7話
「もう疲れたわ、帰りなさいな」
そのセリフを聞いた後は何が起こったか僕はまるで覚えていないけれど気がつくと崩れた小屋の前で横になっていた。
「キョーちゃん気が付いた?」
時雨が僕を覗き込むようにして見る。
あぁ、と返事して小屋の裏にまわるとあの堅牢な扉は消えていた。代わりにボロボロのノートが落ちていた。
"友達の大切なものはキラキラとして見えます。
5日前蝶々さんに羽を貰いました。
4日前はイモリさんに目玉を貰いました。
3日前はカマキリさんに両腕を貰いました。
2日前はウサギさんに心臓を貰いました。
昨日はお母様が病気になりました。
怖い死神さんが命を貰いに来るそうです。
私は貰った大切な物を死神さんに渡そうと思いました。
私は何も失いません。
今日私はお母様を失いました。"
なんだこれ?
日記かなにかだろうか?
誰の?イルル?なんでここに?
…まあ、後で考えよう。
今は疲れた。
「いるるんなら大丈夫だよ、疲れて寝てるだけだと思うよ。怪我はさせちゃったけど」
「そっか…」
何はともあれ一安心、僕はふぅーと大きく溜息をついてその場に倒れこむ。何をした訳じゃないけれど疲れがどっと押し寄せる、もう立ち上がる元気もない。
「さっきの話気になる?」
「さっきの話って天獄がどうって話?」
「うん」
「正直、全く気にならないと言えば嘘になるけれど…話したくなければ話さなくて良いし話したければ聞くよ」
「もう少し上手に話せるようになったら話すね」
「今はそれが良い」
ごろんと仰向けに寝転がれば満天の星空だった。
時雨も横で寝転がって二人で空を見上げる。
言葉が蛇足に感じる程美しいその空を僕達は眺めて気がつけば僕達は眠っていた。
目がさめると僕達を燦々(さんさん)と照りつける太陽…ではなくそこは車の中だった。
「やっと起きたか京くん、そして御苦労様」
あの胡散臭いおじさんだった。
「あれ?確か海外に行くんじゃ無かったのですか?」
伸びをしようと思ったが狭い車の中で出来ず、体制を変えようと思ったが 時雨が僕にもたれ掛かっているのでこれも叶わなかった。
「2日前に帰ってきた所さ、まあまだやる事は大方片付いたからな」
「忙しい中ありがとうございます」
「お礼なら時雨にいいな、俺を呼んだのは時雨だからな」
僕にもたれかかっている時雨を見た。
ふっと頬が綻ぶ。
…ん?
「2日!?2日と言ったか!?このおじさん」
「京くん心の声が漏れてるよ」
はっ!しまった 驚きすぎて声に出してしまったが、それにしても僕はそんなに長い間眠っていたのだろうかそれにしては体は何一つ鈍っている様子もない。
「今度は顔に出てるよ、まあ荊の城での経過時間がここと違うだけだろ、君達と別れたのが8日前だ」
8日…流石に声も出ない、と言う事はつまり僕達は荊の城に一週間も滞在していた事になる。
部屋に入ってお茶飲んで戦った。それだけで一週間か、なんだか凄く損した気分だ。
「まぁそう落ち込むなよ、今日はホテルでゆっくり休もう」
「そうですね、と言うよりよく僕達の場所が分かりましたねかなり人気の少ない場所でしたけど」
「荊の城を見つけたのが俺だからな、帰ってきてスイーツ食べてたら時雨から連絡があってな。まあスイーツは全部食べちまったから無いがスイートルームを3人分予約済みだ」
その晩、僕達3人はまるで魔女との戦いが無かったかのように あるいは忘れるかのように 笑った。
旅の疲れなど、どこ吹く風。いつまでもくだらない話で笑い合い、笑い疲れてそして眠った。