勝つのは僕だ
年内2度目のテストを間近に備えた某日。
クラス対抗戦ということでどこのクラスの話題もテストで持ちきりだ。
僕のクラスも例外無く、口を開けばテストについて話している。
この学園では珍しい、息抜きできる行事だ。
普段のストレスを大いに発散して欲しい。
一応テストということで成績もかかっていることを理解している……と信じたい。
懸念していることがあるとすれば、やはり今年から始まる外部の視察だろう。
生徒の、一テストに過ぎないが今後の進路に関わる内容だ。
それに最近はどこの国も物騒になりつつある。
優秀な帝国の軍人を捕まえたいと、国の重鎮がこぞって集まると聞いている。
露骨に若手に目を向けていることと、戦争が近いことを結び付けずにはいられない。
軍事費用も増やしているみたいだし。
他国もそうだ。
もちろんそれは魔国も同じ。
いつ戦争に踏み切るか分からないな。
「おはようハレファス」
「おはようシェイン……とテレスシーナ様」
「様はやめてください」
「いえいえ、そういう訳にもいきませんから」
最近、シェインたちの様子がおかしい。
理由など容易く想像できるが、ここは敢えて気づいていないふりをするべきだと僕は思っている。
「きょ、今日はテストに向けてハレファス様に勉強を教えていただきたくて……」
「僕なんかでよろしければぜひ」
私呼びも指摘され、今では僕を使っている。
「ハレファス様のお部屋で勉強したくて……」
「分かりました。いつでも来てください。
待っておりますので。」
そう伝えると皇女は女子の集団に消えていった。
話の内容は………聞こえてくる。
僕の聞こえないところでしてくれないかな。
「ハレファス、テレスシーナ様とデート?
さすがだね。」
「やめてくれよ。そんな物騒なこと。
僕の命が危なくなるだろう。」
「淑女を部屋に招き入れるんだから、そういうことなんでしょ」
「聞いていたのか? ただ勉強教えるだけだよ」
聞いていたというか、知っていたんだろうな。
シェインも最近皇女たちと仲良くしている。
正直、僕は皇女とは仲良くしたくない。
何をしでかすか分かったもんじゃない。
僕の邪魔だけはしないで欲しいものだ。
僕にだって勉強があるのに図々しくも教えろなどと、せめて教えられるくらいになってから話しかけて欲しいものだ。
「ハレファス、テストについてなんだけど」
「総合点で競うシンプルなものだよね」
「それともうひとつ……」
「決闘のことかい?」
「うん」
「申し訳ないけど、僕は役に立てないからあまりその話をしたくないんだけど」
これは本当だ。
僕は一対一の戦いにおいて、一般人レベル。
このクラスには僕より戦闘が得意な人が何人もいる。
「そう? 魔術に関しては普通に学年でもトップ争えると思うけど」
「なんでもありの決闘において、魔術だけの僕が勝てるとは到底思えないよ。
バランスよく戦える、シェインの方がよっぽど強い。」
テストの総合点に加え、決闘というものがある。
全クラス5人出場で一対一。
勝ち数の多いクラスが次に進めるシンプルなルール。
なんでもありで反則はない。
男女比も関係なく、自由に選べる。
配点も高く、決して下手に落とせない。
たかが遊び、されど遊び。
しかし明確に士気に関わる。
最初は楽しみムードでも、負け続ければ次第にやる気はなくなり、テストで手を抜く者も出てくるかもしれない。
「ハレファスもバランスいいと思うけどなー」
「僕のバランスが良くても、それよりも安定している人がいるならその人を使うに越したことはないよ」
***
ふぅー、ふぅー。
落ち着け私。
「あの、ハレファス様」
部屋の前でハレファス様を呼ぶ。
あー、もうやばい。心臓のドキドキが止まらない。
バレないよね。
でも近づいたら聞こえちゃうかも。
「お待ちしておりました。テレスシーナ様。
狭い部屋ですがどうぞ。」
「お、お邪魔します」
ハレファス様のお部屋。
彼が生活してる………。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでも……」
少しキョロキョロしすぎました。
男の子の部屋、新鮮でつい舐め回すように見てしまいました。
気持ち悪いと思われたかもしれません。
苦しいよぅ。やっぱりこんなの無茶だったんだ。
今からでも引き返したい。
「それでは、早速始めましょうか」
「よろしくお願いします」
………
……
…
ハレファス様が普段使っている勉強机。
所々にメモがある。とても勉強熱心なんですね。
……あああ!! どれだけ頑張って思考を逸らそうにも、ハレファス様が隣に居れば意識しちゃうよう。
「あのハレファス様。ここの問題についでなのですが……」
「ご遠慮なく。なんでも聞いてくださいね」
そうやって笑顔を向けないで!!
恥ずかしい。…かっこいい。
見つめたいけど、やっぱり恥ずかしい。
さっきから汗が止まらない。
臭いとか思われてないよね?
ああああ怖いよう。
「んー、」
真剣な横顔も素敵。
あっ、目が合った。
「テレスシーナ様、解けました。
この問題。力学の知識だけでも解けることに変わりないのですが数学の応用を使えるようにしておくと後々楽なので、難しいですが一緒に解いていきましょう」
「はい」
………
……
…
この短時間でわかったことなんですが、ハレファス様の知識量は凄い深いです。
色んなことを知っているから、なんでも納得させられます。
正直、その賢さには嫉妬してしまいそうです。
「にしても凄いですね。テレスシーナ様の集中力はなみの生徒を遥かに凌ぐ。」
「そ、そんなことないですよ」
褒められちゃいました。
嬉しい。
「いえいえ、本当に凄いことなんですよ
ですが、もう時間です。今日は送っていきますよ」
「そんな、大丈夫ですよ。」
「テレスシーナ様にもしものことがあれば、僕が悲しいので」
「んなっ!」
それって……まさか!? え、え!?
「ですので送らせてください」
「はい………よろしくお願いします………」
そう言うと、彼はそっと手を差し伸べてくれました。
やばい、手汗とか大丈夫かな。
顔も熱い。
結局、部屋に着いてからもこの熱は冷めることなく寝ついたのは深夜を越していた。
***
どこだここは。
そしてなぜ僕は全裸なんだ。
なんというか、寒いな。
全裸だから当然かもしれないが。
周りは真っ暗……いや、真っ黒だ。
変な夢でも見ているのかもしれない。
「ハレファス!」
「あ、あなたはあの時の」
いつぞやのバカ女じゃないか。
「ハレファス全然遊びに来てくれないじゃん!
私に嘘ついたの!?」
「そういう訳では……あ。あなたの名前聞くの忘れてた。」
「今更でしょ。……ナキって呼ばれてたと思う。」
なんだそれは……
まるで自分の名前が分からないみたいな言い方だな。
まあいい。
「そんなに会いたいのか?
それならそちらから会いに来ればいいじゃないか」
「それが出来ないからこうして夢に干渉して話しかけてんじゃん!」
「それなら会わなくても良いのでは無いですか?」
「いや、結構力使うから頻繁にはできないんだよね。」
だろうな。出来たら今の今まで音信不通なわけないし。
「君はあそこから離れられないのかい?」
「そうみたい。何度か離れようと試みたんだけど最後は元の場所に戻されちゃうのよ」
ああ。なんて哀れなんだ。
そして、間抜けなんだ。
「ふふ、ふふふふふ。」
「ハレファス?」
「なるほど。そして君はまだ僕が会いに来てくれると本気で思っているわけか」
そこまで言うとバカ女でも気づいたらしい。
見る見る顔が怒りの色へと変色する。
「騙したの?」
「騙した? そうだ。その通り。」
「なんでよ!!」
「君は本当にバカなのか?
あの場で会いにこないなんて言えば君は僕を返してくれなかっただろう?」
「そ、そんなことない!」
「そうか。バカな女は自分を正しく見ることすら出来ないのか。」
「なんなのよ! さっきからバカバカって!」
「事実だろう?
何せあんな所に縛り付けられている哀れなバカ女だ。
これをバカと言わずなんと言うんだい。」
そこまで言うとナキは膝から崩れ落ちる。
なにか思い出したのかもしれない。
そして、いやことでもフラッシュバックしたか。
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない………」
ああ、可哀想だ。
頭が悪いばかりに騙され続けたのだろう。
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
そう呟きながら立ち上がり僕に近づいてくる。
まあ、神を自称する愚か者だ。
色々とトラブルに巻き込まれてきたのだろう。
しかし、それで溜まったストレスを僕にぶつけたりはしないで欲しい。
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
「なっ!」
僕の目の前に現れたかと思うと、ナキは僕の首を女とは思えない力で締めてきた。
くそ、何するんだこいつ。
「はな……せ……」
ナキの顔を見る。
そこで俺は絶句し、抵抗する力が抜けるのを感じた。
そこには目玉がなく、赤黒い液体をとめどなくたらし続ける化け物がいた。
「絶対に、殺してやる!!」
首の骨が折られるのを感じた。
〰〰〰
「うわぁぁぁぁ」
はぁはぁ、なんなんだ。
夢? なっ、気持ち悪い。
汗もそうだが、吐きそうだ。
「あ、っ、………あ」
吐き出したものは全て血で、ドクロのような形をしていた。
急いで治癒魔術をかけた。
くそ、あの女。
僕を殺す……ふざけるな。
僕を殺す前に、僕がお前を殺してやる。
お前が僕に与えた、デオキシリボブレイクで!
書き溜めはここまでです。
これからはちょくちょく更新していこうと思います。