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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
帝都謀略編
44/70

密談



 「ナキ様、私は何をすれば」

 

 俺、ロドリホフ・ダイランは夢に現れた少女を見る。

 なぜ夢に出てきた少女に自分の進むべき道を聞いているか。

 彼女は紛れもない神だ。

 美しき顔、スタイル、髪。

 纏った雰囲気、神々しさ。間違いない、神である。

 きっと彼女は私を神の使いとして見そめられたのだろう。

 そんな彼女から、我が人生最大の敵となる人物を聞かされたのだ。


 「変わることはありませんよ。

 あなたの人生で最大の障害となるのはハレファス・カシミーアス・ワイトラー。

 まだ幼いですが将来あなたの命を奪う者。

 その運命は帝国、ひいては世界の命運を揺るがしかねない。

 あなただけが頼りなのです。」


 きっと彼女のお告げは本当なのだろう。

 やつの父には何度も苦渋を舐めさせられた。

 ヴィルスに何度も刺客を送り続け、諦めかけていた頃、ようやくやつはこの世を去った。

 敵はいない。

 そう思っていた矢先、今度はやつの息子が我が人生の障害となる。

 それに抗うためにもナキ様は私に助言してくださっているのだろう。


 「ジョージ・ヒュースは宰相となるため、前宰相カルノ・イソナ・ゴーシュラフに自分の過失を押し付けています。

 アルギリン家と共謀し帝都臣民に革命を唆したのはジョージ・ヒュースです。

 彼の目的は帝国主義からの脱却。

 当時の彼は帝国を滅ぼすつもりでいたようですが、現在は内部から滅ぼすつもりのようです。

 アルギリン公と共に彼を脅し、世界を救うのです。」


 「その天命、確かに承りました。」

 

 まさか宰相閣下があの事件に関わっていたとは。

 しかしどうにも理解し難い。

 ならばなぜ前宰相は自らの罪を認めていたのだ。

 段々と薄れゆく意識の中私は一つの疑問を持つのだった。


 ***


 「本日はお忙しい中お時間をとっていただき光栄です。アルギリン公」

 「こちらこそ、お呼びいただき光栄です。ワイトラー公。

 して、密談とのことだが。」

 「ええ。この話は決して外部に漏らせぬことなので。」


 神はいった。

 あなた方の握っている、宰相閣下の弱味をダイラン公に教え、彼を脅し、ワイトラー公を失脚させよと。

 彼は本事件の犯人で、患者となった貴族を片っ端から殺していると。

 神の言っていることはおそらく事実だ。

 今目の前で話している少年はおそらく何人も殺してきた男なのだろう。

 ヴィルス殿の頃は簡単に盗めた情報も、ハレファス殿に代替わりされて以降、全くと言っていいほど情報がでなくなった。


 ワイトラー公の治める領地に放っている諜報員とは連絡は取れずじまい。

 どれだけ人を送っても全員消息は断つ。

 我々の知らぬ力をもった、人智を超えた者なのか?

 それなら、この不可解な死亡事件にも納得がいく。

 彼は、おそらく我々五公を始末したのち、第二皇子を皇帝に添えさせ、自らを宰相とした傀儡政権でも樹立しようとしているのだろう。

 それだけは阻止せねば。

 そのためにも、奴の作戦に乗ったフリを徹底するのだ。

 くれぐれも、彼の機嫌を損ねぬように。


 「単刀直入に聞きます。

 ナキと名乗る神に聞き覚えはありませんか?」


 「ナキ?」


 「ありますよね?」


 彼の確信めいた言葉に思わず口を閉じてしまう。

 なんだ? なぜ奴が神のことを知っている。

 神はやつの夢にも現れているのか?

 なぜ? 敵であるやつのもとに?


 「私は先日、ナキという神が夢に出てきました。

 内容は、アルギリン公と共に宰相ヒューズを脅し、真犯人であるドラグボルグ公を始末せよというもの。」


 何を言っているのだ?

 神が現れた? 

 それじゃまるで私たちと同じではないか。

 しかも、犯人は彼ではなく、ドラグボルグ公?

 

 神は、ナキ様はワイトラー公を我々に始末させようとし、ワイトラー公にはドラグボルグ公を始末させようとしているのか?


 ドラグボルグ公は彼と同じ第二皇子、新体制派の人間。

 そんな人間を、仲間を殺すつもりなのか?


 「私としては、ドラグボルグ公が犯人だなんて信じたくはありません。

 しかし、アルギリン公ならご存知でしょう。

 今までの被害者の全てが、ドラグボルグ公の領地の兵士が他所へ合同派遣のあった日時と合わさると。」


 確かに、我が情報府が集めた情報を元に一番犯人に近しい人間はドラグボルグ公だと結論が出ていた。

 彼の私兵が死んだ貴族の領地へ赴いた期間と合わさる。

 しかし、彼らに不穏な動きはなく、逆に犯人ではないと安心していたのを覚えている。


 「実は先日、我が領地の北西部を治める分家の者が殺されました。

 遠い血縁にあたる人物ではありましたが、昔から交流のある方で、本当に犯人には憤っている次第なのです。

 私は彼を手にかけた者を許すことなどできない。

 どうか力を貸してもらえないでしょうか。」


 今まで被害にあった人間に、五公家の人間は誰1人としていなかった。もちろん分家や遠い血縁関係のあるものでも。

 初めて殺されたのがワイトラー家の者。

 鵜呑みするべきか?

 彼が自らの保身のために消したとも考えれる。

 だがしかし、彼の口からナキという言葉が出たのはなぜだ。

 神は我々のことも話しているのか?

 私は何をどうすればいい。


 「ワイトラー公。大事な方を亡くされたこと、私も大変悲しく思う。

 できれば力になってあげたいところではあるが、」

 「いえ、すみません。こんな話をしてしまって。」


 彼を信用することはできない。

 だが、同時に神にも言えること。

 明日のダイラン公とヒューズ閣下との会合、私は参加を見送ることにしよう。

 この場で二勢力と敵対すべきではない。

 今まで通り全ての情報から精査して、最適解を導くまでのことよ。


 ***


 今日、父上、ウェアリア・グン・ゴーシュラフから手紙を頂いた。

 内容は、学友であるハレファスと会談するというもの。

 もしそこで父上になにかあれば、兄上がゴーシュラフ家当主になる。

 お前には補佐を任せたい。

 その時の覚悟をしておけということらしい。

 

 全くもって意味がわからん。

 ハレファスはムカつくやろうだが、それだけのこと。

 父上を殺せるだけの実力があるようには到底思えん。

 帝国軍筆頭騎士にして大将の男。

 そんな男がなよったいハレファスに殺される?

 全く、父上も弱気になっている。

 先の帝都臣民蜂起の際、最前線で戦われたときの古傷が未だ身を蝕み、精神すらもすり減らしているというのか。


 だが、もし仮に父上に何かあったらその時は兄上のサポートは全力で全うしよう。

 

 ***


 息子、ハヴァレアに私の送った手紙は届いているだろうか。

  

 「当主様、ワイトラー公がお見えです。」

 

 どうやらやってきたようだ。

 世間を騒がせる大罪人が。

 何度も何度も考えた。

 彼と相対したときに切り伏せるか。


 「夜分遅くにすみません。ゴーシュラフ公。」

 「こちらこそ、世界各国を飛び回るワイトラー公に時間を設けていただき申し訳ない。」


 神は言った。

 ハレファスは世界の敵であると。

 いずれ世界を滅ぼすと。

 あなたの剣技で切り伏せなさい。

 もちろん、その時あなたは大罪人として歴史に名を残すことになり、ゴーシュラフ家も失脚すると。

 それでも、悲劇を産むことなく、なも無き英雄として天国で報われると。

 

 確かに、それで世界が救われるのならと、考えもした。

 しかし、家と家族を守れぬ男が世界を救えるはずがない。

 私は私のやり方で世界を救う。

 神の意に背くことになるが、やむをえん。


 「ゴーシュラフ公、先の帝都臣民蜂起事件の真犯人をご存知ですか?」

 

 「真犯人? 主犯は我が手で切り伏せたはずだ。

 まさか、私が無関係の人間を殺したと言いたいのか?

 ワイトラー公は、私を愚弄しているのか?」


 あの事件についてはよく覚えている。

 私自ら最前線で臣民と戦い、敬愛する師を手にかけたのだから。


 その師が犯人でなかった?


 なら私は、なんのために


 「ヒュース閣下は無実の前宰相に罪をなすりつけ自らの地位を得ました。

 その時の証拠としてこちらを。」

 

 彼は一つの巻物を私に渡してきた。

 紐を解き文字を読む。


 『ヒュース、アルギリン両家間の密約

 その1、臣民に皇帝への反逆心を植え付ける情報をアルギリン家が流すこと

 その2、宰相カルノ・イソナ・ゴーシュラフをヒュース家で捉えた吸血鬼を用いて眷属にし、傀儡化させること

 その3、1と2が発動され、ジョージ・ヒュースが宰相となった暁には、第一皇子を次期皇帝になるようヒュース家は促さなくてはならい


 またこれら条件が一つでも破棄された場合、両家の了解なく全て破棄されるものとする』


 なんだこれは。

 

 「どこで手に入れた」

 「ヒュース家から盗んで来ました。

 このことはまだ誰にも話していません。ゴーシュラフ殿。あなた以外には。」

 「ぐっ、、、」


 全宰相、我が師であり我が伯父にヒュースアルギリン両家が罪を着せただと?

 信じたくもない情報だ。

 奴らに上手いようにやられたのか?

 それに、この内容は事実なのか?


 全くもって頭で理解できない。


 本当なら、私は、師匠を。無実の師匠を殺したのか?


 「ゴーシュラフ殿の心中お察しします。

 お辛いでしょう。私は今回の事件について調べているさなか、蜂起事件の真相に辿り着きました。

 その書面に使われている印、あなたならわかるでしょう。」

 「ああ」


 最高位の魔術印。条約を破ればその者に死を与える最高法術印。

 国に国どうしの公的な条約で使われるような印だ。


 そんなもの、見た時からわかっていた。

 だが、偽物だと疑いたい自分がいる。

 こんなもの偽装できるわけがない。

 なのに、こんなにも、事実を受け入れられない自分が。

 

 「ワイトラー殿。この書類、こちらで預からせていただけないですかな?」


 「本気ですか? やるんですか?」


 「私の両手は既に臣民の血で汚れてますゆえ、あと数百人程度増えても、変わらぬこと。

 しかし、悲しいものですな。人というものは。

 我が伯父など特に。」

 

 「失礼を承知で、一つ言わせてもらえないでしょうか」


 「聞こうではないか」


 「私には、あなたも悲しい1人に見えてしまいますよ。」


 もしこの悲しき事態が真実なら、師匠は吸血鬼として今も尚生きているということ。

 私は、奴らから師匠を保護しなくてはならない。


 また、こんな情報を握っているワイトラー家とは末恐ろしい。

 間違いなく犯人であると思われるが、敵対するのは愚策だな。

 彼に乗るのが最善策であろう。


 ***


 「今回の一件、私はワイトラー殿、あなたが犯人であると聞いている。

 が、それならば心強い。どんどん政敵を決して行ってはくれないか?」


 今日この時間を設けた男、ハレファス・カシミーアス・ワイトラーに、カール・ドラグボルグは問いかける。

 そう伝えると彼は驚いた表情をした。

 なぜそれを? と言いたい顔ではない。

 何か噛み合っていないのか?


 「ドラグボルグ公。私はあなたが犯人であると聞いていたのですが」

 「なんだと」


 彼の中では私が犯人であったのか?

 私は神、ナキ様にワイトラー公が犯人であると伝えられていた。

 彼は嘘をついているのか?


 「私はナキと名乗る神に夢でお告げを受けました。

 今帝国を騒がせている殺人犯の正体はドラグボルグ公であると。

 それを悟られぬよう他の五公と協力し、始末せよと。」


 その内容は、私が神から受けたお告げと全く同じ内容だった。

 私とワイトラー公という違いはあるが、互いが互いを殺し合わせようとしていたことに変わりはない。

 

 私は今回の一件、彼に近づく素振りを見せ、安心させ背中を見せたところを殺すつもりでいた。

 同じ第二皇子を支持する新体制派の人間ではあるが、力関係でいえばこちらが下であることは否めない。

 彼を消し、我が家を筆頭とした組織にするつもりだった。


 しかしどうだ? 今の状況を鑑みるに神が我々を潰し合わせようとしているようにしか見えない。

 そもそも両方に干渉しているということはどちらかの益のためというわけではなさそうだ。

 自分の目的のために私を、ドラグボルグ家を利用しているように感じる。


 「私はドラグボルグ公のよき仲間でありたい。

 もし神の話が事実でも共犯者になろうとしていました。

 だが、事実は違った。

 神を名乗った者は、間違いなく悪魔だ。

 我々を好き勝手誘導し、自滅を狙っているのは自明です。」

 「その通りであるな。

 今回の一件、私は新体制派の弱体化を狙った他家の幻術による攻撃ではないかと私は考えたのだがどうだろうか。」


 魔国には、我々の知り得ないような術もあるという。

 カシミ学園で一時期流れた噂に、ゴーシュラフ殿のご子息が幻術により操られ、ハレファス殿を攻撃したというものがあった。

 所詮は噂と気にしてはいなかったが、現在の状況に当てはめてみれば全くありえない話ではなさそう。


 「その可能性は全然あり得ますね。

 だとすると我々のすべきことは」

 「真犯人を見つけ出す。そのために必要な証拠を見つけることですな。」


 ***


 ここはどこだ。私、ジョージ・ヒュースは寝室で眠っていたはず。


 「初めまして。私は神、ナキと言います。」

 「神?」


 どうやら、ここは夢の中の話のようだ。

 ここまで意識がはっきりとした夢は初めてである。

 それにしても美しい。あまりに浮世離れしている姿に年甲斐もなく見惚れてしまう。


 「ジョージ・ヒュース。あなたは窮地に立たされています。」

 「ど、どういうことですか」


 今帝国を騒がせている殺人鬼に狙われているとか?

 はたまた別の者に?


 「あなたは今、アルギリン家と結んだ条約を記した書面が盗まれました。

 犯人はワイトラー家です。」

 「なんだって!!」


 まさか、そんなまさかだ。

 書面(あれ)がそんな簡単に盗まれたというのか?

 まずい、一刻を争う事態だ。


 「それは誠か!」

 「間違いありません。」


 そんなことがバレれば、私は、我がヒュース家は。

 赤子でもわかる最悪の事態。

 やっとの思いで掴んだ宰相の座。

 あの書面が他家に流れたとあれば失脚は免れない。

 いや、それどころではない。

 一族が滅びる。


 「あなたには、一つの助かる道がある。」

 「なんですと」


 なんなんだ。どうすれば助かれる。

 私はそのことだけを考えていた。

 

 「数日すれば、ダイラン公とアルギリン公があなたの弱味につけ込んで脅しをかけてきます。

 あなたはそれに乗り、彼らと共に共謀し、ワイトラー家から書面を奪い返すのです。」


 「何を言うか。もしそれが本当なら、アルギリン公がダイラン公に我々の密約を話たというのか!」

 「その通りです。」


 そんな、アルギリン公だってバレればただでは済まない。

 確かにあの両家は同じ第一皇子を支持する伝統派。

 だからと言って弱味を見せるなんて。あり得るのか?

 だが、今はそんなこと言ってられん。


 「わかった。それしか道がないと言うのであれば」


 目が覚め、私はすぐに書面が盗まれているか確認した。

 隠していた場所に書面はなく、神の言っていたことは本当だった。


 六家の思惑のまとめ


 ・ゴーシュラフ家

 ウェアリアの師匠であるカルノの敵であるアルギリン、ヒュース家の人間を始末するため、書面の片割れであるアルギリン家からも書面を回収する

 

 ・ダイラン家

 ヒュースアルギリン両家と協力しワイトラー家の失脚を目指す

 両家の弱味を握り自らの地位を盤石なものにする

 ハレファスを犯人にする


 ・アルギリン家

 神の狙いを明らかにする

 事件の真犯人を見つける


 ・ドラグボルグ家

 他家の犯人としての証拠(ナキの存在)をみつけ、新体制派を強力なものにする

 ワイトラー家の弱体化を目指す


 ・ヒュース家

 盗まれた書面を奪い返す

 情報を握っているダイラン公ワイトラー公を始末する

 

 ・ワイトラー家

 真犯人であるとバレないようにする

 別の人間を犯人に仕立て上げる

 

 

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