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紫闇朱月  作者: もにょん
第2章 闇に包まれる月
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第2章-3 ぬくもり2

性的描写が含まれます。15歳以下の方、及び妄想と現実の区別のつかない方、生理的に受け付けない方はブラウザバックするかブラウザを閉じてください。

今回もちょっと長めです。

 アカザに組み敷かれながら身体が勝手にカタカタと小さく震える。

「シヅキ……嫌か?」

 気遣うようなアカザの声に眼を瞬かせる。

 おぼろげな記憶の中に残るアカザはこんな気遣いを見せたことがあっただろうか。

 考えるだけで胸がきゅぅっと切なくなった。

 大切に大切にされているのが分かって、とても嬉しいのに何とも言えない恥ずかしさで逃げ出したくなる。

 自分の心をよく探ってみても今は嫌だとは全く思わない。

 けれどそれを言葉にするのはやっぱり出来なくて頭を横に振るに留めた。

「じゃあ、俺が恐いか?」

 二度目の問いにも頭を横に振る。

 とまれ、とまれと念じてみても身体は勝手に震えて、どうしようと焦りが生まれ始めた。

「分からないの……どうして震えるのか」

 ぎゅぅっと握り合わせた手に力を込める。

 身体を縮めて情けない声で訴える私にアカザが少し笑って、いつの間にか少し寄っていた眉間の皺に軽くキスをした。

 ちゅっ、と小さな音が響いた次の瞬間には唇は瞼へと移って微かにそこにも触れていく。

「シヅキ」

 ただ名前を呼ばれただけなのに、囁くようなどうしようもなく甘ったるいその声音にお腹の底が疼いた。

「シヅキ」

 瞼からこめかみ、頬、鼻の頭、反対の頬……雨のように唇が触れていく感覚がくすぐったくてむず痒い。

 身体からジワリと収まりきらない色々なものが滲みだしてきているような気がして、代わりに私の中で憎しみだと勘違いしてしまうほど燃え盛っていた何かをゆっくりと宥めてくれているようだと思った。

 目を開けばアカザの禍月のような朱金の瞳が見える。

 アカザが珍しく少し躊躇うように息を詰めてから、耳元に顔を寄せた。

「…………」

 本当に小さく届いた声に私まで息を詰めた。

 ぶるり、と身体が大きく震えてアカザに縋るようにその背中に腕を伸ばす。

 唐突に自分がどうして震えるのか理解した。

「アカザ」

 掠れるような小さな声の呼びかけだったのに、アカザは身体を少し起こして私の顔を見下ろす。

「好き」

 アカザが驚いたように目を見張った。

 そんなに驚かないでもいいじゃないとむっとしながらも、アカザのその顔が何だかとても間が抜けているような気がして微かに笑い声が零れる。

 気付いてしまえばとても簡単なことだった。

 

 こんなにも身体が震えるのは、アカザに触れられて心が強く震えるから。

 こんなにも心が震えるのは、アカザが愛しくてならないから。

 

 呆れたような溜息をアカザが付いた。

「お前な……そういうことはもっと早く言え」

 ちょっとだけ怒ったような声に笑いながらちょっと眉尻を下げる。

「無理を言わないで。誰もが簡単に全てを捨てられるわけじゃないのに」

 言いながら自分で気づいた。

 記憶がない不安はあるものの、その代わりに今の私はアカザとの間にあっただろう確執がほとんど分からない。

 同時に100年以上が経ってしまった現在では見知った人は恐らくすべて土の下だろうということだし、尽くすべき国は滅びてしまったけれど。

 大事なものはいくつもあったはずなのに、気が付けば水のように指の間から擦り抜けていった後だった。

 しがらみがないのとしがらみに縛られているのは、どちらが正しい人の在り方なのだろう。

 途方に暮れかけた私の、アカザと絡めたままだった手をアカザが引く。

「俺だけじゃだめか?」

 真剣な目にちょっと瞬きをしてから口の端が自然に緩む。

 どこかに浮かび上がって消えてしまいそうな錯覚が消えて、私を引き止めるアカザの温もりを確かに感じた。

 ちょっと頭を上げて唇を軽く重ねると、恥ずかしさにアカザの肩に顔を埋めた。

「駄目も何も、もう貴方だけ」

 さみしくないわけじゃない。

 無くしてしまったものがあることに気づけば悔しくも苦しくも思う。

 けれど捨てさせたアカザを、私の心も身体もさらって閉じ込めるこの腕を、どうしても憎むことは出来ない。

「私にはもう、貴方だけ」

 また溢れだしてしまった涙くらいは、赦してほしい。

 アカザの手が優しく私の髪を梳いて宥めてくれる。

 その手がそのまま首筋を撫でて肩の丸みを辿っていった。

 服を乱されて素肌に触れるアカザの大きな手の感触と少しひやりとした体温に息をのむ。

 ゆっくりと私の存在を確かめるように肌の上を這う手がくすぐったくももどかしい。

 動きが緩やかな分だけ余計にその存在が感じ取れてしまって、撫でられているだけなのに心臓の鼓動がひどくうるさく高鳴っていた。

 恥ずかしくて仕方ないのにもっと触れてほしいと思う。

 いつの間にか閉じていた瞼を持ち上げると、アカザの欲情した顔が目に映ってぶるりと身体が震えた。

 ――触れたい。

 考えるのと同時に意識しないまま伸びた手がアカザの胸板に触れる。

 服の上から引きしまったその胸を撫でて、それから手を服の下へと潜り込ませた。

 いつもどこかひんやりとしているアカザの肌が熱を持っていることに身体の中心がぞくりと震える。

 アカザが少しくすぐったそうに身体をピクリと震わせてから、艶めいた笑みを浮かべた。

 男の人なのに艶めいたというのもおかしいかも知れないけれど、私にはそう表現するしかない。

 誘われているような気がして乱したアカザの服の下から現れた、浮き出た鎖骨に口付ける。

 褒めるようにお返しに額にアカザの唇が触れてきて、それに後押しされるようにぎこちない手つきでアカザの肌を撫で回してそこにアカザが確かにいることを確かめた。

 そうしながら、頭の奥に白い閃光のように昔アカザによく髪を引っ張られたり抱き上げられたりした記憶が蘇る。

 そしてアカザがどうしてあんなにやたらと手を出してきていたのか納得した。

 たぶん、誰かを好きになると触れて確かめたくなるのだと思う。

 その存在を、そして心を、近づいて重ねて……深く深く知りたくなるのだ。

 不器用な私たちは言葉以外で伝えたり知ったりする手段では、触れること以上のものを知らないから。

 相手に触れて、そして自分にも触れてほしいと思う。

 熱を帯びてきたアカザの手に心と体がゆるりと解けて溶けていく。

 重ね合った身体や混じり合う乱れた吐息から伝わる幸せに慄きながらも、これ以上近づけないところまで近づいてももっと願った。

 離れては何度も絡めて重ねた互いの手のせいで、アカザの手の甲はいくつも私の爪痕が刻まれる。

 何度も何度も、耳の奥にさざ波のように繰り返し残っているアカザの声。

 何度も何度も、同じほどに繰り返し返した同じ言葉。

 

 ――愛してる。

 

 ……薄れていく意識の奥で、パキリと何かが弾けるような音を聞いた気がした。

最初サブタイトル違ったんですが、どうもこっちのがしっくりくるので前の分と同じにまとめました。

R15に収まってるはず……たぶん!

普通の糖度もりもりはここがピーク。

というか今回のラブに意味はあるのかって聞かれたらないよ!って全力で答えますw

ただ私が限界糖度に挑戦したかっただけ……orz

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