ヤバい奴、襲来
「今日は急ではありますが、臨時教師兼転入生が来られます。」
珍しく学校側から登校してこいと言われたので行ってみると何やら非日常的なことが起きようとしていた。
ここは貴族の学校だぞ?
そんなポンポン人を入れていいのか?
100歩譲って臨時教師は許せる。
でも生徒となると話は変わってくるぞ。
しかもその両方を併せ持つ存在。
その存在を紹介するためだけに登校を迫られたのか? 僕は。
「どうぞ、入ってきてください。」
先生に誘導されて入ってきたのは、ブロンド色の髪に細身の男だった。
特徴として瞳孔に光がなく、気味の悪さが目立つ。
そんな印象だ。
背も僕と大差ない。
「こんにちは!
メリーバ神聖法王国から来ました。
ルクシー・アクィナスです! よろしくお願いします!」
見た目に反して明るい人なのか?
でもちょっとねっとりした声で気持ち悪さはあるが。
「これからこのカシミ学園で生徒として皆さんと仲良くしたり、教師として魔術やら座学やらを教えていきます!
ルクシーって気軽に呼んでください!
よーし、レッツゴー!!」
天高々に手を振り上げる。
当然、全員頭の中?なのだが。
飛ばし過ぎじゃないか?
そーいうキャラとしてやってくつもりだったんだろうが、滑ったみたいだな。
まあ、慣れないことはするもんじゃないよ。
「ルクシーさん、これからよろしくお願いします。」
「はい!」
「それでは、学園についての案内を。ハレファス君。テレスシーナさん。任せましたよ。」
そのために呼びつけたのか。
「はい、任せてください。」
*
「ルクシーさんはこの国にくる前は何をされていたんですか?」
「お、テレスシーナさん。
ルクシーについて気になっちゃいますか?」
「え? あ、はい。」
「ルクシーはね、メリーバでも教師やってたんですよ。
その実力を買われて雇われたんです!」
「まだ私共と同じ歳なのに素晴らしいですね。」
「うへへへへ。」
3人で校内を回っている。
さっきからあの調子で、非常に気持ち悪いのだが、テレスシーナは大丈夫なのか?
ルクシーさんは下心が透けてて見ててヒヤヒヤする。
僕は彼女が皇族だと言うことは伝えてある。
くれぐれも無礼のないようにとも言っている。
その上であの態度なのだ。
「魔術や座学を教えていただくとお聞きしましたが、」
「そーなんですよ!
ルクシーは昔から毎日勉強漬けで、史上最年少の大司教なんです。」
「そ、そうだったんですね。とても尊敬します、、」
「ルクシーさん、ここが大魔術広場と言って」
「テレスシーナさん、そんな褒めても何もでませんよ〜」
「あ、はは〜」
ふざけてると思うが、ずっとこんな感じなんだ。
僕いるかな。
一応任されたし、ほっぽり出すわけにはいかないんだけども。
なんとなく彼は、目の前に甘いものが垂らされると極度に視野が狭くなるタイプなのかも。
僕のこと蔑ろにしてるわけではない、、、と思いたい。
「ルクシーさん、ハレファス様もいらっしゃいますし」
「あ、ここはどこですか?」
説明しようとしたんだけどな。
「ここは大魔術広場と言って、実技の授業はここでするんです。」
「へー、あんま広くないですね。」
なんだこいつ。
「テレスシーナさん。
ルクシーお腹空いてきたんでご飯食べたいです!」
「し、食堂に案内しますよ。」
*
食堂についたはいいものの、まだ昼休み前。
何か食べれるものができてるわけもなく、空回りに終わりそうだ。
「おや、これはこれはテレスシーナ様。」
「テレスシーナさん、あの人たちは誰ですか?」
「この食堂で働いていらっしゃるシェフの皆さんです。」
「あ! はいはい!
ルクシー、シチューが食べたいです!」
シェフの皆さんは誰それ?
って顔で僕をみる。
僕だって知らないさ。
「本日教師と生徒として転入されたルクシー・アクィナス様です。
15という若さで大司教にまで上り詰めた秀才でもあります。」
「大司教?」
その反応でも無理ない。
この国ではそこまで宗教が根強く広まっていない。
「役員のようなものです。」
「こ、これは失礼致しました!
すぐに用意してまいります!」
「あ、」
そういうなり、ダッシュで厨房に向かっていった。
「んー、これお肉固くない?」
作ってもらってるものに文句言うなよ。
社会性とか持ち合わせていないのだろうか。
「メリーバで取れる肉より粗悪なのかも知れませんね」
おい、テレスシーナにそんなこと言わせんなよ。
こいつ、首刎ねられるぞ。
「ルクシー殿。あまりに不躾ではないか?」
「大丈夫ですよ。ハレファス様。」
「ん?」
テレスシーナがそう言うなら、僕は口だしできないのだが。
しかし許して良いのか? つけあがるぞこいつ。
「テレスシーナ様。
あとは僕に任せて、教室に戻りましょう。」
「ハレファス様、、、」
「えー、ルクシーテレスシーナさんと回りたい。」
食べるか喋るかどっちかにしろ。
テレスシーナを教室に帰らせる。
「ルクシーさん、少しお時間よろしいですか?」
「もちろん!」
*
「ルクシーさん、メリーバではどうだったかは存じ上げませんがカシミ帝国であのような無礼な行為はやめていただきたい。
テレスシーナ様はこの国の姫様。
このまま態度を改めないのであればそのうち打首になりますよ?」
「ウチ、クビになるの?」
「打首ね」
「ああぁ打首ね。
そんなのわかってますよ!
ルクシーはね、教皇の懐刀と呼ばれた凄腕魔術士なんですよぉ〜」
は?
何言ってんだこいつ。
話聞いてるのか。
「あ、でも剣が使えるわけではないですよ!
そーいうのは習ってないんで。」
「あ、はい」
そんなこと聞いてないんだけど。
話が飛ぶなぁ。
個人の中で連想ゲームが行われて、それが僕にも行われている前提で話しているな?
先天的な病気だろこいつ。
「ルクシーさんがすごい魔術士というのはわかりました。
そんなすごい魔術士さんはこだわりが強い傾向にあるんですよね。」
「あ! わかっちゃいますかぁ〜。
ルクシーね、これ写本しといてとか言われると文字の癖とか位置とかもこだわっちゃうですよね〜。
そのせいでよく苦労したんですよ〜。」
周りがね。
「おいルクシーまだ写本してるのか!
これ全部できてるだろ!
って言われるんですけど、微妙な位置の違いとか適当にするのは許せないんですよ!
だから、枢機卿はこんな雑な人なんですね!
ってよく揉めました〜。」
もう確定だと思うが、メリーバは問題児を押し付けたな。
若くして大司教まで上り詰める腕は確かだが、それ以外がまるでダメだ。
人材流出ではあるがそれ以上に問題点が多すぎる。
金を積まれた、あるいは他の理由。
その両方とも考えられる。
「急で申し訳ないのですが、今日は授業に戻りましょうか」
「えー、このあと魔術の腕を披露して、そのあとみんなの腕もチェックしてから教育していくところをまとめ上げる予定だったから困りますよ!」
「すいませんね。他の日にってことは」
「嫌ですよ!」
だろうね。急な予定変更も嫌うよな。
「確かに、予定にないことをするのは先生方にも迷惑かも知れませんね。
忘れてください。」
「いや、忘れることなんてできませんよ〜。
ハレファスさんは変なこと言いますね。」
お前だよ変なのは。
釘刺しといたほうがいいよな。
理解のない人からしたらヤバい奴でしかないし。
「ルクシーさん。これから学校で困ったことがあったり気になることがあれば僕に言うようにしてください。
くれぐれも、他の人と関わってわいけませんよ。」
「えー、でも教皇様は」
「いいですね。」
「あーもうわかったわかったってば。
ハレファスさんは仕方ない人ですね〜。」
ホッと胸を撫で下ろす。
はじめに関わるのが僕でよかった。
釘刺しとかないとトラブル起こすだろうし。
僕の前だからなんとかなったが、これから僕が学校にいない時はどうしたものか。
テレスシーナに色々説明して相手させるか?
いや、彼女も年頃の女の子だ。
普通に病む。こんな化け物相手にしてたら。
悪意がないのも厄介なところだし。
僕の心配をよそに、呑気な顔で建物を回っているこいつを見ているとふつふつと怒りが湧いてくる。
くれぐれも問題を起こしてくれるなよ。
「ルクシーさん。そろそろ他のところにも行ってみませんか。」
「おぉー。いいですよ。
レッツゴー!!!」
***
「どっと疲れた気がする」
いつか犯罪とか起こしそうなやつと一日中一緒にいるのはよくないな。
何度も肝を冷やしてはフォローして。
ともかく、僕が監視しているうちに何も問題が起きなくてよかった。
まあ問題ではあるが、検挙されてないしセーフだろ。
「見つけた」
今日はもう何もしたくない。
ナキの刺客を屠る予定だったが変更だ。
今日は寝る。
明日でもいいしね。
「神よ! どうか待たれよ!」
さっきからなんだ。
僕は疲れているんだ。
あまり騒がしくしてほしくないのだが。
「神! 待ってくださいよぉぉ!!」
「な、なんなんだ」
後ろから抱きつかれる。
「神ぃ! あなただけの配下、ベアリアはあなた様に再会できたこと。
心より幸せを感じております!!!!」
「は、」
なんだこいつ。
ベアリア? 今日は変なやつによく絡まれるな。
ルクシーだけでお腹いっぱいだよ。
「すいません。今日は疲れていて、また後日でもいいかな。」
「そうでしたか、それならお荷物お持ちします。」
「いえいえ、知らぬお方にそんなことはできません」
「え」
えはこっちだよ。
ふざけたことばかりしやがって。
「失礼。神、、、ハレファス様は何も覚えていらっしゃられないのか?」
「おそらく、、あなた様の考えているようなことは何も知らないかと、、、」
しばしの沈黙が訪れる。
帰り道に変なやつに絡まれて、迷惑しているんだ。
これ以上増えたりしないでくれよ。頼むから。
「そんな。」
そう言われても。
「そうでしたか。なら今すぐに私の部屋に来てもらいます。」
「いや、今日は疲れていて」
「そうも言ってられません。」
彼はそう告げると僕を担ぎ上げて走り出した。
僕より小柄で間違いなく年下なのに、すごい力だな。
てか、誘拐されてね?