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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
13/27

民主同盟軍

 飛び交う悲鳴とともに群衆の動きが止まった。路上で炸裂した125ミリ砲弾数発が人々を吹き飛ばした。銃声が響き渡り、恐慌とともに人波が渦を巻くようにUターンを始めた。

「前方に戦車部隊!」

 無線報告を受けた呉徳生は指揮車両の装甲車から身を乗り出した。遥か前方で96式戦車の隊列が道路を封鎖している。

 北京の入口まで来て、初めて行く手を阻む邪魔者が現れた。呉の戦車部隊は群衆を守るように前面へ展開した。

 人民解放軍の戦車隊どうしが真っ向から対峙した。呉は無線で警告した。

「前方の戦車隊は直ちに退去せよ。我が民主同盟軍は人民に銃を向ける者を敵とみなす」

 呉の警告に対し、聞き覚えのある声が返ってきた。

「反逆者の指図は受けない。民主同盟軍とはお笑い草だ」

 呉はその声の主が、直ぐに分かった。

「劉か?何故お前がここにいる」

「北京は俺が守ることになった。貴様の思惑通り、軍の大半は南へ移動したからだ」

 呉は初めから劉を仲間に引き入れるつもりはなかった。天安門事件の第二十七軍のように、情け容赦なく民間人を撃ち殺す者たちと行動を共にできない。

 この有能だが、非情な男といずれ対決する日が来ると思っていた。

「人民への発砲許可は無効だ。命令を下した者も、実行した者も裁きをうける。既にお前は人民を殺した。死刑を逃れたいなら、今ここで降伏することだ」

 呉はそっと部下に合図した。別の通りから、増援の戦車部隊が続々と現れた。

「お前には声をかけなかったが、この通り同士が大勢集まった。何故だか分かるか?殺人集団になるより、人民の軍になることを選んだからだ。お前が人民に発砲したことで、彼らはそれを確信しただろう」

 援軍を得たことで、群衆は勢いを取り戻した。方々から歓声が上がっている。その中で「張黎明!」と叫ぶ声が入り混じっている。

 それは周浩然によって広められた、伝説の人物の名だった。見えざる民主化リーダーとして、今や宗教的色彩まで添えるに至った。

 そして、その象徴的になった名は、人民をまとめ上げるのに大いに役立った。

 優勢と感じて気をよくした民衆たちだったが、上空を見上げて表情が曇り始めた。数十機の対戦車ヘリコプターが横並びになって前面から接近してくる。

「戦車キラー」のWZ-10攻撃ヘリだ。装甲された機体に対戦車ミサイルを装備した、まさに戦車の天敵である。

 呉が対空戦を命じようとしたその時、一人の男が呉の前に立って遮った。

「それには及びません、呉師団長」

 呉は久しぶりに周浩然の顔をみて驚いた。

「今までどこにいた?」

「あなたに代わって援軍を集めていました。良心や信念だけでは彼らは動きませんが、勝ち馬に乗る心理は大いに役立ちます。我々の勝利を説き、大群衆を引き連れたあなたが北京へ迫ったことで、それが確かなものになったでしょう」

 周は上空を指さして言った。

「彼らも同様です」 

 対戦車ヘリコプターの編隊は、呉の機甲師団上空に達した時、くるりと向きを変え劉の戦車隊へ対峙した。呉の配下に下ったことを示すかのように。

 劉は劣勢に立たされたことを認めざるを得なかった。しかし降伏するつもりなど、微塵もない。

「俺がどんな男か、貴様はよく知っているはずだ。逆賊どもに俺が屈すると思うか?ここから先は一歩も通すつもりはない。貴様が守ろうとしている暴徒どもが大勢死ぬだけだ」

 劉の言う通り、あらゆる通りは人で溢れ、どこを撃っても大量の人間が死ぬことになる。呉は周に意見を求めるように言った。

「どうする?このままじっとしているわけにはいかない・・・劉は北京に援軍が来る時間を稼ぐだろう」

「仕方ありません。前進しましょう」

 呉の戦車部隊はゆっくりと進み始めた。双方とも、それぞれの敵に狙いを定めている。部下のひとりが呉に報告した。

「ヘリ部隊ですが・・・攻撃許可を求めています」

「何だって?命令あるまで撃つなと伝えろ」

 呉は周浩然を横目で見た。血の気の多い連中を引っ張ってきたのかと疑った。

「彼らは既に中央へ反旗を翻しています。周りの地上部隊も同じ気持ちでしょう・・・優勢なうちに片を付けたいと思っているはずです。もはや恐れるのは敗北しかありません」

 周は当然の事のように言った。戦闘を避けたい呉は、無線マイクをとって劉に呼びかけた。

「劉よ、ここで殺し合ってもお互い得にならない。我々の側につけば処遇を考えてやってもいい。どうする、メンツの為に血を流すか?」

 じわじわと双方の距離が狭まっていく・・・お互い外しようのない程の照準になっている。

「処遇か・・・それなりの地位を約束するなら考えてやってもいい」

「望みは何だ?」

「国家主席だ」

 劉の返答で、呉は説得をあきらめるようにマイクを置いた。

 一機の攻撃ヘリが突然急降下し、劉の戦車隊の前で挑発するように旋回した。反射的に一台の戦車が12.7ミリ機関銃をヘリに向けて撃つ。それが戦闘開始の合図となった。

 攻撃ヘリは一斉に対戦車ミサイルを発射した。誘導ミサイルは次々と戦車に命中し、大半の戦車が火だるまになった。

 劉の戦車隊も狂ったように撃ち返し、呉の戦車隊も突入して壮絶な戦車戦が始まる。ヘリの最初の一撃による劉の損害が大きかった。劉の部隊は反転し、退却を始める。

 呉は追撃を命じた。大軍を率いてそのまま最終目的の北京へなだれ込むのだ・・・


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