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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
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朝鮮統一工作

 米内海佐と「しらぬい」艦長は護衛艦隊に戻っている。中村教授の姿はない。代わりに河原駐在員が乗り込んでいた。

 天津港の埠頭には大勢の民衆が見送りに来ている。

「司令部に報告したら仰天しますね」

 艦長が沈黙を破って言った。米内はショックが大きかったのか、ずっと無言だった。

「全く・・・信じられない話です」

 やっと口を開いた米内の顔は、絶望に満ちている。

「我々は作戦の多くを中村教授に依存していました・・・この先、全くお手上げですよ」

「本国が何と言うでしょうな?中村教授の意のままにはならないとは思いますが」

「中国との同盟の話ですか?もはや事態は我々の手から離れました・・・政治が判断するでしょう」

 艦隊は帰国の途につくことになる・・・一艦も失うことは無かったが、果たして勝利といえるのだろうか・・・

 複雑な思いが入り乱れる中、十一隻の艦隊は天津を後にした。


 人民大会堂では、日本人が去った後も、話し合いが続いていた。

「日本は簡単に応じないだろう・・・彼らには時間的猶予を与える。その前にやっておくことがあるからだ」

 もはや彼は中村教授ではなく、張黎明として話していた。

「国内統治は周浩然に任せる。台湾は特別行政区として、従来通り経済活動をみとめればよい。但し、軍は解体する」

「・・・わかりました。行政組織のことも任せて頂けますね?」

 周の申し出に、張はうなずいた。

「文句ないかね?郭政治委員」

「ありません。彼なら民衆をうまくコントロールできるでしょう。それよりも・・・」

 張は郭を遮って言った。

「欧米は我々の出方を伺うだろう・・・当面は民主国家誕生を印象付けることに専念するが、同時に進めておく作戦がある」

 曹上尉は張の意図を理解していた。張黎明の活動拠点は華北にあり、北朝鮮と国境を接する地域だ。この独裁国家の存在は、彼の世界戦略を進める上で大きな変数になっていることは疑いなかった。

「潜伏する北の諜報部員が期待に応えるでしょう」

 曹は先回りしたように答えた。二人しか通じない会話を、周囲は不思議そうな顔で聞いている。

「台湾の時のように、手際よくやれるか?」

「我々に寝返る者も出るでしょう。あの若いリーダーは裸の王様です」

 たまりかねた郭政治委員が口をはさんだ。

「失礼ですが、何の話でしょう?」

 張黎明は自ら教える前に、曹上尉の考えを聞きたいと思った。

「曹君に聞いてみたまえ。私と同じことを考えているはずだ」

 発言を促された曹上尉は立ち上がった。

「北朝鮮の総書記とその家族を、協力者の手引きにより我が国へ拉致するのです」

「何だって?」

 郭は呆れたように声をあげた。

「ご承知の通り、北朝鮮の支出は弾道ミサイル開発が優先され、特に陸軍の不満が高まっている。食料の配給すら滞っている状況です。突然トップが消え、偽情報が飛び交うことで、軍の主導権争いが表面化するでしょう。我々は一部の勢力へ肩入れし、支援を約束して内戦をけしかけます。勝負がついたところで、我々の出番です」

 さすがの郭政治委員も、その意味に疑問を抱いた。

「この状況で、朝鮮に手を出すことの意味が理解できないが・・・一体何の目的でそんな手間をかける?」

「南北統一の為ですよ」

「それじゃあ北が弱体化するだけで、韓国が喜ぶだけだ。まさか北を韓国へ譲渡すつもりじゃないだろうな?」

「そのまさかです。韓国が北を呑み込むのです・・・但し、我々との同盟がその条件です。彼らがその条件に飛びつくと、私は確信しています。そして自動的に、韓国の米軍には出て行ってもらうことになります」

 一呼吸おいて、曹は張黎明の顔を伺った。

「こんなところでしょうか?」

「何故、が抜けているが、それは私から話そう」

 国の形も定まらぬまま、今やることとは到底思えない・・・誰もがそんな顔をしている。

「無論、国内問題も台湾問題にしても、やることは山ほどある。だが、本当の我々の脅威は、朝鮮半島に米韓連合の橋頭保を築かれることだ。歴史を知るものなら、その地政学的重要性がすぐ分かる。逆にここを抑えれば、日米に相当なプレッシャーになるんだ」

 張黎明の描く理想は、中国のみならず日本の理想でもあるはずだった・・

 しかし、それでも日本は容易に屈しないだろう・・・その時、彼らは思い知ることになる。

 文永・弘安の役によるフビライの九州侵攻作戦、秀吉の朝鮮出兵、日露戦争における旅順攻略作戦、そして日中戦争・・・何れも朝鮮ルートは双方にとって欠かせない要衝なのだ。

 張黎明は、予言めいた言葉で締めくくった。

「朝鮮半島の工作は半年以内に終らせる。問題はその先だ・・・日本が我々の側に立ち、我々の強力な防衛拠点になるか、あるいは我々に敵対し、我々への侵攻拠点になるかは、一年後に決まっているだろう・・・その時こそ、我々の世界戦略の重要な分岐点になる」


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