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俺が冒険者を引退したのは67才の時だった。まさかこの年まで働くとは思わなかったな。魔力量が多いせいで年齢の割に若く見られたことも要因かもね。そろそろ引退しようかな~とか匂わせるたびに冒険者ギルドから引き留められてさ、その時にはガロさんがギルド長になっていた訳だけど無言の圧がかかっていた。
それでも50代になってからは春から秋までずっと魔の大森林に籠る事はなく、大体1週間くらいで家に戻って来てたかな。俺が竜巻に乗って移動する事は広く知れ渡っていたから疑問に思われる事もなかった。俺に面と向かって聞いてくる人がいなかっただけかもしれないけどね。
竜巻に乗って辺境まで帰って来た事もあったんだよ?道花の能力は絶対隠し通したい、でもちょくちょく家に帰りたい。ではどうする?実際に竜巻に乗って帰って来る姿を見せればいいんだ。そうすれば噂が広がり数日で帰って来ても誰も何も言わなくなる。
真似する魔法使いが出てくるかもって少し思ったけど、そんな馬鹿はいないだろうと楽観視していた。だって竜巻だよ?それに乗れるなんて本気で信じる人はいないでしょ。俺が乗って帰って来た姿を見たとしてもさ、自分にもそれが出来るのか、竜巻に魔物を巻き込んだ時どうなったかを考えれば分かるよね?
試してみた風魔法使いも数人いたみたいだが、竜巻に乗って自由に移動とはいかなかったようだ。どこに飛ばされるか分からない、巻き込まれている間の記憶もない、気付いたら放り出されて全身骨折したなんて子も出たみたい。その話が広がり風魔法スキルレベル5にならないとコントロールできないんじゃないかと言う結論に達したみたいだ。そしてスキルレベルを5にあげるのは至難の業だ。そのうち試す子もいなくなったと聞いたっけ。
怪我した子が出た事で冒険者ギルドから攻撃以外での竜巻禁止令が出たほどだ。それに合わせて俺には風を操るホムンクルスがいる事も公表された。ザックさんから俺の所に公表していいかとお伺いの連絡が来たっけ。
怪我した子達には悪いがそりゃそうだろうと。嘘も方便とは言うが俺もちょっと浅はかだったと反省した。
今までの冒険者人生で何度か絶体絶命大ピンチに陥った事があった。その全てがドラゴンとの戦いだ。
氷竜、こいつはヤバかった。唯一俺の身体を失わせ、ハイヒールを使わせた野郎だ!腿から下を完全に氷漬けにされて脚ごと砕くしかなかったんだ。その役はギンに頼んだ。すぐにハイヒールで足が生えたから良かったけど、回復魔法を使えなかったら今こうして2本の足で立つ事も出来なかっただろう。
同じ氷魔法を使うのでもドラゴンと人では込められてる魔力量も密度も違うんだ。対抗など出来ようはずもない。
それから黒竜、これはもう論外。道花している花ごと、地面一帯を闇に呑まれそうになった。本当にギリッギリ、寸での所で難を逃れる事が出来た。あれは駄目だ、ブラックホールに呑み込まれるみたいに跡形もなく失われる。俺が助かったのはひとえにギンとハクがいてくれたお陰だ。闇に飲まれる直前、道花から人に戻った俺を銜えて2体が飛んで逃げたくれたからだ。
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