テレスシーナvsミュートリナ
いよいよ決勝。
対戦カードは1組対8組。
ここまで来たら、優勝以外見えない。
私たちのチームは現在絶好調。
先鋒のリャリャ・アストラス。
圧倒的な水魔術の使い手。
闘術も1級モノで遠近どちらも対応可能。
次鋒のバッチィン・ダオ。
あの子は凄く目がいい。
身体も動くからそもそも攻撃が当たらない。
中堅のクレア。
闘術、それが彼女。
1番戦い慣れてるのは間違いなく彼女だ。
副将のタイト・ヴィルキル。
スランプ脱却し、現在1番勢い付いてます。
今のタイトなら、私といい勝負するかも?
大将の私。
もちろん勝つ。
少し懸念することがあるとすれば、今日は大雨でいつもより魔力消費速度が早いと言うこと。
いつもの火力でいけばロウソクみたいになるから普段火事になるくらいの火力出さなきゃいけない。
ガス欠だけは気をつけたい。
決勝は1時間後。
それまでゆっくりしていようと思う。
***
決勝、敵は8組。
絶対負けられない。
相手はあの女、ミュートリナ。
思い出しただけでも狂いそうだ。
ハレファス様も酷い人だよね。
絶対あの時私がいるって気づいてて会話してたよね?
私に嫉妬させようとしてたんだよね。
分かってても嫉妬しちゃうじゃん。
諦めるつもりだったのにさ。
他の女の子と仲良くしてるところなんて見せつけられたらさ。
イライラするよ、苦しいよ。
ムカつく。庶民の癖にハレファス様にニックネームで呼ばれてて、呼び捨てで呼んでいて。
あの子を潰して諦める。
そうしよう。
「あの、ハレファスいますか?」
この声、ミュートリナ。
「ミュウ、僕のところに来たってことは。」
「うん、お願い。」
そう言うとミュートリナは横になった。
直後、ハレファスはミュートリナに治癒魔術を使った。
その後……見たことない魔術を使っている。
「なにこれ………変だよ。
魔術を使う時と逆の感覚。
入ってくる感覚。」
「魔力を注入してるからね。」
「なにそれ、反則じゃん。んっ!」
「変な声上げないでくれよ……」
…………
ムカつくムカつくムカつくムカつく。
負けられない理由がまた増えた。
「これでおっけぃ。
頑張ってきてね、ミュウ。応援してるよ。」
「うん、頑張ってくるから応援しててね。」
ミュートリナ、絶対潰す。
それと、ハレファス様もそんな女に構わないでよ。
ムカついちゃうじゃん。
その後、私もハレファス様にミュートリナにしていたことを頼んだが断られた。
もう魔力が残っていないって。
ミュートリナは潰す。
***
先鋒、次鋒と何とか勝利した俺たち1組。
しかし中堅で負けてしまった。
が、しかし。
副将は無敵の俺、ハヴァレア。
「ハヴァレア様、私のために、勝って来てくださいね!」
「当然であります。」
大丈夫、今の俺は最強。
この対抗戦に終止符を打ちましょうか。
「始め!」
「ぼえ、」
「ハヴァレアの負けぇぇぇ!!!!」
*
くそ、使えない。
まあ、私が8組を潰せると思うと、それもありかな。
「始め!」
「土の精霊よ、我が願いを聞き届け、かの者に大自然の恐怖を知らしめよ! フォールストーン!」
ミュートリナはやはり火柱をぶつけてくる。
が、火と岩では物質量が違う。
岩塊がミュートリナ目掛けて直行する。
まだまだ。
「土の精霊よ、我が願いを聞き届け、かの者に大自然の恐怖を知らしめよ! フォールストーン!」
捻り潰す。
物量で押しつぶす。
「土の精霊よ、我が願いを聞き届け、かの者に大自然の恐怖を知らしめよ! フォールストーン!」
岩塊は闘技場に20~30個ある。
そのほとんどが1箇所、ある一点に集まっている。
が、その岩塊が粉々に粉砕される。
そんな簡単にはいかないよね。
じゃなきゃ捻りがいがない。
「土の精霊、水の精霊よ、荒れ狂う大河のごとく、願いのままに大地を抉れ! 屠れ! 押し潰せ! 濁流!!」
火魔術が得意なミュートリナには、土と水の混合魔術である濁流に滅法弱い。
でも、絶対に緩めない。
近づかれた時点で私の負けだから。
舐めちゃダメな相手だから。
本気で、殺すつもりで潰す。
「土の精霊、水の精霊よ、荒れ狂う大河のごとく、願いのままに大地を抉れ! 屠れ! 押し潰せ! 濁流!!」
濁流を避けるように、岩塊の上に乗る。
「へぇ、やっぱり強いね。テレスシーナ様。」
「バケモノが…………」
「でも、私の敵じゃないよ」
「っ、土の精霊よ、我が願いを聞き届け、かの者に大自然の恐怖を知らしめよ! フォールストーン!」
「遅い」
気づけばミュートリナは眼前まで迫っていた。
火魔術が直撃する。
「豊穣の精霊よ、傷ついた身体を癒したまえ、ヒーリング」
反則よ、なんなの。無詠唱って。
でも、魔力量には自信がある。
初手で決められなかった以上、持久戦に持ち込むしかない。
***
「ストーンアロー!」
やはり皇女様なだけあって、魔術の才能が別格。
さっきから直撃すれば致命傷な攻撃ばかり飛んでくる。
やりずらい。
雨じゃなかったらこんなの楽に勝てるのに。
「フロストレイ!」
「もう!」
絶対に近づかせないつもりだね。
このままだとジリ貧、何とか決定打を打たなきゃ。
「ストーンアロー」
火魔術で応戦する。
一瞬、皇女がニヤつくのが見えた。
まさか…………
「流星群!!」
なにそれ!!
岩石が着弾する事に爆発が巻き起こる。
煙……熱い。
ヤバい、かも。意識が。
ああ、もう、最悪!!
この手を使うことになるなんて。
私は身体の中に残っている魔力を全て放出する。
一瞬、爆音が場を支配する。
自爆したのだ。
***
「ミュウ、落ち込むなって」
「そうだよ、優勝出来たんだからさ」
「……」
私たち8組は、結果的に言えば優勝した。
最後の自爆、あの後私も皇女様も試合続行不可で引き分け。
代表戦でタイトが勝って私たちが優勝。という訳。
試合に勝って勝負に負けた。
「まあ、相性とか、環境とかあるし?
一概にミュウが負けたって決めつけるのは早いんじゃないかな?」
皆優しい…………
でも、完璧にあれは私の負け。
舐めるつもり無かったけど、心のどこかで舐めてたのかなぁ
そんなこと考えていたのかと思うと悲しくなる。
自分の醜さで気が滅入る。
「晴れないなぁ」
雨は嫌いだ。
雨の日は気分が悪くなる。
晴れは好きだ。
晴れの日は気分が良くなる。
「テレスシーナ様、次は絶対に負けないから」
「ミュウが対抗心燃やすなんて、珍しいね」
「俺なんていっつも軽く捻られて終わりなのにな」
お母さん、村のみんな、私友達見つけたかも。
***
負けたぁぁぁぁ!!!
ミュートリナに負けた。
庶民に負けた、皇族が。
なんなのよ、実力も信頼もあるくせに。
私の欲しいもの全部もってるくせに。
ちょっとくらい…………分けてくれてもいいじゃない……
気づけば涙が溢れていた。
なんで泣いてるのよ、私。
悔しいから? ムカつくから?
違う。羨ましいからだ。
ミュートリナ……、ずるいわ。
ハレファス様すら奪っていって。
ずるいずるいずるいずるい!!!!
頑張って作戦立てたのに!
天候だって、お父様の計らいで有利になるように操作してもらったのに!!
それなのにどうして勝つのよ!!!
ふざけないでよ!!!!
学園に来てから苦しいことばっかりで、私壊れちゃいそうだよ。
どうして、どうしてこんなに試練を科すのよ。
ハレファス様……せめてあなただけでも欲しい。
いや、私のモノにならなくてもいい。
他の人のモノになっても…………、いい。うん、いい!!
だけどミュートリナはだめ!
あの女だけは絶対に嫌。
羨ましくて羨ましくて、嫉妬で狂ってしまいそうだから。
こんな気持ちになるくらいなら、感情なんて要らない。
心を持たない、魔獣や植物に生まれたかった。