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2話

見ると全てのモノやヒトが"静止"していた。


静止という表現が正しいかは分からないが何一つ誰一人 微動だにしない。なるほど不気味なほどの静けさにも納得がいく。


時雨は続ける。


「本当に気付いてなかったなんて、君は案外間抜けだなー?折角だからもうちょっとだけ驚いてもらおう」


時雨は握っていた僕の手から つーっと撫でるように這うように手首を通り腕を通り肩に手を置く。


すると僕の見ていた人たちが後ろ向きに歩き出す、車はバックで走り出す。それが"逆再生"であると気付くのに数秒かかった。

まるで動画を見ているような気分だ。僕はただ呆然と、唖然として僕はその光景を眺める。


「さて質問、さっき君が居た刑務所はどうなっているでしょうか?」


居たと言う言葉に物凄く違和感を感じる、居た?時間が戻ったなら僕は果たして居たのだろうか?僕はここに居るのだろうか?

わからない…けれど


「刑務所は元に戻っている」


「だいせーかい!刑務所は元に戻った。でも君が居ない」


「ちょっと質問、時間を戻すには確か光速を超えないといけないんだよね、でも光速を超えることは出来ないって証明されたはず…」


僕の質問を遮って時雨は話す。


「俺は自分の目で見たものしか信じない!ってひとが居るけれど君はその逆なの?」


時雨が不思議そうに首を傾げる。


「別にそういう訳じゃないけれど…」


何かしら納得出来る説明が欲しい。

今は自分の目が信じられないから。


「私もよく分かんないんだよ。出来るんだからしょーがない。多分ボールを投げる時にどこの筋肉をどう動かせば〜なんて考えないのと同じだよ」


なんかものすごく雑だなあ。

まあ確かにそんな事考えたこともないけれど…


「だって豚にどうして二本足で歩けるのって聞かれても説明出来ないでしょ?」


「…」


まあそうだけどさ。

別に豚じゃなくても…。


凡人が天才を理解が出来ないように、天才は凡人がなぜ理解できないのかを理解できないのかも知れないな…期せずして僕の長年の疑問が一つ解決してしまった。



全てのものが、人が後ろ向きに進む中僕達は前向きに進む、当たらないように気をつけながら進む。


「ねぇ、この人達からみたら僕達は後ろ向き歩いてる事になるの?」


ふと気になった、僕達からみて後ろ歩きの 即ち逆再生の人達からしてみれば僕達の方こそ逆再生なのか?と


「いや、彼らに私達は見えてないよ」


なんだかまた馬鹿にされそうな気がしたので、どうして?とは聞かなかった。


思考の放棄。僕の得意技。


さらに5分ほど歩いただろうか、その間ずっと時雨は僕の肩から手を離さなかった。多分手を離すと効果がなくなるとかそんなところだろう。そして着いた場所は刑務所よりも遥かにボロい小屋。馬小屋でももう少し立派だと思う。


中も大層汚いだろうと思っていたが入ってみると外装の割には案外綺麗で丁寧に暖炉まで付いている。


「やぁ、久し振り。京くん」


ふと目をやると暖炉のそばに見た目からして40代だろうか?細身で立派なあご髭を蓄えたおじさんが随分高価そうな椅子に座ってる。それにしても…久し振り?


「えっと、何処かでお会いしたことありましたっけ?」


僕の名前を知っているからには会った事はあるのだろうけれどまるで思い出せない。というかこんな立派なあご髭おじさんを忘れるものだろうか?僕は記憶力はかなり良いと自負していたけれど。たった今自信を失った。


おじさんはパイプたばこをふかして わざとらしく言い直す。一つ一つの仕草が仰々(ぎょうぎょう)しいと言うか物々(ものもの)しいというか…言ってしまえばなんだか胡散臭(うさんくさ)い。


「おっと、ごめんよ今は初めましてだな。そして久し振り 」


なるほど、こういう人かコイツは関わるとめんどくせぇタイプの人だ。僕の記憶が改ざんでもされていない限り、僕は自分の記憶力に誓ってこのおじさんと会ったことは無いと断言できる。

そして僕はおじさんについて考えるのをやめた。


「感動の再会を味わいたいところだが、あいにく時間がなくてね、時に京くん ココに来る途中で知ったと思うけれど時雨は時間を操れるんだ」


「はい、つい先ほど驚いたばかりです」


「ったく…時間が平等だなんて、口が裂けても言えねぇわな」


イラッ。いちいち思わせぶりな何だか態度が鼻につく。

抑えろ僕。


「人にはそれぞれ使命があるって言葉、聞いたことあるか?」


「使命ですか?」


僕は聞き返す。

数秒 沈黙の時が流れる。おじさんはふぅ、と大きな煙をひとつ吐いてこう言った。


「そう、使命。殺人鬼には殺人鬼の、天才には天才の、凡才には凡才の使命ってのが有るのさ」


「はあ」


いきなりよく分からない話をされて僕は間の抜けた返事をしてしまった。しかし構わずおじさんは続ける。


「ところで君は自分の使命が何か知っているかい?」


「無難に生きること…とかですかね」


「いいや、違う。全然違う180度間違えている。勘違いも甚だしい」


無難に生きることがそれほど酷いミスなのかよ、と少々傷つきながら僕は聞いてみた。


「じゃあ…なんなんですか?僕の使命」


「教えてやろう、魔女討伐だ」


…返答に困る、時間停止に逆戻しを見た後で笑い飛ばせる内容ではないけれど今ひとつ信憑性に欠ける。多分それはおじさんが言うからなのだろうが真実でもジョークでも、いずれにせよもう少し説明が欲しい。


「ええと、魔女を討伐するのですか?」


「そう言ったはずだが?」


ええい、この胡散臭いおじさん 話しづらい!

僕はそんなことを聞きたいわけじゃない。助けて時雨、そう思って時雨の方に目をやる。


ずっと口を開かなかった時雨とふと目があった。


「1年ほど前に別世界から五人の魔女がこの世界に入ってきたの。そしてジワジワとちょっとずつ根を張り始めた。関係ないこの世界を巻き込む訳には行かない、だから魔女達をなんとかしないと…」


さっきまでの威勢の良さと元気の良さは何処へやら、耳をすまさないと聞こえないほど小さな声になり、とうとう最後は線香の火の如く途絶えてしまった。


ということはどうやらおじさんの話はどうやら本当らしい。


だとしたら大変だ。魔女は何者なのか、どうしてこの世界に入ってきたのか、気になるところだが僕が知ったところで何も変わらないし 変えられない。違う世界の話だ。


「僕にできる事は殆どないけれど、応援しているよ」


薄っぺらい言葉だけど僕の本心だった。僕が僕である以上何も出来ないけれど世界を救う時雨にせめて応援くらいは出来るかもしれない。そう思っての言葉だった。


「ありがとう!じゃあよろしく頼むね!」


時雨の声のトーンが急に上がった。僕の応援なんかでここまで喜んでくれるとは、なんだか虚しくなるじゃないか…


「明日から出発する予定だから荷物まとめておいてね」


「ん?」


何を言っているんだ?荷物?


「君も一緒に来るんだよ?」


「いやいやいや、僕が行ったところで足手まといに…」


話している途中で時雨が僕の口に人差し指をあてる、どうやら黙れという事らしい。


「足でまといは俺の役目さ」


「いいんですかそれで…」


時雨はまたしても いたずらっぽい笑みで


「このままだと君はまた捕まっちゃうよ?」


うう、この後どうするかまるで考えていなかったことに今気がついた。でも時雨がいれば少なくとも捕まる事は無いだろう、でもそれだけで はい行きますと付いて行っていいものなのか…


「決め兼ねているようだが余り悩む時間はあげられないんだ、こちらも急いでいるからね。参考になるかは分からないが魔女は全員想像を絶する美しさだが…」


髭おじさんが片目を瞑って残念そうに言う。


「行きます」


あ…


食い気味に即答した。してしまった。

別に魔女が見たい訳じゃない、いやホントに。

魔女が見たい訳じゃ無いけれど世界を救うついでになら見てもいいかもしれない。


「そうと決まれば予定通り明日出発だね!」


僕の魔女討伐は始まるべくして始まったって訳だ。


そうしてこうして僕は刑務所よりも硬いベッドで眠ることになった。

ふと時計を見ると長針と短針が丁度[12]を指すところだった。


ポーンポーンポーンと3回、12時を知らせる電子音を聞きながら僕は眠りについた。

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