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ある日俺の元に白竜の鱗が戻って来た。ロイ用の防具にするために『ドスの武器屋』に預けていた物だ。ロイが試験に受かってAランク冒険者になった時、やっと日の目を見ると思っていたのにロイから正式に辞退を申し出られた。返還されたのは鱗だけで角の方はドスさんに剣の製作を依頼したそうだ。
剣は良くて防具が駄目な理由はダイが専用のホムンクルスを作る事を拒絶した時と同じだな。パーティーメンバーとの兼ね合い。それと目立ち過ぎる事だ。
剣の方はパーティーメンバーが魔法武器を作る予定があるからそこまで差が付かないだろうと言う判断らしかった。
ドスさん達はロイからの申し出を受けて、ずっと保留にしていたリズさん用の剣も一緒に製作する事にしたようだ。リズさんからの要望でその剣には火の魔法玉が装着される予定だ。つまり白竜の魔法剣と言う事になるね。
すでに冒険者を引退しているリズさんにはもったいないような武器ではあるが、防具も合わせて一生ものの装備だ。
俺とリズさんの装備一式、いずれ俺達の子孫の中からそれらを引き継ぐ後継者が現れる事だろう。もし現れなかったとしてもそれはそれで良いんだ。物置に仕舞っておくのでも美術品みたいに飾って置くのでも好きにすればいいさ。何だったらうっぱらってしまってもかまわない。後生大事に取っておけなんて遺言を残すつもりはないからね。
地下室には俺が溜め込んだ魔物の素材が大量に保管されている。特にドラゴンの素材がごろごろ転がっている。オークションに出したものも多いが全種の素材を一定量確保していた。
お金に困ったら売ればいいし、武器防具を作るのでもいい。ただ白竜と緑竜、雷竜の素材には出来るだけ手を付けないで欲しいと言づけていた。
理由は簡単。ハク、ギン、ライの為だ。ホムンクルスは魔力があれば死ぬ事はない。そういう存在だ。俺の魔力を込めた魔石もあるけれど、力を維持するためにはドラゴンの素材と併用するのが良いと思うんだ。
そして俺は皆にあるお願いをしていた。俺が死んだ後の世界を見届けて欲しいと。可能ならば俺の家族が困っていたら少しだけでも手助けして欲しいと。その期限はそれぞれの判断に任せるとも。
魔力がある限り存在が消滅する事はない。逆を言えば魔力を摂取しなければ自分で寿命を決められると言う事だ。
ずっとずっと生きて欲しい。それは俺の勝手な願い。皆にだって自我があり、どこまで見届けるかを自分で決める権利がある。
ホムンクルスにそんなものは無いって言う人もいるだろう。主の命令を忠実に守るだけの存在だってさ。
でも俺はそうは思わない。だって意思疎通ができるんだ。俺の足りない所を補ってくれて相談にだって乗ってくれるありがたい存在なんだ。自分の魔力を注いで作った我が子同然の存在なんだよ。誰が死を望むものか。
そうは言っても精神年齢も何もかも俺よりずっと上なんだけどね。ライは除く。
レツは王家、ランは辺境伯家、クウはロイ一家で代々受け継がれていくんじゃないかな。本人たち次第だけどメルの家族を、サラの家族を、ロイの家族を影ながら支えていってくれるはずだ。そうあって欲しい。
お読みいただきありがとうございました。




