90 ササリばあ
リズさんの後を追いかけて進む事1時間、やっと依頼主のお店に着いたらしい。メイン通りから脇道に入りさらに奥へ進んできた。あちこち曲がったため既にこの辺りがどこかも分からない。
お店と言うにはこぢんまりしていて、教えて貰わなければ通り過ぎてしまうだろう。外観はお店のように見えるが、看板さえ出ておらず木製の窓が少し開いているだけだ。
俺が観察している間に、リズさんは勝手知ったると言った感じでさっさとドアを開けて中に入って行ったので、俺は慌てて後を追った。
お店の中に入ったが店内は薄暗くなっていて、人が居るような気配がまるでなかった。
リズさんは気にした風もなく奥に進み、さらにテーブルを越えて多分作業場に繋がるだろう扉を叩きながら大声を出した。
「ササリばあ!戻ったぞ!」
暫く待っていると奥の方から誰かが近づいてくる気配がした。
扉を開けて出てきたのは黒いフードを目深に被った人だった。何て言うか怪しさ満点な雰囲気だな。
「リズ、よく戻ったね。待っていたよ」
顔は見えないが、声を聴いた感じ女性のようだ。
「ああ、今回は順調だったさ」
リズさんが返答しながら俺の方に手を差し出してきたので、俺は急いで収納ボックスからリーリンの花が入った袋を取り出して渡した。
「へぇ、収納ボックス持ちかい?珍しいねぇ、ああ状態もいいね」
「そうだろう!リクのお陰で助かったんだ。あ!こいつがリクね!」
「初めましてリクと言います」
「そうかい、あたしはササリって言うのさ。依頼を受けてくれてありがとうね」
「いえ、こちらこそ良い経験をさせて頂きました」
「ひゃひゃひゃっ!良い経験ときたかい。面白い男だね」
そんなおかしな事を言った覚えはないんだが何故か笑われた。しかもこの笑い方、思ったより年配の方なんだろうか?顔は見えないが手を見る限りそんなにしわしわと言う訳でもないし、でも話し方はちょっとお年のような気もするし年齢不詳だな。リズさんはさっき『ササリばあ』と言っていたっけ?
「それでさ、リクにもある程度知らせてある」
「そうかい。あんたがそう判断したんなら構わないさ」
「責任は私が持つから」
「ふむ、見たとこ大丈夫そうだと思うけどね」
俺があれこれ考え事をしている間に2人の会話が進んで行く。
俺は余計な口を出さずに会話が終わるまで大人しくしていた。
店を出た時にはすっかり日が沈んでいた。急げば夕飯に間に合うだろうか?
リズさんとは途中で分かれて急いで宿に戻る事にした。
なお依頼料は後日振り込みとなった。
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