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紫闇朱月  作者: もにょん
第1章 少女と妖
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第1章-3 森と月と闇1

 反射的に全出力で足元に闇を張り巡らせ、そのままカウンター返しに繋がった道を通して攻撃した。

 おかげで消滅は免れたものの、大部分の力を削がれてしまった。

 攻撃してきた『花』の気配の名残と疲労に苛立ちながら聖堂を抜け出し国境を踏み越える。

 本来そこにあって人ならざる者を拒むはずの結界は、ここ数ヵ月の間に俺が結界の要石を壊しまくったために消失していた。

 あとは腹黒策士の同胞が隣国の人間達を操りつつ攻め込むのを見ていればいい。

 だが先程攻撃してきた『花』の事が気になった。

 苛立ちが薄れれば興味が先立つ。

 悪い癖だと自覚しながらも好奇心に抗がう気になれない。

 強い相手を感じると体がうずく。

 先程のカウンター返しで多少の痛手は負わせられただろうか。

 顔を見て、殺しあってみたくてたまらなくなる。

 だからそのまま踵を返さず、王都に続く森に向かって走り出した。

 

 ***

 

 ガラガラと響く馬車の車輪の音をぼんやりと聞きながら、こみあげそうになるため息を押し殺した。

 途中で森を通るためにいくらか小型のものを選んだとはいえ、決して狭くはないのだろう馬車の壁と椅子には少しくすんだ落ち着いた薔薇色の布が綿と共に貼り付けられ、床には織りの模様が美しい分厚い絨毯が敷かれ、椅子にはレースのカバーが掛けられた大小のクッションがたくさん置かれている。

 それらのおかげで馬車の振動はほとんど感じられず、小さな部屋にいるまま移動しているのとあまり変わりない。

 馬車の車輪の音と天井に付けられた小ぶりのシャンデリアが小さく揺れて奏でるガラスの音くらいが動いている証だろうか。

 女性らしい落ち着いた内装もそれほど私の好みから外れているわけではない。

 ただ、私の押し殺したため息の理由は、同じ馬車に乗る同乗者にある。

 1人は目をキラキラさせて落ち着きなく馬車の外を気にしている。

 もう1人はこの世の終りのようにうなだれて、視線だけがウロウロと馬車の床をさまよっている。

 対象的なこの2人はお義母様から私の王都行きに付けられた侍女で、つまりは監視役だ。

 短時間共にいただけでよく分かったけれど、アリーはお喋りで好奇心が強く楽観的だ。

 王都行きが仕事だとは分かっていても半ば遊びに行くように感じているのが分かる。

 たぶん普段の仕事でも集中力が欠けていると注意されるタイプだろう。

 シャイラは真逆に口下手で悲観的だ。

 真面目で丁寧な仕事だが決して仕事は早くない。

 たぶん考え過ぎて手の抜き方が下手なのだと思う。

 厄介で大変な事が色々待ち受けているだろう王都での仕事を想像して青くなっている。

 共に癖のある2人はたぶん半ば厄介払いに私に押し付けられたのだと思う。

 侍女などいらないと言ったのだけど、たった1人で嫁ぐなど家の威信に関わると言われると強く言えない。

 大体、すり込みに近い感じで私はお義母様が苦手で顔を合わせるのも苦痛なのだから、ちゃんと話し合おうと考えるだけで気が萎える。

 たぶん向こうも同じだと思うけれど。

 もうしょうがないと受け入れたものの、アリーは初日から私とシャイラを相手に一体いつ息を吸っているのか分からないくらい、集中豪雨のごとく喋り倒して私の気力をごっそり削りとってくれたし、シャイラは時折脅えたような視線を私の瞳に向けてきてイライラする。

 堪りかねてアリーに少し黙ってもらい、シャイラの視線から顔を反らす。

 だけど気詰まりなのは別にこの2人で無くても同じだったと分かっている。

 手を伸ばせば届くほど近くに誰かが一緒のまま長時間過ごすことに気が滅入っている。

 人嫌いが馴染みもない誰かといて気が休まるわけがない。

 侮られないように、誰にも傷つけられないと示すように、ピンと背を伸ばして表情を消して無言で威嚇する。

 それが馬車の中の空気をさらに重くしていることに気付いていても、私には他にどうすればいいのか分からない。

 普通の貴族令嬢なら侍女の存在など側にいるのが当たり前の空気のようなもので気にもしないのだろうけれど、私にその感覚は分からない。

 1人がいいと思う。

 1人なら静かで私を傷つけるものは何もない。

 陛下に望まれて嬉しかったから国母になりに王都に向かっているのに、そんなことを考えたりする。

 陛下の側に上がって国母になれば、恐らく社交に明け暮れる毎日になる。

 正直とてもピンとこない。

 自慢には決してならないけど威嚇は得意だと思う。

 ひどく感情が揺れていなければ、自分を偉そうに見せること、隙を見せないことは慣れている。

 けれど自分が友好的な態度で誰かと仲良くしている姿は想像出来ない。

 同じく自分が陛下の子供を産むことは理解していても、自分が子育てする姿は想像出来ない。

 分けられない物を分けたいと思うのはわがままだろうか。

 当主命令があったとしても自分で行くと決めた。

 なのになぜこんなに足元がフワフワと浮いているように感じられるのだろう。

 心許ない気分になった時、唐突に馬車がガクリと大きく揺れて止まった。

私にしては驚異的早さのアップながらまたしても短くてすみません(;_;)

その分頑張ってこまめに上げたいです。

今回はほとんどシアの独白。

多少うざったいかもしれません。(^_^;)

伏線というほどのものではありませんが、後々の話に理解を深めてもらうためにワンクッションです。

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