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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
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九州防衛戦線

 一年が経った・・・

 博多駅に向かう列車に、戦闘服姿の集団が乗っている。不思議なことに、何れも七十才前後の高齢者たちだ。

「あの戦闘装具というやつ、実戦用は自爆装置付きでしょう?誤作動しなきゃいいですが」

 それは彼らに支給される「新兵器」であり、全員その訓練を受けていた。

「自軍陣地内では安全装置が働いて、起爆しないらしいですよ」

「それはよかった。自殺願望者は結構いますからね」

「我々老人にとっては希望の発明ですな。この年になって、マラソンも登山も全く苦にならないのですから」

「全くです。個人的に欲しくても手に入らない代物ですよ」

 駅に到着し、全車両から数百人が行列を作って降車している。構内の広報用大型モニターには『ようこそ博多へ』に続いて、『若者の命を守る、あなたへ感謝します』とつづられていた。

 周辺の多くの建物は破壊されている。黒煙くすぶる中の駅前広場は、陸自戦闘部隊の出撃拠点になっている。およそ千体の戦闘装具・・・動力付きのハイテク「鎧」が並び、隊員たちは装着の順番を待っている。

 陸自の隊長が、メガホンで彼らに呼び掛けていた。

「十時間ごとにバッテリーの補給を受けて下さい。敵味方識別信号を必ずオンにして下さい。小銃発砲の際に照準画面に表示されます。対空及び対戦車ミサイルは各一発しか持てません、慎重に狙って下さい・・・」

 この戦闘装具を身に着けた途端、老人が一級の兵士に様変わりする。最前線の博多湾は目と鼻の先だ。爆音が響き渡り、攻撃ヘリと戦闘機が海の方角へ向っている。

 このいわゆるシルバー戦闘部隊は、徴兵制のない日本にとって、今や地上部隊の主力となっている。彼らはれっきとした志願兵たちだった。

「未来ある若者を死なせてはならない」

「人生の最期を、介護ベッドで迎えるのか?国を守る名誉の戦死で終えるのか?国の存亡がかかる今、選択の余地はない」

 そのようなスローガンが高齢者層自身から沸き上がり、他人に迷惑をかけたくない国民性、さらに彼らの弱体化した身体を補う戦闘装具の登場が、世の中の流れを変えた。

 高齢化社会のピークに達した日本から、五百万を超える志願が殺到した。

 在日米軍の全てが帰国した今、日本は独力で中韓連合と戦わなくてはならない。

 一年前、張黎明が予言した通り、北朝鮮は崩壊し、韓国は同盟を受け入れた。アメリカは

自国第一主義から中国の裏取引に応じてアジアを去った。

 唯一の計算外は、日本が中国の同盟を拒絶したことだ。それは西側諸国からけしかけられたと言ってもよい。彼らは血を流さない代わりに、日本への膨大な援助を約束した。この戦闘装具もそのひとつだ。

 釜山港を出港した上陸部隊は、民間徴用含むあらゆる船舶を動員し、玄界灘へ殺到した。

 主力は北朝鮮の部隊で構成されている。彼らは中韓の海空軍支援の下、九州北部へ侵攻拠点を築く使命を帯びている。

 兵力の劣る自衛隊は、その貴重な戦力を温存する戦術をとった。地上配備の対空兵器は、補給拠点を狙うミサイルを迎撃した。その他の施設は、弾道ミサイルの飽和攻撃を防ぎきれない。

 がれきの山を進む、装甲歩兵部隊は博多湾に向っている。

「見ろ、上陸を待つ輸送船の群れだ」

「敵の車列が上陸している・・・まるで観光客のように堂々としてやがる!」

「全部上陸させろとの命令だ、でなければ俺たちの出番がない」

 戦車、装甲車、軍用トラックが続々と港湾道路沿いに列をなしている。同士討ちを避ける為、敵の空襲が止んだのは幸いだった。

 銃を持つアームとゴーグル照準器はリンクし、全員が優秀な狙撃手になっている。各自一発ずつ装備する対戦車誘導ミサイルは、目標にロックされれば外しようがない。

 がれきのあちこちに潜む彼らは、十分に待って、敵を引き付けた。

「やっつけろ!」

 対戦車ミサイルの群れが、車列のあちこちを吹き飛ばした。炎上する戦車や車両が敵の動きを封じた。

 トラックから歩兵部隊が飛び出している。

「撃ち殺せ!」

 一斉射撃でなぎ倒される集団が見える。敵兵も応戦し、味方にも損害が出る。「鎧」といっても、機動性が重視され、防御力は十分ではない。「歩く柩」と呼ぶ者もいる。

 遺書を残し、親族と別れを告げた彼らにとって、それは「柩」で十分なのだ。もはや帰るところもなく、寿命を全うするだけである。

 装着された記録カメラは、戦果が大きいほど、遺族にとっての名誉となるのだ。

 敵の反撃が弱まったところで、装甲歩兵部隊は戦友の屍を乗り越えて突撃する・・・

 

 このような激戦が、いたる所で繰り広げられた。多くの高齢志願兵たちが、それぞれ望んだ最期を遂げた。

 そして中国軍の第一陣として、侵攻した北朝鮮部隊は、哀れな「消耗品」として、壊滅した。

 老人たちは一抹の罪悪感をぬぐえなかった。死ぬために志願したとはいえ、未来ある若者を手にかけなくてはならない・・・

 そんな思いをよそに、この恐るべき戦闘部隊は優勢な敵に対抗するため、増強の一途をたどる。人的資源は十分あり、本土防衛に不足はない。

 むしろ、彼らの死に場所がなくなり、いずれ大陸へその地を求めることになるだろう・・・


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