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01 エピローグ

 -[異能]-

・常人では成しえない、度を越えた能力の発揮。

・類義語「神業」、「火事場の馬鹿力」、「職人芸」。

・人並外れたこの能力は、時として人を助け、また人を傷つける。人知を超越し、科学をも嘲笑し得るほどの破壊力を持つこの力は、並大抵の人間には習得出来ない。

何十年も刀を振り続けてきた老剣士が、一本の鉄塊を一振りで居抜き真っ二つにするように、また、幼いころの壮絶なトラウマから不思議な能力が開眼するように、この『異能』もまたその所有者の鍛錬、深層心理といった「人生の経験値」を色濃く反映する。

つまり、『異能』とは所有者本人の写し鏡であって、アイデンティティそのものである。

私たちは、君たちの『異能』を試したい。

さあ、ゲームに参加するのだ。君たちの人生がどのようなもので、それを武器に君がどこまでやれるのか。この一つの仮想空間の中で、存分に力を発揮し示してみろ。

君という存在の全てが『異能』に詰まっている。

それでは諸君、健闘を祈る。



群れ成す様にひしめき合うビル群の、窓から漏れ出す光だけが煌々と輝き、深夜だというのに人々の営みが俯瞰でも手に取るように解る。


中心にはこの都市を象徴する橙色のタワーがそびえ立ち、より一層の鈍光を放ちながら、街全体を見守っていた。


エリア名『東京』。眠らない街と別称されるこの地は「こちら側の世界」でもそのままに再現され、アーティスティック且つ一切の自然味を持たない人工的な風貌を醸している。


その街の一角。


少し外れた郊外にある、灰色の建造物(とはいっても、仮想現実上での話だが)の中に俺は居る。

いや、正式に言うと閉じ込められている。そしてあろうことか、これから始まる『決闘デュエル』なるものが終了するまでの間、少なくともここから出ることはできない。


フィールド名「コンクリートシェルター」。何層にも重なる分厚いコンクリートが折り重なってできた直方体の無機質な建造物。高さは六階建て。昇降には概ね階段の使用を要し、エレベータ等は一切ついていない。フロアの大きさは一般的な小学校の体育館二つ分くらい。とはいっても廊下や鉄筋の支柱等が視界を遮り、正式な広さは目視では測れない。それに何より、全体的に暗くて不気味だ。


ここが今回の、バトルフィールド。


<-対戦相手が決定しました->


自分の視界の右端。視界を邪魔しない程度にさりげなく半透明のアイコンが宙に浮かんでいる。そのアイコンが薄緑色に光って点滅しながら、AIによるアナウンスが響く。続いて上記の文字が、自分の眼前に浮かび上がり、また薄緑に点滅する。


「……来たか。」


<-転送します->


そのアナウンスの声とともに、B級宇宙映画にありがちなテレポート音じみたサウンドが、鈍く響き渡り鼓膜を揺らす。今回の決闘相手がこのフィールドに召喚されたとみて間違いないだろう。


「下の階か…?」


転送音に耳を傾け、即座に敵の所在地を掴む。居場所の把握はこのゲームを攻略する上での定石だ。とはいえど、この先入観に頼りすぎてもいけない。ここはコンクリートに覆われた空間。音が反響し易い故に、聞き間違えということも大いに考えられる。


「さて、どう動く…?」


このゲームの構造上、平等を喫す為、プレイヤーは基本的に自分の明白な所在地を知らされずに転送される。転送されるまでフィールドも選択不可である上、いざ対面するまで自分が誰と対戦するかも秘匿とされている。


俺が転送されたのは階段に近く細い廊下。左右に等間隔に敷かれた電球だけが足元部分を照らし、自分の眼先に長い廊下が続いていることだけは認識できる。


背後には階段の踊り場。


ということは、このフロアから階段が上階にも下階にも続いていることが想像できる。つまり、俺が居るこのフロアは六階建ての建物のうち、2~5階のどれかだろう。等と推測する。

暗闇の中、自分の把握できる最大限の情報を一つずつ収集していって、攻略のヒントを手繰り寄せていく。それが転送後~敵遭遇までのプレイヤーが成すべき、必須事項。この作業の詰めの辛甘が戦局を大

きく左右する。


敵がいつ何時、襲ってきてもおかしくはない。


この緊張感、臨場感、手に汗握る心理戦。ゲーム好きにはたまらない。


-甲高い金属音。


大小様々で、間隔もぶっきらぼうな音が上階からこのフロアに近づいてくる。


「石か…?」


俺は、敵が様子見で階段から小石を落とし、牽制してきた事を悟った。階段の踊り場まで転がり落ちてきたところで、小石は力なく静止する。


「奴は上の階だったか。読み違えたな。」


転送音から、敵の所在地はこのフロアの下階だと予想していたが、どうやら誤認識だったらしい。

対戦相手は、上の階に居る…!


しかし、居場所が判れど、ここで一手打つにはまだ早い。


今の小石は、敵の見せ掛け(ブラフ)である可能性が非常に高いからだ。暗闇の中、わざわざ自分の所在を明け透けにするような真似は、バトルの初心者ならまだしも「この世界」にいる人間はまずしないだろう。


敵が尻尾を出した時こそ慎重にならねば、逆に付け入られてしまう。


俺は足音を殺し、コンクリートの壁を背にして、廊下に隣接する踊り場から階段を見上げた。


「敵の気配はないな。」


こちらが小石に過剰反応し、大きく動きさえしなければ、敵もこちらの存在を感知することはまずできまい。俺は上階の様子を窺いながらも、このフロアの廊下に目を配ることも怠っていなかった。上にいる敵が階段から小石を落とし、俺がそれに気を取られているうちに左右反対側階段から降り、回り込んで不意打ちを仕掛けてくる可能性も考慮していたからだ。


されど、このフロアにも敵の気配は一向にない。


「はて、どうしたもんか。」


仕掛けるだけ仕掛けて、これといったアプローチもして来ない対戦相手に、半ば緊張の糸が緩む。先ほどより少し軽い足取りで、上階へ続く階段へと足を踏み入れたその時。


一片の私案が俺の頭に舞い込んだ。


「上に気配がない。そして、このフロアに居る様子もない。…ということは!!」



「下だよ。」



思考が結論に達するコンマ数秒前、背中に鈍痛が走った。敵の蹴りが不意の脊髄に極度の刺激を与え、俺の全身は宙に舞った。


「やられた……!!」


排除していた思考……「敵の転送地点は下の階だった」ということ…!!


俺はまんまと策略に嵌ったことを悔いた。対戦相手のこの男は吹き抜け型の階段の上階部へと、下階の踊り場から小石を投げ、上から転がすことによって、あたかも自分が上階から小石を転がしたかのように見せたのだ。そして、それに気を取られているうちに上の階まで上がってきて俺の不意を打った。


「くそっ。少し考えりゃ罠だと分かったはずなのに!!」


俺の身体は成すすべなく踊らされ、階段に激突する。埃の粉塵が舞い飛ぶ。粉塵が俺の目前から左右へと吹き離れてゆき、視界が晴れ、対戦相手となる男の顔があらわになった。俺の前で仁王立ちをし、情けなく体勢を崩しうなだれる俺を見下ろしている。


<対戦相手 坪井両太郎つぼいりょうたろう>


眼前にオレンジ色のデジタル文字が表れ、敵の情報をアナウンスする。


このゲームでは、対面した人間の細部に至るまで情報が開示される。年齢・職業・身長・体重・血液型等々、個人情報のほぼ全てが相手に筒抜けになるといってもよい。


「対戦相手…坪井両太郎つぼいりょうたろう…身長190cm!?」


下方から見上げる形で、正確な身長が判らなかったが、眼前に表記されたデジタルデータによってこの大男の全貌が明らかになる。


「大巨漢じゃあねーか…!!」


「年齢は…45歳、体重は…85kg、格闘技経験あり…って、現実世界でも相当いかついチート級おっさんだろアンタ!!」


俺は小さく身震いする。よろよろと起き上がると、自分と相手との体格差が如実になった。せいぜい165cm程度の俺の細身と、190cmを誇り、鍛え上げられた骨太な長身とでは、どう考えても相手の方に分があることは明白だ。


「あ、あんたあれだろ。自分の娘が彼氏を家に連れて来た時、無言でにらみつけて威圧して、ビビらせるタイプだろ。ごはん中もずーっと黙りこくって、彼氏がご飯で喉詰まらせるタイプだろ。あー、タチ悪ぃ。彼氏さんかわいそー!」


敵の気をそらさせるために、いや、自分の怖気を少しでも和らげるためにその場しのぎの言葉でやり過ごそうとする。全ては口から出た出鱈目だ。この男に娘がいない、むしろ結婚してすらいないということは、もう既に眼前に浮かぶデータで判り切っていた。


しかし、こうして場を何とか凌ごうとしなければいてもたってもいられなかった。言い忘れていたが、このゲームは現実世界での情報がそっくりそのまま反映される。


「こうしているうちに、何か敵の弱点を…」


敵におびえながらも、何とか頭の片隅で、俺のゲーマーとしての本能が思考を始めた。どんな強敵に出会っても、無様に死にに行くゲーマーなぞ存在しない。敵の立ち回りや特徴から一片の弱点を見つけ、隙を見つけだすことがどのゲームにも共通する鉄則だ。


俺は坪井との間隔を十分に保ったまま、分析を始める。データとの睨めっこだ。


坪井両太郎つぼいりょうたろう血液型…B型、現世での職業…陶芸家、中学の頃柔道の都大会で一年生ながらベスト8、高校以降は空手の道に進み軒並み好成績を挙げる…っておーい!!」


「ただの筋肉エリートじゃねーかぁ!!」


データを解析すればするほど弱点のない坪井を前に、俺は半ばヤケクソになる。坪井はその間、勝ち誇ったような表情でこちらをじろりと見下していた。きっと、この経験を何度となく味わってきたのだろう。活きのいいゲーマー風情が、自分のステータスを見て驚愕し、絶望していくのを…!


「くそっ、でも諦めねえぞ。他のデータは…」


「そろそろ、いいか?」


坪井が初めて言葉を発する。年季の入った、格闘家さながらの図太い声。直立不動だった巨体が少しずつ動き出す。坪井は両手を左右にゆっくりと広げる。筋張った筋繊維きんせんいがしなやかに収縮しながら動いていく。さながらオーケストラの指揮者のように両手を広げてピタッと静止する。


俺は不穏な空気を感じ取る。


「んちょっ、ちょっとタン…マ」


俺の苦し紛れな忠告もいざ聞かず、坪井は上げた両手を地面へ向かって猛スピードで下ろす。俺は、ここから、坪井がどのような行動に移るのかを一瞬で悟った。


身長・体重・血液型から家族構成まで、すべてが筒抜けになるこのゲームで、唯一明かされないもの…。それが今から、明かされるのだ。坪井の持つ、一番の切り札。生まれ持った潜在能力。このゲームを語るうえで欠かせない最も特徴的な部分。


-それが-



「『異能いのう』……発動!!」



広げた両手を地面に押し当て、坪井が叫ぶ。途端、両手を付いた踊り場の足場部分が眩い光に包まれ、ものすごい轟音を轟かせながら崩れた。頑丈なコンクリートで出来た吹き抜けの階段がみるみるうちに崩壊していく。


「うおっ」


俺の身体が、倒壊していく階段と共に、重力に身を任せるようにして、宙に放り出される。そのままの体勢で4・5メートル、真下に落下する。俺は成すすべなく無数のコンクリートの断片を背に、下のフロアまで叩き落される。


「うぐっ」


落ちた衝撃で立つことはおろか、暫くの間呼吸がままならない。典型的な『攻撃アタック』タイプの『異能』…。アイツ、階段を壊しやがった…!!


顔をゆがめながら見上げると、倒壊した上のフロアの階段から、崩れ落ちたコンクリートにうずくまって動けない俺を、坪井が勝ち誇った笑みで見下ろしている。


「くそっ、アイツ完全にこの状況を楽しんでやがる。どんだけ人を見下せば気が済むんだよ!」


坪井は4・5メートルはあろうかと思われる上階のフロアから、ひょいと身を軽く躍らせ飛び降りた。手慣れた体さばきで受け身を取り、衝撃を殺しながら軽々と着地する。崩れ果てたフロアの中、坪井だけが飄々と立っている。俺はいまだに落下の反動で立ち直れない。


「今のが私の『異能いのう -破壊と創造(リンカネート)-』。」


完全勝利の嘲笑を浮かべながら立ち尽くす坪井がつぶやく様に言う。まばゆい光を放ちながら軽々とコンクリートを破壊した超能力が、彼の『異能いのう』。そして当ゲームにおいての一番の個性アイデンティティである。


「良く出来たモンだよなあ。このゲームでは、現実世界での人となりがそのまんま『異能』に反映される。アンタの見るからに筋肉バカで体育系なところ、そっくりそのまま『異能』に出てんぜ。」


俺は坪井が即刻トドメを打ちに来ないことから、コイツはじわじわと時間をかけて相手をなぶり倒していく戦闘スタイルの男なんだと察知して、軽く雑談を挟む。坪井も俺とは一定の距離を保っている。ともすると、俺の『異能』を警戒して無闇に襲ってこれないのかもしれないが。


「ふん。そんな軽々しいものではないがな。」


坪井が意味ありげにささやく。俺は言葉の真意がわからなかった。否定された…?彼の特殊能力は、彼の武道家としての人生経験から派生したものではないというのか…?


「異能は奥が深い。」


彼はそう呟くと、再度両手を左右に広げ始めた。


「……!?」


轟音が鳴り響く。また何か破壊するつもりだろうか。地面に振動を感じる。コンクリートが互いに揺れ合い、共鳴する音。さっきの一撃より、更に大きな倒壊を生んでしまいそうな予感……災害レベルの震度の高い揺れに立ちすくむ。先程と同様、まばゆい光が視界を眩ませる。


「はぁッ!!」


坪井が両手を肩の位置まで挙げ、指揮者さながらのポーズをとり叫んだ。すると次の瞬間、あろうことか俺の身体はコンクリートごと、ゆっくりと地面を離れ、宙に浮いた。


「な、なんだ!? 何が起こってんだぁ!?」


ゴゴゴと音を立てながら、コンクリートの破片や塊と共に、俺の身体は宙へと舞っていく。いや……待てよ?≪元の場所へと戻っている…?≫。ふと見ると、今まで散乱していたコンクリート片たちが、少しずつ自動的に修復し、元の形に戻りながら浮遊している。


そして十数秒かけて、あろうことか俺の身体、コンクリート共々上階に引き戻された。俺の身体は現在いま、坪井に一発目の蹴りを喰らった地点に在る。それだけじゃない。倒壊してコンクリート片となっていた階段の残骸たちは、ひとかけら残らず見事に修復され、元の階段の姿に戻っていた。


「これが、奴の『異能』…? ものを破壊するだけじゃなかったのか。」


俺の頭は正直パニック状態に陥りそうだった。いくら異能とはいえ、万能すぎるものはある程度制限がかかるように出来ている。階段の完璧な修復具合から「時間を巻き戻す」異能かとも一瞬考えたが、そんなはずはない。いちプレイヤーが所持できる『異能』の数はどう頑張っても一つだけだ。それに、仮に坪井が「時間操作」能力を持っていたとしても、階段だけが修復され、俺の傷やダメージが残っていることの説明がつかない。


「言っただろう。私の能力は『破壊と-創造-』だって。」


声を察知したころには遅かった。下階から悠々と上がってきた坪井の蹴りが俺の不意を突き背中にクリティカルヒットする。俺の身体は数メートル転がり静止する。嗚咽おえつのようなせきが止まらない。


「『異能は現実世界の自分を色濃く反映する』とはよく言ったものだ。私のこの異能『破壊と創造(リンカネート)』の破壊力、これは紛れもなく現実世界での私の基礎体力値の高さが成しえる業だう。」


坪井が自分の能力について解説を始める。


「しかし、<創造>の部分においては体力だけでは説明がつかない。いくら破壊力が高くても、物を修復する力には派生しないからね。能力の方向性が正反対だ。」


俺はなおさら不思議に思った。『異能』が現実世界での特徴を色濃く反映するのならば、この男-坪井つぼいの格闘家じみた傲慢な性格では、より際立った繊細さが求められる<修復力>なるものを、自分の『異能』として出現させるのは不可能なのではないか、と。破壊と創造-ほぼ対になるこの能力を同時に併せ持つことなど、果たしてできるのか、と。


「異能は奥が深い。さっき私が言った言葉だ。その人の人となりが異能に直結するのならば、その人が日常的に行う作業である<職業>も異能と関係してくると思わないかい?」


俺はそこで合点が行った。この男-坪井両太郎の職業は<陶芸家とうげいか>だ……!!


「ようやくわかったようだね。あくまで格闘技は私の趣味の部分。もちろん、本気でやってるからこそ異能として出現されるわけだけど…。もう一つの顔は陶芸家。そう、最も創造力が必要とされる職業の一つだよ。」


陶芸家としての芸術的アーティスティックな一面…それが、坪井の一番の個性アイデンティティ…そして、その個性がこのゲームでの坪井両太郎に与えたもう一つの能力が…<創造>だというのか。


「現実世界ではねぇ、私の作品は結構評判がいいんだよ。でもね、それは最近になっての話で、下積み時代が長かったんだ。すごく貧乏でさぁ。だから、私は納得がいく作品ができるまで、同じ素材を繰り返し使って、何度も作り、何度も壊し、この地位まで上り詰めて来たんだよ。そう、こんな風にね!!」


坪井が再度、両手を振り上げ、それと同じ速度で振り下ろす。両手が付いた地面から眩い閃光が走り、先程同様、頑丈なコンクリートが坪井を中心にメリメリと轟音ごうおんを響かせながえぐれていく。


唯一先程と様子が違うのは、抉れたコンクリートが崩壊するのではなく、生き物のように自由自在に動いて、うねる様にして「波」の形状を作りながら、俺の所に猛スピードで襲ってくる点だった。


このときに俺は悟った。その能力名の意味を。坪井の能力は「破壊」と「創造」ではなく、文字通り「破壊と創造」なのだ。『異能』は基本一人に付き一個しか持てない。破壊、創造という一見真反対に思える能力二つを併せ持って、一つの『異能』のていしているのだ、と…!!


そして確信する。坪井はこのコンクリートの「波」の中に自分を幽閉する気だと。まるで無数の未確認生物が奇妙な進行方法でうねり近づいてくるように「波」はだんだんと速さを増し、その母数を増やして肥大化しながらこちらに向かってくる。


「うげっ、このままじゃ…マズイ。」


二発の蹴りをもろに喰らい、一度背中から地面に落ちた身体は、もはや言うことを聞かない。どれだけ俊敏に動けても、この「波」を回避することは出来なさそうだった。


「万事休す…か。…って、普通なら思うだろうな。」


俺は「波」が身体に押し寄せる極限の所でフッと開き直り、全身の痛みを誤魔化すかのようにニヤリと笑みを作った。


「アンタが本気で来るなら、こっちも本気で行くぜ。」


俺は「波」が来る方向に向かって手を開いて伸ばし、最後の力を振り絞って叫んだ。



「『異能いのう』……発動!!」




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