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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
超加速度的変化編
30/70



シュラハたちが農場から逃げ出した翌日、ゾクド本国からデッサグラン地域の統治を任されたラインマーク・ビザトゥエがやってきた。


彼は正義感が強すぎるがあまり、貴族たちから反感を買い、遠く後へと左遷されたのだ。

徹底的に悪を許さず、弱者をいたぶるような真似をすればその場で首を跳ねる。

元々騎士志願者だった剣の実力は折り紙つき。

騎士になれなかったのもその性格ゆえ、多くの貴族を敵に回したからだ。


今回も有力な貴族の不倫を密告し、その報復を受けてしまった。

本人はこんな理不尽慣れっこで、最初からこうなることは予想していた。

と言うよりも、元々異国の地に興味があり、異国で自身の剣の研鑽を積みたいと思っていた。

計算ないの出来事なのだ。


そんな彼が赴任先で最初に目をしたのは予想を何倍も超えた光景。

耕し本国に送る薬草畑が焼け野原とかしていた。

直ぐに責任者を呼び出し原因を聞くと、昨日の夜火事があったと。

逃げ出した子供がいたため、犯人はその子でまだ見付かっていないと。


確かに犯人も大切だが、ラインマークが聞きたいのはそんなことでは無い。


「警備が強姦していて誰も居なかった!?」

「申し訳ありません!!」

「全員が仕事に従事していればこんなことには……それに、幼い少女たちを襲ってあたなど」


警備はザルだった。

奴隷には対抗心など芽生えていないと思っていた。

まさか火事を起こしてそのまま逃げるなんて、いくらやり口の汚い魔族でもしないと思った。


出るは出るは言い訳のオンパレード。


昨夜の警備を集め、その場で首を跳ね飛ばす。

と、同時に今後少女を襲おうものならこいつらのように首を跳ねると釘を刺した。


それにつけ加え、魔族のものたちには土下座で謝罪した。

地に額を擦り付け、何度も部下の非礼をわびた。

しかしそんなことを子供たちが信じるわけない。

ラインマークも理解している。

だから、その日から農場での待遇改革が行われた。


初めに彼らの生活環境を改善した。

劣悪な塒を取り壊し、ゾクドの建築技術をもって新たに家を建てた。

食事も1日1色から3食に増やした。

志願するなら菓子も分け与えた。

衛生面や医療面でも支援した。

怪我や風邪が見つかり次第医者に診てもらうようにした。


次に労働環境を改善した。

4日に1日完全休暇を与えるようにした。

給与も与えるようにした。しかしゾクドは許さないだろうとラインマークは考え、自腹を切る事にした。

1日の労働時間を半分にし、手伝える時は兵士たちにも手伝わせた。


インフラ施設も作った。

学校や病院、兵舎や港。道路まで。

さすがに上下水道施設は作れなかったが、ある程度の生活水準を上げることに成功した。

これらを僅か一ヶ月でやり遂げたラインマークに、子供たちは少しづつ心を開き、今では共に食事を囲む中にまで発展している。


彼がデッサグランに赴任するのが1日早ければ、またシュラハたちが逃亡するのが1日でも遅ければ、未来は変わっていただろう。


***


シュラハがヴィルムスの街を出たすぐ後、2人を捜索する部隊が天使の遣いを見つけた。

ケゲラットもその報告を受け、直ぐさま軍を引き連れ攻勢に出た。

流石は正規軍だということもあり、天使の遣いは壊滅。

彼らの荷物からはフィーラがいた。

保護し、奇形児のメンバーに返す。

拠点がバレたことで移動中に見つかり今に至るという。


「バレたって、誰だ。」

「煙のガキだ。」

「シュラハが?」


聞けば彼らの拠点を最初に見つけたのはシュラハだという。

急なこともあり近くの迷宮に閉じ込めたと。

それを聞いて血相を変えたのは奇形児のメンバーだ。

その迷宮は生還不可避の生きる伝説。

そんなところに閉じ込められた。

一刻も早く救出しなくては。

しかし見つかるわけもない。

迷宮の中は魔獣の死骸のみ。


考えれば当然だ。

シュラハは置き手紙を残してこの街を去った。

時系列的に、天使の遣いが見つかる前。

もし彼らの証言が正しいのであれば、シュラハは1人で迷宮を攻略したことになる。

それも短時間で。


中にいたのはどれもBランク相当の魔獣ばかり。

シュラハの実力を知っているものからすれば信じられない。

知らないものですら信じられない。1人で迷宮攻略など。

そんな人間がいていいわけが無いのだ。

大会などならば、不正などいくらでも考えられる。

しかし自然界で忖度や茶番は通じない。

誰もが生きるために必死。

もう訳が分からなかった。


結局シュラハは行方不明のまま。

シュラハがフィーラを探すために失踪したと聞いて、彼女は目の前が真っ暗になった。

自分のせいだ。

少し試したかっただけなのだ。

シュラハがどれだけ自分のことを思ってくれているのか。

一方通行な思いでないことを、確認したかっただけなのだ。

なのに、それだけだったはずなのに、ずっと一緒にいて欲しかった人は遠くに行ってしまった。


「………少佐。私、軍入ります」

「誘っておいてこんな事言うのは変だが。

………今の君は精神的に不安定だ。決めるのは今でなくてもいい。」

「そうですね………少佐ごめんなさい。でも軍には入ります」

「………」


――違う違う。勝手に期待してごめんなさい。

試すようなことしてごめんなさい。

昔はシュラハのこと嫌いだったの。

男の癖にすぐ泣くし、のろまで弱くって頭も悪いシュラハが生理的に無理だった。

でも失禁して、泡吹いてて、そんな汚い、それこそ生理的に受け付けないような私を担いで命懸けで必死に走ってくれて。

多分この頃から好きだったんだと思う。

ムレムカデから守ってくれた時も、恐竜亀の前に飛び出した時も凄くかっこよくて。

でもそれももう伝えられない。

全然恩も返せてないのに。貰っいぱなしなのに。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい


フィーラはこれから、シュラハにありがとうもごめんなさいも、かっこいいも大好きも言えないまま暮らしていかなくてはいけない。

後悔してもしきれない。

どれだけ悔やんでも過去は来ない。

来るのは未来のみ。

どれだけ苦しくても、辛くても、何度も何度もシュラハが繋いでくれた心を、身体を、命を絶やしてはいけない。

それが残されたフィーラの業であり、誇りなのだ。

3章はここまでです。

現在4章は誠意制作中です。

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