表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫闇朱月  作者: もにょん
第1章 少女と妖
7/37

第1章-3 森と月と闇4

残酷な暴力描写および無理矢理な性描写が出てきます。嫌いな人、十五歳以下の人、及び現実と妄想の区別がつかない人はブラウザを閉じて下さい。

 唐突に現れた男はまったく見覚えのない男だった。

 僅かに黄味がかった象牙色の肌に血のように赤い髪。見たことのない(たもと)を合わせる様な黒い衣装を身につけ、長い髪を黒い紐で適当に結っている。

 何よりも特徴的なその切れ長の目の色は、まるで狂月(きょうげつ)のように金の混じった朱色をしていた。

 その目を楽しそうに細めて私達を見下ろしている。

 

「助けてやろうか?」

 

 まるで遊びに誘うかのような気安さで尋ねる男の様子は、状況にあまりにそぐわなくひどくのんびりとした余裕を感じさせた。

 その明らかに人とは違う色彩に、ふと幼い頃に与えられた絵本に出てきた話を思い出す。

 人ならざる者は藁にも縋るような状況に立っている人の願いを叶える代わりに、その人の一番大事なもの…多くはその人の魂を…代償として奪っていくのだと。

(あやかし)と契約を交わすつもりはないわ!」

 睨みながら噛み付くように妖の問いかけを跳ね除ける。

「この状況でも?」

 私の返答にますます面白そうに笑いで喉を震わせながら周囲の狼達を顎で示した。

 新たに現れた得体の知れない男に狼達が威嚇の唸り声を上げる。

 だけど心なしかさっきよりも威勢がない。獣の詳しい生態なんて知らないけれど、何となく怯えているかのようでもある。

「くどい!」

 再び男の救いの手を払いのけるようにきっぱりと断る。

 意思を示すようにぐっと懐剣を持つ手を男に示して見せた。

 …なのに男はそれを気にした様子もなくさらに私に向かって距離を詰め、その手の甲に指先を這わせる。

 何故かひどく優しく触れる冷たい指先の感触にざわりと肌が粟立った。

「お前、可愛いな」

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 けれど男のからかうような笑みを見て、それが懐剣を持つ私の手の震えだと気付くとカッと頬に熱が上った。

「――ッ!」

 反射的に横に振るった刃からあっさりと逃れるように男は一歩退き、何が楽しいのかまた軽い笑い声を立てた。

 馬鹿にされている。

 もともと頼るつもりはなかったけれど、この男にだけは死んでも頼るものかと心新たに決心する。

「あぁ、欲しィな」

 ぽつり、とまた男が呟いてじっと私を見つめる。視線が絡み合ってその朱金の瞳に浮かぶ『何か』に…ぞっとした。

 認めたくはなかったけれど先ほど狼に囲まれたと分かった時よりも強く深い戦慄が湧き上がる。

 まるで深淵を覗き込んでみたら引きずり込まれそうになったような、そんなより本能的な部分に警戒を呼びかけられるような恐怖に知らず背後の2人に身体を押し付けるように退いた。

 そんな私から男は視線を外して狼達に向き直る。

「じゃ、雑用を片付けッか」

 ぐるりと男が狼達に視線を巡らせた。

 それに耐えかねたように2匹の狼が唸りをあげて男に飛び掛ってくる。

 だがその狼達が男に触れる直前でビクリと体を震わせ虚空に浮くように留まった。

 男がその間をすり抜けるように悠々と歩を進めると、それと同時に狼の体が(いびつ)に縦に裂ける。

 しばらく何が起こったのか分からなかったけれど、月光に照らされる狼達の躯を見て唐突に何をしたのか理解した。

 刃だ。真っ黒な、闇に溶ける様な…否、闇そのもののような巨大な刃が地面から唐突に現れ狼達を突き刺し、その刃がそのまま左右に信じられない力で裂けて狼達を引き裂いたのだ。

 けれどそんな所業を成した男は微塵でも動揺を見せるどころか平然と面倒だという表情を隠しもしない。

 先ほどの自分の直感が正しかったことを強く思い知った。闇を従える男はまるで魔王のようだ。

 私が呆然としている間にも次々と肉が貫かれる音と、一転して襲撃者から被害者に変わった狼達の哀れな悲鳴が闇の中に響く。

 やがて狼達は文字通りしっぽを巻いてさらに森の奥深くへと逃げていった。

 じっとりと湿った土の香りに生臭さを含んだ鉄錆の香りが混じる。

 これが何の臭いなのかもう私はすぐに分かる。今日だけでどれほどこの血の香りを嗅いだのだろう。

 後ろで耐えかねたのかアリーとシャイラが地面に胃の中のものを吐き出していた。私はそれを通り越してしまって、今の状況に現実感が持てず悪い夢のように感じられる。

 逃げる者には興味がないのか、狼達が離れたのを確認すると男がこちらに戻ってきた。

 再び私の前に立ち私を見下ろしながら男が手を差し出す。

「俺と来い」

 無礼で尊大な言葉に怒りが湧き上がって少しだけ現実に引き戻された。

「行くわけがないでしょう。さっさとここから1人で去りなさい」

 できるだけ冷たく言ったつもりなのに、男は気にした風もなく余計に面白そうな笑みを浮かべる。

 私が反抗すればするほど楽しいみたいで、性格が歪んでいると見下げた思いが湧き上がった。

 震える腰に力を入れて何とか立ち上がると、改めて懐剣を構える。

 力を入れすぎた手は夜の森の冷たさもあって白く冷たくなっていたけれど、私の命綱はその手に握る懐剣しかなかった。

「しょうがねェな…細かい作業は苦手なンだが」

「何……あっ!?」

 苦笑を滲ませながら男が軽く手を動かすと、どこからか伸びてきた闇の刃が私の懐剣を襲ってぱきりとあっけなくその刃を打ち砕く。

 その衝撃に手が痺れて役立たなくなった懐剣の柄を地面に取り落とした。

 すかさず男が間を詰めて、軽々と私を肩に担ぎ上げる。

「きゃあ!?」

「シア、シアネータ様!」

 まるで荷物みたいに担ぎ上げられてじたばたと暴れるのに、男はまるで苦に思っていないかのように上手に私の身体を押さえつけた。

 アリーとシャイラが慌てて私に手を伸ばす気配を感じたけれど、その途端に2人が息を呑んで固まったのも分かる。

 男の背中側に頭がきているからはっきりと様子が見えなくて、背中がぐっしょりと嫌な汗に濡れる。

「アリー!?シャイラ!?どうしたの!?」

 もがいて声を張り上げる。だけど男はそんな私を押さえつけたままとても高く跳躍した。

「きゃああ!!離、離しなさい!」

 身体に襲い掛かる浮遊感に本能的に男の身体にしがみつく。

 一瞬だけ見えた地上でアリーとシャイラが私を呆然と見上げていた。

 

 ***

 

 散々暴れてわめいてどれくらい経ったのかわからない。

 とにかくあのまますごいスピードで連れ去られてどこかの屋敷に着くと、見たこともないような様式の部屋に放り込まれた。文字通り、ぺいっと放り投げるように下ろされたのだけど、分厚い柔らかな布…後に知ったことだけどベッドの代わりの布団らしい…の上だったからほとんど身体は痛まない。

 ただ頭が下になる体勢のせいですっかり頭に血が上って、しかも散々暴れて叫んだから余計にそれが加速して、正直言ってひどく気分が悪かった。すっぱいものが喉に上ってきそうで口元を片手で押さえる。

 男は飽きれたようにそんな私を見下ろしていた。

「お前、馬鹿だろ」

 失礼かつ無礼極まりない。

 けれどすぐには口を開けず、できるだけ厳しく男を睨みつけるのに留まる。

 少しして気分の悪さが改善されてくると、男への文句よりも先に置いてきてしまった2人のことが思い出された。

 狼は去ったけれどまた戻ってこないとは限らないし、その他の危険だってたくさんある。

 無事に戻すと約束したのに。

「助けにいかなきゃ…」

「どこへ?」

 立ち上がりかけた私を男が押さえつけて再び布団に転がす。

「あの2人の所よ!離しなさい無礼者!」

「人のことよりも自分の心配をしろよ」

 朱金の目を細めて私の目元に指を這わせた。そしてどこからか闇の帯のような物が伸びてきて私の腕を拘束する。

 いくら私が何も知らない箱入りだからといって、これから起こることが女を辱めることだと男の仕草や発する気配ではっきりと分かった。

「お前に好き勝手される前に死んでやるわ」

「ついさっき2人を助けるんだと言っていたのに?」

 怨嗟さえ込めるように言ってやったのに、反対に痛いところを突かれて口篭る。くくっと男が楽しげに喉を震わせた。

「そういやお前、名前は?」

「妖に名乗る名前はないわ。それに名前を尋ねるなら先に名乗りなさい」

「俺か?アカザ…呼んでみろ」

 あっさりと名乗ったことにも少し驚いたけど、呼んでみろと言った男のひどく柔らかな表情により驚く。

 けれどそれを悟られるのも言われるままに呼びかけるのも癪に障ったので、黙ったまま反抗を示すように男から顔を逸らした。

「…シヅキ」

 唐突に紡がれる音を怪訝に思ってちらりと視線だけ男に向けた。

「紫の月、でシヅキだ。俺はお前をそう呼ぶ」

「返事なんかしな…ッ!」

 拒否を告げようとした声は、するりと足に這うひんやりとした手の感触に途中で喉の奥で詰まる。

「お前は死ねねェだろ。少なくとも連れが無事か確かめるまではな」

 残酷にいたぶるように耳元で囁く声に、怒りで全身が震える。まさしくその通りだったから。

 アリーとシャイラを人質に取られているのと変わらない。

 卑怯で卑劣だと思うけれど、それと同時に私に自死を選ばせないために最も効果的な言葉だとも思う。

「――絶対にいつか殺してやるわ」

 憎悪の視線で焼き殺せるというのなら即座に男は消し炭になっただろうと思うほどきつく強く睨む。

 声が震えるほどの憎しみを低くなった声に込めると、また男が楽しそうな微かな笑い声をたてる。

「いいぜ…出来るならな」

 甘いとさえいえるような囁きに嫌悪を増す。

 暴れてもがく私をまたもやすやすと押さえ込んだ男の腕の中で、せめて絶対に泣き声などあげてやるものかと強く歯を食いしばったまま、私は男の手で辱められそしていつの間にか気を失っていた。

ヒーロー 改め ラスボス登場。(オイ)

やっと名前が出てきました。でも改稿して之より以前にも名前出してますが。


どこまでがR15で済むのかが最近難しい限りです。

もっと血がどばぁ!とかウッフンアッハンな描写を入れてはだめだだめだと消したりしてて更新時間が遅くなりました。いつもよりちょっと長いせいもあるけど。

いつか詳しい話とかをどっかでこっそり載せるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ