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はあっ、はあっ、はあっ・・・あ~~っもうっ、人多すぎ!邪魔だ~~っ。人混みをかき分けぶつからない様に避けながらも全速力で目的地に向かって走って行く。俺が全力で走って来る姿を見て前から歩いて来た人達が避けるように端に寄ってくれるが、同じ方向に向かって進んでいる人達は気付かず前方を塞いでくる。それを器用に避けつつ走り続ける。
リズさん、ほんと恨みますよ!!
冬だというのにこの混雑はなんなんだ。あぁ、そっか。冬季休業中の冒険者達が出歩いてんのか。武器防具を身に付けていないから分かりづらいが、ガタイの良い連中が屋台に群がっている姿が目の端々に映っていく。それを流し見ながらも速度を緩める事なく走りすぎる。
1分でも1秒でも早く辿り着きたいのにこれじゃあ難しい。いっそ屋根の上を行こうか?チラリと建物の上を見上げ雪の積もり具合を確認する。下からじゃ分からないな、このままじゃ埒が明かないし試してみるか。
適当な脇道を見つけ中に入って行く。
俺の踏み込みに耐えられそうな建物を探し、壁の出っ張りに足をかけようとした時、待ったがかかった。
『おいっ、早まるな!』
「何っ、急いでるんだっ」
『分かってる。だがお前の全力に耐えられんだろ』
「ここが1番頑丈そうなんだよ」
『俺がサポートする。お前も風使え』
「風?ああ、追い風吹かせろって事か」
『違う、風を纏わせろ。身体にだ』
「・・・ああ、あれか。了解」
以前に雪を融かしながら進むために炎を身体に纏わせるように展開させた事がある。ギンが言っているのはそれの風バージョンって事だな。
言われた通り風を身体に巻き付けるように起こし、タメの姿勢から勢いを付けて上空に向かって飛ぶ。その勢いを殺さない様に壁を蹴り上げてさらに数歩蹴り出し屋根の上に上がる。
雪は積もっているが三角屋根が多いし、大棟と言われてる頂点部分を走ればいけるだろ。何なら足に炎を纏わせようか?威力を最小限にして薄~く伸ばすようにすれば火事になる事もあるまい。
「足に炎纏わせようと思う。飛ぶ時お願いねギン」
『仕方ない』
「ありがと」
足には炎、上半身には風を纏わせるなんて器用な事は出来ないからな。練習してる時間もないしここはギンにお任せだ。誤って落ちても俺なら大丈夫、身体は頑丈だしハイヒールもある。即死しない限り何とかなる。
そんな危険を冒してまで何でこんなに必死になっているかというと、すべては情報を隠していたリズさんのせいだ。何で早く教えてくれなかったのかと、今回に限っては忘れてましたでは済まされない。そもそも意図的に隠してた訳だけどね。
あ~~っもうっ、トンネルで無駄に時間を過ごしてる場合じゃなかったよ!
だがこれはいい。屋根に上って正解だったな。人に邪魔される事も無くスイスイだ。足は必死に動かしてるから余裕はないがね。
見えてきた!辺境の街で1番大きな建物だ、上空からでも目立つ目立つ。視界に映るラデス邸目がけてさらに速度を出して屋根から屋根へ飛び移って行く。
お読みいただきありがとうございました。




