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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
超加速度的変化編
26/70

地竜討伐作戦



地竜討伐が決まった翌日、作戦説明のためシュラハたちは冒険者ギルドの敷地内にある運動場に集まっていた。

ヴェルムスの冒険者は全員が集められており、60チームほどに登る。


初任務がこんな大規模なものになるとは、喜ばしいことなのか喜ばしくないことなのか。

地竜の恐ろしさは、シュラハには分からない。

だが、双頭烏ほどでは無いと思っている。

人間が討伐に乗り出せる魔獣ということだ。


壇上に一人の男が上がる。

緑の軍服を着た、背丈250cmほど。シュラハと同じ黒髪だが、違う部族なのは明白。

似ているのに似ていない。

逞しい肉体に少し憧れる。

閉じていた鋭い目を開き、身体を震わせるほどの大声を張り上げる。


「今回の地竜討伐任務の総指揮を務めるケゲラット・スウィーゼ少佐である。

集まった組織は我々魔国軍、ヴェルムス騎士団、そして冒険者の君たちだ。

配置は我々魔国軍剣士部隊が地竜の正面。

治癒魔術部隊がそこから数十m後ろで援護。

攻撃魔術部隊は地竜の右斜め後方と左斜め後方に。

ヴェルムス騎士団は地竜の背後に。

冒険者は二手に別れ左右両方に配置。

作戦は第一フェーズと第二フェーズに別れている。

まず第一フェーズでは剣士部隊が地竜からの攻撃を防ぎきり、背後に待機させている攻撃魔術部隊の天候魔術によって地竜を撃破するもの。

天候魔術で討伐しきれなかった場合第二フェーズに移行する。

第二フェーズでは攻撃魔術部隊を下げ、それまで後ろに控えさせていた治癒魔術部隊を前に出す。

治癒魔術部隊は地竜の攻撃をレジスト。攻撃魔術部隊は仲間の回復にシフトする。

地竜の攻撃を無力化しつつ、剣士部隊、騎士団、冒険者たちの全勢力をもって討伐する。

作戦は以上とする。」


少佐からの作戦通達を受け終え、各自解散する。

明日の討伐任務のため、今日はもう休もうと思う。

そんなことを思いながら宿に向かっている途中、前を歩いていたフィーラが止まった。


「シュラハ、ちょっと来て」

「え? 突然何?」

「いいから」


手を引かれるままついて行く。

どこに向かうのだろう。

もしかして自分が弱すぎて今から特訓させられるのでは?

いや、明日の調整のためにもフィーラの特訓に付き合わされる側か?

どちらにせよBADENDだ。

それとも「シュラハは弱いから明日は来なくていい」とか言われるのか?

戦力外通告を受けるのか?

歳の近い女の子に。男の尊厳が滅茶苦茶にされそうだ。

適当なことを考えているうちに、ついた場所は酒場だった。

そのまま中に入り席に着く。

何やら神妙な面持ちの様子。

さて、どんな言葉が飛び出してくるだろう。


「…」

「取り敢えず、何か頼みましょうか。僕はオレンジジュースで」

「私も同じので」


運ばれてくるのを待つ。

話そうとした瞬間に運ばれてきちゃ嫌だし。

フィーラも同じなのだろう。

酒場にきてオレンジジュースとはなんだか変な気もするが酒を飲むにはまだ早いと言われている。

テリバーに止められているのだ。

しばらくするとオレンジジュースが運ばれてきた。

1口、口をつける。


「シュラハ、シュラハはさ。強いよね」

「は?」


――何を言っているんだろう。いつもコテンパンにされているねの間違いじゃないのか?


「嫌、そういう強いじゃなくてさ。私にないもの持ってるっていうか。」

「えっと、つまりどういうこと?」


シュラハにあってフィーラに無いもの。

男性としての象徴くらいしか思い浮かばない。

後は謎の男から渡された魔術印道具(マジックアイテム)くらいか。

しかしそのことは誰にも話していない。

寝ている間に見られた?

が、それもないだろう。フィーラとは違う部屋で寝ている。

ならなんだろうか。

やはり男性としての


「恐竜亀と戦った時さ、私が怖くて隠れてたのにシュラハは一目散に助けに行ったよね」

「そ、うだね。」

「シュラハだってきっと怖かったと思う。私なんかよりずっと弱いのに、……弱いと思ってたのに。」


――フィーラの雰囲気が暗いものなった。なんだか気まずい。


「……そう…だね。怖かった、けど。守りたいって思ったから。だと思う。きっと僕一人じゃ怖くて助けにはいけなかったと思う」

「そんなことない!!」


「そんなことない、シュラハは一人でも助けたよ。

私を背負って双頭烏から逃げてくれたでしょ。あの時私は気を失ってたけど、恐竜亀との戦いを見て思ったの。

ああ、この人はこんな風に私を助けてくれたんだって。」

「……」

「教えてシュラハ、どうやったら強くなれるの?」

「どうやってって言われても。分かんないよ」


――あの時はただ必死で。言われるがままフィーラを担いで走ったんだ。教えろって言われても……。


「……そうよね。ごめんなさい、こんなこと聞いて。後、今更だけど助けてくれてありがと。

それじゃ、お金払っておいてね!」

「ちょっと!」


シュラハとは段違いの身のこなしでするりと酒場を後にする。

後で返してもらう。


「デートは終わったのか」

「わぁぁぁぁ。ってエルナさんですか。おどかさないで下さいよ。後、デートじゃないです。幼なじみ集会です。」

「どっちも同じでしょ」


この人は何をもってデートと定義づけるのか、シュラハの中に疑問が生まれる瞬間だった。


「せっかくだから少し話そうよ。てか言わなきゃいけないことがあるから聞きなさい」


有無を言わさぬ発言だ。

こういう時のエルナさんはめんどくさいと、シュラハは知っている。

自分の思う結論に辿り着かないとあーでもないこーでもないと屁理屈をつけては論をたたきつぶしてくるのだ。

それはこの1週間でよく知った。


「今から君に、私の不吉な昔話をしようと思うの」

「昔話?」

「うん、多分1年くらい前かな。私もね、テリバーさん達に拾われたの。」


――そういえばそんなことも言ってたっけ。1年ちょっとでB-まで行く彼女は何者なんだ……。


「その時拾われたのは私一人じゃない。もう一人男の子がいたの。名前はニョロ。ニョロは君みたいに剣も魔術も才能がなくて、タンクすらも出来なかったの。」


――なんの話なんだ。ニョロさん? そんな人聞いたことないけど。


「分かると思うけどね、ニョロは初任務で死んだわ。タンクだったかしら。」


エルナから語られた衝撃の事実に思わず立ち上がってしまう。

そして、彼女が言いたい事の全貌が見えてくる。

自分とニョロさんを重ねる様に。


「ニョロは弱いくせに勇気だけは人一倍強かった。結果私を庇って死んだ。

私ね、あなたをニョロと重ねてしまうの。

今度の地竜討伐任務で、君がフィーラを庇って死ぬんじゃないかなって。」

「……それで、こんな話を?」

「みんな私を気遣って話してないの。だから私が話さなきゃいけないと思った。」


――エルナさんにそんな過去が。死ぬかもしれない……か。確かに死ぬのは怖い。

けど、そんなこと言っていたら、この先冒険者等やってられない。

ここで逃げたら、一生逃げ続けることになりそうだ。


「エルナさんは僕に明日宿に残ってろって言いたいんですか?」

「うん! 残ってくれるの!」

「お断りします。」

「なんで!」

「僕がシュラハとして生きていくためですよ」


そういうと、彼女はぽかんとしたまま動かなくなった。

話の流れ的に断られると思わなかったのだ。

それに、


「……よく分からないわ」


シュラハの言葉の真意が、全くもって分からなかったから。


***


地竜討伐任務が始まった。

目標を見つけ各自配置に着く。

シュラハたち奇形児は地竜右側で待機。


地竜は大きさ10m程。大きくも小さくもない。至って普通の地竜だった。


「始まったな。」


地竜が生み出す無数の岩塊が魔国軍の剣士目掛けて飛んでいく。

吹き飛ばされても後ろで待機している治癒魔術士の回復でゾンビの様に立ち上がる。

時間稼ぎのための人海戦術。

背後に待機している攻撃魔術部隊は詠唱を開始している。

使う魔術は水天候魔術、「雷の鉄槌(アクセルサンダー)」。

恐竜亀程度なら一撃で殺せる魔術だ。

それを2発。同時に撃ち込む。

もちろんそれだけの威力の魔術を打てるのは大人数かつ安全であることが大前提にある。


「決まった!」


生み出された雨雲から2本の光の柱が地竜目掛けて吸い込まれる。

その後遅れて鼓膜を破るような爆音が轟く。

1秒……2秒……地竜に動きは見られない。


「……勝ったんだ」


誰のつぶやきかは分からない。

しかしそれを皮切りに皆歓喜している。


「倒した! あの地竜を!」

「すげぇ魔術だった! やっぱり魔国の魔術は世界一だ!」


竜を討伐するなど物語の中だけの話。

実際にそんな話は聞いたことがない。

そんなことできるのはは魔王や魔神くらいのものだ。

魔王や魔神に並んだ。その事実が彼らの中に生まれたのだ。

だがそう簡単に地竜は死んでいなかったようだ。


新たに無数の岩塊ができると再度剣士に向かって飛んでいく。

今度は丸腰、生き残れる訳なく一撃で死にいたらしめた。


「まだだ。まだ戦いは終わっていない!!」


積み上げられた死体の山と、少佐の声で全員地竜に目を向ける。

しかし一度緩んだ気持ちを直ぐに戻せるわけが無い。


「生きてるだと」

「いや、魔術で弱ってる。地竜を倒すのは俺だ!」

「俺たちのチームだ! これは譲れねぇ!」

「待て! 勝手なことするな! 今お前たちは私の指揮下にあるのだぞ!」

「うるせぇよおっさん。こんな瀕死の地竜(こうけい)目にして、命令なんか聞けるか!」


冒険者たちは次々に地竜に突撃する。

元々言うことなど聞く気がないのだ。生き残るために聞いていた。

だが、今こうして地竜は死にかけ。彼らも冒険者。

戦いに自身のある者たちだ。


「らぁぁぁぁ!!」

「ちょっ、フィーラ。危ない。」


他の冒険者同様フィーラも飛び出してしまう。

奇形児の面々は飛び出さなかったが、シュラハだけはフィーラを追っていた。


「パララララララァァァァ!!!」


地面が揺らぎ、大量の岩塊が飛んでくる。


「フィーラァァァ!!」


フィーラの身体に当たる直前、シュラハが間に合い体当たりし岩塊を避けることに成功する。

しかしシュラハには辺り、口から左耳にかけて裂けた。

モク族特有の、傷口から煙幕が出る。


他の避けれなかったもの達は木に杭で穴を空けるように身体を貫かれ殺された。

戦線は崩壊し、戦闘は泥沼化するのだった。

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