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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
24/27

侵攻開始

 1937年に始まった日中戦争は、蓄積した中国側の反日意識の高まりが、偶発的な事件を発端に全面戦争へ拡大したものといえる。それ以前の満州事変の時から・・・この露骨な関東軍の謀略は、中国進出への野心をあらわにしていた。

 日露戦争を経て勝ち取った関東州へ、一万の守備軍を駐留させたのが関東軍の前身といわれる。この守備隊は増強され、二十年後には日本政府も手を焼くほどの傍若無人ぶりを発揮する。

 関東軍は中国人を犯人に仕立て上げ、政敵を暗殺した。また、自ら満州鉄道を爆破し、武力行使の口実を作った。手際よくやったつもりが、何れも彼らの謀略と疑われた。

 反共親日勢力拡大への工作も失敗した。その頃、中国は内戦に明け暮れていたが、日本を共通の敵として結束させてしまった。

 当時五億の人口を持つこの広大な国家を、日本は百万の軍隊で屈服させようとした。

 毛沢東は、彼の「持久戦」理論通りに抗日戦を展開する。正面攻撃を避け、遊撃戦とゲリラ戦で徐々に相手を弱らせる。

 長期戦に持ち込むほど、日本軍が不利になることを彼は知っていた。戦車も空軍もない彼らが敗北しなかったのは、敵対する蒋介石を称え、共産党は脇役に回るとまで言い切って、彼を仲間に引き入れたことに尽きる。

 一時は日本側に立った蒋介石を、関東軍は手なずけられなかったのか?

 宿敵の共産党軍と手を組んだ方が、蒋介石にとって、はるかにましだったということだ。彼は、支持者である人民の反日感情を無視できなかったのだ・・・


「私は民心が張黎明から離れつつあるように思える」

 統合幕僚長の言葉に、韓国から帰国したばかりの竹永陸佐はうなずいた。

「そうかもしれません。一年たった今、あの時の熱気が冷めたように思います。このところ張黎明も表舞台に姿を現していないようです」

 すると米内海佐が異を唱えた。

「そうでしょうか?あの時の民衆の歓声を、自分は鮮明に覚えています。危険を顧みず、彼らは民主化を叫び、北京まで行動を共にしました・・・」

「君はあの天安門の歴史的な会見に居合わせたはずだ。ならば彼が土壇場でとった行動を覚えているだろう?」

 統合幕僚長の問いに、米内は首を傾げて考え込んだ。

「張黎明ショックで忘れたようだな・・・彼は共産党第二勢力と手を結んだ。郭政治委員と劉軍団長たちだ」

「ええ、覚えていますよ。彼らは降伏して張黎明側へ寝返ったのでしょう?」

「そして彼らを重要な地位につけ、第一線の指揮をとらせている。悪魔と手を握るようにね・・・アジア共栄圏実現の為に、巨大な軍事力を手にしなくてはならなかったからだ。張黎明はどういう事情かは分からないが、相当焦っているようにみえる」

 防衛省の作戦会議を主導する統合幕僚長は、次の段階を示さなくてはならなかった。

「各地に散らばった機動歩兵がゲリラ戦を展開する。敵はその鎮圧のために兵力を割かなくてはならない。かつて毛沢東の戦術が日本軍を悩ませたように、各方面の指揮官は混乱し、軍の統制に隙が生じるだろう・・・そして次の段階へ進む」


 南京、成都、重慶、瀋陽、大連、武漢・・・人民解放軍の有力な空軍基地が、ほぼ同時に襲撃を受けた。戦術戦闘機、戦闘爆撃機が主要攻撃目標だった。

 自走式地対空ミサイル、レーダー基地・・・無数の攻撃目標の中に、最重要目標が含まれている。

 東風31を始めとする大陸間弾道弾、中距離弾道ミサイル、戦術巡航ミサイル・・・何れも核弾頭付きだ。

 配備地域は最高機密とされているが、偵察衛星でほぼつきとめられている。


 中央軍事委員会では郭政治委員を中心に緊急会議が招集されていた。

「朝鮮ルートは遮断しましたが、ほぼ五百を超える地域から敵侵入の報告を受けています。何れも小規模ですが、かなりの重装備で・・・」

「複数の空軍基地が制圧された模様です・・・敵は広範囲にばらまかれている模様で・・・」

「韓国からの連絡が途絶えました・・・クーデター発生の情報もあり・・・」

 最も深刻な事態が、曹参謀総長から報告された。

「移動式MRBM十二基が鹵獲されました」

 議場は静まり返った。

「核弾頭は500キロトンです」

 それは広島型の二十倍以上の核出力であり、十二か所の都市を壊滅させる威力を意味していた。

 郭政治委員は青ざめた顔で問い返した。

「それで、対策は?」

「彼らがそれを操作することはできません。しかし、我々もうかつに彼らを攻撃できないでしょう。慎重に事を運ばないと取り返しのつかないことになります」

 ここに張黎明の姿はない。曹は彼なりの分析から対策案を示した。

「侵入した敵は、我々をパニックに陥れていますが、それぞれ一個小隊規模にすぎず、総数は2~3万人程度とみています。補給体制もなく、長期間の活動は不可能です・・・我々は振り回されることなく、敵の真の意図を見極めなくてはなりません」

「敵の意図は破壊工作だとはっきりしている。それを黙って放置するわけにはいかないだろう?わが軍の威信にかかわる問題だ」

郭政治委員は一刻も早い敵の殲滅を望んでいた。

「全土に戒厳令を敷き、一気に片を付ける」

「軍を分散させることには反対です。私はそれが敵の意図と思えてなりません」

「自分も曹参謀総長の意見に賛成です」

 呉徳生軍団長が、珍しく曹に同調した。

「劉の軍は一個小隊相手に、二個中隊が大損害を出してようやく殲滅した・・・無駄な戦闘は避けるべきでしょう?」

 名指しされた劉は黙っていなかった。

「奇襲攻撃を受けたからだ。同じ手は食わない・・・」

 劉軍団長は、こしゃくな敵に面目をつぶされ、復讐心に燃えていた。

「自分が奴らを皆殺しにしてみせます」

 反論しようとする曹を、郭政治委員が遮って言った。

「この件は劉軍団長に対処してもらう。空軍も彼の支援に回す。五十万の兵を君に委ねることになる・・・早急に片づけるんだ」

 劉は満足そうに敬礼した。郭は不安顔の曹に向いて言った。

「君の心配事に備えて、呉徳生の軍を温存しておく・・・これならば文句あるまい」

 曹は渋々承諾するしかなかった・・・


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