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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
超加速度的変化編
22/70

脱走



ゾクド王国の人たちは周辺の部族たちを一箇所に集めると男、女、子供の3つのグループに分けるところから始めた。


4つの部族が集まり、シュラハたちモク族。

頭にヤギのような角が2本生えたウト族。

橙色の髪に赤い肌が特徴なジョ族。

深い体毛に覆われ犬歯が異様に長いのが特徴のサンダババ族。

この4つの部族が集められている。


男は皆殺しにされ、女は大船に乗せられ連れ去られてしまった。

残った子供たちは5~15人の小グループに分けられ、各グループごとに決められた仕事を行う。


建物は破壊され、代わりにポーションを作るための薬草畑が耕された。

畑に併設する形で子供たちが暮らす小屋も作られた。

シュラハたちはその小屋で暮らしている。


3日程度で作られた建物の暮らしが良いはずなく、隙間風は吹き込み、備え付けられているのは人数分の寝床のみ。

十分に休むためのスペースも、腹を満たすだけの食事も与えられない。


朝が来れば監視の下、ひたすら畑作業。

沿岸部といえどデッサグラン地域は砂漠地帯。

身を焼くような炎天下に付け加え、40℃近い気温の中での作業。

手を止めようものなら問答無用で魔術が飛んでくる。

子供たちの体力と精神は日に日に削られていった。


シュラハやオプファンやフィーラは数少ない知人で同じグループの仲間ということもあり、共に行動することが多くなっていた。

普段倉庫から干し肉を盗むオプファンも、自分の仕事を他人に任せるフィーラも毎日汗を流している。

休む暇などない、最初こそ逃げ出したりしていたが、バレる度に魔術を放たれれば嫌でも堪える。


「うげ、今日も硬いパンと水だけか」

「シュラハ、私にパン頂戴!」

「え、やだよ。僕のパンなんだから」


シュラハたちの生活は規則どうりに進んでいる。

日が登れば起き、飯を食べ、日が沈むまで働き、寝る。

そして日が登れば起きるを繰り返す。

そんな生活がここ数ヶ月続いていた。


「それより、あの計画どうなってんだ?」


オプファンがシュラハに問いかける。


「その話こんなとこでしちゃやばいよ。

後で働いてる時にこっそり!」


***


「プランLwはどうなっている?」


――プランLw、こんな奴隷生活は懲り懲りだ。地獄から逃げ出すためのプラン。僕とオプファンとフィーラの3人で逃げる。


「順調に計画立てているよ。就寝から巡回が終わってその後に決行する。

まずは薬草畑を魔術で燃やす。」

「誰がやるんだ」

「僕がする。2人は牢獄(ここ)を真西に進んで砂漠のある所まで行ってて!」

「砂漠? 大丈夫なの?」


デッサグラン砂漠は熟練の兵士が集まっても縦断は不可能とされている。

十メートルを超える巨大な魔獣は当然のこと、特異な魔術や幻惑を使う魔獣、方向感覚を失う悪天候も相まってそれたらしめている。

たかが子供3人、それも貧弱な種族が逃げ切れるのかという当然の疑問がフィーラの中でも生まれていた。


「大丈夫、砂漠入口の近くに木箱があると思う、それを頭から被ってくれれば」


「何が入ってるか聞いてもいいか?」


「陸三大魔獣の中でも特段凶暴な、双頭烏の血液だよ!」


陸三代魔獣の一柱(ひとり)、双頭烏。

飛行能力を失う代わりに陸上での圧倒的制圧力と脚力を備え、デッサグラン砂漠を一晩で横断することも可能と言われている。

2つの頭を持った烏で、全長約13m、体重およそ30tの怪物。

気象の起伏が激しく、生き物をなぶり殺し愉快にはしゃぐ姿を見られることも、砂漠で遭難した老婆を人里まで連れていったという話もある。


巨体から繰り出される蹴りは大岩に一撃で穴を空けられる程のもので、過去に一蹴りで4万人を殺し、いくつもの村を壊滅させたと記録されている。


魔術に対する耐性、靱性もあり、人が殺せる生き物では無い。

もちろんそれは砂漠を生き抜く屈強な魔獣も同じ、双頭烏に喧嘩を売るものは自信を魔王と思っているものか何も知らないものの2つ。

どちらにせよ愚者であることに変わりない。


「よくそんなものあったね」

「双頭烏って烏の癖にあんまり賢くないからね

怪我してるのはしょっちゅうで血液が簡単に集まっちゃうんだよ」


「なるほど、ヤベェ双頭烏の匂いさせてりゃ誰にも襲われねぇってことか!」

「まあそういうことだね」

「その後、被ったあとどうするの?」


「えっと、北デッサグラン地方まで北上する

流石に砂漠地帯まで警備が行き届いてないだろうしね

そこまで来れば、自由だよ。」


「くぅぅぅ、なんか燃えてきた!!」

「決行日は3日後、絶対逃げ切るよ」



朝からの労働を終え、収容小屋に戻る途中、見慣れない小屋から光が漏れだしているのにフィーラが気づいた。

ゾクドの兵士たちが数人の魔族の少女の腕を引き小屋の中に消えていくのを目にした。

見てはいけないものだと思ったシュラハだが、好奇心旺盛な兄妹はそちらに足が向いていた。


「何やってるんだろう」

「さあ? それより早く帰ろう」

「えー、フィーラは気になるよな? ならシュラハも来るよな?」


2人を止めるシュラハだったが、結局は推しに負け、2人について行くことになった。

物音を立てないように小屋に近づく。

バレれば殺されるという恐怖から今すぐにでも収容小屋に帰りたい思いを押し殺し、2人について行く。

昼は労働でこんなところに小屋があることなと知らなかった。

小屋に近づくにつれ喧騒は激しさを増し、兵士たちの愉悦に満ちた笑い声と、少女たちの恐怖に満ちた絶叫が3人の耳を通る。


扉の音を立てないよう目玉1つ分ほど隙間をそっと開き、先頭にいたオプファンが中を除く。

すると先程までの好奇心に満ちた表情は一変し、口元を抑えるとこちらを向き一言発した。


「戻るぞ、あと計画は今日決行する。」


ここまで来て何も見れないことに、フィーラが満足する訳ない。

小声でオプファンに抗議するも、聞く耳を持たない。

ただ、「戻る、早く戻ろう」としか発さない。

オプファンの異様な姿と剣幕におされ、最終的には不貞腐れながらも了承し、3人は収容小屋へ帰ることにした。


小屋に戻り何を見たのか、オプファンに聞いても黙るばかりで答えることはなかった。


***


「よし、全員寝静まったようだな」

「んじゃ続きを楽しむか」


巡回中の兵士たちが小屋を出ていく。


………

……


「あいつら、行ったようだな」


シュラハの隣で寝ているフリをしていたオプファンが物音を立てないようにそっと寝床から出る。

2人も遅れないように寝床から出る。


「それじゃ2人とも、後でね。」

「絶対逃げ切るぞ」


――ここからはしばらく僕一人で行動する。大丈夫、ドジで間抜けな僕だけど、何度もシュミレーションしたんだ。

ちょっと決行日が早まったけど成功させるぞ。


2人が敷地内を出たことを確認し、シュラハも自分の目的を遂行する。


「小さな灯火よ、暗闇を照らしし光の炎を焚き付けろ フレア」


畑の真ん中で火魔術を行使する。

それだけだとすぐバレる危険性があるため、躊躇う事なく指先を切り、煙幕で火種を隠す。


――畑だけだと少し心配だ。監視塔の方も燃やしとこう。


シュラハは新たに三箇所燃やしてから、2人の後を追った。

2人は既に双頭烏の血液を被って待っていた。

シュラハも被り、砂嵐の中自由を求めて北上していく。

時々魔獣の姿も見られたが、近づくにつれ双頭烏の匂いに気づき離れていった。


「追手は来てないみたいだな」

「今頃色んなところ燃えてて大騒ぎだと思うよ」


「逃げて……来たんだな」


オプファンの言葉に3人は足を止める。

今までの地獄のような生活からの解放を肌で感じ、今まで張り詰めていた緊張の糸が切れる。


「怖かった、怖かったよお兄ちゃん」

「泣くなよ、俺も……怖かった」


2人が抱き合い泣きあっている姿にシュラハも自然と涙が伝う。


「ウゴウォォォォ!!」


ビクッ、と身体を震わせる3人。

遠くで魔獣の叫び声が聞こえてくる。

その咆哮を耳にし、まだ自分たちは完全に安全な場所にいる訳では無いと再認識させられる。


――ここまで来たんだ。絶対に3人で逃げ切ってやる。


「オプファン、フィーラ、3人で逃げ切って一緒に暮らしていこう」


ゴテン、、


3人の横に3m程の肉塊が真上から降ってくる。

衝撃波と砂埃が舞、視界が塞がれる。


「なんなんだ」


「あ…………あ……」


が、暗視眼を持つシュラハはいち早く絶望的な状況に気づく。

目の前に転がっているもの。


やがて砂埃も落ち着き2人はシュラハに目を向ける。

シュラハの表情は歪み切っていて、さっきまで切れていた緊張の糸が張り直される。

シュラハの視線の先、そこには肉塊、イエローコウセキグマの頭部がある。


しかし、シュラハの視線はその奥その1点のみに注がれている。

暗視眼をもち、人一倍夜目が効くシュラハだけが気づいた事実。

25mを超えるイエローコウセキグマを殺せる生き物。


「走れ!!」


突如走り出すシュラハに驚きつつも込み上げる恐怖心から訳が分からないなりにも走りだすオプファンたち。


「最悪だ。よりにもよって双頭烏に出くわすなんて」

「え、今なんて」

「双頭烏がいたの?…………ねえ! どうするのよ」


――どうしようどうしよう

だめだ。何も考えられない。怖い怖い怖い怖い。絶対僕らに気づいてる。


「ウゴウォォォォ!!!」


「ヤバいって、俺たちし」


ドオォォォォと走っていた真横からまたしても肉塊が降ってくる。

と同時にオプファンの声が途切れる。


「お兄ちゃん……?」


――殺される殺される殺される殺される


砂埃の晴れた視界の先にはイエローコウセキグマの腕と、その下にオプファンのものと思われる脳みそと血液が飛び出している。

眼球も転がっていて、あの時聞こえたプチュという音はオプファンが潰された音だと認識させられる。


「キャァァァァァァァ!!」


そんな惨状に妹のフィーラが耐えられるはずもなく、その間にヘタリ込み絶叫する。

ボロボロと涙を流しながら、失禁しながら、しかし意識は保ちながら絶叫している。


――殺されるんだ……僕たちはここで


死への恐怖からひたすらに頬を爪でかく。

皮膚の隙間から微量の煙幕が溢れるがどうともならない。

双頭烏の咆哮と共に煙幕はかき消される。


「クソォォォォ!! フィーラ、たってくれ!走れ!!!」

「あああああ!! お兄ちゃぁぁぁぁん!!」


完全に心を叩きおられたフィーラを引っ張るシュラハの声など届いていない。

そうこうしている間にも双頭烏は助走をつけながらこちらに走り出してくる。


ブウォォォォンという風を切る音を発生させながら双頭烏は蹴りを繰り出した。

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