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紫闇朱月  作者: もにょん
第1章 少女と妖
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第1章-3 森と月と闇2

残酷な暴力描写が出てきます。嫌いな人、十五歳以下の人、及び現実と妄想の区別がつかない人はブラウザを閉じて下さい。

 唐突な強い振動に反射的に足に力を込めて踏ん張り、前に倒れかけた体を反らしたら背もたれに頭をぶつけてしまった。

「きゃあッ!?」

「ヒッ…!?」

「…ッ!」

 衝撃から一瞬遅れてジンッと沸き上がった痛みと熱に目が生理的な涙に潤むのがわかる。

 だけどそれを振り払い先程上がった悲鳴の元に視線を向けた。

「貴方達、大丈夫!?」

 シャイラは何とかカーテンにすがりついて大丈夫だったようだったけれど、アリーは椅子から滑り落ちてお尻を打ったみたいだった。

「いたた…大丈夫です。ありがとうございます」

「わ、私も大丈夫です。でもいったい何が…きゃっ!?」

 アリーを助け起こしシャイラに視線で問うと、震えながらもちゃんと返事があった。

 そのことにほっとしかけた瞬間、馬車の扉が乱暴に開かれる。

「シアネータ様、お逃げ下さ…ッぐぁ!!」

 領地からから共に護衛として付いて来た人の中でも年若い青年は、後ろから切り付けられ苦悶の表情を浮かべて倒れた。

 じわりと馬車の床に敷かれた絨毯に赤黒い染みが広がっていく。

「ヒィッ…!」

 アリーとシャイラが喉を引き攣らせた悲鳴を上げて慌てて馬車の奥へと逃げた。

 何が起こったのか分からない私は青年の後ろ、扉から覗く姿に、先程ぶつけた頭をもう一度ぶつけたような気がした。

 (ぞく)かと思ったその男は、前日に泊まった村で合流した陛下が派遣した護衛の1人だった。

 倒れた青年をぞんざいに馬車の外に放り出すと、中を覗きこんでくる。

「大人しく死んでもらおう、シアネータ・アリスティス・サバルティア」

「――それは誰の都合で?」

 少し息をつめてから慎重に問い返す。

 微かに馬車の外でまだ争う気配がする。だから敵は複数だけど全員が敵に回ったわけじゃない。

 それなら逃げる隙はまだあると信じる。

 落ち着いて。

 強く自分に言い聞かせてから震えそうになる呼吸を気力で押さえ込んで、深く肺に空気を送り込んだ。

 私の問いかけに男はおかしそうに口の端を吊り上げる。

「陛下に決まっている。私たちは陛下によって送られてきたのだから」

「…下手なシナリオだわ。それで陛下の責任を問えれば一石二鳥とでも思っているの?」

「上の考えなど知らないな。だが個人的にも化物の下に仕えるなどぞっとする」

「…本物の護衛の人はどうしたの」

「俺達がそうさ」

 野卑(やひ)た表情に殺したのだと悟った。

 話ながら手が床を探る。

 何かないかと焦る指先に硬い小さな瓶が触れた。

 それがアリーが前日に宿泊した村から出発する前に荷物の中から取り出して、道中であれこれと説明しながらどれがいいか訊いてきた香水瓶だと気付く。

 その中の1つを気付かれないように手繰り寄せると後手に隠して立ち上がった。

「おしゃべりはお終いだ」

「そうね…!」

 馬車の中に乗り込んでこようとした男に向かって持っていた香水瓶を思い切り投げつける。

 薄い繊細なガラス瓶は男の額に見事にヒットして中身を男の顔にぶちまけた。

「うあ…ッ!」

 場違いにどぎつい花の香りが一気に辺りに広がる。

 すかさずドレスの裾を跳ねさせ目に入ったのか目を押さえる男の腹に向かって渾身の蹴りを繰り出した。

 足元は8cmも踵があるヒール靴なのだから、美しく宝石をちりばめた優美で華奢な見た目と真逆に破壊力はそれなりで、めり込むように腹に決まった一撃に男がくぐもった苦悶の声と共に扉の外に蹴り出される。

 私の後でアリーとシャイラが震えも忘れて目を大きく見開き私を凝視しているのに、憮然とした心持になった。

 それは、普通の貴族令嬢ならこんな真似はやらないのだろうけれど…。

 今でこそやらないけれど昔は離れの館を、独りで抜け出しては色んな所に行っていた程度にはおてんばなのだから、必要ならこれくらいのことは躊躇わずにできる。

 踵の折れてしまった靴を放り出して、ついでに憎々しい男の腹をさらに踏みつけてやりながら馬車の外に出た。

 途端に噎せ返るような血の香りが混ざる空気に気分が悪くなる。

 暮れかけた空を染める夕日に照らされながら、周囲にはいくつもの死体が転がっていた。

 サバルティア侯爵家の私兵が多かったけれど、国軍の制服のものも混じっている。

 実質的には嫁入りといってもそれは将来的なことで、城に向かっている途中の今の私は身分的には行儀見習いに城に入る侍女なのだから、対外的には謙虚に見せるためにそれほど多くの護衛は付けられない。

 それでも侯爵家の娘として決して少なくない兵が付けられたはずなのに、それがほとんど地に伏せていた。

 ぞっと這い上がる悪寒と共に悟る。襲撃者は本気だと。

 本気で私を殺しにきて、そしてこの場にいる全員を葬り去って口を拭うつもりなのだと。

 足元でさっき蹴り倒した男がうめくのを感じ、反射的に頭を蹴り飛ばして背後を振り返る。

「アリー、シャイラ!きなさい!」

 馬車の中に向かって叫び、嫌がる2人の手を掴むと外に引っ張り出した。

 馬車の中は確かに安全だけど、明らかに劣勢な状態で閉じ篭っていては袋の鼠になる。

「逃げなさい。できるだけ遠くに。そしてどうにかお父様か陛下に今日のことを伝えて」

「シ、シアネータ様は…?」

「私も逃げるわ。――貴方達も私が逃げるまで持ちこたえたら逃げなさい!こんなところで命を散らす必要はないわ!」

 ガタガタと震えるシャイラに力強く言ってから、剣戟が鳴り響く少し離れた場所に向かって声を張り上げる。

 少ない人数でよく守ってくれているけれど、見るからに傷だらけで押されている。

 そして次の瞬間、ひゅんという風切り音と共に私の脇を抜けた矢がアリーの肩に突き刺さった。

「きゃあああ!!」

 アリーが痛みに蹲り、シャイラが腰を抜かす。

 とうとう突破された護衛の壁の向こうから敵がやってくる。

「――ッ、走って!」

 アリーとシャイラの腕を乱暴に強く掴むと、そのまま2人を強引に立ち上がらせて走り出した。

ヒーロー氏…出会えなかった!orz

長くなりそうなので一端ここで切ります。

次もそんなに待たせずに上げられるはずです。

次こそ…次こそは2人が出会います!

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