第2章-4 真実へと至る2
「昔話をしようか」
気が付いたのと同時に白い空間に響いた声に目の前の私が緩く瞬きをする。
ずぶ濡れになっている私を少し離れた場所に立って見下ろしながら、髪も肌も衣装も真っ白な人が楽しげに微笑んでいた。
以前にも見た……この場所では見たことがある、と認識できるその姿。
そうして、ああこれはいつもの夢なのだと認識する。
「まだ世界に何もなかったころ、原初の闇に光が生まれ、光は闇の安寧を掻き乱し、その歪みのエネルギーから様々なものが生まれた」
ひどく中性的な容貌をしたその白い人以外にはその場には私しかいないのだから、恐らくその人は私に語っているのだろうけれど、歌うように紡がれる言葉を私が認識していなくても全く構わないような素振りだった。
「生まれては消えて、消えては新しいものが生み出されていくその目まぐるしい変化に光はとても興味を持った。その中でも『人』に光達は執着した……ロマンティックに言えば恋をした、となるのかね」
ゆっくりと上体を起き上がらせてぺたりと座り込んだまま白い人を見上げる私の体の輪郭を、空中で撫でるようになぞると濡れていた身体からもとから濡れてなどいなかったように水気が消える。
「人は面白いもので、闇と光の両方をうまく併せ持っていた。そして中には、それら本来は『人』と異質なものをとても受け入れやすい者がいてね」
少し語り口調を崩して親しげな笑みを浮かべ、今だ心がここにないような私にくすくすと小さな笑い声を零した。
「ある時示し合わせたわけでもないのに、そういった中でも特に気の容量が飛びぬけて高い女達の胎に宿った子供へと、生まれた光の中でも特に大きな4つの光がそれぞれ己の欠片を宿らせた。その女達の胎から生まれたのは例外なく女の双子だった。1人は限りなく人に近くて母体と同じように気の容量が大きい少女。もう1人は、人としての肉体をほとんど持たないエネルギーの塊のような少女。たぶん、母体の中で力がうまく混ざり切らなかったんだろうね」
確かめたわけじゃないから推測だが、とその人は肩を竦める。
「光達は人に……なりたかったのかもしれないな。でもそうはならなかった。思った通りにはうまくいかなかった。同じことを何度も何度も繰り返した。けど彼らを受け入れられるだけの器を持った人の女などそうそうはいない。負荷に耐えきれずに死ぬ女は絶えず、時に光達は自分たちが宿れそうな者を奪い合って大地は鳴動し空と海は荒れた」
「……生まれた子供たちは?」
ぼんやりとしていた意識がゆっくりと目の前の現実に戻り始めて、語られる話に困惑しながら浮かんだ疑問を『私』が口にする。
「父親……と言っていいものか分からないが、彼らの行いに嫌気をさしてな。特に人に近く生まれた少女達は、彼らに狙われやすかった。人も彼らに苛立ちを募らせていたんだが、彼らがいなければ再び世界はただの闇に戻るのも事実で、互いの利害が一致した結果、協力して彼ら光達を大陸に封印した。その時の指導者が各大陸の封印の要に国を起こして王となり、双子の内で彼ら光に近い者たちは封印された光を刺激しないよう天空へと昇り、もう片方は王とともに大陸に残って封印の調整の役割を負った。まぁ、封印したといっても無理矢理なんで完璧ではない。大陸に力の道を走らせて発散したとしても残る力を蓄えた光達は、封印を悔い破ろうとする。だから天空に昇った者のうち力の強い者を四花八葉三十六枝と定め、光の封印に綻びが生じた際にはその力を押さえるために地上へと派遣し、地上に残った娘達の子孫……神依りの一族は余剰の光の力を受け入れ、王は光の人格を宿して神依りの一族の巫女姫と交わり子を成す。生まれた子は再び天空と地上に分かれて引き取られ、光は再び深い封印へと沈む。これが世界の盟約となった」
ゆったりと『私』に近づいたその人が少し腰を屈めて白い手を差し伸べ、『私』の頤に触れて緩く持ち上げさせて自分へと視線を向けさせる。
「お前は西の最後の神依りの娘。生まれるべくして生まれさせられた最高の神の依り代。そして……私の娘」
びくり、とその人の言葉に『私』の肩が震えた。
見つめ合う瞳の色にその時ようやく気付いて愕然とする。
「――……貴方は誰?」
その人は私が鏡を見た時に映る大嫌いな色を持った目を細めて誰よりも美しく華やかだが残酷さを感じさせる笑みを浮かべて言った。
「――私の名はビャクレン。天空の花座の最高位の四花にして始まりの『花』。そしてお前に紫痕を刻んだの2人目の父だよ」
ビャクレンは白蓮です。
説明書き調になってしまうのが苦しい…。
そしてだーーーーいぶ前に貼った伏線をようやく回収w