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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
25/27

大規模ゲリラ戦

 重慶方面へは、戦車隊を中心に一個師団が急行していた。重慶と成都の航空基地が攻撃を受けていた。何れも小規模なものだったが、付近に配備されている戦術核の位置を悟られぬよう、劉は神経をとがらせている。

 重慶の飛行場へ戦車隊が突入した。敵は対戦車ミサイルを撃ち尽くしたのか、駐機してある軍用機のかげから小銃を撃ち返している。

 96式戦車の125ミリ砲一斉射撃で、この敵は粉砕された。しかし、同時に新鋭の戦闘爆撃機J-16も同時に吹き飛ばされた。

 敵機動歩兵は装備していた火器を撃ち尽くし、ほとんど戦闘力を失っていた。戦車隊がそれに気づいていれば、さほど熱心にならなかったのかもしれない。

 しかし、一部の敵による「核兵器鹵獲」のニュースが、国家を揺るがす大変な危機を、強烈に印象付けていた。

 機動歩兵を即刻皆殺しにすべし、との強迫観念に駆られ、巻き添えを食う犠牲は、人民であれ、何であれ無視された。そして彼らを、盲目な戦闘集団に変えてしまった。

 

 この空港で起きたような戦闘が、地方を中心に中国全土で展開されている。曹参謀総長は、この大規模掃討作戦が無意味であることに気付いていた。

「敵部隊殲滅!」

「新手の部隊を追跡中」

「敵潜伏の集落を攻撃中・・・」

 これらの報告を苦々しく聞いていた曹は、悠然と指揮を執る郭政治委員を、軽蔑のまなざしで眺めていた。

 曹は中央軍事委員会を離れ、北京にある呉徳生軍団長の司令部を訪ねた・・・


 呉徳生のデスクの向かいに、周浩然が座っている。そこへ曹参謀総長が現れ、三人が向かい合った。それは予定された会見だった。

「張黎明主席の容体は?」

 曹は周に尋ねた。

「誰にも分かりません。彼自身が厳重なかん口令を敷いています」

 呉は曹の顔色をうかがうように言った。

「彼が生き延びることを願う・・・でなければ我々は敵同士になる」

 それを聞いた曹は、自分が丸腰であることを二人に示した。

「ここはあなたのテリトリーだ。単身で私が訪ねたことを配慮願いたいが・・・」

 白々しいことを言う・・・呉の目はそう語っていた。

「信用するかどうかは、君の考えを聞いてからだ」

 一年前まで、曹は周と呉をクーデター犯として追っていた人物だ。

 これまでは、張黎明の存在が内部のバランスを保っているにすぎなかった。それが崩れつつあることを曹は悟っている。

 そして彼は、ある決意を打ち明けねばならなかった。

「私は郭と劉に見切りをつけた・・・信じるかどうかは君の勝手だ」

 周と呉は顔を見合せた。あまりに露骨な言い方は、彼らを驚かせた。

「罠にかけるつもりか?君が策士であることは十分承知している」

「私は元々権力に無関心でね・・・成り行き上、今の立場になってしまったが、あなたたちを追いかけていた頃の方が、まだ充実していたように思える・・・」

 かつて彼に追われていた周が、皮肉っぽく尋ねた。

「人民弾圧の仕事が充実していましたか?」

「戦争に明け暮れるよりはまだいい。それに君は善良な人民ではなかった」

 かつて理想を追っていた周は、遠い過去を思い出すように苦笑した。

「革命を、平穏に、円満に、上品に、謙虚に遂行することは不可能である・・・毛沢東の言葉です。そろそろあなたの企てをお聞きしましょうか?」

 周に促された曹は、今こそ彼らとの利害の一致を試みる、最後の機会であると思っていた。それは彼にとっての賭けであった。

「単純なことだ・・・今の状況は、日本の思惑通りに事が運んでいる。この狡猾で大胆な、大規模陽動作戦に、我々はまんまと引っ掛かっている・・・一部でも核を奪取したことは、我々を恐慌に陥れるのに十分だった。軍の最高指揮官は、この得体のしれない敵に対して、大規模動員で掃討するという致命的な誤りを犯した。我々を騒がせた敵は食料も弾薬も尽き、核ミサイルの上に寝そべったまま、既に息絶えているかもしれない・・・」

 曹は二人の顔を見比べながら続けた。

「もし私が日本の指揮官だったら、今こそ、我々の心臓部を押さえるだろう。方々に散らばった主力は直ぐに戻れないし、伸びきった補給路を断つことも容易だ・・・」

「待ちたまえ」

 呉軍団長は即座に否定した。

「敵にその打撃力はない。それに後方支援と首都防衛が私の役目だ。見くびってもらっては困る」

「その通り。主力の補給路を断ち、首都を押さえられるのは、あなたの軍だけだ」

 曹は再び二人の顔をうかがった。予想通り、彼らは大して驚いてもいない・・・

「君らは日本と通じていると私は見ている・・・でなければこの陽動作戦は無意味だ」

 しばらくの沈黙・・・そして周がそれを破った。

「もしそれが事実なら、参謀総長のあなたはどうします?我々を逮捕しますか?」

「郭と劉の抹殺に、手を貸す。負ける側につきたくないだけだ」

 今度は呉が、慎重に尋ねた。

「事実でなかったら?我々が日本側と何の繋がりもなかったら?」

「同じことだ。意思疎通の有無に関わらず、奴らはそう仕向けている。我々の内部の危ういバランスを見抜き、クーデターのお膳立てをしてくれている。私は決して、日本寄りではないが・・・かれらの用意した道を進むのが最善と思っている」

 この曹の態度に、呉はいささか驚いた。

「敵の意のままに動けと?奴らは我が国の内戦を誘発させ、弱体化を狙っているだけかもしれない・・・君らしくない、浅はかな考えに思えるが」

「確かに内戦にはなるが、既に勝負は見えている・・・私があなた方につくことによってね」

 だとしても、呉は自分の軍を動かすリスクを恐れている。黙って聞いていた周は、呉軍団長に言った。

「彼は郭と劉打倒の自信があるようです。まずはこの名参謀長の作戦を伺ってからにしましょう」

 彼らは口にしなかったが、それは最大の前提条件の上に成り立っている・・・

 それは間もなく訪れる、張黎明の「死」だった・・・


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