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境目の林を出て、気絶している魔物たちの上に陣取っていたギンと合流する。
『遅いぞっ』
「ごめんごめん」
『ライがまだ出て来んのだ』
『はぁ。もう放っておけよ、いなくても何とでもなるだろ』
「そうなんだけどね。今回はライはライなりに頑張ってくれたよ」
『構われなくなればそのうち寂しくなって出てくるやもしれんしな』
『そんな可愛げあるわけないだろ』
『そう言うでない。あれはあれで良いとこもある』
『どこがだ?』
「へぇ~、ハクはライを可愛いと思ってるんだね!」
『可愛いなぞとは言っておらんっ。良いとこもあると言ったのだ』
『だからどこだ?』
『・・・己の欲望に忠実な所とか?』
「それって良い所なの?」
『素直であろう』
「すっごく良い方に取ればだね」
『あれか、馬鹿な子ほど可愛いってやつか?俺には分らん考えだな』
俺が気絶した魔物を片付けている間もギンとハクがライについて言い合っている。さっき俺もハクに甘いと言われたけどさ、ギンから見ればハクもライに対して甘いんだろうね。
ギンの言う馬鹿な子ほど可愛いって言うよりは孫を見る目に近いんじゃない?手のかかる子ほど可愛いみたいな。ハクとライにはそれ位の開きがあるんだろうしさ。ハクは可愛いとは思ってないって言ってたけど自覚がないだけじゃない?
レツやクウに対して甘々なのは知ってるけどね。これはハクだけじゃなくギンもだけどさ。レツがメルと出て行った時の落ち込み様はなかったな。暫く空気が重かったもんな。屋根裏部屋から下りてこない日もあったし、そんなにレツが好きだとは思わなかった。
最初の顔合わせではハクを怖がって近づくどころか視線を合わせようともしなかったのに、変われば変わるものだよね。
もしかしてレツのいなくなった寂しさを手近なライで紛らわせてるとか?ライでもいないよりはマシとか?
でも性格が全然違うから代わりにはならないと思うけどなあ。
「よし、終わったから行こうか」
『うむ』
『このまま真っすぐ行くのか?』
「そうだなあ・・時間調整含めて少し西奥に行こうか」
『分かった』
『パーティーとやらには出んのか?毎回欠席ではメルも肩身が狭かろうよ』
「大丈夫だよ。リズさんやロイが出てるし」
『ロイは王都だろ?』
「もう帰って来てるんじゃない?こないだ連絡した時はまだ帰って来て無かったけど、雪が積もる前には戻るだろ」
『試験はどうだったろうな』
「ロイ達なら受かってるだろ。その実力は十分にあるさ」
『そうさな』
『月にてらされし竜』のメンバーはAランク試験を受けに王都に行っている。夏頃に出発したと聞いていた。
問題があったとしたら他のメンバーが落ちたとかだな。ロイは問題ないはずだ。
ロイは皆と同じ位のレベルだと言っていたが、正確には他のメンバーより少し先を行っているだろう。俺やリズさんとずっと行動を共にしていた分が加算されてるだろうからね。
魔物を見つけたギンが飛び出して行くのを見ながら後を追いかけていく。ライが出てこないからハクが残って俺の護衛役だ。
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