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お義父さんが息を引き取ったのはリズさん達が到着した翌日の事だった。一緒にいられた時間は僅か半日程度だ。この時ばかりはお義母さんも駆け付け、ともに最後の時を過ごす事が出来た。
本当に間に合って良かった。皆がどう思っていたのかは分からない。それでも最後の最後まで笑顔を見せていたお義父さんの姿を思えば、強引にでも連れて来て良かったと思えるんだ。
例え家族の死に目に直面しようとも泣かない人間もいる。泣けないのかもしれないが。本当に何の感情も持っていないのか、ただ亡くなった実感が持てないだけなのかは分からない。後からじわじわといなくなった現実を理解するのかもしれない。もう二度と会えないという事を。
お義母さんはこのままモルザット国に残り研究を続けるそうだ。「それがあの人との約束だから」と。それから、自分が死んだらあの人と同じ場所に埋めて欲しいとも託された。そんな日は永遠に来なければいいと思ったが、それは無理な話だろう。だから頷いた。
俺とロイ、メルが中心となって事務手続きや身の回りの片づけを進めていた。お義母さんは葬儀が終わるとすぐに研究所に戻ってしまったからね。
葬儀とは言っても特別に何かする事はない。基本的には火葬だ。人によっては海に遺灰を撒いて終わりの人もいるし、共同墓地に名前の書かれた縦長の平板を立てる事も出来る。お義父さんは後者だ。
その間リザロもリズさんも一言も声を発する事はなかった。ただ俺達の言う事に頷くだけだ。忙しく動き回る俺達の代わりに2人の傍にはサラとダイがずっと付き添っていた。
一息付けたのは宿に戻ってからだった。既に深夜、街全体が寝静まっている時刻だろう。病室で散々泣いたというのにまだ涙が出るもんだな。ポタポタと流れ落ちる雫をただ眺めている俺がいる。共に過ごした時間は極僅か。それでもこんなに辛いんだ、家族として多くの時間を過ごしてきたリズさん達の心中はいかばかりか。いろいろな感情がないまぜになって上手く表にあらわせないだけなんだろう。ただ疎ましく思っていただけなら、憎しみしか持っていなかったのなら、声も出せないほどショックを受ける事など無いはずだ。俺はそう思う。
独り静かに泣いている俺の傍らにはギンとハクがいつの間にか寄り添っていた。少し離れた所にはライもいてくれる。いつも賑やかなこいつらが、空気を読んで大人しくしているのかと思うと妙に可笑しくなってつい笑い声がこぼれる。そんな俺の姿を見ても何も言わずにいるのがまた笑いを誘う。
いやいや、ありがとう。肩の荷が下りて気が抜けたわ。自分がやらなければと無駄に力が入っていたんだな。今になって気付いたよ。
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