南下する遠征軍
市街地を走る戦車部隊の隊列は、延々と数十キロにわたっている。この最強の機甲軍団を指揮する、劉軍団長は退屈な戦闘指揮車両から99式戦車へ乗り移っていた。
元々彼は戦闘部隊の指揮官であり、何よりも実戦で敵を叩きのめすことを望んでいた。
突如、先頭を走る戦車が炎に包まれた。側面からの対戦車ミサイル攻撃だ。
「機動歩兵だ!」
右前方のビル付近から、曳光弾が放たれている。
「やっつけろ!」
戦車の125ミリ滑空砲が一斉に火を吹いた。数十発の直撃を受けたビルは崩れ落ち、一瞬に瓦礫の山と化した。歩兵戦闘車が現場へ向かい、狙撃を警戒しながら敵の死体を探している。
この様子だと、巻き添えを食った一般市民の死体の方がはるかに多そうだ・・・
このような戦闘を繰り返し、劉の機甲軍団は鄭州から武漢、そして南昌へ向かっている・・・郭政治委員はこの千キロ近い大遠征に、政治的な意義を見出していた。
劉にとっては、そんなことはどうでもよい・・・彼はひたすら戦闘を求め、南昌からさらに南下を続けている・・・
快速機甲師団は、散発的に抵抗する敵機動歩兵を蹴散らして進んでいる・・・それでも劉の要求するスピードには追い付けない。
彼は空路で次の目標に移動し、現地を守っている部隊に発破をかけることにした。福建省の永安に敵が集結し、敵勢力圏の突出部となっていたからだ。
頑強に抵抗しているところから見て、この敵は一定の補給体制が構築されているものと疑われた。東へ三百キロも進めば、台湾海峡へ達する。
劉は北京にいる曹参謀総長を無線で呼び出し、その怒りをぶちまけた。
「敵の補給路は海路に決まっている!占領下の台湾が最も怪しい・・・地下組織の連中が日本と通じて侵攻部隊を支援していると俺は見ている・・・だとすれば周浩然の怠慢だ!ここは奴の管轄だからな!」
曹は劉の分析能力に感心したが、彼の短所も見抜いていた。
「周に対処させます・・・あなたは機甲軍団の到着を待ってください」
「馬鹿いえ!今、将牢山のキャンプで一個大隊を指揮している、ここで奴らを叩き潰す!」
曹は無駄と知りながら、説得するそぶりをみせた。
「しかし、これまでと違って敵は部隊を集中させています。軍団長に身の危険が及ぶかもしれません・・・」
「敵は脅威でないと言ったのは君だろう?俺は戦闘に戻る、話は以上だ!」
通信を切られた曹は、目の前にいる周浩然に言った。
「かなりお怒りのようだ。君に対してだが・・・対処頂けるかね?」
周は彼の言う「対処」の意味を十分理解していた。台湾の地下組織は、独立を取り戻す抵抗運動の傍ら、日本の仕掛けたゲリラ戦を支援しようと動いていた。
台湾行政区は周浩然の管轄である。周は彼らの行動を黙認するどころか、彼らへ情報を流しては活動の手助けをしていた。
「敵将は将牢山にあり、ですか・・・私が伝えずとも、彼らは既に把握しているかもしれません・・・劉は居場所を無線で堂々と暴露されましたから」
周の言葉に、曹はため息をついて頷いた。自信過剰な劉は、全く敵を舐めきっているに違いなかった。
「彼の最期にふさわしい場所じゃないか・・・私は作戦会議に戻る。もう一人、動かさなくてはならない人物がいる・・・」
郭政治委員は、優位な戦況に満足していた。一時はこのこしゃくな敵に冷や汗をかいたが、自分主導で事態を収拾することが肝心なのだ。
張黎明は依然として姿を現さないが・・・これで郭はその代理が務まることを証明することになる・・・名実ともに、張黎明の後継者であることを世に示すのだ。
作戦会議を終え、退席しようとする曹に郭は声をかけた。
「発言しなかったな?不満でもあるのか?」
「不満ではありません。あなたの作戦が見事に当たりましたな。私の出番はなさそうです」
「君は敵の仕掛けたゲリラ戦に、何か裏があるとみていたようだが・・・当てが外れたということか?」
「そのようです。私が敵を過大評価していたのでしょう」
素直に認める曹を、郭はなだめるように言った。
「君が策を講じるまでの相手ではなかったということだ。劉が最後のとどめを刺すことで脅威は消え去る・・・私が思うに、敵の作戦は我々を混乱させ、失敗をやらかす期待をしていただけだ」
既に失敗しているが・・・曹は思ったことを顔に出さなかった。そして今思いついたように、郭へ提案した。
「そろそろ前線を視察されてはいかがでしょう?あなたが敵の殲滅を主導したことを内外に示す、絶好の機会だと思いますが」
予想通り、郭は話しに乗ってきた。
「それは私も考えていたところだ・・・」
「武漢や南昌はいかがでしょう?既に劉が制圧して・・・」
郭は眉をひそめた。
「安全なところでは意味がない・・・空路で福州へ向かう。少数だが敵が残っている・・・ここで遠征を終える劉を出迎えれば効果的だ」
郭はすっかりその気になっていた。台湾海峡を見渡せるその都市で、彼は劇的な勝利宣言を演出するつもりでいる・・・
しかし、それは実現しないだろう・・・曹には分かっていた。
そして郭は・・・巧みに曹の口車に誘導されていることを、全く疑っていない・・・




