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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
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装甲歩兵旅団の反撃

 敵の九州侵攻作戦が頓挫しかけた時、密かに進めていた計画が実施されようとしていた。

 侵攻の一大拠点、釜山港は乗船準備の北朝鮮兵、軍用車両に膨大な補給物資、帰還する負傷兵が入り混じって混乱を極めている。

 そんなところへ、九百名の装甲歩兵がいきなり現れ、殴り込みをかけた。博多湾で拿捕した輸送船に乗り込んだ彼らは、釜山港制圧の使命を帯びた決死隊である。

 不意を突かれた敵兵はパニックを起こし、右往左往している。その中を、装甲歩兵は構わず突き進む。金海空港方面からやってくる援軍を食い止めるためだ。

 敵が落ち着きを取り戻した時、白兵戦が始まった。自動小銃は主に抵抗する北朝鮮兵に向けられる。弾薬を打ち尽くし、敵戦車へ突入して念願の「自爆」を果す者もいる。

 決死隊は、その半数を失い、釜山港を制圧した。残ったものは、金海に通じる三つの橋に陣取り、友軍上陸まで死守する構えだ。


 温存されていた海自が動き始めていた。北九州から対馬、釜山に至る海路を抑える目的で、護衛隊群が集結しつつある。

 それに先立って、村上海将率いる「そうりゅう」型を主力とする潜水隊群が、中韓連合艦隊への奇襲攻撃に成功した。雷撃を受けた韓国海軍は五隻の駆逐艦を失い、艦隊は退却を余儀なくされる。


「まさに『村上水群』だな。制海権奪取は『倭寇』作戦とでも名付けたらどうだろう?」

 防衛省の作戦会議で、統合幕僚長は上機嫌に言った。米内海佐はそれほど楽観的になれなかった。

「中国が本腰を入れると厄介なことになりますが・・・」

「君はまだ『張黎明』恐怖症から抜けきれてないようだ。彼が恐れていたのは日中全面戦争だ。何故だか分かるかね?」

「それは・・・日本が第二の祖国と思っているからでしょう」

「それは違う。彼は根っからの中国人だよ」

 米内はため息をついて頷いた。

「そうでしたね・・・今や大国の頂点に立った彼が、何故恐れるのでしょう?」

「私と戦わねばならないからだ」

 出席者からは笑いが起こったが、単なる冗談でないことは誰もが理解している・・・

 

 シルバー装甲歩兵構想・・・この非情な用兵理論を推進したのは、他ならぬ統合幕僚長だった。そして同盟の拒絶についても・・・彼の粘り強い説得が政治家たちを動かした。

 同盟を結んだ時点で、自動的に日本がアメリカへの盾になる。諜報戦を得意とする張黎明は、対米工作で、日米戦を画策するかもしれない・・・日米双方を消耗させるためだ。

 つまり、これは対等な同盟でありえず、ただ中国を利するための謀略の一部にすぎないのだ。

 日本は歴史的に独自の価値観に基づく道を歩んできた。大国に飲み込まれることもなかった。強いて言えば、最近まで米国の傘下に近い状況だったかもしれない・・・それも完全になくなった。この先もないだろう・・・

 張黎明が描く「アジア共栄圏」へ組み込まれるなど、御免被る。それは我々の価値観で、我々自身の理想で進めるまでだ・・・

 この不利な状況の中で、日本は持ちこたえている。中国側は上陸作戦に踏みきった時点で、百万の北朝鮮陸軍をもって、容易に日本を圧倒できると思っていただろう。せいぜい十五万の陸自兵力相手だから無理もない。

 しかし、次から次へと現れる装甲歩兵の前に血路を開くことはできなかった。次第に消耗していった彼らは、逆に反転攻勢を許す状況になっている。


 中国側は、この状況をまだ深刻な脅威とは受け止めていなかった。

「何とも無謀なことをやりますな。釜山へ拠点を構えるつもりらしい・・・確かに、得体のしれない新兵器だが・・・」

 昇格した劉軍団長はむしろ呆れて言った。

「所詮は強化された歩兵にすぎない・・・空軍と戦車部隊を相手にするには火力が乏しすぎる・・・すぐに蹴散らされるでしょう」

 会議出席者の中で最も昇進したのは、大抜擢された曹参謀長だった。彼はこの事態を、それほど楽観視できなかった。

「朝鮮の兵力をあてにしない方がいいかもしれません。北はともかく、韓国側の士気が著しく低下しています。今のうちに我々の地上部隊が乗り出すべきと考えますが」

「それはできない。張黎明主席の基本方針に背くことになる・・・」

 今や軍を統率する立場になった、郭軍事委員長が続けて言った。

「孤立した日本は長くは持たない。故に我々が出るまでもない。空軍と海軍の支援に留めておく」

「そういえば大昔にこんな戦争がありましたな・・・」

 ふと、曹が思い出したように言った。

「七百年以上も昔の話です。モンゴル人、宋人、高麗人で日本を攻めましたが、生き残ったのは高麗人のみ・・・その三百年後、今度は豊臣秀吉が朝鮮を侵略しましたが、救援の要請にも関わらず、明国は援軍を渋ってしまい・・・彼らは大損害を被った・・・」

「何の話をしているんだね?」

「彼らが中国の手先になっても、常にろくな目に遭っていません。彼らがそれを思い出さなきゃいいですが・・・」

「いつの時代の話だ?君がそんな話をするとは・・・ともかく、奴らが怖気づかぬよう気合を入れろ。逃げれば背後から撃つと脅してもよい。同盟の義務を果たしてもらうまでだ」

 それ以上の議論はなかった。曹は自分が何故、あんな話をしたのか不思議に思ったが、敵の指揮官を調べたときの、仕事上の勘だった。

 この統合幕僚長なる人物は、歴史になぞらえて物事を考える癖があるらしい・・・だとすれば、この一見無謀に見える反攻も・・・何らかの意味があるのでは・・・


 そして新手の装甲歩兵旅団が、続々と釜山港を目指していた・・・


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