最終章 紡がれ続ける花輪
その日はとても晴れていた。
その丘からは気持ちがいい青空にうっすらと浮かぶ双子月がよく見える。
その丘の上のいつからあるのか分からない祭壇の前には白い簡素なドレスに花を飾った少女がいて、成人の祈願のために司祭の足元に跪いていた。
所変わってそこから少しばかり離れた神殿では複数の神官と巫女、そして1人の騎士が儀式に臨んでいた。
あがる祝詞の声に、鳴らされる鈴の音に、そこに渦巻く力の波動に聖堂が震える。
そしてチカッと双子月が輝くと共に、身の丈よりも長い銀の髪と深い……宵闇のような紫の瞳を持つ少女が轟音を放つ光の渦と共に舞い降りた。
実体を持たないのかうっすらと透ける少女は虚空に浮かんで気を失った巫女を見下ろし、気に入らないとばかりに鼻の頭に皺を寄せる。
そして何かに惹かれたように首を巡らせ、途端に楽しそうに笑った。
さざめくような笑い声までが純粋な力となって聖堂内がきらきらと輝く。
そうしてその場にただ1人意識を保っていた男に視線を向けると、先ほど見ていた方角を指差した。
男が問いかける前に少女の姿がふっと掻き消える。
丘で別の儀式を受けていた淡い栗色の髪と水色の瞳をした少女は、唐突に目の前に現れたひどく美しい少女、しかも半透明な彼女に身動きも出来ず固まっていた。
だが紫の瞳の少女はそれに構わずに瞳を輝かせて水色の瞳の少女へと手を伸ばす。
触れ合った瞬間、二度目の光がはじけて世界に広がった。
そしてその光と共に、ある特定の者たちに大音響が響き渡る。
『パーーーーーーパーーーーーーー!!!!!!』
「……なんて大音量だ」
――世界の片隅で緋色の闇が思わず苦笑したとか、しないとか。
Fin
これにて紫闇朱月は完結です。
長い間お付き合いいただきましてありがとうございます。
時期的にまずいかと思うネタではありましたが、自分が書きたかったものなのでそのまま載せました。
東北地震の死者のご冥福をお祈りするとともに、現地被災者の方の一刻も早い平穏を願います。