなのかね?」


 願ってもないものが飛び込んできた。

 

 「ええ。私はあなたに協力を要請したく。参った次第です。」


 そこには神、ナキ様がおっしゃられていた内容の書面があったのだ。

 こいつだ。こいつがあれば奴らを失脚させられる。


 「なるほど。これはいくら同じ五公とて、見過ごせませんなぁ〜。」


 内心、高笑いしてしまいそうなのをグッと抑える。

 勝った。

 

 「この情報を元にヒュースアルギリン両家に領地捜索をかけるつもりです。

 大掛かりなものになることがよそうされ、我々だけでは、、、

 そこでダイラン公のお力添えを願いたく」

 「もちろん。手伝わせていただきますぞ。

 して、我々と申されましたが。」

 「ええ、ワイトラー公とドラグボルグ公にも協力していただくことになっております。」


 なるほど。

 その両家もとなると、あやつらが助かるのは不可能であろうな。

 これはこれは、つく方を間違えたのではないか?

 最初から私に協力していれば良いものを、だが、後悔してももう遅いぞ。

 私を裏切ったのだからな。

 あのナキとかいう嘘っぱちコキ女め。

 絶対許さぬ。

 もし現実にいるのなら捕まえて性奴隷にでもしてやろう。

 なんせ面がいい。素晴らしいな。

 私を従えようとして、逆に屈服されられるとは。

 気分がいい。


 「ダイラン殿。あなたのようなお方が味方にいれば、完全に悪を滅せよう。」

 「ここは、共闘といきますかな?」


 ああ、今から興奮が止まぬなぁ。

ヒュース閣下、部下の失敗を責めない、いい上司!

これは宰相の器ですね

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