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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
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歴史的合流へ

 天津は北京から南東120キロの距離にある人口千五百万の大都市だ。渤海に面する大規模な港湾があり、埠頭のひとつに十万トンのクルーズ客船が停泊している。

 三千名収容可能の客船に、北京を脱出した政府の要人たちが続々と乗り込んでいる。主に行政府の国務院から、国防・外交・公安・司法・財政・教育・商務などの名だたるトップをはじめ、行政の執行に欠かせない人材たちが集まっている。

 呉徳生と周浩然が率いる民主同盟軍は、北京の主だった行政機関を制圧した。彼らは要人たちの後を追うように、天津まで進出している。

 トップクラスの大物たちはヘリで移動し、客船のヘリポートへ降りようとしたところへ呉徳生配下の攻撃ヘリ部隊が現れた。

 護衛のヘリとの空中戦が始まり、数機が火だるまになって墜落した。

 一刻の猶予もないと悟った共産党幹部たちは直ちに出港を命じた。護衛のフリゲート艦二隻に先導され、クルーズ客船は埠頭から離れようとしていた。

 フリゲート艦に警報が鳴り響いた。「敵艦あらわる!」の報告に彼らは目を疑った。五千トン級の駆逐艦クラスが11隻、横並びになって行く手を塞いでいる。

 全艦に旭日旗が翻っていた。

 自衛艦隊は発光信号で停船を命じた。フリゲート艦はひるむことなく、艦対艦ミサイルと76mm砲で応じた。彼らは命に代えても客船を守れと命じられていた。

 ミサイルはレーダー追尾の20mm機関砲「ファランクス」によって撃墜された。

「応戦します、いいですね?」

「しらぬい」艦長は中村教授に許可を求めた。

「やりたまえ。あの二隻は降伏しないだろう」

 90式艦対艦誘導弾が四発発射された。慌てたフリゲート艦は37mmガトリング砲で迎撃しようとしたが、失敗した。ミサイルは全弾命中した。

 フリゲート艦二隻は大火災とともに、その攻撃力は失われた。

 自衛艦隊は客船を取り囲むように接近した。

「初めての交戦になりましたな・・・ここまで無傷で来れたのは奇跡です」

 事実、艦長の言う通り、黄海から渤海にいたる航海に何の障害もなかった。

「全くです」

 米内海佐も何隻か失う覚悟でいた。

「あるいは天に導かれたのかな・・・」

 中村教授はつぶやくように言った。

「地上からは何も撃ってきませんね。彼らは味方ですか?」

 艦長は尋ねた。双眼鏡を覗くと、客船の向こうの埠頭で大勢の兵士や人々が手を振っている。

「民主同盟軍だ。予定通り、港は制圧された。発行信号で接岸するよう、客船に命じたまえ。おかしなまねをしたら発砲すると脅せばいい」

「わかりました」

 艦長は中村の指示通り、信号を送らせた。米内はうまくいきすぎていることにむしろ不安を覚えた。

「船内には護衛の兵士たちも同乗しているはずです。おとなしく降伏するでしょうか?」

「要人の命を危険にさらすことはしないと思う。それに海は完全武装の我々に、行く手を阻まれている」

 中村の携帯電話の着信音が鳴り響いた。唖然とする二人の前で、中村は普通に電話で誰かと会話している。

 艦長はそっと米内に話しかけた。

「ここは敵地のど真ん中です。長居は無用と思いますが」

「同感です。我々の所在は敵の正規軍に知れ渡っているでしょう・・・」

 電話を切った中村はしばらく考え込んで二人に言った。

「周浩然からだ。思った通り、連中は降伏した」

 米内はやったとばかりに手を叩いた。

「反乱軍の勝利ですね。我々にとっても大勝利です!」

 艦長もホッとため息をついた。冒険的な作戦だったが、見事にやりとげたのだ。

 しかし、話はそれだけで終わらなかった。

「迎えのボートがやってくる。私は行かなくてはならないが、君たち二人にも来てもらうことにした」

 艦長は耳を疑った。

「何故私が・・・」

「私の一存で決められないこともある。政治的な話だ」

 尚更、彼には不向きだと思った。

「自分は艦隊を離れるわけにはいきません。不測の事態が起きた場合・・・」

「艦隊の安全は私が保証する」

 中村は毅然として続けた。

「むしろ、ここで話をつけておかないと、艦隊は生きて帰れないかもしれない」

「あの・・・」

 米内が話に割り込んだ。

「私も艦長と同じ、海自の一佐官にすぎません・・・政治的な話など責任を負いかねますが」

「軍事作戦は政治の延長だが?無関係と思われては困る」

 困惑する米内に、中村は諭すように言った。

「君は海自作戦の責任者だ。東シナ海で護衛艦隊が大損害を受け、台湾から去った。君は立場上、中国の新政府へ言うべきことを言わねばならない」

「それよりも、この艦隊は一刻も早く本体と合流して態勢を立て直さなくてはなりません。米艦隊の主力が太平洋を渡ってくるまで・・・」

「それまで台湾が持ちこたえると思うかね?」

「地上部隊はまだ健在です。まだ戦えるでしょう・・・」

「彼らに徹底抗戦の意思があれば、の話だ。制空権を失った彼らは、膨大な犠牲を覚悟しなければならない」

 米内は黙った。人口二千四百万の世界有数のハイテク産業国は、その人的・物的損失にどこまで耐えられるだろうか・・・

「破局を止められるのは、新しい中国の体制だ。今、正に中国が生まれ変わろうとしている・・・そして我々はその歴史的瞬間にいる」

 迎えのボートが近づいている。歴史的な合流が始まろうとしていた・・・


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