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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
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張黎明の正体

「台湾進攻作戦は、我々が指揮しています」

 郭政治委員の発言には誰もが驚いたが、大半の者はたちの悪い冗談と受け取った。だが続きを聞くにつれ、それを意味する重大性が認識されていく・・・

「我々に一任されたのですよ。魚釣島は我々の独断で占領しました。暴走を咎めるどころか、我々の作戦能力が高く買われましてね・・・台湾作戦へ全面的な権限を与えられたのです。北京の危機への対処が優先される中、政権維持と、台湾への勝利を確実にするための高度な政治判断です」

 周浩然はまだ懐疑的だったが、彼に合わせるかのように言った。

「ならば話が早い。即刻撤退を命じて頂けますか?」

「撤退?台湾はもはや反撃能力なく、降伏を打診しているのですよ。我々は勝利を目前にしているのです」

「勝利?あなたはどちら側の人間です?」

「我々は共産党の配下ではありません。そのことは明確に申し上げておく」

「では誰の命令に従っているのですか?」

「共産党のトップは殺害され、中央軍事委員会の幹部たちは皆、あなた方が拘束したじゃありませんか?つまり、我々自身の判断で動けるようになったわけです」

 周は苛立ったように郭に向って言った。

「念のためお尋ねするが、あなたがここにいる理由は、我々に降伏したからではないのですか?ならば我々に従ってもらわねば、あなたは敵ということになります」

 郭政治委員たちは銃を構えた兵士たちに囲まれている。しかし郭は全く動じていない。

「従うかどうかの判断は、新政権のリーダーの考えを伺ってからです。周浩然、あなたがその立場にないことは知っている・・・張黎明の忠実な弟子だがまだ若い。ここはやはり張黎明の考えを聞いてみるべきじゃないか?」

 周浩然は反論できなかった。呉徳生師団長も・・・張黎明の名は、地下組織の誰もが知る伝説であり・・・そして公然の秘密だった。

 そして彼の絶対的な理念が、民衆をここまで導いたのだった。

 教師を目指した若者が、農民の支持を得て大国の指導者になった、毛沢東のように・・・生まれ変わった中国は、新たなリーダーを必要としている。問題は彼にその覚悟があるのかどうかだった。

「ここに張黎明を知る者がいます」

 郭より発言を許された曹は立ち上がった。

「私は彼を追い続けていました・・・そしてついに突き止めたとき、彼の目指していたものが理解できたのです・・・河北省で生まれ育った彼は教師を目指すうちに、新しい国家観を打ち立てます。それはいわば、自由社会主義的思想であり、地方を中心に、その理想を説き、根付いていった・・・当然のことながら彼は共産党から目を付けられました。国を追われた彼は、日本国籍を取得します・・・知略に富む彼の才覚は日本でも遺憾なく発揮されました。大学教授という地位の傍ら、日本政府の工作員として中国へ潜入、活動していたのです。しかし、かれの本質は、理想の中国を思い描く、中国人のままでした・・・」

 曹上尉は、呆然とした顔に変わった、米内海佐と「しらぬい」艦長を横目で見た。

「違いますか?中村教授。いや、張黎明先生と申し上げるべきでしょう」

 誰もが中村に注目した・・・彼は大きくため息をついた。

「ひとつ間違っている・・・中国と日本の理想だ」

 中村は観念したように答えた。

「曹君とかいったね?尖閣諸島で我々のシナリオを狂わせ、台湾への電撃戦を成功させた・・・君が第三の勢力のブレーンだったわけだ」

「あなたは空前のクーデターを成功に導き、裏で日本政府をも動かしていた・・・その世界観に、私など到底及びません」

 苛立って聞いていた米内が口をはさんだ。

「どういうことでしょう?自分には全く理解できません」

 彼には、到底受け入れることができない状況だった。

「聞いての通りだ」

 中村は否定も、釈明もしなかった。

「我々は・・・いや、日本政府は、あなたに騙されていたということですか?」

「裏切られたと思っているかね?そう思われても仕方ないが・・・どうか、私の話を聞いてもらいたい」

 今、まさに彼は張黎明として、重大な判断を下そうとしていた・・・

「郭政治委員、台湾が降伏の打診をしているのは事実かね?」

「はい。米国と日本から直ちに支援を受けられないことで絶望したのでしょう。徹底抗戦しても祖国が蹂躙されるだけで、誰も助けてくれないと悟ったようです」

「では直ちに降伏を受け入れ、平和裡に陸軍を進駐させることだ。米軍は手出ししない」

「分かりました。命令を下します」

「待ってください!台湾併合などしたら国際社会の反発を招きます!」

 周浩然が噛みつくように言った。

「中村教授!日米を敵に回すつもりですか!」

 米内も当然のことながら猛反対した。

 中村は穏やかに言った。

「日本は敵ではない・・・日本が手を握るべき相手は、新生中国なんだ。米国にとって、日本は前衛基地としての価値しかない」

「長年培った同盟関係です。そんなもろいわけがありません」

「米国は決して他国の為に戦争はしない。その一国主義が、元々彼らの本質なんだ。ただ、彼ら自身が手ひどい目に遭った時、目を覚ました彼らは恐ろしい敵になる。真珠湾や同時多発テロの時のようにね・・・従って、眠ったままの彼らは全く脅威ではない。今の台湾の状況がそれを物語っている・・・そしてそれは、近い将来の日本の姿でもある・・・ついでに言っておくが、歴史上最も日本人の命を奪った国はアメリカだ。中国人の命を奪ったのは毛沢東と日本だが、日本は新生中国の立役者として、対等に利益を享受する資格をもっている。しかし、中国が民主国家として生まれ変わろうが、アメリカは我々の前に立ちはだかる。日米半導体協定のように、我々を経済的に締め上げようとするだろう・・・」

 張黎明として立ち上がった彼は、整列した聴衆たちに向って続けた。

「幸い、我々は彼らに対抗できる軍事力をもっている。そして彼らの一国主義に立ち向かうことができる・・・日本と共にだ。日本が加われば、ヨーロッパも取り込むことが可能だ。彼らもアジア共栄圏に加わろうとするだろう。そして新しい世界秩序を形成し、我々がその中心に立つ・・・台湾と日本は技術立国として中国を支えることで、相応の地位と富を手にするだろう。次にヨーロッパ、そしてインド・・・・もしアメリカがおとなしくしていれば、分け前の一部を与えてやってもよいが、そうでない場合は容赦しない・・・新秩序のためだ」

 しばらくの沈黙・・・郭政治委員は立ち上がって拍手した。そしてそれは全体に広まり、拍手と歓声で包まれた・・・


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