悪戯
2章開幕
章完結まで毎日投稿するので良ければ読みに来てください
あれから、ナキが僕を殺しに来ることはなかった。
夢にも出てきていない。
どうやら動けないことも、力を使いすぎたことも本当らしい。
そんなナキが僕を殺す手段……何があるだろうか。
「何故なんです!?」
「何度も言っています。ハレファス様にこそ決闘出場は相応しい。」
「そんな、そいつでなくても良いではないですか!? 私とか。」
ああ言い忘れた。
現在何をしているかと言うと対抗戦の決闘に出場する5人を決めていた。
ラスト1人を僕が出るか、ハヴァレアが出るか。
ハヴァレア・グン・ゴーシュラフ。
僕も嘘だと信じたいが、同じ五大公爵家の者らしい。
と言っても、いつ五代公爵家から転落してもおかしくないけどね。
「私も彼と同じ身分です。剣技だって勝るでしょう!」
「ハレファス様だって魔術ならあなたに負けません!」
「ぐぬぬ」
そんなことはさておいて、僕はナキ対策が最重要。
デオキシリボブレイクにもいくつか改良を加えた。
まずアンカーを取り付けた。
ボタン一つで直線上に初速にして時速80km/hの返しの着いた鉄器具が飛び出し、引っ掛けた相手の血を奪う。
有効範囲は150m。
これにより150m以内に入れば僕の勝利は確実。
次にレーザー照射の取り付け。
砲口の上に魔力を流せばレーザーが出る仕組みになっている。
照準を合わせるのに慣れるまでは使おうと思う。
最後に防具。
腐っても神が相手、生身の身体で戦いたくは無いからね。
防具はLv1、Lv2、Lv3の3種類作る予定だ。
Lv1が防げるのは人の攻撃程度。市場で売られている防具より少し性能がいい程度かな。
Lv2はLv1を遥かに凌ぐ防御力と魔力による快適な移動スピードを兼ね備え、かつ欠損部を即時に修復する魔法印が組み込まれる設計だ。
これだけのスペックだ。完成は早くても1年後。2年後が目安。遅ければそれ以上。
Lv3は………まだ作れない。
Lv1もLv2も完成していないということもあるが、理論上可能なだけで材料もなければ技術もない。
作れるのは何年も先になるだろう。
現在はLv1の作成途中。
出来ているのは上半身パーツのみ。
Lv1の上半身パーツは常に付けていようと思っている。逆に他のパーツは保管しておくことにした。
まあ一応防具だし、唐突に体型が変わるからね。
そのせいか少しガタイが良くなった。
シェインにも指摘されたが成長期として置いた。
急成長過ぎるが……まあいいか。
「テレスシーナ様! 私に、ハヴァレアに出場させてください!!」
まだやってたのか。
「あの、僕はハヴァレア様が出場するのに賛成です」
「でも……」
「本人も言ってますし、やはり私が出場すべきです!」
「分かりました。最後の一人はハヴァレア様で。」
やっと決まったか。
そんなに出場したいのか?
いや、皇女にいいとこ見せたいのだろう。
皇女のことが好きとか話しているのを聞いたことがあるし。
僕としては、いつナキが襲ってくるか分からないため、あまり魔力を消耗したくない。
クラス対抗戦にも興味はないし、早く帰ろう。
「ハレファス、ちょっといい?」
「シェイン、わかった。」
***
「分かってはいたけど、断っちゃうんだね」
「元々出るつもりはなかったからね。
勝手に持ち上げられてただけだよ。」
シェインも出場しない。
実力は十分だが、あまり前に出たがるタイプでもないし、当然か。
「あの、ハレファス様ですか?」
誰だこの子。
歳上……だよな。
僕と背は変わらないくらい。
最近、変な女に絡まれることが多い。
相手にするだけ無駄だが、無下にできないのも事実。
「そうですね。」
僕だと伝える。
「あの、正妻でなくて良いので結婚してください!!」
またか。
「えー、そういうのはよく分からないかなー
ちょっと忙しいからこれで」
「まただね。」
「そうだね、最近多いね。」
「いいよねー、私なんて求婚されたことないのに」
「まあ僕の場合は取り敢えず言っておこう程度だから。
真剣にというより、出来たらラッキー程度のやつだしね」
まったく、はた迷惑なことだ。
「戻すけどさ、ハレファス本当に断ってよかったの?」
「何度も言わせないでくれよ、国の重鎮にいい所を見せるのは今じゃなくてもいいだろ?
僕たちはまだ1年生だ。
あと6年あるんだぞ?」
シェインは少し思案したあと、
「開戦するかもよ? いい所見せてたら後方で安全な指揮官とかになれるかも」
と言ってきた。
「確かに、開戦ムードであることは否定しないけど、逆に前線で戦わされる可能性もある。
こればかりは分からない。」
僕の領土には、大した軍はいない。
それに比べてハヴァレアの領地は10万を超える軍人を抱えている。
それのせいで赤字と黒字を行き来しているのは心配だが。
「ハレファスの家は武家よりではないしね」
「それはシェインもだろう」
「そうだね。うちは農業地方だし」
「羨ましい限りだ。家業が医者だと天井が見えてるし」
「逆に安定してるとも言えるけど」
***
どんな目覚めよりもあの日が1番悪かった。
もちろんそれは夢の中でナキに殺された日だ。
気持ちのいい朝を迎えられるのは年々少なくなっているのを感じる。
今日の気分は………普通かな。
天井の模様を眺め続ける訳にもいかないため体を起こしベットから降りる。
どうやら、今回の対抗戦に父様も来るようだ。
忙しい人なので来れないとばかり思っていたが来るのか。
僕の門出には来てくれなかったのに……。
これも仕事の一環なのだろう。
ベッドに倒れる。
こうして起きてなおベッドに倒れるなど初めてかもしれない。
よし、さっさと準備を済ませて学校へ行こう。
*
「おい! ハレファス!」
「おはよう、ハヴァレアくん」
朝から皇女やシェイン以外から話しかけられるなんていつぶりだろうか。
と言っても、ただ会話したいと言う訳では無さそうだ。
後ろにクラスメイトの男子……6人を連れている。
まるで召使いの様だな。
後ろで控えている男子たちが取り囲むように僕の周囲に立つ。
僕も歩みを止めてハヴァレアと正面から向き合う。
「おはよう……ってそんなこと言いに来たんじゃねぇ!
てめぇ、テレスシーナ様のこと狙ってんだろ!」
「え?」
「あっ、」
は? こいつ何言っているんだ。
思わず疑問符が飛び出してきてしまった。
僕の挨拶に一応丁寧に返してくれた。それも束の間、脈絡のない不愉快な発言をされたことは聞き流すことにしよう。
皇女を狙っているならもうどうにかしてるだろ。君じゃないんだから。
ていうか隣から僕以外の声が。
振り向くとそこには皇女がいた。
そう、皇女が居たのだ。
彼と僕との会話の渦中に居て、今まさに物事を混乱させる要素の皇女が居たのだ。
狙ってやったのか?
そんな風体ではない。偶然ってのは怖いな。いや偶然じゃないな。
そんなことよりもだ。
確実に、複雑化していっている。
このままだと解くのが非常に面倒になる。
ここで皇女に立ち去られるのは先送りにしかならない。
何とかして皇女を引き止めて、僕たちとの会話の真相を丁寧に伝えねば。
「テレスシーナ様、話を聞いてほしいのですが 」
「え? え? ハレファス様が〜、私を狙ってる!?」
「いや、それは誤解でして 」
「いやぁぁぁぁそんな、あああぁぁぁ!!」
皇女を逃がさないよう腕を掴むが振りほどかれる。
くそ、なんて力だ。
ていうか、なんで僕は力負けするんだ。こんな箱入りの皇女ごときに手こずるなんて。
ブンブンと振り回した皇女の拳が僕の鼻にクリーンヒットする。
よろめき倒れた先でハヴァレアの取り巻きに抱えられる。
あ、ありがとう。
「ま、待ってください!」
「クックック、ざまぁねぇぜ!」
「ハヴァレアくん………」
なるほど、ここで「わざとやったの?」と聞くほど僕は馬鹿じゃない………
それこそ思うつぼだろう。
その上で「何のことだか」とすっとぼけるつもりだろう。
はぁ、僕も馬鹿だな。
面白い、乗ってやろうじゃないか。
なんでハヴァレアなんかの煽りに乗るのか、そんなの面白そうだからで事足りるさ。
「わざとやったの?」
「さぁ? なんの事だか」
ハヴァレアは隠すつもりがないのかニヤニヤと笑みを浮かべている。
取り巻きは無表情だが。
抱えてくれていた子が僕の脇を抱えて立ち上がらせてくれる。
「ありがとう」
「は、はい。」
「そうかい。変な疑いをかけて悪かったね」
「ちっ、行こうぜ」
どうやら興味を失ったようだ。
こういうのを、嵐のようだったというのだろう。
こんなことがないことを願おう。
これ以上続くなら僕も反撃する。
過度な嫌がらせ、いじりに負けるようじゃワイトラー家の名に傷が作ってものだ。
学園生活中くらい政争から離れられたらなんて考えていたのだが。世の中ってのは極端なくらい狭いのかもしれない。
「あっ」
ミュートリナと目が合う。
お互い繋がりがあることを周囲に認知されるのは良くないか、とも思うため挨拶はせず会釈だけしておこうか。
が、直ぐに視線を逸らされる。
まて、この時この場は大衆の目がある廊下。
見せしめ!?
「あれってハレファス様だよね」
「テレスシーナ様って皇女様のことだよね」
「めっちゃお似合いだと思わない?美男美女カップルだよ! ミュウ」
「た、確かにね。2人とも凄くキラキラしていて私なんか雲の上の人だよ〜」
「あっ、あ、」
違う、待ってくれ! 誤解なんだ!!
あんなのとお似合い? それはなんでも失礼だろ!
父親の地位だけのやつだぞ?
実力だって未知数なのにそんなんで釣り合ってるなんて笑わせるつもりか?
なんで朝からこんな疲れなきゃならないんだ。
くそ、ハヴァレア。
なんて嫌がらせだ。
あいつ、皇女のことを好きだとか噂を聞いた時から趣味の悪い男だと思っていたんだ。
だが、ここまで悪趣味だとは………
僕じゃなければ怒りで首を跳ねるところだっ………
まて、まずい。
嵌められた。
もしそんな噂が皇室に届けばどうなる。
まずいまずいまずい。
社会的にも、もしかすれば物理的にも死にかねん。
こんな行為、ハヴァレアが主導していたとバレたら立場が逆転しかねず普通の貴族の坊主ならしない。
普通じゃねぇ。
腐っても皇帝の娘。
親ならどんなバケモノでも可愛いと思うものらしいし、猫可愛がりしている子が、変な男に誑かされてるなんて噂を聞けば、首を跳ねられるかもしれない。
もちろん僕は変な男でもなければハヴァレアのような趣味の悪い男でもない。
誠実で優秀な男ではあるのだが。
だからって怪物のお守りをできる訳じゃない。
消極的分不相応というものだ。
何とかして誤解を解かねば。
ハヴァレアめ、面倒なことに巻き込みやがって。
誰に喧嘩を売っているのか理解していないようだ。
おまえは数の力で勝てたと思っているかもしれないがそれは眠れる獅子を起こしかけてる行為だと認識させるか?
嫉妬、執着、承認欲求どれにも当てはまるうちは相手にするだけ無駄だろう。
彼にとっていちばん大切なのは皇女と仲良くなることだろうし。それを邪魔せず放置しておけばそのうち飽きてくれるはず。
なにかされても気にしない。僕は大人なんだ。他の人とは違う。