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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
***村動乱編
35/70

それぞれの目的



 数日、獣霊気法と向き合う中でユアの説明がどれだけ酷いものだったのかと思い知らされていた。

 何がハアアアアアだ。

 御伽話の魔王様でも技を打つ時叫ばないぞ!

 

 獣霊気は自然のままの状態に近ければ近いほど良いらしい。

 肉や野菜も調理しない方が、獣霊気を練るのには都合が良く、僕も生のまま食べている。

 食の質が下がっている。

 少し不満が溜まってる。

 昔生ものを食べた時は腹を壊したのに、今は全然そんなことない。

 体の作りも変化したというのか?

 

 練った獣霊気を全身に送る、イメージはできる。

 が、実際にこれだ! という実感は一度としてなく、ユアも僕が獣霊気を全身に行き渡らせているところはみたことがないという。

 時間は限られている。 早く習得しなくては。


 「ユアはどうやって獣霊気を全身に送っているの?」

 「ハアアアアアじゃ。ハアアアアア。」

 「な、なるほど。」


 何度聞いても無駄だよな。

 

 「シュラハ、腹減った。」

 「狩にでも行こうか。すぐそこにシルフウルフの子供が1人でいる。

 殺そう。」

 「自然を感じれておるようじゃな。」


 獣霊気法を身につけるにあたり、へんな感覚も身についてしまった。

 空気や大地を介して相手を把握する。

 視界で認識していたものを空間で認識する、みたいな。

 

 「どうやら群れから逸れてろくな飯にありつけていないようじゃな。」

 「だね、過食部は少なそう。」


 2人で向かう。

 ユアがわざわざ狩についてくることは珍しいが、特に気にすることでもないか。

 最初は驚いたが、今ではわかる。

 本当にお腹が空いていて、早く食べたいのだろう。

 奪い合いになったらやだな。


 *


 「妾に肉を寄越せ!」

 「やだよ! 僕にも食わせろよ」


 なぜ僕たちは争わなくてはならない。

 定めなのか?

 いや、ユアがちょっと譲歩すればいいだけの話だ。

 

 狩自体は本当に筒がなく終わった。

 僕が腹を空かせてるシルフウルフの前にでて、無心に走るシルフウルフをユアが殺す。

 首根っこを捕まえて、そのまま締める。

 本当に恐ろしいと思う。

 今まではただのバカ力だと思っていたユアの力も、今なら獣霊気によるものだとわかる。

 だからこそ、より恐ろしいもののように感じる。

 僕が練るだけでも一苦労なものを、まるで血液のように流し、服みたいに纏っているのだから。


 「シュラハ、殺したの妾だぞ!」

 「僕1人でも殺せてたってば!」

 「臓物でもくってろ!」

 「肉食わせてよ!」


 ユアが持っていた肉を奪うのを諦め、無理やりかぶりつく。

 するとユアから怒りの鉄槌が下された。

 なんでだよ


 「なに!」

 「今度はなんだよ、、」

 「お主、獣霊気を全身に送れたのか?」

 「いや、知らないけど。」

 「あ、もしや!」


 そう言われて体の感覚を確かめる。

 確かに、指先まで獣霊気が感じられる。

 特にユアに殴られた頬なんかは特に感じる。

 

 「って、うわ!

 なんなんだよこれ!」


 全身に緑の模様が浮かび上がっている。

 染料で塗ったみたいな。

 

 「気持ち悪い、、なんなんだよマジで。」

 「それは獣霊気が全身に送れている証拠じゃ。

 もぐもぐ、、」

 「そうなの?」

 「ああ、妾も昔獣霊気法を身につけてすぐの時に浮かび上がっておった。」


 そういうことなのか?

 つくづく意味のわからない力だ。

 ていうかそんなことはもっと早くいえよ!

 

 「最初は獣霊気が流れる感覚に慣れろって、師匠に無理やり流されたもんじゃのー」

 「え、」

 「なんじゃ?」

 「え、今なんて言ったの?」

 「なんじゃ、って」

 「その前」

 「獣霊気を全身に流されたんじゃよ、師匠に」


 「はぁ」


 なんでそんなことを言わないでいるんだ。

 ユアという人はつくづくどうかしている。

 本当に、本気なんだなって、改めて理解した。

 この子はやばい。


 「ユア、美味しい肉はユアにあげるから獣霊気を僕に流してくれないか?」

 「肉をくれるのか!?」

 「獣霊気を流してくれたらね」

 「するする!!」


 どこまでも正直な人だ。

 これからはちゃんとモノで釣ろう。

 驚かないようにしよう。


 *


 獣類気を乗せた拳をぶつけることで一定時間相手に流すことができる。

 体で覚えるやり方は師匠譲りらしく、これをしなくては話にならないそう。

 まずは体内を流れる獣霊気を感じ、少しずつ自分で練った獣霊気も流すようにしていく。

 感覚を掴まなくては、流れるものも流れない。


 引き戸を永遠に押していても意味がない。

 一度押して開いてからなら、流せるようになるといった感じだろう。

 なら始めて獣霊気法を身につけた人はどうやって開いたんだろう?

 最初から開いていたとか?

 それとも力技で?


 「ユア、もうちょい加減ってものを」

 「打撃が強ければ強いほど一度流せる量が多いんじゃ

 そうすれば妾の仕事が減る

 貴様が我慢すればええじゃろ」

 「ぐぬぬ、、、

 そういえば、ユアが獣霊気を全身に流してる時に緑の紋様が浮き出ているのを見たことがないけど、どうしてなの?」

 「あー、それは知らん」

 

 だろーね。何も知らないもんね。

 自分のこととか、使ってる技術とかは理解していてくれよ少しは。

 本当に座学とかは絶望的なんだろうな。

 感覚派通り越して天才肌だ。

 

 「なんとなく感覚はつかめてきたかな」

 「あれだけ殴られればな」


 全身を見る。

 青アザだらけだ。

 そのおかげか、指先を動かしたり、歩いたりできるようになった。

 殴ったり走ったりするとすぐに霧散してしまうが大きな進歩だろう。

 

 「どうかしたか?」

 「いや、時間がないんだ。もう本当に間に合うのかどうか」

 「驚異的な成長じゃ。

 あまり言いたくはないが、無理しているな?」

 「心配してくれてるの? 

 優しいね、ユアは。」

 「つけあがるでない。

 単純に、らしくないと思うだけじゃ。」

 「ユアが言う?」

 「うるさい」


 実際無理はしている。

 時間を作って獣霊気法を身につけることに使う。

 少し休むか? いや、そんな悠長できる場面ではない。

 人が1人死ぬんだぞ?

 お前が気張らなくてどうする。

 

 「村の様子を見てくる。」

 「そか、」

 「幸い今日は月が雲に隠れてる。

 遠くから見るだけだからバレることはないよ。」

 「時間はかけるんじゃないぞ」

 「ああ」


 ***


 「あの2人組、見つけたらとっちめてやる!」

 「特に女の方。俺たちのことを舐めやがって。

 ろくに働きもしないでなんなんだってんだ。」


 村の近くでたいまつをもった2人組を見つける。

 近辺の様子を見にくるつもりだったけど相当固められているな。

 彼らとの距離は15メートル程。

 正直、素人に気づかれるとは思わないが近付くのはやめよう。

 

 村に近づくほど警備の人数も増していく。

 見た感じ多いとは感じられないが、全員まとめて相手にするのは厳しいだろう。

 アルジュニアスさんだっている。

 数でも実力でも不利。

 奇襲くらいしか目的遂行は難しいな。

 

 村の中は流石に静かだった。

 祭りの準備も進んでいる。

 が、幸いまだあと数日で始まるという感じでもなさそうだ。

 猶予は少なく見積もっても5日。多くて8日くらいか。

 

 「羽はどうするつもりだ?

 冒険者の男を使うつもりじゃったのににげられたぞ!」

 

 ―――なんの話だ。


 「それだけではない!

 奴ら、ワシらを国へ告げるぞ。」

 「なんとしてでも阻止しなくては。」


 どうやら、密談のようだ。

 僕らが逃げ出したことで目的が狂ったのか。

 羽ってのも、話からして生贄のことだろう。

 白羽の矢が立つみたいな。


 「それよりも今は羽を誰にするかの方が先じゃ!」

 「であるな。しかし、どうしたものか。」


 「アルの弟を羽にしよう」


 ―――あの声、リリガさんか?


 「それは現実的ではないと何度も言っておるじゃろ!

 リリガ、もっと」

 「なら他に誰を羽に当てる!

 アルを羽にするなら我々の生活にガタがくるぞ。」

 「だからといって、もしゾイの方を羽にしたらアルが黙っとらん!」


 ―――ゾイってのは、アルジュニアスさんの弟だろう。弟いたんだ。

 まてよ、生贄がいるのは確定したけど、1人じゃないのか?

 

 「仮にゾイを羽にして、アルになんて説明するんじゃ。

 暴れられてはどうしようもないぞ。」

 「アルには黙っておくしかないな。

 当日も村から一番離れたところを警備に当てよう。」

 「そう事が上手く運ぶか?

 ただでさえ災難続きだと言うのに。」

 「言を垂れてる場合か!

 やらねばならん。それだけだ。」


 ―――生贄にするのは子供や若者である方がいいのだろうか。

 ゾイさん以外に候補が出ないあたり、本当に子供がいないのだろう。


 その後の話に耳を傾けていてもあまり意味はなさそうだと判断し、最後に少女の様子だけでも確認して帰ることにした。

 

 司祭家に音を立てずに入る。

 きっと祭り当日も使われるのだろう。

 立派な装飾なことだ。

 

 絵画や被り物、変な棒とか、見たことないものだらけだ。

 全部祭りで使うのだろう。

 そんなことを思いながら地下室の扉を開く。

 

 「っ!」


 中に人がいる。

 いや、少女がいるのは知ってるが、リディアがいるのは聞いてない!


 「あ、あなたは」

 「くそ、」


 やるしかないのか? でもうだうだ言ってられる状況でもない。

 殺すのか? それとも気絶だけさせる?

 それなら後々来ていた事がバレて少女救出が困難になる。

 殺しても同じ。

 くそ、取り敢えず取り押さえて


 「あの、シュラハさん。

 私は、その」


 考えろ、取り敢えず叫ばれたら詰みみたいなもの。

 相手は会話を求めている、、、ように見える。

 叫べば殺されるとでも思ってるのか?

 いや、僕でもそう思う。

 てか叫ばれたらどちらにしろ殺すか気絶させるし。


 「落ち着いて、僕は君と」


 そこで口を止める。

 なんて言っても仕方ないだろう。

 ここは彼女に委ねるしかない、、よな。


 「あ、あ、あの、私は」

 「うん」

 「私は、シュラハさんたちのことをつかまえるとかはしないので

 あの、殺さないで、、、」


 ―――怯えている。演技か? 流石に疑いすぎか?

 信じたフリをするべきか? それとも正直に信じられないというべきか?


 「えっと、信じられないですよね。

 アルと戦ったって聞いて、その、私たちのこと恨んでますよね。」

 「、、、」


 ―――どうする、少しずつ間合いを詰めているが、流石に気付いてるよな。

 取り敢えず扉は閉めよう。


 「ごめん、暗いけど我慢して」

 「はい、シュラハさんが来るまでこんな感じでしたので」


 もしリディアの言っている事が本当なら理由が気になる。

 助けてもらったことに恩を感じているのか?

 でもそれだけで?

 相当のお人よしとかか?


 「シュラハさん、って、きゃっ」

 「動くな。そして喋るな。殺すぞ。」


 「っ!っ!っ!」


 ウンウン、と頷いている。

 暗闇の中音もなく近づいてきて後ろから組み伏せられたら怖いだろう。

 半泣きだ、すごい可哀想。罪悪感が。


 「質問にだけ答えろ。いいな?」

 「っ!」

 「祭りは何日後だ?

 5日後か?」

 「っっ!」


 ブンブンと首を振っている。違うのか。

 

 「6日後か?」

 「っっ!」

 「7日後か?」

 「っ!」

 「そうか。ならなぜ僕のことを捕まえないと言い切れる。

 恩でも感じているのか?」

 

 リディアは答えない。

 

 「答えろ。でなきゃ殺す。」

 「っっ!」


 違う、じゃあどうしてだ。

 

 「YES、NOで答えられる質問だけにしたかったんだけど。

 発言を許す、答えてみろ。」

 「いや、えっと、あの」

 

 少し脅しすぎたか。

 ごめん! 本当にごめん!!


 「わかってるのか?」

 「は、恥ずかしいです!」

 「はぁ?」

 「あ、いや、お父様たちのやってる事が認めれなくて! だから!」


 ―――誤魔化したな。まあ多分捕まえない理由ではないだろうけど、この状態で嘘をつけるとも思えない。

 おそらく納得できていないのは本当だろう。

 

 「生贄のことか?」

 「っ!」


 それをどう結びつけて僕を捕まえないとなる!

 なんて詰め方しても仕方ない。

 

 「ひとまず信じるよ」


 彼女を解放する。

 改めてみると本当に申し訳ない。

 が、ここで安心させて感情が込み上げてきて号泣されるのは避けなくては。

 大きな目に大粒の涙を浮かべながら、服をギュッと掴んで必死で泣くのを堪えてる。

 胸が痛いよ。


 「なぜここにいたとか色々聞きたいけど、あまり時間もないしね。

 今日のことは誰にも話すな。

 それだけ守れ。」

 「っ!」

 

 そう伝えると急いで場を去る。

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