熱しやすいものは冷めやすい
楽しんでもらえれば幸いです。
短くてすいません。
by鬼桜天夜
「金属類は"熱しやすく冷めやすくて"・・・だぁぁ!もう無理だ!休憩休憩!」
「始めて15分は速すぎんだろ」
真夏の正午12時。早々にお昼を済まし、いざ勉強を始めようと参考書を開いて約15分。中学3年生になり、受験生となった田中と下原はファミレスに来ていた。
「無理なもんは無理!俺理系だし!」
「矛盾してるんだよバカ」
下原がすかさずツッコミを入れる。彼らは家が近く、昔からよく遊ぶ仲だった。家族ぐるみで付き合いがあり、いつも一緒に居た。幼稚園、小、中と同じ道を歩んで来た。
そして今、別々の道を歩もうとしていた。
「なんか、今までこうやって会って喋ってワイワイやってたのに、急に会えなくなるってのは、不思議な感覚がするな」
「留学する訳でもないのに、大袈裟な奴だな」
「まぁ、それもそう、だな。そっちの学校スマホ使えるんだろ?」
「あぁ、そこそこ自由な高校だから助かる」
他愛のない、受験生ならば誰もがする会話。雑談を交えながら、使い慣れたシャーペンを走らせる。
下原は外部のサッカークラブチームに所属しており、全国でも名が上がる位の実力者だ。
一方俺は、そこそこの高校で、好きな演劇が出来る演劇部がある高校へ行くつもりだ。
・・・多少の劣等感はあった。
いつも一緒に居る兄弟の様な存在が全国行って、大勢の前で活躍して、色んなとこからスカウトされてるのを見ると、正直、嫉妬した。
でも、この感情が湧き上がるのは、そもそも筋違いなのは分かってた。誇らしく思わなきゃいけないのも。
でも、それは違った。
下原は数ある強豪校の中から、近くの高校を選んだ。俺はそういう界隈の話はよく分からなかったから後々知った事だが、下原は東北の高校から物凄い優遇措置を受けていたらしい。
「あれ、なぁ下原ここの化学式さ・・・」
「それはこれが抜けてるから合わないんだよ」
「ホントだ、サンキュ」
当たり前の会話が無くなる日は突然じゃない。なら、きっと大丈夫。
「なぁ、下原」
「なんだ、田中」
「また、逢おうな」
人が気にしない程度の、ほんの僅かの沈黙。田中の視線と下原の目が、合うことは無かった。
「まだ夏だぞ、それも夏休み始まったばっか」
「俺の聞きたい事が聞けてませーん」
「・・・言わなくても分かってるから、言わなくても良いだろ」
下原は、相変わらず下を向いていた。
「・・・なんか恥ずかしいな」
「頬を赤らめんな。照れてないでさっさと宿題終わらすぞ」
「・・・おう!」