表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/50

5話

僕達は先程同様、執事に案内されて食堂へ向かう。

前を歩く彼に聞こえるよう少し大きめの声で時雨に聞く。


「今って何時くらいか分かる?」


「ううん、全然分からない。」


そういえばこの屋敷に入ってから時計を一つも見ていないからだ。時雨は時間系の能力を持っているからもしかしたら、と思ったけれど…


「ここでは時間は"必要ない"のでございます」


と、執事が答える。

よしよし、答えてくれたぞ。

必要ない。か…時間に意味が無い、時間は用無し。

魔女だから時雨みたいに時間を操れるのだろうか、だとしたら厄介だ。時間を操れる敵に有効な手段は…


「なぁ、時雨。一番相手にしたく無い敵ってはどんな奴だ?」


今度は聞こえない様に小さな声で話す。


「うーん、キョーちゃんかな」


「僕は敵にはならないよ」


それに僕が聞きたいのはそうじゃないんだ時雨。


「えへへ」


と時雨が頭を掻く。


ギィィと執事が一際立派な門を開き、僕達は食堂に着いたようだ、いや着いてしまった。

有効な手立てを考える間も無く。


「あらあら♬ようこそ荊の城へ」


ガラスの様な透き通った声で僕達を迎える。

荊の城の主、イルル・ルリルリィが僕達を迎えた。それにしても…美しい。

クレオパトラが嫉妬しそうな、目を奪われてしまうほど妖艶で美しい女性が一際豪華なソファで脚を組んで座っていた。


執事に促され僕達は椅子に座る。

イルルと視線が合ってしまうと思考が停止しそうだから僕は視線を逸らす。


「せっかく来たのだからくつろいで行くと良いわ♬」


歌う様に彼女はそう言った。

だがあいにく そうする訳にはいかない、彼女にもそうしてもらう訳にはいかない。


「久しぶり、いるるん。せっかくだけれど 私達は急いでいるんだ」


「あら、それは残念」


彼女は本当に悲しそうな表情でそう言った。僕が理由無しに殴られたとしても相手の拳を心配し、無条件に罪悪感を抱くであろうそんな表情。

僕はなるだけ感情を表に出さないように努める。


「いるるん、これ以上はもうダメだ。一緒に元いた世界に帰らない?」


イルルは黙ってこちらを見据えている。

さっきまでとは打って変わり、空気が冷たく重くなった。

殺気というか威圧感を肌で感じる。言葉を慎重に選ばないと殺される。でもここで気圧されてはいけない。


「絶対に嫌、全力でお断りするわ」


イルルは首を振った。


「その結果私と戦うことになっても?」


「…」


イルルが黙った。時雨が最強と言うのはおじさんの虚言じゃ無いかもしれない。


「何か見返りはあるの?」


「何も無いよ」


そう時雨が言うと、イルルは大きな溜息をつき 不敵な笑みでこう言った。


「交渉決裂♬命くらいは寄越しなさいな」


ゴロゴロ…!ピシャッ!


イルルの後ろの窓から落雷が見えた。


「いるるんは怒るとあーやって自分で演出するんだよ」


時雨にそっと耳打ちされた。なんだ、結構可愛いじゃないかイルル。


「さあ、楽しみましょう?」



言ったと言うより、言い終わる瞬間にイルルの喉元にナイフが突きつけられる。

突きつけているのは時雨、多分時を止めて厨房から持って来たのだろう。

タイミングは完璧だった。けれど、悲しむべきは時雨が持っているそのナイフはステーキ用だという事だ。

時雨なりに考えたのだろうけれど、これはどうも締まらない。


「あら、やっぱり殺さないのね?ふふ、殺せないのかしら?」


時雨はイルルの発言を無視する。


「条件は飲んでもらうよ」


「ご覧なさいな、貴女の勝手であの子は死ぬわ」


イルルは僕の後ろを指差す。気がつけば僕達を案内した執事が銃口を僕に向けていた、時雨ではなく僕に。


右手でナイフを突きつけていた時雨は左手で拳銃をくるくると回す。時間を操れるというのはつまりこういう事だ。


「…!?」


数秒後、執事がようやく銃口を取られた事に気がつく。


「あはははは!面白いわねアナタ達!どんな"荊罰"にしようかしら♬」


どんな刑罰もごめんだ。



「いるるん、君の驕り高ぶった精神を叩き直してあげる」


「誇り高ぶったと言いなさい」


誇り高ぶるって何だよ…


「妾のディナーを存分に楽しむといいわ」


イルルは炎に包まれ、時雨は距離を置く。

僕から数メートルは離れているにもかかわらず肌が焼けるように熱い、接近戦は無理だ。


「キョーちゃん!」


時雨が僕に拳銃を投げる。そうだ、拳銃なら遠距離からの攻撃が可能だ。

1発目、威嚇射撃のつもりで足元を狙う。


ガウン!と拳銃が火を吹く。思ったよりも反動が凄く危うく肩が外れる所だった。

銃弾はイルルの足元を掠めた。


「次は当てるぞ」


ゆっくりとイルルは腕をこちらに向け


「あは、ははは」


と笑った。


「キョーちゃんこっち!」


一瞬で目の前に時雨が現れ僕の手を握る。

どうやら時間を停止しているようだ、一度イルルの死角に隠れる。


イルルの腕から火の塊のようなものが飛び出し、僕がいた場所がわずか数秒で丸焦げになった。


「はぁ…はぁ…!」


と何故かイルルが息を切らしている、同時に部屋を埋めていた熱気が微かに緩まる。

もしかして苦しんでいるのか?自分の火にやられているようには見えないし、だとしたら…


「時雨!僕から手を離さないでくれ。攻撃されたら時間停止を使ってくれ」


「う、うん!分かったよ」


再び僕は、僕達はイルルの前に姿をあらわす。彼女も再び手をこちらに向ける。避ける焦げる。

だが3度目は同じ様には行かなかった。


狙っても当たらないと悟った彼女は自身の熱気をさらに上げる、なるほど これなら狙わなくても当たる。

僕と時雨は机を盾にして熱の直撃を避けるがそれでも息をすれば肺が焼かれる様に熱い。


「キョーちゃん今って何中?何か攻撃しないと流石にやばいよ」


「大丈夫、攻撃しないことが攻撃に繋がるんだ」


「攻撃しなかったら攻撃じゃないじゃん」


この上ない正論だが理由を説明すると長くなりそうだし、そうなれば喉が焼けてしまいそうだから端的に、


「まぁもう少し付き合ってくれ」


流石に机から顔を出せば焦げてしまいそうなので、銃口を机に押し当て、ガウン!と一発。ちょうど良いサイズの穴を開ける。隙間から ちらりとイルルを見るとぜえぜえと苦しそうに息をして 立っているのも限界と言った状態。

彼女がガクンと膝を折ると同時に放たれていた熱も無くなり呼吸が楽になった。


「逃走じゃない、戦略的撤退よ」


そう言うとイルルは激しい光と共に姿をくらました。

イルルが立っていた場所には焼き芋を焼いた後のような焦げ後が残っている。


「逃げられちった」


「戦略的撤退です」


僕に銃口を向けていた執事さんが口を挟む。


「ルリルリィ様がお戻りになられるまで私どもで御相手致します」


…私ども?


執事の後ろから執事B.C.D.E..がゾロゾロと出てきた。


「ルリルリィ様の加護を得ていますので痛いじゃすみませんよ」


事前に打ち合わせをしていたかのように執事達は声を合わそてそう言い、銃や剣や物騒な物を取り出す。


「有象無象が集まったところで…」


ガァン!!


時雨が言い終える前に、執事が銃を打った。


「いっっってえ!!」


腕をほんの少し掠っただけなのに熱した鉄球を押し当てているかのように熱い。


「今のは忠告です。次で楽にしてあげますよ」


やっば…めちゃくちゃ痛い。


ふと横を見ると時雨が膝に手を付きながら苦しそうに息をしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ