【ササリの告白2】
この子は何なんだ?どういう存在なのか、調べれば調べるほどに分からない事だらけ。向こうもあたしを警戒しているのか必要以上に近づいてくる事はなかった。
いつからかだったかねえ、こんな気安い関係になったのはさ。
あたしは諦めなかった。好奇心に負け、長く疎遠にしていたエルフ族の長老に連絡を取ったほどさ。
最初は何時まで経っても帰って来ないあたしに嫌味を言っていたが、おかしな冒険者がいると言うあたしの話を噛み締めるように、時折頷きながら最後まで静かに聞いていた長老。
しばらくの沈黙ののち返ってきた答え、その言葉に困惑を隠せなかった。
『その方はねえ、間違いなく神の御使い様だろうよ。見た事も聞いた事もないスキルを所持する。そんな事が可能なのはこの世界を創りたもうたお方だけさ』
「・・・あり得ない」
絞りだした声は震えていた。
『そのあり得ない事態が起こっているのだろう?ササリ、よく聞きなさい。今後世界が動くよ。どう動くかはその方次第だ。いいかい?どういう事態になろうともその方の邪魔をしてはいけないよ。それが神の意思でもあるのだからね』
後悔した。変な欲などかくもんじゃない。世の中には知らなくてもいい事があるもんさ。今回の件はその最たるものだろう。
そこからは今までに無いほど気を使ったさ。あの子の動向にもあの子の周りの動きにも。メキメキと急成長していくあの子を手に入れようと虎視眈々と機会を窺っている者達には、早々にあたしの子飼いだと牽制を入れて手出しできないようにした事もあった。
長老がどんな事態になろうと邪魔するななんて言うもんだから無駄に警戒しちまったが、こちらの予想に反してあの子は着々と魔の大森林を攻略していった。そして新種の魔物、その素材を次々ともたらしてきた。
確かに世界が動いたね。ずっと停滞していたこの世界に新風を巻き起こした。時にその規模は異常で、次々にもたらされるそれに嬉しい悲鳴から悲痛な叫びに変わったのは言うまでもない事だった。
こっちの苦労も知らないで次から次に難題を持って来るあの子。あたしゃ甘い菓子なんかで誤魔化されないよ!まあいただくけどさ。
『救世主』いつだったかラデスの坊やにあの子の事を聞かれポロっと零れた言葉だ。言い得て妙だと思った。これほどしっくりくる言葉があったとはね。だが驚きはなかった。それが真理だとどこかで理解していたのかもしれない。
あの子との思い出が溢れ出るようによみがえってくる。あの子にホムンクルスを作った時の事、あの子の為だけに特級魔力回復薬を作り上げた事、そのどれもがかけがえのない大切な思い出だ。
誰にも侵す事の出来ないあたしとあの子だけの時間。
ウッカのアホがあの子に特別な感情があるんじゃないかなんて言い放ってきた事があった。自分が穴に落とされたからってバカ言うもんじゃないよっ。
でもそうさねえ、人は何度も生まれ変わりを繰り返し、魂の近い者同士はまたいつかどこかで出会えるとあの子が言っていたっけ。だとしたらいずれどこかで交じり合う時が来るだろう。その時はもう少し近しい関係を結べると良いねえ。
これにて完結です。
最後までお読みいただきありがとうございました(*^-^*)




