第1章-6 さらに冬を経て1
いつもよりちょっと短いです。
何を言っているのか分からなかった。
「どうして…?」
「それは何に対する問いかけなンだ?」
ようやく零れ落ちた問いかけに、静かな問いが返ってきた。
混乱した頭の中にものすごい速さで巡るいくつもの感情と疑問が駆け巡る。
アカザの視線も声も、変わらずに淡々としている。けれど問いかけるからには答えてはくれるのだろう。
喘ぐように呼吸をして、色々なものを押さえ込んで、ようやく取り出せた疑問を口にする。
「カナル国を、攻める理由は、何?」
一音一音を区切って尋ねる。そうしなければ自分でも聞き取れないくらい声が震えていた。
「あそこにお前たちが神と呼ぶものが眠ッてる。それを消し去りたいだけだ」
「神が消えると…どうなるの?」
「――この大陸が壊れる」
「…ッ!!」
さらりと返ってきた答えに息を呑む。
アカザは私の背中に手を添えると軽く力を加えて歩くように促した。
そのまま一緒にすぐ傍の部屋に入り込むと畳の上に座るように両肩に手が置かれて、その力に従ってアカザと一緒に腰を落ち着ける。
軽く指先で畳を叩く音に私とアカザの間に視線を落とすと、じわりと染みが広がるように畳の上に黒い靄が広がって、見たことのある大陸を…カナル国のある西大陸を描き出した。
「前にも話したかァ…大陸にゃ、地面の下に走ってる力の道がある。身体に例えりゃあ大陸が肉でこれがまァ、いわば血管だァな」
トン、とアカザの指先が西大陸の一点、カナル国がある辺りを突く。
それに合わせる様にして畳の上に広がった西大陸の形をした黒い染みの上に、いくつもの線が網の目上に走っていく。
「血管には力が走ってて、西に限らず大陸はその力が接着剤みたいになッてくっついてッし、大陸上に存在する大抵の動植物は程度の差はあッてもその影響と恩恵を受けンだ」
夏に力の溜まり場行っただろう、と言われてあの美しい景色を思い出す。
染み込むような力の波動は確かに感じたし、身体も楽になった。
「その核…心臓みてェなモンがカナル国の王城地下にある。…心臓潰れて血が通わなくなッた肉体はそのうち腐り落ちるだろ?」
先ほど指先で突いた場所を、今度は指を弾くようにして叩く。
キン、という小さな音が響いたかと思うと、走っていた線に沿って影の大陸図が無数の細かなパーツに分かれて吹き飛んだ。
それが夢語りでなく近い未来に現実に起こりえる予想図なのだと、気負いのないアカザの淡々とした説明が実感させる。
「――どうしてそんなことしなくちゃいけないの」
じわりと密やかに伸びてくる恐怖の手から逃れるように少し声を荒げてアカザを睨む。
アカザはひょいと首を傾げて皮肉げな笑みを口の端に浮かべた。
「どうして…だろうなァ?」
「な…ッ!?」
あんまりな返事に絶句する私を見ながら、アカザは自分の胸の辺りを軽く親指で叩く。
「ただ、俺の核が疼くンだよ。面白くはねェが、俺たちは『世界』に『そうである』ように生まれた時から定められて、その決められた定義を核にして存在してるンだよ。それに逆らい続けてれば、存在できない」
いつの間にか『世界』に溶けて消える、と憮然とした面持ちで呟いた。
殺しても死にそうにないアカザが霞のように大気に溶けて消える光景を想像すると、瞬間的に湧き上がらせた怒りが失速してしまって、そうなると喉の奥で色々と言いたかった言葉さえ消えてしまった。
「――これは俺の見解なンだが、『世界』から見れば今の状態も正しくはねェんだ。強く押し込められたバネとおンなじようなモンで、『光』が押しのけてる分だけ『世界』のバネは元に戻ろうとするンだろうな。その戻ろうとする力が俺たちみたいなのなンだろうよ」
「――アカザも…一緒に攻めるの?」
アカザは俺の同胞が、と言った。
その言葉に縋るように必死に言葉を喉から押し出す。
「――さァ?俺は最低限の仕事はしたが、あいつらが出ろッつーなら出るかもしれねェ……いや…出る、か」
「…私が行かないでと言っても…?」
口にしてから自分の愚かさに顔を俯けた。
あくまで私はアカザの気まぐれで生かされているのであって、こんな風にアカザを拘束したり願いを言えるような立場ではないはずなのに。
縋るような弱弱しい声に媚が混じってしまったような気がして、自分への嫌悪が募る。
依存しているとは自覚していたけれど、自分がこんなにアカザに対して弱くなっているとは思わなかった。
「――なら、お前が俺を留めてみればイイ」
はっとして顔を上げると、朱金の瞳が微かに細められて冷たく口の端が微かに持ち上がっていた。
「それが、出来るならな」
伏線回収開始。説明くさくてすみません。