切符
最近の皆はいつもより活気に満ち溢れている。
私たち8組はこの学校でカースト最底辺にいる。
身分、ってのがあるから。
そんな底辺な私たちが活気に満ち溢れているわけ。
それは近々あるクラス対抗戦が理由だ。
各クラス代表者5人の一騎打ち。
いいとこ見せれば貴族様になれるかもしれない。
爵位が、貰えるかもしれない。
領地が貰えるかもしれない。
イベントとしての楽しみより褒賞への関心の方が強いのは否めないが楽しみ方なんてものは人それぞれだよね。
楽しみである理由は他にもある。
国のお偉いさんたちがこのクラス対抗戦に、視察に来るからだ。
人生逆転の奇跡を掴めるかもとクラス内では誰が出場するかを実力で決めることにした。
公平かどうかなんてのはお互いが1番納得できることが重要だと思う。
バトルロワイヤルで最後まで残ってた5人が出る。
そう話は纏まった。
みんな仲間、みんな友達。みんな敵、みんなライバル。
恨み合いなし、妬み合いなし、応援ありだ。
そして、今日が選出最終日。
今日の放課後、未来を決める戦いが始まるんだ。
実力が買われなければ未来なんて切り開けない。叩き上げの私たちは実力にはみんな自信がある。
負ければ潔く引くだけ。
普通ならそんな状況でみんなギラギラしてると思う。
でも今日まで皆一緒に切磋琢磨して来たんだ。
絶対、絶対に負けたくない!
***
放課後。
8組の皆は闘技場に集まっていた。
棄権する人が出てきてもおかしくないと思っていただけに少し意外。
魔力も体力もバッチリ。気合いも気分も!
体調良好。精神安定。ていうか精神が不安定になることなんてあるの?
大人の人とかは精神に異常をきたす人とかいるけど信じられないよね。変なの。
「それでははじめ!」
一気に決める。
やっぱり私が使うのは火魔術。火魔術でのし上がる。
誰よりも強い魔術士になって故郷のみんなに楽させてあげる。沢山お金を稼ぐの!!!
掌に集まった魔力を火の柱に変え勢いよく発射する。
着弾、と同時に爆発!
集団に目掛けて一撃お見舞する。
相手はこちらに対処する間もなく後方へ吹き飛んで意識を失った。
彼らが死なない程度の威力には絞っている。
まずは3人。
絶対勝つ。
*
「しっかし、ミュウのやつおっかねぇな。」
俺、タイトは現在暴力娘ことクレアと共にコンビを組んでいる。
1人でもいい、なんて言える状況じゃねぇしな。
ミュウがいなきゃ俺が学年最強だって堂々と言えただろう。あいつは俺に匹敵するぜ。
「ちっ、おいミュウこっち来てる。離れるぞ」
「了解」
作戦としては、ミュウから逃げつつ敵を倒す。
俺が矛、クレアが盾。
頭を使って戦わなきゃ未来は切り開けない。夢を掴み取るのだ!
どちらも矛をしたかったからジャンケンで決めた。
俺が勝った。ので俺が攻めだ。俺はジャンケンでも強いと証明されたぜ。
「オラオラ、どうしたそんなもんか!」
「おい! 口でなく手を動かせ!」
ったく、こいつは可愛くねぇなぁ。こっちの身にもなれよな。
正面の相手をどんどん気絶させていく。数は多いがそのための練習は何度もやってきた。
こんなところで躓くような、柔な鍛え方はしていない。
「わーってるって。」
「くそ、ミュウまだ来てる。逃げるぞ」
「おっかねぇ」
あいつ、完全に俺たちを狙ってきてるな。早いとこ切りあげねぇと追いつかれる。せっかくスタートのときミュウから1番距離を取っていたのに。
見つけ出して俺たちのところに来るとかとんだ戦闘狂だぜ。戦い好きはこれだから。
今残ってるのは半分位か。
残るので精一杯のやつは既に脱落していっている。
俺たちが逃げ切れるのが先か。ミュウに追いつかれるのが先か。やってやる。
ほとんどミュウ1人で倒している。バケモノじみてやがる。あれで本気は出していないと見た。
ったく、あいつは不戦勝で良かったろ。
誰も文句言わないってぇの。でもミュウの中では不満があるんだろうな。
公正であることは必ずしも善じゃねぇよ。
「は!」
よし、どんどん倒していく。
あいつはキルリーダーみたいになっているが俺だってかなり削っている。比べられたら黙るんだけど。
それでもかなり健闘している。いや、大健闘と言ってもいい。てかなんであいつ笑顔なんだよ。
だかペースは悪くない。
この調子で………
「すまんタイト。」
「追い詰めたよ、2人とも。」
「くっ、やっぱり避けては通れねぇか。」
*
「クレア! ここからは作戦2だ!」
「分かってるって!」
正直ミュウとは戦いたくない。
が、なってしまったものは仕方ない。
俺たちだってバカじゃないんだ。逃げるプランが真っ先に出ていたが接敵していた時を忘却してる訳では無い。
その時のための策も用意してある。
用意周到なタイトと呼んでくれ。
作戦2。
守りを捨てた攻めの戦術。
俺がミュウの相手をして、クレアが残りのやつを倒す。
これはジャンケンで負けた方がミュウの相手をすることとなっていた。俺はジャンケンで負けたのだ。
おかしい、俺はジャンケン最強ではなかったのか?
「頼むぞ。なるべく早くな。」
「たりめぇだ。2分で全員倒してやるよ」
「二人一緒じゃなくていいの? 私は2人同時に相手してもいいけど」
くっ、やっぱりな。こんな舐めたこと言われているが俺も正直そうしたい。情けないがそれが今認めなきゃならない事実。
恥を捨てて今からでもクレアに一緒に戦おうと協力を仰ぐべきか?
いや、それはないな。
この女は強い。強いが俺だって逃げたくない。逃げないんだ俺は。戦えるんだ!!
「そんな事言うなよ。俺だと相手にもならねぇってか?」
「んー、どうだろ。逆に私に2分もつと思うの。」
全く思わない、が。それでいい。
お前と戦うんじゃない。それを頭に叩き込む。真正面からやり合って勝てるってパターンはない訳では無いと思う。
ラッキー要素が強いとかそんな感じ。
だいたい手加減してる奴が負けることがあるのか。
あったら恥晒しだな。がはは、笑えない。
「当たり前だね。ミュウは強い、けど俺の次にな!」
「うんうん、やっぱり戦いはこうでなくちゃ!」
は、戦闘狂め。
頼むぞクレア。俺のためにも。
俺は絶対長生きしたいんだ。絶対勝ち進むんだ。負けない、逃げない。逃げないんだ。
「いくよ! タイト。」
様子見の豪火球。手加減してくれてるのかしてくれてないのか。分からない塩梅の魔術を繰り出すミュウだが俺は最初から本気だぞ。
全て避雷針の様に剣で受け、流す。
ミュウも驚いてる。
だよな、魔術を剣で受け流すなんて聞いたことないよな。
俺もまさか剣士が至近距離で魔術士と戦って後手に周り挙句その様子を驚かれるなんて思ってなかったぜ。
どっちが規格外か考えて欲しいものだ。
次々に魔術が繰り出される。
今度は青、あれは受け流せない。
後方に飛び避けるが着弾と同時に爆発。
煙幕と共にミュウが飛び出して来た。彼女の目は獲物を捉えるものでは無い。子供がおもちゃを見つけた時の目だ。
おもちゃにとって子供は天敵。俺はさぞ真剣な目なんだろうな!!
読めてる。
そこにすかさず剣撃を
「なっ!」
くそ、あいつ、空中で身を翻し、剣撃を避けやがった。
なんで魔術士のくせに体術が並外れてんだよ。
お前、まさか特殊部隊にでも行きたいのか?
行ったら行ったで驚かねぇけどさ、もう少しだけ人間でいてくれや。
俺の足の着く前にゼロ距離での爆発。
「2分持たなかったね。1分かな。
それじゃ私の勝ちだね」
「いいや、俺の勝ちだ」
「そこまで!」
審判のやめがかかる。その声と共に爆発で俺が後方へ大きく吹き飛ばされる。
ふぅ、危なかった。
ギリギリで勝ちだな。まあ、逃げ回ったあげく結局魔術は正面から受けたんだが。
魔術士ってのを考え直す必要があるな。
俺はこんな魔術士知らないし。
「危なかったぜ。クレア。もっと早く倒してくれよ。」
「は? 約束通り1分で倒したが?」
ミュウは驚いた顔をしている。
へへ、1本とったぜ。
「おかしいな、私は確かに2分って聞いてたんだけど」
「いや、それはあってる。
もともとミュウが来たら俺が1分持ちこたえるって決めてたんだ」
「なるほど。騙されたのか」
「私、ミュウに勝ったよー」
「もうクレア、髪の毛ワシャワシャしないで!」
「……」
「タイト?」
「いやなんでもねぇ」
……やっぱり可愛いな、こんちくしょうが。
そんな顔すんなよ。でも、戦闘中はもう少し表情管理をした方がいいと思う。ミュウのためにも。
俺のためにも。怖いんだよ。
「よし、残ったのは私たちと……」
「パンツ泥棒と無口女だけだ。」
あいつらか。
どうやらミュウも同じ意見らしい。
パンツ泥棒ことバッチィン・ダオ。
クラスの女子のパンツを盗み、バレ、変態として名を刻んだ。
パンツの色や匂いを嗅ぎ分けられるらしく、その情報を高値で売り買いされているらしい。
決めゼリフは「女の子のことならなんでも聞いてくれ」だ。
「ミ、ミュウさん。も、勝ち上がりましたか」
「う、うん。ダオくんも?」
「ぶふ、うん。」
ミュウの顔が引きつっている。
「おいタイト! そいつ殺せ!」
「斬り捨て御免……」
「いやぁぁぁぁ」
持っていた剣を振るうが避けられた。
マジか、本気じゃなかったにしろ、完璧な不意打ちで避けられるなんて。
「はあ、パンツ男はもういいや。
にしても、お前も残ってたとはな。
リャリャ・アストラス。」
「………」
「なんか言ってくれよ」
「リャリャはお前なんかと話したくないんだとさ」
「……」
「お前も無視されてんじゃねぇか」
ったく、なんて濃いメンバーなんだ。
多分学年一の戦闘狂と、多分学年一ガサツな女と、多分学年一変態な紳士と、多分学年一無口な女。
おいおい、まともなのは俺だけか?
このままだと8組が変なクラスだと思われるぞ。
「全く、変な奴が固まったなー」
「暴力女にしてはわかってんな」
「私以外」
「はぁ!? 俺以外変だろ!」
ったく、やっぱり分かってねぇな。
「まあまあ、ここにいるのは私の猛攻から耐えきった実力者なんだから自信もって!」
「なんだよ。言い返せねぇけどさ。」
最近のミュウは、所謂ジョークとか、煽りを覚えてきた。
覚えさせてるのは主にあの暴力女。
ガチでふざけんな……俺たちのミュウを返せ。
「煽るミュウさん……いい。」
「おい、豚! それでもいいのか、変態紳士!」
「……」
無口女もグッドポーズ。
だめだ、こいつら。
「リーダーはミュウとして、やっぱり副リーダーは私かな」
「は? 副リーダーって参謀的立ち位置のやつだろ?
お前みたいに脳まで筋肉で作られてる単細胞暴力女に務まんのか?
ここは、カリスマクレバーなタイトがするべきだと俺は思うけど」
「自分で自分を推薦するとか、君もクレアと大して変わんないんじゃない? ぶふ。」
「豚ァァァ!」
「………」
無口女が何やら身振り手振りで抗議してくる。
「私が参謀になる。こんなバカたちには任せられない?」
「え? ミュウ分かるの?」
「てかナチュラルに僕も脳筋の仲間入り……ぶふ。」
そ、そんな。
俺以外脳筋だ。
「ていうか、ミュウが決めればよくない? と僕は思うぶふ。」
「それいいね」
「ミュウさん……」
「まあ、それなら文句ねぇな」
「確かに、私も同意」
「……」
「うーん、」
悩んでるミュウも可愛い。
うーん、なんでミュウってこんな可愛いんだろうか。
暴力女や無口女に無いもの。
愛嬌か?
女は愛嬌、男は度胸っていうし。
「発表します。」
……。
なんかこういう時って謎に唾を飲み込んだり、拳を作ったり、背筋が伸びたりするよな。
………
……
…
「タイト、お願いね!」
ウインクしてそうお願いされる。
「あ、ああ」
か、可愛い。
今の顔が脳裏に焼き付いて……離れねぇ。
俺が……頼りてる。
絶対活躍してやる。
「あ、あと。タイトに聞きたいことあるんだけど。」
「ん? なんだ?」
今の僕ならなんでも答えられる。
誕生日からアソコの長さまで。
知っていることはなんでも教えよう。
「えーと、どうしてあの時躊躇ったの?」
「え? 躊躇う? いつの話だ。」
「私が煙の中から飛び出して、タイトが剣撃放ったとき。
完璧に読まれてたって今なら分かる。
なら、当たって当然だよね。
タイトの実力なら。」
「なんだよタイトくん。手加減してんのか?
ミュウさんより弱い癖に。ぶふ。」
俺が? 躊躇った?
「何言ってんだよ。躊躇ってなんかないさ。
あれだよ。ミュウに勝てるって思った隙をつかれたんだ。
慢心だよ。いやー、恥ずかしいな。
剣士たるもの最後まで気を抜くな!
母の言葉なの……に…」
母……さん。
「タイト?」
「いや、昔を思い出し、切なくなる俺を、演出したかっただけさ。」
「変なの」
くそ、まだ引きずってんのかよ。俺。
弱いな。