暴かれる陰謀
護衛艦「しらぬい」は久米島沖で補給艦「とわだ」の給油を受けている。那覇港へは入港せず、客人は那覇空港からヘリコプターでやってくることに計画が変わった。新たな航路はその客人の指示を受けることになっている。
「しらぬい」のヘリポートにSH-60K哨戒ヘリが飛来し、着艦体制をとっていた。出迎える艦長は客人が何者か知らされていない。
着艦したヘリコプターから二名の男が現れた。海自の制服を着た者と、スーツ姿の学者風の年配者が艦長に歩み寄った。
「情報部の米内です。こちらは中村教授で、機密上素性を明かせませんが・・・」
中村はそれを遮るように口をはさんだ。
「私は口うるさいただの大学教授だ。君に命令する権限はないが、いろいろ口出しさせてもらうよ」
艦長は苦笑しながら敬礼した。
「お待ちしておりました。あなたの指示に従えと命令を受けています。早速ですが・・・行先はどちらです?」
「済州島南で護衛艦隊と合流する。その先はまだ言えない」
中村はあっさり答えた。済州島と聞いて艦長は首をかしげた。
「護衛艦隊は台湾へ向かうと聞いていますが・・・」
「大部分はそうなるが、一部は特殊作戦の為、別行動だ」
特殊作戦と聞いて、艦長は「またか」と思った。尖閣諸島でそれを実行したばかりだ。
「何故君の艦を選んだかということだが・・・」
「厄介な任務だからでしょう?それには慣れています」
艦長は二人を艦内へ促した。後ろから汽笛が聞こえ、米内はふり向いた。給油を終えた補給艦が立ち去っていく・・・
海自艦隊の作戦は米内自身が立てたものだったが、自ら現場に立つことになるとは思ってもみなかった。尖閣諸島の事件でシナリオが狂い始め、今後も不測の事態は十分起こりうる。そうした脈絡で彼ら自身の乗艦が決まった。
外界との通信を途絶し、秘密裡に行われるこの航海こそ、作戦の成否を握ることになる。今度こそ失敗は許されない・・・米内は二人の後を追って艦橋へ向かった。
曹上尉は自分のオフィスに戻っていた。彼の優秀な部下たちは貴重な情報を手に入れ、曹の帰りを待っていた。
まず、通訳に扮していた女性工作員が報告した。
「河原ですが、少し脅しただけでいろいろと自供して下さいました。内容は李少尉が報告します」
「尋問の通訳が君なら白状するしかないだろう。よくやった」
「私の任務もここまでですね?今度は日本へ行かせて下さい」
彼女は言い残して立ち去った。
次の報告は曹の腹心の部下、李少尉からだった。
「ご命令の中村という男の調査ですが、調べれば調べる程、奇妙な事実に突き当たります・・・」
彼に手渡されたファイルに、曹は目を通した。ページをめくるたびに曹の顔つきが変わっていく。
「三十年も前に張黎明を名乗っている・・・・同一人物というのか?」
「間違いありません。彼は有能な弟子を育てることに熱心で・・・最近頭角を現したのがこの男です」
「周浩然・・・共産党員か」
「河原に会っていたのはこの男です」
李は、更にある人物の経歴書を手渡した。人民解放軍の軍人だった。
「群衆と行動を共にしている機甲師団の指揮官、呉徳生師団長です」
机の上に並んだ資料を前に、曹は目を輝させていた。
「中村、周浩然、呉徳生・・・主要人物が揃ったわけだ」
曹はこれらの断片的な情報を頭の中でつなぎ合わせていた。そして上空から眺めた群衆たちの整然とした行進を頭に浮かべた。
「連中が北京を目指しているのは確実だ・・・」
「随分距離がありますが・・・」
「あの群衆はいくつかの『核』で構成され、そいつらが動きをコントロールしている。実際に移動するのはその小グループ・・・恐らくその中心で周浩然が指揮を執り、呉徳生の機甲師団が追随する・・・行く先々で出現する群衆と合流し、大規模なうねりを起こそうとしている・・・」
「そうなると、ますます手が付けられなくなりますな・・・公安も軍もリスクを恐れて手出しできないでしょう」
「それが連中の狙いだ。これまでの偶発的なものと違って、周到に準備し、計画的に行動している」
曹は中村に関する調査に最も関心をもった。
「中村は何故、張黎明を名乗ったのかな?その名は地下組織の合言葉になっていた。まるで伝説の人物か何かのように・・・」
曹の頭に突拍子もない仮説が一瞬浮かんだ。それはおぼろげに姿を現しては消えた・・・その正体こそ、全ての鍵になると思えてならなかった。
「この男に一度お目にかかりたいと思っていたが・・・それが実現するかもしれない」
李にはその意味が分からなかった。
「中村ですか?彼は日本にいるはずですが」
「私の読みが正しければ、中村はどこかで周浩然と落ち合うことになっているはずだ。でなければ彼らの最終目的は達せられない」
「クーデターが最終目的でしょう?中村と何の関係が・・・」
「周浩然でも呉徳生でもない・・・中村こそ、その首謀者だ」




