天安門会談
天安門広場には大勢の人々が集まっている。広場の一角には呉徳生率いる民主同盟軍と、降伏した正規軍の車両が整列している。西側にある人民大会堂に呉徳生は部下を引き連れて入場していた。
中国共産党の権威の象徴ともいえる広大な建物の一階に、国家接待庁の大部屋がある。国家主席が来賓と会見する場所だ。
まもなくここへ周浩然が、降伏した共産党の要人たちを連れてくる。呉はそこにあった豪華な椅子のひとつに腰かけた。
「どうも居心地が悪いな・・・お偉方はここでふんぞり返って客人を威圧したんだろう」
「劉が会見を申し出ていますが・・・」
部下が呉に耳打ちした。劉とは三日前まで砲火を交えていた相手だ。
「直前で我々に寝返った男です。信用できますか?」
「構わん、ここへ通せ・・・おかしなマネをしたら発砲しろ」
兵士たちの監視の中、劉師団長を含む四人の男が入ってきた。劉は敬礼し、三人の男を紹介した。
「こちらは郭政治委員、呂海軍中将、そして特殊警察部隊の曹上尉だ」
呉に促されて彼らは来賓席に座った。
「あなた方は我々の説得に応じて降伏した。そのことは評価するが、もっと早く決断すれば余計な血を流さずに済んだと思うが?」
呉の毅然とした物言いに、劉は無表情に答えた。
「我々も命令を受け、義務を果たしたまでだ。軍人の君なら分かるだろう」
外が騒がしくなった。民衆たちの歓声が聞こえる。
「到着しました」
部下の報告で呉は席を立った。
ドアの前で兵士たちは整列し、気を付けの姿勢をとった。物々しい雰囲気の中、劉師団長ら四人も起立して「客人」を迎えねばならなかった。
兵士の一人がドアを開いて敬礼した。入ってきたのは、周浩然、中村教授、米内海佐に「しらぬい」の艦長の順で、そのあとに捕虜となった国防部部長、外交部部長、国務委員らが続いた。
呉徳生は中村教授と握手を交わした。
「お待ちしていました。民主同盟軍の呉徳生です。あなたをお迎えでき、嬉しく思います」
「こちらこそ。この勝利はあなたの働きのおかげと伺っております」
中村教授らは周浩然に促されて「豪勢」な椅子に腰かけた。中村は異様な視線を向ける四人の存在に気付いた。
「あなた方は民主同盟軍ではありませんね?海軍の方もいる・・・まちまちの立場の方のようだ」
「中国語がお上手ですな・・・失礼、我々は敵ではありません」
郭政治委員は答えた。
「あなたに最も会いたがっていた者を紹介します。熱烈なファンと言ってもいい・・・特殊警察部隊の曹です」
曹は一礼した。
「曹です。任務上、あなたをずっと追い続けていました。こうしてお会いできて光栄です」
中村は曹の顔をまじまじと眺めた。
「ほう・・・私のどこまで調べたのかな?」
「日本人のお仲間の手前、今申し上げる訳にはいかないでしょう?」
その言葉で中村には十分だった。
「なるほど、君か・・・我々を手こずらせたのは。すると河原駐在員も君の手中にあるというわけか」
「ご安心下さい。彼はいたって健康です。いつでもお渡しできます」
中村はあらためてこの四人を観察した。彼らは明らかに何らかのメッセージを発しようとしている。
「そろそろ本題に入りましょう」
黙っていた周浩然が口を開いた。
「困ったことがひとつあります・・・我々は天津で脱出しようとするヘリを撃墜しました。」
「知っている。我々の艦隊からよく見えた」
中村はちらっと米内と艦長を横目で見た。
「中に誰が乗っていたのかね?」
「国家主席と副主席です」
あたりが静まり返った。
中国語のやりとりの為、米内と艦長は状況が理解できない。
「中村教授、我々には話の内容がさっぱりです。これでは参加した意味が・・・」
たまりかねた米内が中村に言った。
「撃墜したヘリに国家主席が乗っていたらしい」
日本語で答えた中村はあたりを見回した。それを察したかのように曹上尉が口をはさんだ。
「通訳なら適任の者を待機させています」
中村はやれやれ、といった顔つきでため息をついた。
「手回しの言い男だ。検討はつく・・・通したまえ」
曹が合図すると、兵士に先導された河原駐在員、そして女工作員が入ってきた。河原はきまり悪そうに一礼して離れたところに座った。女工作員は通訳として米内と艦長の間に座った。
「なるほど、河原が現を抜かすわけだ・・・下らん話は後にして、本題に戻ろう」
促された周は話を続けた。
「攻撃ヘリ部隊が早まって撃墜しました。重要人物の空路の脱出はありうるとは思っていましたが・・・うかつでした。客船の方に目を奪われていたようです」
劉師団長が呆れた顔で口をはさんだ。
「今更何を悩むことがある?クーデターならトップの暗殺も当然起こりうることだろう?」
「だから貴様を誘わなかった。我々は流血クーデターを望んでいない」
呉は劉を窘めるように言い、周がそれを補足した。
「そう、国際社会の支持を失いかねない事態です・・・政権移譲の演出のために、彼を殺してはならなかった」
通訳を通じて米内たちは状況を理解した。しかし米内にはもっと優先すべき重要な事案があった。
「それよりも台湾です」
彼は立ち上がって、日本語のまま声を上げた。
「あなた方の力で、台湾への攻撃を即刻止めて頂きたい」
日本語の分かる周が、彼に同調した。
「彼の言う通りです。実権を握った新政権が台湾への侵攻を止めさせる・・・その流れにしないと西側の支持が得られないでしょう」
中村は周囲を見渡して言った。
「共産党のトップが死亡し、主だった幹部は捕らえられている・・・一体誰が台湾進攻の指揮をとっている?」
「我々です」
答えたのは政治委員の郭だった・・・




